俺は勉強熱心な生産者だから
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くそ、帽子はちょろっと燃えただけで火が消えてしまったな。
「許さない許さない許さない許さない許さない」
ひえええええー、帽子を燃やしたからか、頭の頭蓋骨さんがお怒りだーー!!
頭と胴体から怒りの黒い矢がたくさん飛んでくるぅー!
リッチの攻撃にアベル達を巻き込まないようにそれを躱す。
あぶね、躱した先にフラリとワイトが寄ってきていた。
ワイトは体力や生命力を吸収するエナジードレインを使ってくるからな。
うっかり触れられてエナジードレインを喰らうと疲労感がやばいことになるし、生命力をごっそりと持って行かれると寿命も縮んでしまうという、たいして強くないわりには恐ろしい攻撃をしてくるやつだ。
それに死体だからきちゃない。毒や病気を持っているから、この薄着状態で触られたくない。
更に質の悪いことに、ワイトに殺された者はワイトになるんだよなぁ。冒険者視点ではそこまで強い相手ではないが、ワイトに対抗手段がない者にとっては恐ろしい存在である。
そしてそのワイト達はアベル達が倒した端から壁から生まれてきてきりがなく、さっさと大元を倒さないとじり貧になってしまいそうだ。
「グラン、離れすぎるとそっちにいったワイトの処理が間に合わないよ!」
矢を避けているうちにアベル達と離れてしまったのだが、肩の上のカメ君がワイトを処理してくれているので問題ない。
と思ったら、ワイトはリッチによって操られているのか、新しく出現したワイトはワラワラと俺の方へと寄ってきている。
カメ君がついているので安心だが、リッチから矢も飛んできているし囲まれると面倒くさいな。
そんな状況でもアベル達と少し距離を取ったのは理由がある。
「おう、わかってる。こっちはこっちで何とかするから、少し距離を取っておいてくれ!」
俺が離れたことで俺の方に来ようとしたアベルとカリュオンを手で制して、収納からとっておきの爆弾を取り出した。
「カッ!?」
カメ君、その反応は何? 大丈夫、大丈夫心配はいらないよ!
「ちょっとだけ息を止めておいてくれ。いくぜ、幸せの爆弾! 笑う門には福来たる爆弾!!」
「カ、カメーーーーッ!!!」
爆弾というか、ただ素材を二つくっつけただけの爆発物。
ホホエミノダケにニトロラゴラの小さな切れっ端を貼り付けただけのものをリッチへ向かって投げつけ、すぐに後にピョーンと飛んで念のため息を止める。
そして、俺が後に飛ぶと同時に、リッチにぶつかった笑い爆弾がポンッと炸裂して薄く白い靄――ホホエミノダケの胞子がリッチを包んだ。
ホホエミノダケ――その胞子を吸い込むと笑いが止まらなくなるキノコ。
その効果は吸い込んだ胞子の量に比例して強くなり、魔力への抵抗力で軽減される。
ふざけた効果のキノコだが、こいつ実は強烈な聖属性のキノコなのだ。
ニトロラゴラと上手く混ぜ合わせて聖なる爆笑爆弾にしようとして、効率を追求するうちにこの形にいきついたのだ。
ホホエミノダケに小さく切ったニトロラゴラを粘着力のあるスライムゼリーでくっつけて投げるだけ!!
お手軽簡単!! 誰でも作れて、誰でも使える!! ニトロラゴラの切れっ端なので爆発の威力は控えめ!!
なお、テストを含めて今日が初めての使用だ。爆弾なんて家の近くでテストはしたくないしな!!
ホホエミノダケは胞子を吸い込まなければその効果はないが、リッチは骸骨とミイラを足して割ったような体である。
近くで爆発すれば吸い込むまいとしても、そのスカスカの体の中に胞子は勝手に入っていってしまう。
ははは、ホホエミノダケの胞子は聖魔石の粉末より細かいぞおおお!!
体の中にも入るが、衣服にも付着するぞおおおおお!! 花粉症ならぬ胞子症だああああ!!
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ――。
リッチの四つの頭蓋骨がカタカタと顎を揺らし始める。
笑いの効果はでなくても胞子が体の内部や服の内側に入ればよしと思って投げたのだが、笑い効果までしっかり効いているようだ。
そして体の内側に自分の苦手な属性が入り込むと不快だろ? 服の内側にもたくさん付いたんじゃないかな?
