先のことまで考える男
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カリュオンの盾から放たれた聖属性極太光線が、クソ迷路を粉砕したことで崩れてなくなった天井の先――上の階層の天井を貫き、更にその上の階層も貫いていく。
上の階層は先ほどズボッといった時に天井も落としてしまった穴が、クソ迷路に時間泥棒をされていた間に再生してしまったようだ。
だが、最大出力の因果応砲の前にそんなものは関係ない。船の形をしていようとも、アンデッドという存在にとっては最大の弱点である聖属性の攻撃である。
因果応砲の光に触れた箇所は溶けるように穴が空き、その先へとまっすぐな光線が伸びていく。
上の階層の天井を貫いた辺りで、因果応砲の先端は俺の位置からは見えなくなった。
ただ眩しく太い光の柱がカリュオンの盾から伸びているだけ。
その向かう先には、濃い沌の魔力。おそらくこのゴーストシップの主だと思われる気配。
カリュオンと共に行動していれば、カリュオンの必殺超火力攻撃でもある因果応砲を目にする機会はよくあるが、その最大火力ともなるとなかなか見ることがない。
受け止めた攻撃による威力上昇という性質上、防御をすることが前提で、ドリーのパーティーだと因果応砲が最大に溜まる前に敵がいなくなるのだ。
そして因果応砲は溜まれば溜まるほど強い攻撃を受け止めないといけないようで、弱い攻撃ばかり多く受け止めても威力に限界があるとかなんとか。
溜まれば強いがそこまで溜めるには時間も手間もかかるうえに、溜めきった後それがリセットされるまでの猶予もそう長くないので、最大火力の因果応砲が使える場面はあまりないとカリュオンがぼやいていたのを覚えている。
今回みたいに仲間に殴ってもらって溜めるとかではない限り、因果応砲が最大まで溜まるのは危険な戦いの時になる。
そんな理由で、日頃よく見かける因果応砲はお手軽な五割からよくいる強敵で八割くらいの威力らしい。
よく見かける因果応砲でそれって最大威力ってどんなのだっていう。
そして今、その全力がゴーストシップの核へと届こうとしている。
ドゴオオオオオオオオオオオッ!!!
上方でものすごい音がして、眩しい光が降り注ぐように俺達のいる最下層を明るく照らした。
その音の源で沌の魔力が激しく揺らいでいるのを感じ、因果応砲がゴーストシップの核らしきものに直撃したことを確信した。
ゴーストシップが大きく揺れ、因果応砲に貫かれた天井やその周囲が崩れてくるが、沌の力により姿を保っているゴーストシップの残骸は因果応砲の聖の魔力に巻き込まれて、俺達のところまで落ちてくる前にそのほとんどが溶けるように消えていく。
パラパラと僅かな破片だけが降ってくるが、それも地面に落ちたはしから消えていっている。
恐るべし最大火力の因果応砲。
そして、その因果応砲の最後の光が吸い込まれるように船の上部へと消えていった。
「やった?」
アベルが眩しそうに因果応砲の飛んでいった先を見上げて言った。
おいこら、フラグを立てるのやめろ!
「んんー、それなりにダメージがあったと思うけど倒しきれてはないなぁ。グラン、どう思う?」
因果応砲を撃ち終えたカリュオンが難しい顔をしてこちらを振り返った。
俺達の頭上には大きな穴が空き、船の一番上の階層だと思われる辺りにはまだ聖属性の光のもやが残っており、そこがどうなっているか目視できない。
船の上部を大きく吹き飛ばした状態になったため、光のもやの隙間には明るい夏の空が見える。
だが船の上部――ちょうど光のもやがある辺りにはまだ、当初よりかなり弱くなったが、まだ濃い沌の気配が残っている。
「だいぶ弱ったみたいだが、濃い沌の気配があるな」
最大威力の因果応砲を耐えたとかやばすぎないか?
そういえば地図の難易度がSSだったことを思い出した。
もしかしてこのゴーストシップのボスはどちゃくそ強いのでは!?
「カーーーーーーーッ!!!」
ああーーーーーっとおおおおおお!!
ボスがまだご存命だと思ったらカメ君から極太水鉄砲が、沌の気配がする方へと発射されたーーーーー!!!
これは聖なる水鉄砲かーーーー!?
いや、水鉄砲っていうかもう水柱だよ!!!
「あーー! 俺も俺もーーー! まだ生きてるならちゃんととどめを刺さないとねーー!!」
ああ~、アベルまで上に向かって光の矢の乱れ打ちを始めたぞ~~~!!
俺もこのお祭りに混ざりたいところだが、レンジ弱者はやることなし!!
弓なら撃てるが、あの高さまで撃ち上げると威力が死にそうだからなしなしのなし!!
