海の獣
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よしよし、いい感じに吹き飛んだな。
爆発の衝撃で更に大きくなった床の穴の中を覗き込む。
下の階でひしめき合っていたゾンビどもは、俺のゴー・トゥー・ヘブン・ボンバーで綺麗に消し飛んでくれている。
うむうむ、爆風で飛び散った聖と光属性の粉末で、ゾンビ達の体はジュッと燃えるように消失してくれたようだ。
頑張って作ったセイクリッドウォーターガン・改君よりも、適当に作ったゴー・トゥー・ヘブン・ボンバーの方が役に立つなんてなんか悔しいな。
なんか少し悔しいし生き残りがいるかもしれないから、セイクリッドウォーターガンで聖水ばら撒いとこ、ピューッ!!
「ちょっとグラン!? こんなボロボロで壊れやすい船の中で何で爆弾なんか投げたの!? ゾンビなんか放っておけばいいでしょ!?」
「いやさ、哀れな不死者を救済しようと思って? ほら、俺って正義の味方じゃん? あとあの爆弾の爆発はまろやか系だから大丈夫だよ」
「意味がわからないよ! わざわざゾンビを救済しようって意味もわからないし、グランが正義の味方っていうのも意味わからないし、一番わからないのはまろやかな爆弾って何!? まろやかの使い方を間違ってるよ!! 色々言い訳してるけど、変な爆弾を作ったから投げたかっただけでしょ!!」
アベルは相変わらず俺に失礼だし、細かいことを気にしすぎだなぁ。
そして変ではないけれど新作の爆弾を投げたかったことに気付いているあたり、さすが付き合いが長いだけあって俺のことをよくわかっている。
「まぁまぁ、ちょっと爆弾を投げただけで手間は掛かってないし、まろやか威力であまり船に大きなダメージもないし、ゾンビがいなくなったから下の階層をチラ見できそうじゃん? ほら、船の下の方って倉庫とかありそうだし、何か財宝があるかも? お、あんなところに宝箱がーっ!」
床に空いた穴を覗き込むと下の階に大きい宝箱が見える。
「今回はそこまで崩れなかったけど、グランはすぐ爆弾を投げるんだからーって、宝箱!? どこどこ!? あれだね、ちょっと大きいのが不安だけどミミックじゃなくてちゃんと宝箱だよ!」
お小言は言うが、何だかんだで宝箱は大好きなアベル。
宝箱は夢があって、何年冒険者をやっていてもワクワクするもんなー。
「カッ! カカカカッ!」
カメ君も宝箱に興味があるのか、テンションの高い声を上げながらカリュオンの肩から俺の肩にピョーンと移動してきた。
「グランの謎爆弾でゾンビも綺麗に吹き飛んだし、せっかくだから回収しておくかー」
さっすがタンク、大盾を担いで迷いなく穴から下の階層にピョーンと飛び降りた。
穴の下は一番下の階層なので、大盾を担いで飛び降りても船底が抜けるようなことはなさそうだ。
ていうか、そのでかい盾を持って動き回って床がズボッていかないのに、何で俺だけズボッていったんだよ。
結果宝箱があったからいいけれど、なんだか納得がいかないな!?
カリュオンが着地して、そこに何も攻撃が飛んでこないのを確認して俺も続いて下に降りる。
足元は少し海水でビチャビチャしているが、聖なる浄化爆弾で吹き飛ばしたおかげでゾンビの破片や汁っぽいものはなくなっていてサンダルでも安心だ。
そして浄化効果のおかげでやばかった腐臭も多少はましになっている。
ゴー・トゥー・ヘブン・ボンバー君もしかしてすごく優秀なのでは?
「ここはゾンビばっかりでゴーストはいなかったのかな? いきなり出てきたら嫌だし臭いもまだ残ってるし範囲浄化しとこ」
そして最後はアベルが転移魔法で俺の横にストンと降りて来て、すぐに浄化魔法を使った。
アベルが浄化魔法を使っている真っ最中。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
ポッカリと空いていた穴が、突然再生して閉じてしまった。
ゴーストハウスでもこういうのよくあるんだよなぁ、部屋に入ると扉が開かなくなる系。
ゴーストシップにもそういう仕掛けはありそうだと思っていたが、まさか抜けた床でそうなるとは思わなかった。
そういう場所はだいたい条件を満たす――その部屋の主を倒したり仕掛けを解除したりすると出ることができる。
この手の部屋って部屋の主を倒す系の方が一番楽なんだよなぁ。
仕掛けを解除する系は時々くそ面倒くさいのがあるからやだなー。
単なる物理的な仕掛けなら楽なのだが、歌を歌えだの、絵を描けだの、面白い話をしろだの微妙に困るお題を出されると面倒くさい。
さてここの脱出条件は何かな? だが、その前に宝箱の回収だな!!
