哀れな不死者達に救いを
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罠は仕掛けられていると、だいたい不自然なところがあるからわかりやすいんだよ。
しかし単純に朽ちた床が俺の体重に耐えきれず、ズボッといくのが予想できない。
いや、ボロボロの船なのでそこらじゅうそういう危険があるので、気にしていたら前に進めない。
見るからにやばそうな場所は避けて、念のため急激に体重をかけないように歩いていたのだがズボォォォッ!!
いつもの装備できていたら、重量もあってもっと早くズボッといっていたかもしれない。
いつもの装備だったらカリュオンが船に乗り込んだと同時にズボッといってただろう。フルプレート装備、重いもんな。
水着で来て正解だったじゃないか! 水着でもズボッといったけど!!
サンダルでズボッといってしまったので、物理耐性を付けていなかったら危なかった。
いや足は無事だったんだけれど、床があまり無事ではない。
俺が床にズボッと踏み抜いた後その周辺が連鎖するように穴が広がり、俺の周囲の床がバリバリと裂けるような音を立てて崩れてしまった。
そのまま俺は下の層に落下――する前に落ち着いて左手のグローブに仕込んでいるローパーの触手ワイヤーを天井に向け発射して、華麗に崩れた床を回避。
天井にローパーのワイヤーを貼り付け、それを縮めて崩れる穴から脱出――。
ミシッ……。
「ん?」
上から不吉な音が聞こえた。
そうだよなー、床が朽ちているなら天井も朽ちているよなぁー。
なんて、呑気に考えている場合ではない。
やべぇ、床が抜けたから天井にぶら下がったら、その天井も俺の体重を支えきれないっぽい!!
そんなに太っていないはずなのになんでーーーー!!
「カカカカメッ!!!」
俺の肩の上でカメ君が慌てたような声を上げて、カリュオンの肩へとピョーンした。
そりゃないよ、カメ君!?
「グラン、そのワイヤー戻して!!」
「お、おう!」
カメ君がピョーンした直後にアベルの声が聞こえたので、それを信じてワイヤーを戻す。
空中でワイヤーを解除したため俺の体は宙に投げ出された状態になるが、それをアベルが空間魔法ですぐに引き寄せてくれ、ストンとアベルの横に着地した。
「ひー、助かったありがとう」
「ここもやべーな。アベル、頼む」
カリュオンがアベルの横に移動してきて、その肩にポンと手を置いた。
俺も俺もー、とアベルの肩に手を置く。
「もー、俺に感謝してよね」
アベルの肩に手を置くと、シュッと背景が流れた。
ドドドドドドドドドッ!!
足の裏が床に付く感覚と同時に木の割れる音や、それらが落下する音が背後から聞こえてきてそちらを振り返ると、先ほど俺達がいた場所の天井がごっそりと崩落し、それが落ちた衝撃で床も崩れていくのが見えた。
アベルが転移したのは俺達が進む予定だった通路の先。先ほどいた場所から見えていた通路の突き当たりだ。
そこから崩れ落ちる天井、そして床を見た。
天井が崩れ大きな穴が空き、そこから上の階にいたゾンビがバラバラと落ちて、更に床に空いた穴に吸い込まれるように下の層へ。
今日の天気は晴れ時々ゾンビ!!
朽ちて脆くなっているため、天井や床が落ちた箇所から連鎖するように崩落が広がり、最終的に俺達がいる場所のすぐ手前まで、床と天井にぽっかりと大きな穴が空くことになった。
崩れ落ちている間、ゾンビの滝もずっと続いていて、上の階から下の階へと落ちていくゾンビをボーッと眺めていた。
すさまじく大きな音がしたので、同じ階層にいるゾンビが寄って来たがそれはアベル達が処理してくれた。
また別の方向から寄ってきたゾンビの中には崩落に巻き込まれて、下の階層に落ちていったのもいた。
「うっわ……腐臭やっばぁ……」
天井と床の崩落が終わり、下の階と上の階が吹き抜け状態になった大穴を覗き込んで、アベルが口と鼻を手で覆った。
「ァァァ……」
亀ってやっぱ嗅覚が人間より鋭いのかな?
