強行☆突破
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「ちょっとグラン!? 強行突破ってどういうこと!?」
「強行突破は強行突破ってことだ」
収納から聖なる爆弾ポーションを五つ取り出した。
まろやか威力の爆弾なので一本では爆発力が足りない可能性があるから、大は小を兼ねて五つだ。
「まー、グランが無理なギミックはそれしかないよなー」
「カッ!? カアアアア!?!?」
「カリュオン、そこで納得するの!? ほら、チビカメも"赤毛と半エルフは常識を覚えるカメ~"って言ってるよ!! 珍しく意見が合うね!!」
そんなことを言われてもギミックがクリアできないなら、ぶっ壊すしかない。
「まぁ、壊れるかどうか試してみるだけだ。ダメならカリュオンを適当に攻撃して因果応砲で天井に穴を空けて脱出しよう」
「ん? まぁ、それでもいいなぁ。ゴーストシップだしその気になれば、強力な聖攻撃なら固い壁も壊せそうだな。いざとなったら因果応砲で穴を空けて進めばいいな」
よっし、カリュオンが味方になった! これで勝つる!!
「そうと決まったら、まずそこのクソ地図、お前だ! 壁ごと吹き飛ばしてやるから覚悟しろ!!」
「え? 決まったの!? まだグランとカリュオンしか賛成してないよ! 俺とチビカメが反対したら半々だよ! もっとよく考えって、もう爆弾を投げようとしてるううう!!」
「カアアアアアアッ!?」
アベルが何かごちゃごちゃ言っているし、カメ君も叫んでいるが、アベルが慎重すぎるのはいつものことだし、カメ語はわからないから気にしない。
「半数なら四捨五入で賛成多数可決だな!! というか俺の予想ではたぶんこれが正解!!」
「四捨五入でも反対多数だよ!! え? 正解って何!? ちゃんと説明して!! グランはいつも言葉が足りなあああああああーーー投げたああああああ!!」
ボーーーンッ!!
あー、スッキリした。
壁にかかった迷路に投げつけた爆弾が炸裂し、爆発音と共にキラキラと聖属性の爆煙と爆風が巻き起こる。
「たぶんこの部屋が崩れるから防御を頼む!」
「おうよ、任せとけ。俺は上をやるぜ!」
「たぶんじゃなくて、壁に向かって爆弾なんか投げたら崩れて当たり前でしょ!! ていうか、やることがあるなら爆弾を投げる前に指示を出して!!」
「カカカカーーーーッ! カーーーーーッ!」
カリュオンが担いでいた大盾を上へとかざし、その大盾を中心に巨大な光の盾が頭上に展開され、それに続いてカメ君が盾ではカバーしきれていない横を守るように、水の壁を俺達の周りに出現した。
さっすがカリュオンとカメ君、頼りになるうううううう!!
イタッ! カメ君、なんで俺の肩を蹴飛ばしたの!
「あっ! 俺のやることがない!? いいもん、俺は攻撃専門だもん!」
アベルが拗ねているが、やることがない状況は俺にとってはよくあることだ。いちいち気にすんな。
人は適材適所だ。アベルにも後で活躍してもらうぞ! きっと!!
ドドドドドドドドドッ!!
カリュオンの光の盾とカメ君の水の壁が現れ、アベルがキーキー言う中、音を立てて俺達のいる部屋の天井と壁が崩れ俺達の上に降り注いだ。
それは崩れるというより、ボロボロと剥がれ落ちるに近い印象を受ける。
崩れてくる天井と壁はカリュオンの光の盾とカメ君の水の壁で防がれ、俺達には届かない。
「うほぉ~、思ったより派手に崩れたな~。弱めの因果応砲なら撃てそうだな~」
天井と床の崩壊が終わってカリュオンが光の盾を消し、カメ君も水の壁をビシャリと崩した。
崩れてくる天井を受け止めたカリュオンの盾は、キラキラと白い光の粉を振り撒いて因果応砲が使用可能であることを示している。
カリュオンの因果応砲は、カリュオンが盾で攻撃を受け止めることにより、受け止めたダメージを魔力に変換して蓄積し、巨大光線攻撃として放つ技だ。
強い攻撃であればあるほど溜まる魔力は大きくなり、魔力を溜めれば溜めるほど因果応砲の威力は上がる。
どうやら落ちてくる天井でも因果応砲は溜まるようだ。
「カッ! カカカカッ! カーーーッ!!」
「イタッ! うん、水の壁ありがとう、助かったよ!! でも髪の毛は引っ張らないで、というか毟らないで!! 人間にとって髪の毛は大事な大事な友達なの!!」
天井と壁が崩れ落ちた周囲を見回していると、捲し立てるようにカメ語で何か言っているカメ君に髪の毛を引っ張られた。
先に言わなかったの悪かったって、ごめん、ごめんて! でも、髪の毛はらめえええええええ!!