「ゴーストシップならやっぱそういう仕掛けだよなぁ。うーん、見た感じボスはいなさそうだからギミック解除系か」
「うっわ、そういう部屋は警戒してたけど、床や天井でもなるんだ……あんま変なギミックじゃなきゃいいけど。でもそれより先に宝箱を回収しちゃお」
「もちろん! ぱぱっと宝箱を回収してぱぱっと部屋から脱出するかー。魔物が出てくるかもしれないから、準備をしておいてくれ」
もしかして床がズボッといったのはこの部屋に誘導する仕掛けだったのか?
天井まで落ちたのは、上の階からでもこの部屋まで落ちる仕掛けだったのかな?
罠のある部屋に落とし穴や宝箱で誘導して、閉じ込めるというギミックはゴーストハウスではよく見かけるものなので、閉じ込められたところで熟練冒険者の俺達は慌てたりしない。
この手の部屋にある宝箱は部屋から脱出できるようになると消えてしまうものもあるので、宝箱が欲しいなら部屋のギミックを解除する前に箱を開けた方がいい。
しかしその場合密室状態なので、もし倒せないほど強い魔物が宝箱から出てくると詰みである。
大丈夫、カリュオンとアベル、それにカメ君もいるから大丈夫。きっと大丈夫。
箱の罠はたいしたことはない。
そのまま開けると爆発する系だな。こんなところで爆発は危ないからな、ちゃんと解除したぞ。
む、ついでに幻覚系の魔法トラップも仕掛けられているな。こんなのをくらうとうっかり味方を攻撃してしまう。危ない危ない、これもちゃんと解除したぞ。
よし、罠はこれで全部。後は開けるだけなのだが、でかい宝箱って魔物率たけーんだよなぁ。
こういう時にシルエットがいれば小型スケルトンで安全に開けてもらえるのだけれど、今回はどうやって開けるかなぁ。
ん? どうしたナナシ、何でカタカタしているんだ? そうだ、ナナシだ! ナナシがいるじゃないか!
よぉし、ナナシにちょっと活躍をしてもらおう。まずは箱から離れてー。
「伸びろ、ナナシ!! そして箱の蓋を開けろ!!」
ナナシが俺の魔力を吸いあげ、ハーフパンツの腰紐と同化したままシューッと伸びて宝箱へと向かっていく。
俺から使ってやったから張り切っているのか、妙に腰紐がキラキラしている。いいぞ、そのまま箱を開けてくれ。
腰紐の新しい使い方だな。箱を開けるだけなら変な反動もないし安心安心。
「ちょっと、グラン!? それあの性悪剣!? そんなの使って大丈夫!?」
「話には聞いていたが、パンツの紐の形をした面白い剣だなー」
そうそう紐だから大丈夫大丈夫!!
おっとぉ!? 伸びた腰紐ナナシの先端がパカーっと四つに割れたぞおお!? くっそぉ、ナナシの癖に無駄にかっこいいな!?
その割れた紐で宝箱の蓋を掴んでパカーッ!!
そして俺の予想通り箱の中から魔物――ゾンビ化したシーレオパードがっ!!
シーレオパードは海豹とも呼ばれ、その名の通り海に棲む豹である。
前後の前足には水かきがついており、尻尾の先端も魚のヒレのようになっていて、海の上を地面の如く走り回ることができる点を除けば、だいたい毛が真っ青なだけの豹である。
前世の記憶のせいで海岸でゴロゴロしていて愛嬌のあるアイツらをなんとなく思い出すがソイツらではない。
大きさは体高三メートルを超える肉食魔獣なのだが、Bランク程度なので俺達の敵ではない。
しかもここはあまり広い場所ではないので、でかい魔物は動きを制限されて不利である。アベル達に頼らなくても俺の剣でスパーッとして終わり。
ナナシよくやったぞ! もう戻ってこ……あれ?
かっこよく割れた腰紐ナナシの先端がシャキーンと鋭い刃物にと変化し、シーレオパードゾンビを包囲するように紐がビヨーンと伸びて、刃の先端がシーレオパードへと向いた。
やだ、嫌な予感がするし、俺の魔力をガンガン吸ってやがる。
ああああああああーー、無駄にかっこいいパンツの紐が! 先端の刃が! シーレオパードに襲いかかって、その体を貫くううううううううう!!!
ここまでほんの一瞬。無駄に有能な魔剣である。
そして例によって頭の中に斬った相手の声がーーーー!!
ニャー。
ちょっとおおおおお!? その鳴き声はずるいいいいいいいい!!
ああああああーーー……仮初めの命だからか反動の痛みはほとんどないのだが、その鳴き声は違うベクトルで俺の心にくるぞおおおおおおおおお!!
ああ~~~~、心が痛い~~~~~~~!!
お読みいただき、ありがとうございました。
「ユキヒョウ 鳴き声」とかで検索してみると鳴き声動画が出てくると思います(小声