「んー、何か食い物貰っていいか? 最大火力の因果応砲はやっぱすげー腹が減るな」
「おう、もう一戦あるかもしれないから、アベルとカメ君が追い打ちをしているうちに食っとけ」
ボスが倒しきれてなかったら、もう少しカリュオンに頑張ってもらわないといけなくなるかもしれない。
カリュオンにはすぐに食べられて腹も太りそうな肉々しいサンドイッチを渡しておこう。
そして俺は暇である。
ああ~~、アベルとカメ君は楽しそうに追い打ちをしているなぁ。
因果応砲の白いもやが残っていてボスがどうなっているか見えなかったけれど、その後カメ君とアベルが攻撃しまくっていて更に魔力のもやで真っ白になっているなー。
沌の魔力ちゃんは、少しずつ弱まっているけれどまだ生きているみたいだな。
何だろうなぁ……こう、ボスの姿が煙で見えないのに攻撃している時って嫌な予感がするんだよなぁ。
何でだろうなぁ~。
嫌な予感がするから、一応準備をしておくか。
最下層は先ほどのカメ君の津波で壁が全部流されていったから、まだ残っている天井を撤去しておこう。
もし戦闘になった時は広い方がいい。もし上に行く必要がある時はアベルの空間魔法でピューすればいいだけだしな。
さらば、天井!! 聖なる爆弾ポポポポポォーーーーンッ!!
自分達のいる階層の天井が綺麗に吹き飛んだら、もう一つ上の階層の天井も爆弾を投げれば届く範囲だな。
アベルとカメ君は上にいるボスらしき存在に攻撃をするのに夢中だし、カリュオンは近くの瓦礫に腰をかけてお食事中だし、俺はもしもの時に備えて準備のポポポーンとしておこう。
因果応砲の直撃を受け、更にアベルとカメ君の追い打ち攻撃を受けている、主らしき気配は最初より随分弱っているがまだザワザワと濃い沌の気配を発している。
やはりもしものことを考えて備えておくべきだろう。皆が他のことに気を取られている時も、二手も三手も先まで考えるのが俺の役目なのだ。
しかし聖なる爆弾の残りがもう五本か。まぁ、帰ったら補充すればいいので全部使っちまうか。
というわけで、聖なる爆弾で天井破壊だ、そぉれええええええええーーーー!!
めんどくさいので身体強化を使って一つ上の階層の天井をめがけ纏めて投げた。
ドオオオオオオオオオオオンッ!!
おぉう、思ったより派手に爆発したぞ。
ひぃー、船体が揺れて色々降ってきたー!!
「ヒッ!? グラン、何で爆弾!? ギャッ! 上の天井が全部崩れて降ってきた!!」
「カーーーーーーッ!!」
すまんすまん、思ったより崩れてしまった。
アベルとカメ君が攻撃の手を止め、落ちてくる天井を防ぐためのバリアを張ってくれた。
いやー、助かった助かった。
ただの爆弾だから粉砕はできても因果応砲みたいに船体を溶かして蒸発させる程の威力はなかったよ。
「ああー、天井が落ちてきたなー。天井と一緒にボスも落ちて来たみたいだけど?」
もしゃもしゃと食べていたサンドイッチを纏めて口に押し込んだカリュオンが盾を手に立ち上がる。
アベル達とカメ君が崩れ落ちた天井を防ぐため攻撃の手を止め、魔法の光でよく見えなかった船の上層部が、空いた穴からよく見えるようになった。
ゴーストシップを縦に貫いて空いた大きな穴とその先に見える晴れ上がった夏の空。
そしてその晴れ上がった夏の空と俺達の間には真っ黒い塊。
それがこちらに向かって落ちて来ている。
それはボロボロの布の塊のようにも見えるが、塊からは真っ黒な沌属性のもやが吹き出ている。
ボロボロになったのはカリュオン達の攻撃のせいだろうか。
それでもあれだけの攻撃を受けてまだ消滅していないということは、こいつが想像以上にタフで強力なアンデッドだからだろう。
ドシャアアアアアアアアアッ!!
落下してきたそれは地面にものすごい勢いで叩き付けられ、更にボロボロに。
ボロボロの布と纏っている黒いもやの隙間から白い骨が見える。
骨ってあんま頑丈じゃないと思うけれど、大丈夫? 生きてる? あ、アンデッドだから死んでますよねー!?
もしかしてこっちから行く前に会いに来てくれた!? 気を使ってくれてありがとう、上まで行く手間が省けたよ!!
えぇっと、ゴーストシップのボスさんであってます?
対戦お願いしても大丈夫ですかー?
お読みいただき、ありがとうございました。