「いいよチビカメ、もっとやちゃって。グランは何か考えがあるにしても、爆弾使う時は先に言って? いや、爆弾以外でも変なことをする前にちゃんと相談して? いいね? それと正解ってどうゆこと? ちゃんと説明して!!」
「え? 投げる前に一応いったじゃん。イタッ、直前はダメ? あ、はい、ちゃんと一言言ってから投げるようにするので髪の毛を攻撃しちゃダメェ!」
俺の肩の上で髪の毛を引っ張るカメ君を手で制しながら、天井と壁の崩れた部屋を見回した。
天井が落ち、壁が崩れた部屋は、他の部屋そして上の階層とつながり随分広く感じる。
部屋には天井や床が崩れた残骸が散らかっているが、俺達の周りだけは何も落ちてきていない。
そして爆発の中心部で粉々に粉砕された迷路の破片が、天井や壁の残骸と一緒に床に散らかっているのが見えた。
「そうそう、この部屋のギミックな、えーと……アベル、ちょっとあそこに散らかってる迷路の残骸――とりあえずあそこら辺に散らかってるのだけ燃やしてくれないか?」
「うん? こんなとこで火使って大丈夫? あの辺だけならちょっとだけだし平気か。燃え上がりそうなら消火お願いね、チビカメ」
「カッカッ!」
残骸から少し離れた場所に飛び散っている迷路の破片を指差した。
とりあえずあの辺に散らかっているのをちょこっとだけ燃やすなら平気だろう。
うんうん、もし燃え上がっても、カメ君がいるから大丈夫。
「じゃあいくよー」
ボッ!!
アベルが迷路の残骸に小さな火の玉を放った。
その火の玉が迷路の破片に着弾し燃え上がると同時に、迷路の破片とは全く別の場所にある崩れた部屋の残骸が燃え上がった。
そんなことじゃないかと思ったよ。
「うわっ!? 全然関係ないとこが燃えた!」
「カッ!?」
「大丈夫、たぶんすぐ消える」
迷路の破片とは別のところが燃え上がり、そこに水鉄砲を撃とうとしたカメ君を手で制した。
そして俺の予想通り、迷路の破片が燃え尽きると、別のところで燃えていた炎も消えた。
そこには、もう天井や壁の残骸は残っていなかった。
「ああ、そういうことか」
「カカッ!」
「あっ、そういうこと。もー、グランー、そういうことに気付いたら先に教えてって言ってるでしょー」
どうやら、みんな部屋の仕掛けに気付いたようだ。
今起こったことがどういうことか理解したアベルが、キュッと眉を寄せて拗ねた表情になる。
「ごめんて、何となくそうじゃないかって思ったけど確信はなかったんだ」
迷路はこの部屋。
どういう仕組みかまではわからないが、迷路内で起こったことに応じた現象がこの部屋で起こるギミック。
空間魔法かなんかの応用なのかなー。まぁ、妖精の地図の中、しかもゴーストシップなんていう摩訶不思議アトラクションみたいな場所だ、理由なんて考えるだけ無駄だ。
魔物の模型に触れれば、その模型に似た魔物のゾンビが、岩に触れれば岩が、水に触れれば水が、木に触れれば丸太がギミックとして部屋に現れた。
何でもないところで失敗した時にとりあえず出てくる人型のゾンビを除けば、だいたい迷路内で起こったことが再現されていた。
きっとゴールまで行けば出られることは出られるのだろうが、ゴール前のサメサメゾーンを越えられる気がしなかった。
このまま続けていても時間がかかりそうだし、精神衛生もよろしくない。
だったらこの迷路を物理的に壊してみたらどうなるのだろうか?
この迷路と部屋が連動しているのなら、部屋が壊れて外に出ることができるのでは?
ゴーストシップの一部なら聖属性の攻撃で壊れるかなって、聖なる爆弾を投げてみた。
壊れなかったらカリュオンをタコ殴りして、因果応砲を撃ってもらえばいいと思っていた。
別に普通に殴ってもいい気はしたのだが、とりあえずむしゃくしゃしていたので爆弾を投げた。
迷路は粉砕され、部屋も崩壊して無事元のルートに戻れそうで、非常にスッキリとした気分だ。
そして俺の予想通り、迷路と一緒に部屋も崩れた。
これにてこの場は一件落着!!
壁まで崩れて他の部屋にも行けるようになったー。
一番下の層みたいだし、倉庫に何かいいものないかなぁ?
ん? あっちに見えるのはゴーストシップの入り口じゃねーか!!
振り出しに戻ったみたいでむかつくな!!
シーレオパードの宝箱はいまいちだったし、少しだけ倉庫っぽい場所を漁って元のルートに戻るかな。
「はー、この迷路には散々むかつかされたから残っている破片も消し炭にしちゃお。燃え上がりすぎたらチビカメが消せばいいよね、よろしく」
「カッ!?」
壁が崩れて一番下の階層がほぼ見渡せる状態になって、何か金目のものでも落ちていないかと周囲の様子を窺っているとアベルの声が聞こえてきた。
おい待て! 纏めて燃やすのはまずいぞ!!
カメ君がいれば安心だけれど一気に燃やすのはやめた方がいい気がするぞおおお!!
と思ったらアベルから火の玉が模型に飛んでったーーー!!
これにはカメ君もびっくりだーーーー!!
銀髪は非常識カメーーーーー!!
って言ってやってくれ!!
――そして、火の海へ。
お読みいただき、ありがとうございました。




