カメ君VS謎のモコモコ
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「カーーーーーーーーーッ!!」
モサッ!!
カメ君が突然大きな声を出したので、ちょっと変わったスター・トレント君がビクリと揺れた。
「カッ! カカカカッ! カッ、カーーーーーッ!」
そのスター・トレント君に向かってカメ君が、後ろ足で立ち上がって前足をバタバタと振りながら何やら捲し立てている。
レモネードを飲んでしまったことを注意してくれているのかな?
カメ語がトレントに伝わるかわからないけれど、ありがとうカメ君。
「飲んじゃったものは仕方ないな。俺達は飯にするからお前はあっちでのんびりしておいで」
近くにいられるとまたシュッと飲食物をかすめ取られるかもしれないし、魔法の粉は植物には危険なのであっちへいくようにぐいぐいとトレントの幹を押した。
それにしてもやっぱり少し変わった形のスター・トレントだな。
スター・トレントの形状はよくある広葉樹状で、ある程度成長した個体なら枝は高い位置から生え、その先に葉が茂っている。
なのにこいつは根の付け根辺りで枝分かれしているのか、地面に近い位置にもっそりとした葉っぱの塊が張り付いている。
そのせいで遠くから見ると大小二匹のスター・トレントがくっ付いているように見える。
二匹じゃないよな? 見る限りピッタリくっ付いて一匹みたいだし、二匹だったら一匹多いことになるし、一匹だよな?
確かめてみようと思いモサモサ部分に手を伸ばしたらスイッと動いて避けられたが、相変わらず魔法の粉が気になるようで俺から離れようとはしない。
ほらー、ご飯にするからあっちにいってくれよー。お前が俺のレモネードを飲んだから、また作らないといけないんだよぉ。
「カッ!!」
なかなか俺の傍から離れないスター・トレントを追い払おうとしていると、カメ君がピューッと水鉄砲を放った。
ゲッ! 結構勢いのある水鉄砲だけど大丈夫!?
コロン。
カメ君の水鉄砲が、スター・トレント君の根元にある緑のモサモサに当たり、スター・トレント君がコロンと後ろにこけた。
「だ、大丈夫!?」
スター・トレント自体があまり大きくないトレントなので、カメ君の水鉄砲の勢いに耐えられなかったようだ。
こらぁ、他所様の家のトレントに水鉄砲はダメだよ。
「ケッ!」
カメ君は何かが気に入らなかったらしく、プイッとそっぽを向いてしまった。
ポロッ。
「エッ!?」
コロンと後ろに倒れてしまったスター・トレントを起こそうと覗き込んだら、根元付近の小さい緑の塊が枝の付け根からポロリと外れて地面に転がった。
マッ!?
他所様のトレントの枝を折っちゃったかも!!
「だだだだ、大丈夫? 痛くない?」
植物系の魔物なので枝が少し折れたくらいは平気なはずだが、やはり他所様の家畜なので心配だ。
モゾッ。
「フォッ!?」
スター・トレント君からポロリと落ちた緑の固まりが突然もぞもぞと動きだし、びっくりして変な声が出た。
あれ? トレントって本体から離れた枝って動くもんだっけ?
蔓系の植物魔物は蔓部分を切り落としても動く奴が多いが、トレント系の切り落とした枝は動かない印象がある。
本体から取れてしまった小さな緑の塊がもごもごしているのに気を取られていると、本体の方はバッと起き上がりガサガサと音をさせながら仲間のトレントのいる方へと走っていった。
その根の付近には枝が折れたような跡はない。あれ?
ガサッ!
本体が走り去って取り残された小さな緑の塊はまだゴソゴソと動いている。
こいつもしかして……。
「カーッ!! カーッ!!」
もぞもぞと動くちっこい緑の塊を、カメ君が威嚇するようにしきりに声を出している。
スター・トレントの一部だと思っていたが、もしかして別の生き物かっ!
くそぉ、植物系の生き物は気配がわかりづらいんだよぉ!!
スター・トレントの一部かと思っていたが、どうやら別の植物系の生き物が張り付いていたらしい。
カメ君がしきりに威嚇しているということは敵性か? いや、それならすでに攻撃しているよな?
