聖なる秘密兵器
誤字報告ありがとうございます、修正しました。
わらわらとタラップから降りて来たゾンビ達は船から離れて砂浜に降りると同時に、ラトや三姉妹達の聖魔法によってなぎ払われている。
その間に俺達は着替え――すまんな、テントは収めちゃったからお着替えスペースなんてない。
というか、船からの砲撃がこちらにも飛んでくるのでのんびり着替えている余裕などなかった。
というわけで、三姉妹の前で水着用ハーフパンツを脱いでいつのもズボンに履き替えるわけにはいかないのでハーフパンツ続行。
打撃と射撃に耐性があるフード付きの上着を羽織り、足元はブーツに履き替え……ようとしたらやたら船からの砲撃が飛んできて諦めた。
大丈夫、サンダルにも耐水性と物理耐性が付与してあるからきっと大丈夫。
ん? 何だ、ナナシ。アンデッド相手だから張り切っているみたいだが、お前は使わないぞ。大人しくパンツの紐と同化していろ。
アベルはハーフパンツにシャツというスタイルの上から、いつものマントを羽織っている姿が絶妙なダサさで面白い。
そしてちゃっかりブーツに履き替えてやがる。
くそぉ、俺のブーツより履きやすそうなブーツで羨ましい。
カリュオンは俺と同じようにハーフパンツにサンダルという砂浜スタイルにフード付きの上着を羽織っただけ。
鎧がなくてもそれなりに堅いので、盾があればゾンビくらいどうとでもなるらしい。
めちゃ堅タンクスキル羨ましい。
ざっくりと準備完了、ゾンビくらいなら水着できっと余裕!
「いくぜ、沈没船の財宝! 金貨百万枚! くらいあるといいな!!」
「沈没船にそんなに金貨あるわけないでしょ! そんなに積んでたらそれだけで沈みそうだよ!」
「そのくらいあったら一生食費に困らないかなぁ」
「カーッ!!」
ゴーストシップはめり込むように砂浜に乗り上げて来ているが、その穴の部分は海の中で水深が俺の膝下くらいの場所にある。
まるでそこから入って来いとでもいうように、わかりやすくそして入りやすく見える大きな穴。
気合いを入れてその穴へと向かって駆け出す。
アベルが冷静に夢のないことを言っているが、欲をかくのはただなので夢は大きい方がいい。
ハーフエルフ、しかもカリュオンの食べる量で一生分の食費ってどんくらいになるのかなぁ。
俺達が駆け出すと同時にカメ君が、こちらに向かってピョーンと跳んで俺の肩に着地した。
待って? カメ君が俺のとこにくると、俺までゴーストシップからの射撃攻撃に狙われちゃううううううう!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
「うおおおおおおおおお!?」
「ヒッ! こっちこないで!!」
「鎧なしでアレは受け止めたくないなー」
「カメェ?」
やっぱりカメ君と一緒に射撃攻撃がこっちにきたああああああ!!
可愛く首を傾げても、カメ君が狙われているのはわかっているぞおおおおお!!
船に張り付くように移動すれば砲台の射角的に直撃はないが、魔法弾の爆風には巻き込まれる。
うおおおおおおお!! 船の中に逃げ込むんだよおおおおおお!!
ゴーストシップの攻撃に追い立てられるようにバシャバシャと水の中を駆け抜け、船体の穴から船内へと飛び込んだ。
外からの攻撃は弾くが、中に入ることはできるようだ。
むしろ射撃攻撃により中へと追い立てられ、船内に迎え入れられたのかもしれない。
ゴーストシップは初めてだが、ゴーストハウスになら入ったことがある。
その時もそうだった。
まるで誘い込むように、客人を迎え入れるように、わかりやすい入り口からあっさりと中に入れた記憶がある。
ゴーストハウスにしろゴーストシップにしろ、中に入ってくる者を待っているのかもしれない。
入って来た者を、自分達と同じ存在へと引き込むために。
ドスンッ!
穴をくぐって中に入ると背後で天井が崩れ落ち入り口の穴が塞がった。
入ると入り口が閉じ、主を倒すまでは外に出ることができない。それはゴーストハウスでもよくある現象だ。
「ワープやスナッチみたいな見える範囲の転移魔法は使えそう、ゴーストハウスと同じならテレポート系はダメそうだなぁ。入り口が塞がってて試すと戻れなさそうだから試さないけど」
アベルが近くでピュンピュンと短距離をワープ魔法で移動したり、近くに落ちている石ころをスナッチの魔法で動かしたりしている。
「ま、この感じ面倒くさそうなのはゴーストシップの中心になってる存在だけみたいだし、ぱぱっとやっちまおうぜ」
カリュオンの危機センサーはあまり反応していないようなので、きっとチョロい相手だな!!