カメ君の表情が虚無になっている。
「これはさすがにきついな……」
ああ、あのカリュオンですらきついと言って真顔になっている。
だが確かにこれはきつい。
目の前に空いた穴を覗き込めば、天井と床が崩れそこから下の階に落下したゾンビが、もしかすると下の階にもゾンビがいたのかもしれない、それらが下の階でひしめきあっておりその腐臭で鼻がひん曲がりそうだ。
しかも落下したり、崩れた天井と床で潰されたりで、グチャグチャのゾンビが更にグチャグチャになっていて臭いだけではなく見た目もやばい。
そいつらがアーアーと変な声を上げながら上の俺達に向かって、腐ってボロボロになっている手を伸ばしている。
まさに地獄絵図というやつだ。
脳ミソまで腐ったゾンビに自我や意志なんてないだろう。
だが彼らは執拗に生きている者へと寄って来て、それを食らおうとする。
ゾンビというのものは他者の沌魔法により動かされているもの、精霊や妖精が死体に取り憑いたもの、心も体も死んだはずなのに様々の要因が重なりそれに気付かず魂のない体だけが動いているもの等、様々な要因のゾンビがいる。
その全てのゾンビに共通するのが生への執着と渇望。
失った命や魂を体が探し求めているのか、それとも仲間を求めているのか、その両方なのか、ゾンビ達は生きている者の体を開き食らおうとする。
何かに飢えているかのように。
肉体を開いたところで魂は形としてなく、肉を食らったところで満たされるわけではないのに。
汚く、臭く、気持ち悪く、誰からも嫌われる哀れな存在。
カタカタとナナシが腰で揺れる。
ここにいるゾンビは妖精の地図が作り出した仮初めのものかもしれないが、そのオリジナルはこの船に乗って現実世界の海のどこかを彷徨っているのかもしれない。
生への執着と渇望、そして受け入れられない死への絶望を乗せて。
ナナシならこいつらの悲しみを聞いて天へと送ることができるのだろうか。
その気になれば俺はその声を聞いてやることができる。俺ならその嘆きを受け止めてやることができる。
ま、全く知らない奴のためにくっそ痛い思いをしてナナシなんか振りたくないから、やっぱナナシはなしだな!!
そこにあるのは魂ではなく朽ち果てた肉体に残った執着と妄執。
どうせ体がなくなれば消滅する奴らだ。
よってナナシの出番はなしなしのなし!!
腰でカタカタしても知らねーぞ!!
ははは、武器に取り憑く? こんな奴ら武器を使わなくても纏めて始末できるぜ!!
ほんのほんのほんのちょっとだけ彼らに同情をしてしまったついでに、新必殺アイテムを試してやろう。
「このゾンビ達はここに詰め込んでおくなら別に倒さなくていいよね? ほっといて進もうか」
「そうだな、ちょうど天井に穴が空いたしそこから近道しようぜ。頼むぜ、転移魔法様!」
「カァ?」
アベルとカリュオンは下の階で蠢くゾンビ達を無視して、上にピューッする相談をしている。
カメ君だけ俺の動きに気付いたかもしれない。
「哀れな不死者に安らぎを! 食らえ! 範囲浄化爆発、ゴー・トゥー・ヘブン!!」
やや緑がかった白い光沢のある粉末とほんの少しの赤い粉が入ったポーション瓶が俺の手から離れ、ゾンビがひしめく穴へと吸い込まれるように落ちていく。
「え? 何!? グラン、何やってるの!? 今投げたの何!?」
「んんー? ゾンビを始末しとくのかー?」
「カカー!?」
ドンッ!!
アベル達が俺の行動に気付いた時には、もうそれは爆発していた。
ウロボタイトという聖と光属性を持ち、破邪効果のある鉱石を粉末にしたものに、聖属性の魔石を粉末にしたものとニトロラゴラを乾燥させ粉末にしたものを少々。
それらを混ぜてポーション瓶に詰め込んだ、対アンデッド用爆弾。
ゾンビやスケルトンといった強度の低いアンデッドを軽い爆発の衝撃で粉砕しつつ、破邪効果と聖属性と光属性の効果で不死者達をあの世へ送る爆弾。
発生した爆風で聖なる粉末が広範囲に広がって、魔法が使えなくてもお手軽範囲浄化万歳!!
しかも粉末による浄化攻撃なので、ジワジワと溶ける聖水攻撃と違いゾンビはジュッと燃えるように消えていくので綺麗! 安全! 臭くない!!
フォールカルテの図書館でアンデッドを相手しまくった時の反省から生まれた爆弾だ。
おっと、今の衝撃でまた床が少し崩れたな。
だが下の階のゾンビはいい感じに消し飛んだかなぁ。
妖精の地図が生み出した仮初めでありながらも、生への枯渇に縛られた哀れな不死者達に救いをおおおおお!!
お読みいただき、ありがとうございました。