それに、レモネードを取ったのはスター・トレント君ではなくこいつのようだが、俺から見てもあまり敵意のようなものは感じない。
しかし正体がわからない。
大きさは俺の両手くらいだろうか。スター・トレントと同じ広葉樹系の葉っぱの塊に見えるが、よく見るとスター・トレントのそれとは形が違う。
あ、わかりにくいけれど、葉っぱの隙間から木の幹でできた小さな前足と後ろ足が生えているぞ。
よく見ると少し首の長い頭と短い尻尾もあるな。カップに突っ込んでいた枝は頭の部分だな。
パッと見の印象は葉っぱでできたモコモコネズミ系といった感じだろうか。葉っぱがモコモコしているせいですごくずんぐりした緑のネズミに見える。
スター・トレントに擬態をしていたのが別の生き物とバレて気まずいのか、緑の葉っぱからピョコっと生えている短い尻尾がピコピコ揺れている。その先端はブロッコリーのような緑の塊になっていて無駄に可愛い。
いやいや、可愛くても木場に謎の生き物が紛れ込んでいるのはまずいな。森に棲む魔物か妖精か?
あまり害はなさそうだし、駆除をせずに森に帰してしまおう。
「モコモコちゃんごめんな、ここは人間のトレント木場だから森の生き物が紛れ込んでいるとまずいんだ。さ、森へお帰り」
「ケッ!」
俺がチョンチョンと指先で緑のモコモコをつついて森へ帰るように促すと、カメ君が追い立てるように水鉄砲の構えを取った。
カメ君はこの謎の植物の何かが気に入らないようだ。でもカメ君の水鉄砲は結構痛いから、手加減をしてあげるんだよ。
ビッ!!
「フォァッ!?」
水鉄砲の構えをしているカメ君に向かってモコモコちゃんから茶色い木の実のようなものが発射され、それがカメ君の頭に当たってカメ君がコテンと尻もちをついた。
モコモコちゃんなかなかやるな?
「カーーーーーーッ!!」
木の実をぶつけられたカメ君はすぐに起き上がり、大変ご立腹で今にも飛びかかりそうである。
小さい生き物同士の可愛い争いなので思わず顔が緩んでしまうのだが、ケンカになりそうならどちらも怪我をしたらいけないから止めないとな。
バサッ!
今にも飛びかかりそうなカメ君に向かって、モコモコちゃんが短い後ろ足で立ち上がり短い前足をバッと上に上げた。
葉っぱを身に纏った丸っこい体型のネズミのようなモコモコちゃんが後ろ足で立ち上がり、体を大きく見せようとしているようで悶絶するくらい可愛い。
「カッ!? カカカ……カーッ!!」
そのモコモコちゃんの行動を見たカメ君も、対抗するように同じように後ろ足で立ち上がり両前足を上に上げるポーズ。
長い首をビヨーンと伸ばして、ヒラヒラの尻尾はこれでもかってくらいブワッと広がっている。
そしてそのまま二匹で静止して睨み合っている。
何これ、すごく可愛いんだけど!?
殴り合いをしないで体型で優劣を決めているのかな?
ん? ちょっと魔力を感じるので魔力比べをしているのかな? カメ君、あまり本気を出さないでね?
モコモコちゃんの方からは風の魔力を感じるな。
って、モコモコちゃんは思ったより強い生き物なのか。周囲の空気がその魔力に反応して、サワサワと風が森の木々を揺らし始めた。
そしてカメ君も頑張っているので空気がしっとりと湿り気を帯びてきて、まるで雨の前の空気みたいになっている。
このままだと彼らの魔力に影響されて雨が降りだしてしまいそうだ。
「はいはい、休憩時間が短くなるからその辺にしておこうな。ほら、モコモコちゃんも木場のトレントじゃないなら、ちょっとくらいつまみ食いして帰ってもいいから。カメ君も俺のサンドイッチをあげるから機嫌をなおして」
モコモコちゃんが思ったより魔力を出しているので、カメ君の水の魔力と合わさって雨が降り始めるとかなわないので止めに入った。
木場の生き物じゃないなら、少しくらい食べ物をやってもいいよな。それで大人しく帰ってくれるなら。
促すとカメ君もモコモコちゃんも俺の顔をチラリと見た後、お互い顔を見合わせて頷き合って素直に魔力比べをやめてくれた。
そして――。
バサッ!
モコモコちゃんが前足を下ろした後少しバサバサと体を揺らすと、カメ君の上にバラバラと森で見かける果物が落ちて来た。
「カカッ!!」
それに応えるようにカメ君がまだブワッとなっている尻尾をクルクルと回すように振ると、モコモコちゃんの上にバラバラと巻き貝が落ちて来た。
お互い自分の上に落ちてきたものを拾って、せっせとしまっている。カメ君はリュックの中に、モコモコちゃんは体を覆う木の葉の中に。
何だこれ、仲直りか?
