道は切り開くもの
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「そぉれー、燃えろ燃えろー!! あっはっはー、クソ迷路ザマァッ!! はっはっはああああああ!!」
ちょっと!? アベルさん!? お言葉が乱れていますよ!! 完全に悪役の顔になっていますよ!!
ああ~、迷路の破片を一気に燃やしたから、天井と壁の残骸も一気に燃え上がったぞおおおお!!
あまり広くない船の最下層が火の海だーーーーー!!
アベルは耐性ガッチガチのマントを羽織っているから気にならないかもしれないが、俺はペラッペラの上着一枚だ。
カリュオンも俺と同じような恰好だがタンクと軽量近接だと硬さが違う。
カメ君も当然のように平気そうだな。
あれ? もしかして火の海が辛いの俺だけ!?
でも、あのクソ迷路ザマァって気持ちはわかるので俺もバーミリオンファンガスを投げちゃおっかな~。
そぉれっ!!
燃え上がれ、燃え上がれ~!! はっは~、消し炭になってしまえクソ迷路め!!
アッ! 足元まで燃えてきた! ヤッバイ!!
「カッ!? カカカカーッ!!」
と思ったらカメ君が消火してくれて、足元が燃えないように水を撒いてくれた。
さすがカメ君!!
もうすでにアベルのせいで大炎上状態になっているから、バーミリオンファンガスを追加したくらいなら俺は無罪だよね。
イタッ! なんで俺の顎をパンチしたの!? あの憎たらしいクソ迷路を燃やしただけだよ! イタッ、イタタタタタッ!
「おおー、これはちょっとあっちぃなー。炎を盾でガードしておけば因果応砲の肥やしになりそうだな」
カリュオンがドンッと大盾を前に出して、光の盾を展開してくれたおかげで燃え上がる炎の熱が少し和らいだ。
ありがとう、カリュオン。そのまま因果応砲を溜めておいてくれ、きっと後で大活躍するはずだ。
それにしても炎の勢いがすごいな。
カリュオンのおかげで熱さは和らいだが、ここは船の一番下だしこのままでは二酸化炭素中毒になりそうだ。
暫く炎は静まりそうにないし、これは少しまずいのではなかろうか。
そう思うとなんとなくクラッとしたような気がした。
「カーーーーーーーッ!!」
少しクラッとした気がして頭を押さえていると、すぐ横でカメ君の鋭い鳴き声が聞こえた。
その直後俺達の周囲で水が湧き上がり竜巻のように渦巻いて、燃えている天井や壁の残骸そして迷路の破片を巻き込んでそのまま押し流していった。
「もう消火活動かぁ? まぁ、火がボーボー燃えてると息苦しいもんな」
「もう消しちゃうの? 熱いからまぁいっかー、うわっ、つめたっ!!」
アベルとカリュオンは残念そう。
そして大炎上の発端のアベルにカメ君のお仕置き水鉄砲がっ!
いいぞ、もっとやれ!!
「熱さと息苦しさでちょっとクラッときたところだから助かったよ。でもまだ迷路の破片が燃え残ってたみたいだから、一応ダメ押しをしておくか」
前世の記憶で二酸化炭素の恐ろしさを知っている俺は、カメ君が火を消してくれてホッとした。
少し息苦しくなりかけていたところだったから、あのまま大炎上が続くと危なかったと思うんだ。
カメ君の水竜巻から押し流し攻撃で、火は消えて迷路破片も色々なものの残骸も俺達から離れた場所に流れていったが、迷路が残っている限り部屋が元通りになってまた閉じ込められるかもしれない。
「え? ダメ押し!?」
「カッ!?」
殲滅は徹底的にいいいいいいい!!
仲間の声援を聞きながら、ダメ押しのバーミリオンファンガスを収納から出して大きく振りかぶってーーー!!
ブォンッ!!
カメ君が色々押し流していった方へ、バーミリオンファンガスをブォン。
俺の手から離れたバーミリオンファンガスがピューッと飛んでいって、その先で赤い火柱が上がった。
燃え上がった場所は俺達のいる場所と距離があるので、少し熱気が流れてくるだけで何ともない。
火柱が上がり、そしてそれは暫く燃えた後自然に収まる。
この部屋を作り出していた迷路の模型が消え、それに連動していたものも消え、燃えるものがなくなり火が消えたのだろう。
さらばクソ迷路――俺達を苦しめた悪は滅んだのだ。
「おーい、グラン。因果応砲がそろそろ消えそうなんだけど、どっか撃ち抜きたいところある? といっても半端にしか溜まってないから威力は微妙だけど」
白い光のもやを発する大盾を抱えたカリュオンが俺に尋ねた。
ああ、因果応砲って一定時間盾で攻撃を受けなかったら、溜まっている魔力がリセットされて溜め直しになるんだっけ?