「よっし! ゴーストシップから脱出する前に財宝ザクザクするぞーーー!!」
ボス直行でもいいけれど、財宝探しも忘れてはいけない。
穴から船内に入った場所は足元は海水に浸かっているが、すぐ正面に上に上がる階段がある。
ここから船の奥へと進んで行けそうだ。
しかし海に沈んでいたせいで、あちこちボロボロだし泥や藻があちこちに溜まっているし、見るからに足場が悪そうだ。
「この船の動力になってそうなものがある場所ってわかる?」
「ゴーストシップもゴーストハウスと同じようなもんだから、おそらく船をアンデッド化させた元凶がどこかに存在するはずだな。俺の勘だと上の方だと思うが、グランなら正確に元凶の位置がわかるんじゃね?」
「うーん、確かに上の方に強い沌属性の魔力の気配はあるなぁ、感じからして船の最上部あたりか? その辺に強そうなアンデッド系の何かがいるな」
アベルに促され船内の気配を探ってみると、ゾンビやゴーストをはじめとしたアンデッドの気配が無数にある。
そして船の上部に何か強い沌の魔力――おそらくアンデッド系の何かだと思われる気配がある。
ゴーストハウスと同じようなものなら、それをアンデッド化させた原因となっている元凶が存在するはずだ。
それを破壊もしくは浄化すれば、ゴーストシップは消えるだろう。逆にいうとその元凶を取り除かない限り、この船を消滅させることはできない。
そして船の上部から感じる強い沌の気配がこのゴーストシップの元凶だろうか。
俺達がいるのは船のほぼ最下層。
船内にはアンデッドがたくさんいそうな気配がするし、元凶のある場所に辿り着くには少々骨が折れそうだ。
ああそうか、船が海底に沈んでいる状態なら、カメ君が上からシューって入って本体にダイレクトアタックできたのかな?
うっかり釣り上げちゃったから下からルートになったのかな!?
いやー、悪かった悪かった。仕方ないから財宝を見つけて持って帰ろう。
「カメェ……」
そんな、呆れた顔でこっちを見ないで。
ほら、楽しい財宝探し始まるよー!!
「いけ、アベル! セイクリッドアローだ!!」
「人の魔法に勝手に変な名前付けないで! というかグラン何もしてなくない!? 変な武器を持ってるけど全く使ってなくない!?」
「だって俺が何かする前に、アベルとカリュオンとカメ君で終わってるじゃん。俺だってこのセイクリッドウォーターガン君・改で大活躍したかったのに、いやー残念残念。魔法が使えない俺、出番なし!! もうちょっと強い敵が出てきたら大活躍するから期待してろ!」
「何その意味のわからない武器!? 絶対弱そう!!」
ヒーローは最後に大活躍するものなのだ。ていうか、渾身の新作武器に対して失礼だな、おい!?
「おっとぉ、アベルの後にゴーストがっ!」
「ヒッ!? 教えてくれなくていいから! 倒したなら教えてくれなくていいから!」
フラリと出てきたゴーストをカリュオンが聖魔法で浄化しながら、ゴースト嫌いのアベルにその存在を教えている。
カリュオンも何だかんだでエルフだから魔法が使えるんだよなぁ。
防御系のスキルに魔力をかなり持っていかれるから、タンクの仕事をしている時は攻撃魔法に使う魔力はあまりないらしいけど。
「カーーッ!」
ああー、角から出てきたゾンビは俺の肩にいるカメ君に聖なる水鉄砲で溶かされたーー!!
カメ君って水魔法だけじゃなくて聖魔法も得意なんだね。
カメ君が聖属性だなんてちょっと意外……いたっ! なんで今髪の毛を引っ張ったの!?
ゴーストシップに入ったところにあった階段から奥へと進むと、そこはゾンビやゴーストといった下級アンデッドの巣窟だった。
数は多いが下級なので弱い。魔法が使える組がサクサクとそれらを消し飛ばして進んで行くので俺の仕事は全くない。
あー、これこれこの感覚! ゴリラ達に囲まれた時の恒例行事! いつものことすぎて実家のような安心感!
せっかく収納から対アンデッド用新武器を取りだしたのだが、全く出番がないまま幽霊船内の通路をどんどん進んでいっている。
エンシェントトレントの材木で作った手押し式の水鉄砲に、水の魔石と聖の魔石を取り付け、水の魔石で水を補充してその水を聖の魔石と俺の合成スキルで聖水にしてピューって発射するという、半自動式聖水水鉄砲君・改。
ほらほら、聖の魔石のとこに付いているレバーが実は混ぜ棒の役目になっていて、ここを持って合成スキルを使って中身を合成して聖水にするんだ。
水の魔石と聖の魔石を利用してその場で聖水を作って補充できるので、なくなる度に合成スキルを使って補充をしなければいけないという手間を除けば、魔石の魔力がある限り聖水を撃つことができる画期的水鉄砲である。
これならゾンビに近付かないで遠くからピューッとして倒すことができるし、残弾を心配しなくていい。
「カァ……」
そーだよ! カメ君の聖なる水鉄砲の劣化版だよ!!
そんな可哀想な子を見る目で見ないで!! 魔法が使えない俺の苦肉の策なんだよ!!
それとナナシはカタカタしなくていい!
他の武器に取り憑いて強化することもできるみたいだけれど、水鉄砲なんかに取り憑かなくていいし、お前を使う気はないからな!
というわけで、新作武器はあっても俺はやることなし!
みんな頑張れ!!
俺は罠と隠された財宝探しに専念するよ!!
ズボォッ!!!
あああああああああ、歩いていたら腐った床にズボッと足が嵌まったああああああ!!
お読みいただき、ありがとうございました。
「グラン&グルメ 小話集」にてグランとアベルの出会いの話の連載を開始しました。
約20900字、一日一話更新です。12話からがそのエピソードになります。
よろしければ、ご覧になってみてください。




