そうだ、水着だった
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「うげぇ、すげえ数のゾンビ。ここまで臭ってきそう」
船の上に見えるゾンビの数に思わず言葉が漏れた。
そのゾンビ達が身に着けている服は、船員が着ていそうな服から、貴族の乗客のような豪華な服、交易商のような服も見える。そして海賊のような身なりのゾンビも混ざっており、元が何の船だったかさっぱりわからない。
船の形も巨大な帆船というだけでそれ以外の特徴はなく、旗や船体に所属を示すような紋章もないことに少し違和感を覚えた。
「ゾンビなら燃やしちゃえばいいじゃない」
ゴーストシップのタラップを降りようとするゾンビの群れに向かって、アベルが大きな火球を放った。
パァンッ!!
アベルの放った火球がゴーストシップの手前で弾け、火の粉が海岸や海へと飛び散った。
「あーもう、船そのものだけじゃなくて、船に乗っているものにも外から魔法が届かないってこと?」
「だなー、となるとあのゾンビどもが出てくるまで待たないといけないのかぁ。しかもこの恰好でゾンビと殴り合うのは嫌だなぁ」
カリュオンの言葉で気付いた。
そうだ、俺達は水着だった。
ぶっちゃけ、ゾンビ程度の相手なら水着のままでも防御面は問題ない。打撃射撃耐性のある上着を念のため羽織っておけば、不意打ちや飛び道具による攻撃も安心だ。
だが俺やカリュオンのような近接スタイルだと、ゾンビを斬ったり殴ったりした時に返り血や飛び散った肉片を浴びてしまう。
やだ、ゾンビの返り血や肉片なんて不潔だし、気持ち悪いし、臭いし、肌に直接かかりたくない。
かと言って着替える時間もなさそうだし、遠距離武器で何とかするか。
ズラトルクの弓が不死者特効が付いていたなと思い、それを取り出し矢を番えた。
魔法は弾かれたけれど弓ならどうだ?
カァンッ!
タラップを下りて来ているゾンビに向かって矢を放ってみたが、見えない壁でもって手前で矢が弾かれてしまった。
「物理攻撃もダメかー。つまりあのゆっくり降りて来ているのが、外に出てきてからチマチマ倒さないといけないのか……面倒くさいな」
肉体が腐っているゾンビの動きは遅いため、数が多ければその全てがタラップを降りて来るまでには非常に時間がかかる。
船の外からの船本体や船の内部への攻撃は無効化されるようなので、こちらから乗り込んで行けば早いか?
いや、幽霊船になんて乗り込みたくないなぁ。
しかも外から見る感じ、船の上には数え切れない程のゾンビがいるのが見える。
まぁ、ゾンビが降りて来るのを待って、倒せばいいか。
ゾンビが降りてくるまでの間に、フル装備まではいかなくてもある程度の装備を整える時間はありそうだ。
それともゾンビくらいなら番人様がなぎ払ってくれそう?
あれ? 俺達見学でいいのでは?
「ところでこの船、ゴーストシップ――海竜王に沈められた船って見えるんだけど、海に詳しそうなチビカメはコイツに心当たりはない?」
「カメェ?」
アベルの言葉に砂浜の上のカメ君がすっとぼけたように長い首をピヨンと傾げる。
「ふむ、運悪く海の主の活動に巻き込まれて沈んだ船の怨念といったところか。といっても妖精の地図が創り出した仮初めの存在ではあるが。しかも一つだけではなく複数のゴーストシップの集合体のようだな。かつて南の海の辺りを縄張りにしていた海の主は暴れ者で、その活動に巻き込まれた船も少なくないと噂で聞いたことがあるが、何かの縁でもあって妖精の地図の中にその者達の船が再現されたか」
「カメェ?」
ラトの言葉に今度は反対側にピヨン。
海の主そして海竜王といったらやはり……海の古代竜クーランマランのことだろう。
鮫顔君はでっかかったなー。俺は鮫顔君やカメ君がクーランマランとどういう関係かは詳しくは知らないけれど、やっぱあの大きさだったら泳いでいる時にうっかり航行中の船を巻き込んだりすることもあったのかなぁ~?
いやぁ~、俺はカメ君とクーランマランの関係はよく知らないけれど、そこのとこどうなの?
船の感じからして大昔のことだろうし、カメ君に聞いても仕方がないことかぁ~!
というか、海で遊ぶ時は周囲に気を付けてくれると小さな人間的には嬉しいかな?
頼むぞ、カメ君!! 鮫顔君によろしく伝えてくれ!!