それで納得したのか、二匹がちょこんと地面に並んで座った。
なんかちょっと見知らぬモコモコが増えてしまったけれど、害はなさそうだし後で森に帰せばいいか。
とりあえず、腹も減ってきたし飯だ飯っ!!
「この粉は植物には危ない粉だからダーメ。可愛く首を傾げてもダーメ。塩ではないけど塩の親戚みたいなものかなぁ。昼間に雷属性のスライムに塩水をあげると白い結晶を吐き出す時があるんだ、それを砕いたのがこの粉。でもこの作り方だとスライムがやっばい強酸スライムになるし、毒ガスを出す奴だし安全に作るのも難しい危ない粉だから詳しいことは秘密! 俺のスキルならもう少し安全に作る方法もあるけど、それでもやべー酸の液体ができるから、やっぱ危ない粉なの! でも料理や掃除にも使えて便利だから、安全に作る方法を見つけたいなぁ。それに雷属性のスライムじゃ色々な可能性を秘めてそうだから試したいことがたくさんあるんだよなぁ。でも雷属性のスライムを作るのは雷の魔石がたくさん必要だから金もかかるし、バチバチビリビリするから管理も難しいんだよなぁ」
おっと、ついオタク気質に火がついて自分の試したことを早口で話してしまった。
まぁ、どうせカメ君と毛玉ちゃんとモコモコちゃんだけだし、実質俺の独り言だな。
正体不明の緑のモコモコちゃんはシュワシュワレモネードがお気に入りのよう。
いや、どちらかというとレモネードがシュワシュワになる粉が気になっているのかもしれない。
全員分のレモネードを作った後、白い粉をしまおうとしたらしきりにそれを気にして、背中のモコモコした葉っぱの中からシュルシュルと蔦のように枝を伸ばしてきた。
植物でできたネズミのようだが、不思議な生き物だな?
収納にしまおうとしたらものすごくションボリされたので、見るだけならと魔法の粉の入った瓶を弁当の横に置いている。
モコモコちゃんはレモネードを飲んだ後は、食べ物よりその白い粉に夢中だ。今は大人しく観察をしているだけだが、目を離すと持って行かれそうだな。
魔法の粉こと重曹。俺が試して成功した作り方では製造過程で危険な物質ができてしまうし、この粉自体も使い方によっては安全とはいえない薬品である。
便利であるけれど、世に出すには躊躇しているものである。
その魔法の粉にモコモコちゃんが興味津々だが、ダメー! これはダメー!!
可愛く見上げてもダメー!
え? 何? 木の葉っぱ? 太古の樹の葉?
何それ? もしかしてすごく珍しい葉っぱ? くれるの? 魔法の粉と交換てか?
ぐぬぬぬぬぬぬ……明らかに珍しい素材を目の前でヒラヒラさせやがって。ぐ……更に枚数追加する気か!?
ぬぬぬ……古代の樹の実? それもつけてくれるの?
く……、仕方ないな……この粉は便利な粉だけれど、そのまま植物にかけたらダメだからね。
カメ君のため息が聞こえた気がするけれど、珍しい素材をちらつかされたのだから仕方ない。
作り方もさっき言った通りで作れるけれど、やっばいやっばい毒ガスと強酸塊のスライムができちゃうからね。
毒ガスは人間が死ぬくらいやべーやつだし、酸のスライムは色々なものを溶かしちゃうからね。
とりあえずこの瓶に入っているのはあげるけれど、気を付けて使うんだよ。
レモン果汁と混ぜるとシュワシュワするから、シュワシュワする飲み物ならレモン水に入れるといいよ。
そのまま食べ過ぎたらダメだし、もし自分で作るなら気を付けるんだよ。どうしてもって時は俺が作ってあげてもいいからね。
と結局、見たことのない葉っぱと木の実に釣られて魔法の粉をモコモコちゃんにあげてしまった。
まぁ量は少ないし大丈夫か。
モコモコちゃんはそれで納得してくれたのか、昼休憩が終わるくらいにピョーンと跳ねるように森へ帰っていった。
くそぉ、モコモコちゃんは交渉上手だなぁ……、珍しい素材をありがとう。
お読みいただき、ありがとうございました。