カメ君が炎を押し流して、俺がダメ押しをしている間に少し時間が空いてしまったからな。
しかし、このままリセットしてしまうのはもったいない。
あ、そうだ。
「カリュオンの盾を殴って、因果応砲を最大まで溜めようぜ。その分腹が減るのはこれでも食っててくれ」
包みに入ったホカホカのメンチカツサンドの束を収納から出してカリュオンに渡した。
「お、助かる。溜まったらどこに向けて撃てばいいんだ」
カリュオンがドンと盾を床に刺すよう構えながら、空いた手でカツサンドを受け取る。
「あそこら辺かな?」
俺が指差したのはなくなった天井の更にその先。
「上? そこに何かあるの?」
俺が指を差した先を見てアベルが不思議そうに首を傾げた。
俺はそれの疑問にニヤリと笑い答えた。
「ボス」
俺が指を差した先に感じるのは、強力な沌の魔力。
何やら湧き出ているような、そしてそれが荒ぶっているような。
その辺りの気配を探ろうとすると沌の魔力が強すぎて、その魔力が作り出しているものの感情まで感じ取ってしまうほどだ。
怒り、苦しみ、悲しみ、恐怖、絶望などが入り交じった負のどん底のような感情。
間違いなくこのゴーストシップを形成している核になっているものだ。
核になっている何か――おそらくアンデッド系のボスがそこにいる。
絶対にナナシで斬りたくないやつだ。
うるせぇ! フリじゃねーぞ! フリじゃねーから、殺る気満々でカタカタすんじゃねぇ!
「へぇ、カリュオンの因果応砲でボスのとこまで直通の穴を開けちゃうの? ついで、運がよければそのままボスも吹き飛ばしちゃうの? いいね、ちょうど迷路でイライラしてたんだ、やっちゃおやっちゃお」
「なるほど、ボスっぽいのは一番上っぽいし、最下層から行くのはめんどくさいもんなぁ。よっしゃ、こいや! ボス前まで直通ルートを作ろうぜ!」
「カッ! カカカーッ!!」
アベルとカリュオン、そしてカメ君までやる気である。
やっぱ道なんて迷路でうろうろするよりも自分で切り開く方が男らしいもんなー!!
そうと決まったらカリュオンをぶん殴って因果応砲を溜めるぞおお!!
――と思ったのだが。
「おーい、全然効いてないぞぉ~? もっと本気出せよ~、今は鎧も着けてないんだぜ?」
「キーーーーーッ!! 手加減してあげてたらいい気になって、怪我をしても知らないよ!! ヒーラーはいないんだからね、自分の回復魔法かグランのポーションしかないんだからね! いいね、覚悟してよ!!」
「は? この盾、こんな堅いのか!? ミスリルソードで傷も付いてないぞ! というかこれ以上力を入れると剣の方が折れそう!! 何だこの盾!? 鑑定できないしいいい!!」
「カ? カァ?」
このバケツ――の中身、中身だけでもくっそ堅てえええええええ!!!
アベルの氷の矢がカリュオンの盾にぶつかって砕け散り、俺の剣での攻撃も簡単に弾かれる。
時々寄ってくるゾンビを倒しながら、ひたすらカリュオンの盾に攻撃しているのだがクソ堅すぎてて手が痺れてきた。
もちろん手加減はしているのだが、片手で盾を構えてサンドイッチをもぐもぐしているカリュオンはびくともしない。
しかし、盾の光り方を見る感じ、まだまだ最大威力の因果応砲にはならなさそうだ。
あるぇ? 攻撃力系の付与がしてあるめちゃくちゃ切れ味のいいミスリルロングソードなのだが、盾にまったく傷も付いていない。
しかもカリュオンが煽ってくるからめちゃくちゃイラッときて温まってきたああああああ!!
あ、これ挑発スキルか!? 挑発スキルをくらった魔物ってこういう気分なのか!?
おいこら! 俺は魔物じゃねーぞ!! うっきいいいいいいいいい!!