わかるよ、その気持ち。俺もつい最近、相性の悪い沌属性の装備を無理矢理着て体中めちゃくちゃ痒くなったから。
そりゃあもう、体中に摺り下ろしたヤマイモでも塗ったような痒さだったよ。
「うわぁ、ホホエミノダケってリッチにも効くんだ」
「ああ、ふざけたキノコだけど、実はアレの笑い効果は強烈で超上位の竜にも効くんだぜ」
アベルとカリュオンがワイトを処理しながら話しているのが聞こえてくる。カリュオンはいったいどんな竜に試したのだろうか。
俺もまさか笑い効果がリッチにも効くとは思わなかった。これはもしもの時に備えてホホエミノダケをもっと溜めておかないといけないな。
魔力への耐性が高ければ笑い効果はすぐに止まるだろうが、体や服についた聖属性の胞子の不快感は残るだろう?
ホホエミノダケの胞子を浴びたリッチが、白骨化した手で服をバサバサと振るって胞子を落とそうとしている。
ははは、粒子の細かい胞子はなかなか落ちないだろぉ? その胞子だらけの上着を脱いでもいいんだぜ?
俺だって今は上着を着ているけれどさっきまでハーフパンツだけだったし、男は肉体美を見せてなんぼだぜ?
海賊さんなら肉体美には自信があるだろ?
右手を前にして人差し指をちょいちょいと動かしながら、左手の人差し指を上着の胸元にかけてクイクイとはだけさせて大胸筋を見せつけて煽る。
あぁん? リッチになってガリガリな貧相な体しか残ってないかー?
バサァッ!!
服に入り込んだ聖なる笑い胞子に耐えきれなくなったのか、リッチがボロボロの上着をバサッと脱ぎ捨てた。
そして服に隠れていた部分が露わになり、服で見えなかった部分にみっちりと書かれた古代の文字が目に入った。
左胸辺りは魔法陣状になっているが、沌の魔石らしきものは俺から見える場所にはない。
しかもリッチの体は沌属性の黒い靄を纏っていて、魔力の気配から魔石の場所を特定しづらい。
体の中か? それとも背中か? ズボンの中はやめてほしいなぁ。
パッと見で怪しいのは魔法陣状になっている左胸辺りではある。
「ナナシ、そろそろ出番だ」
声をかけ腰紐に右手を当てると、ナナシが腰紐から分離し黒い剣の姿になって俺の手に滑り込んできた。
ナナシを握り自ら魔力を与えると、真っ黒な剣がスーッと色付き神々しい姿を見せた。
いくぜ、叩き切ってやる。
ホホエミノダケの効果が残っているからか、頭蓋骨達が不気味にカタカタと顎を揺らす。
それは自信に満ち、勝利を確信しているような笑いにも見える。
そんなことは気にせず、俺はナナシを手にリッチの方へと走り出す。
神代文字――三姉妹達に教えてもらった大昔の文字。
リッチの体に刻まれているのは、ほぼその神代文字だ。
左胸の周りの魔法陣だけは、現代の付与でもよく使われる古代語と神代語が混ざったもの。
そしてその古代語部分は、命亡き者を使役するための付与の術式。
神代文字が読めなければ、その左胸に沌の魔石があると予測して攻撃していただろう。
だが、俺は気付くことができた。
リッチの体にビッチリと書かれている神代文字の示す言葉は、遮断と記録を意味する言葉。
魔法陣の部分は古代語で使役系の術式を書き、遮断を意味する神代語でその効果が打ち消されている。
見た感じ、体に魔力の遮断を意味する神代語を刻み、外部からの魔力を遮断して攻撃が動力の沌の魔石に届かないようにしつつ、受けた魔力を記憶している感じか?
しかし外部からの魔力を完全に遮断してしまうと、自分の魔力もまた外には出せなくなる。
だから別の箇所に中に繋がる魔力の通り道があるはずだ。
そこならきっと攻撃が魔石に届く。
逆にいえばそこ以外は魔石に攻撃が届かず致命傷にはならず、その攻撃の主の魔力を学習されてしまうということだ。
なんだこいつ!? ボスまでイライラ式リッチか!? 何だってこんな面倒くさいリッチが爆誕したんだよ! なんなんだこの妖精の地図!!
だがもうその通り道は見つけている。
「バーカ。俺ちゃん勉強熱心な生産者だから神代文字くらい読めるんだよ」
突き出したナナシが避けられないほどリッチに迫ったタイミングで教えてやった。
四対の目の光がチラチラと揺れたがもう遅い。
左胸を狙っていると見せかけていた剣を正しい軌道に修正する。
体にいくつも書かれた"遮断"を意味する文字の中に一箇所だけ"接続"を意味する文字。
それは腹、ちょうどへその辺り。
そこをナナシで一気に貫いた。
お読みいただき、ありがとうございました。