「なぁにが、偉大な俺様は細かいことは気にしないカメ~だよ。ほら、あの船なんかチビカメを狙ってるよ。あそこを見てよ、バリスタや遠距離魔導兵器が設置されているよ」
アベルが指差した先を見ると、海を行く大型船にはよく見られる対魔物用の大型バリスタや、魔力を砲弾状にして発射する魔導砲が設置されているのが見えた。
その向きは確かにカメ君の方に向いているようにも見える。
「カァ?」
カメ君が鼻でわらいつつゴーストシップをおちょくるようにぴろぴろと尻尾を振った。
ドドドドドドドドドッ!!
その直後、ゴーストシップの船上のバリスタや魔導砲からカメ君に向かって大型の矢や魔力砲弾が撃ち出された。
「カッカッカッ!!」
カメ君は小馬鹿にしたような声を上げながら、カメとは思えない身軽さで砂浜を駈けて幽霊船の攻撃を避けている。
てか、あの幽霊船はこちらから攻撃できないくせに向こうからは攻撃できるのはズルくないか!?
幽霊船の攻撃がカメ君に向いているうちは適当に捌いてくれそうだが、こっちに飛んでくるのは勘弁してほしいな。
それに砲撃による範囲攻撃とゾンビの大群による物量攻撃が同時にくると面倒くさそうだ。
「こちらの攻撃が届かないのに、あちらからは攻撃ができるのはズルいですわね」
「中に入ってパパパッとこの船の核を壊しちゃう?」
「えー、でも中はゾンビがたくさんいそうですよぉ」
確かに砲台に一方的に攻撃されるのは辛いしズルい。
船の核を壊せばコイツを倒せるのならサックリとそうするのがいいのだろうが、この汚い船の中に俺の力作の可愛い水着を着た三姉妹を行かせたくない。
しかし外からの攻撃は船に効かないみたいだから、砲台を壊すには中に乗り込まないとダメそうだし、船を倒すのも三姉妹の言う通り内部に入り込むしかなさそうだな
カメ君はコイツをどうやって倒すつもりだったのだろうか。
深い海の底ならカメ君の本気でプチッとするつもりだったのかな?
陸上で本気を出されると俺達のいる島ごと崩壊しかねないな!?
「カメェ?」
船からの攻撃をヒョイヒョイと避けながらこちらを向いて可愛く首を傾げても、陸上で本気を出すのはやめた方がいいと思うんだ。
とりあえずカメ君が船からの遠距離攻撃を引きつけてくれているうちに、この船の攻略方法を考えよう。
「中にいるゾンビどもはおそらく無限に湧いてくるものだと思うが、同時に生み出す数にも速度にも限界があるだろうから、外に出てきているうちは内部は手薄になるはずだ」
「ああ、船底近くに空いている穴から中に入れそうだし、二手に分かれてやるのがよさそうだね」
アベルが指差した先には、俺達が余裕で通ることのできる大きさの穴が船体に空いており、船が砂浜に乗り上げているせいで少し海の中を歩けばそこから中に入ることができそうだ。
「そういうことなら、俺とアベルとグランそれからカメッ子の組と主様達組かな。妖精ッ子達は鳥と花だから外しかないな。じゃあ、俺達と主様達どっちが中に行く? 俺達、武器はあっても水着なんだよなぁ」
「ふむ、確かにこういう場だと私は三姉妹から離れるわけにいかないから、その分け方が最適解だな」
俺が発言する前にサクサクとチーム分けまで決まってしまったぞ。
「はいはいはいはーい! 中にいきたーい! 俺達、防具がないから砲撃をくらうとやべーから、だったら中でゾンビを相手にしてる方がいいかなって?」
あんな汚い船に三姉妹達を行かせたくないし、シャモア姿のラトは大きさ的に船内では動きが制限されて辛そうだと思い挙手。
それに船の中には財宝があるかもしれない。
なんつったって、沈没船の財宝が欲しいと時鷹の羽にお祈りしたら釣れた船だ。
ある、きっとある!! 金銀財宝がザックザクあるはずだ!!
「え? 俺達の方が中に行くの? あ、でもこの恰好で上から色々攻撃されるくらいなら、靴とマントを着けて中でゾンビの相手をする方がいいのか」
「言われてみたら上から色々降ってくるより中の方がいいかなぁ。でも俺は一応魔法が使えるから無理にゾンビに近付かなくていいけど、グランはどうすんだ? 船内だと弓は使えねーだろ? 返り血ドロドロになる?」
「うげ、確かにそうだな。いや、俺には秘密兵器もあるぞ! よし、行こう! 俺達が中に行こう!」
確かにゾンビの返り血は嫌だが、対ゾンビなら秘密兵器がある。
「ふむ、内部にはそう強い敵もいないようだし、カメが外にいると船の攻撃が激しくなりそうだしそれでいいだろう。では内部はグラン達に任せて、我々はゾンビを外に引きつけておこうか」
よっしゃー、任された!
沈没船で財宝ザックザク係は任されたぞーーーー!!
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明日と明後日の更新はお休みさせて頂きます。土曜日再開予定です。