そしてアベルは俺以上に挑発スキルが効いているのか、ついにバカでかい氷の槍を出し始めた。
おいおい……煽り耐性低いな!? 俺はこう見えても冷静な大人なのでバーミリオンファンガスで我慢してやるぜー!!
アベルが氷なら俺は業火だ!!
くらえ! 炎と氷、対極属性が合わされば最強になるうううううう!!
ドオオオオンッ!!
「おおっと? これはちょっと効いたかも?」
「ちょっとグラン! なんで炎なの!? 氷が溶けて水蒸気になって……熱っ! めっちゃ熱っ!」
「ヒッ! 氷が一気に水蒸気になってやばっ! 吸い込んだら気管まで火傷しそ、やばっ! というかカリュオンはなんで普通にサンドイッチを食ってんだ!!」
アベルの氷の槍と俺の投げたバーミリオンファンガスがカリュオンの盾にぶつかり、氷の槍は砕け、バーミリオンファンガスは大きな炎を上げた。
そしてその炎が砕けた氷を一気に蒸発させ、周囲に熱い空気が爆発するように広がった。
アベルはいつものマントを羽織っているので、この程度の熱は平気そうだが、俺はめっちゃ薄着である。
くそぉ、海だしゾンビだしで水耐性と物理耐性くらいしか付いていない上着だから水蒸気めっちゃ熱っ!!
なんて状況なのに、なんでカリュオンはむしゃむしゃとサンドイッチを食ってんの!? 盾以外俺と同じ装備だよね!?
水蒸気だから盾の向こうにも届いているよな? なんでサンドイッチむしゃむしゃしてんだ!? サンドイッチ熱くならない? 湿気ない!?
タンク硬すぎいいいいいいい!!
それより、普通の人間でたいした装備も付けていない俺は、水蒸気を吸い込んだらクリティカルなダメージになりそうううう!!!
「カアアアア……」
広がる水蒸気から逃げようと後退するとカメ君のため息が聞こえて、俺とアベルの周囲の温度が急激に下がった。
カメ君ありがとう、すごく助かったよ!
カメ君だけ妙に落ち着いているけれど、カリュオンの挑発が効いていないのかな?
そっかー、カメ君はただのカメじゃないから、カリュオンの挑発にも釣られないんだね。
「もうちょっとかな? カメッ子ー、適当に手加減したほどほどに強い津波を頼むぜー!」
俺とアベルの阿吽のコンビネーションアタックを受けて、カリュオンの大盾から滝のように光のもやが溢れ出しているが、これでまだ最大ではないらしい。
「カメッ!」
くそぉ、俺達のコンビネーションアタックでも最大までいかなかったか。恐るべしバケツ応砲。
カリュオンの周りの空気は、俺とアベルの攻撃の影響でまだ高い熱を持っていそうだ。
カメ君が俺の肩の上でピロピロと尻尾を振ると目の前に大きく分厚い水の壁が現れ、それで視界がいっぱいになった。
最後に見えたのは、残ったサンドイッチを口の中に押し込んで盾を両手で構えるカリュオンの姿。
カメ君の出した大きな水の壁がカリュオンの方へと倒れるように流れ行く。
あまりの水の量に俺の場所からカリュオンの姿を見ることはできない。
やべー水の量だったが大丈夫か!? 流されていないよな!?
「うおおお! さすがカメッ子ォ! 今のは結構やばかったぞおおお!! だが、それで因果応砲が最大まで溜まったぞおおおお!!」
「カッ!? カッカッカッカッ!!」
カメ君の出した水の壁が津波となってカリュオンの方へ押し寄せ流れ去った後、びしょ濡れになりながら盾を構えたカリュオンの姿が見えた。
少しだけ後退したようだがピンピンしているカリュオンに、カメ君は驚きながらも満足そうだ。
そしてカリュオンの盾から白く眩しい光が溢れるように流れ出している。
「で、あの辺だったかな?」
ずぶ濡れのカリュオンが盾を構え直しながら上を指差す。
「おう、だいたいその角度だな。頼むぜカリュオン、道を切り開いてくれ」
そしてあわよくばボスも吹き飛ばしてくれ。
「了解! それじゃいくぜ、究極盾光線因果応砲!!」
そのまんまの叫び声と共にカリュオンの盾から極太の真っ白い光線攻撃が発射された。
お読みいただき、ありがとうございました。




