イケオジAランク冒険者
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木場にやって来た長髪イケオジ冒険者は、ソートレル子爵領の領都ソーリスの冒険者ギルドに所属するAランク冒険者で、名はヴォルフというそうだ。
バルダーナより年上らしいがむさ苦しいバルダーナより若々しく見えるさわやかイケオジである。バルダーナとは旧知の仲で、時々ピエモンを訪れて残っている依頼を引き受けているらしい。
いい人だなー。すみませんね、俺がAランクなのに仕事選り好みしまくっているせいで、ランクの高い仕事もちょいちょい残っていますよね。
そしてこのイケオジ、予想通り強い。
プレート系の装備にロングソードと盾という風貌から、俺と同じレンジ弱者かと思いきや、剣と魔法を併用する魔法剣士!! しかも光属性が得意な模様!!
身体強化系のスキルかな? なんだかキラキラ金色の粉みたいな光が体の周りを舞っているし、その金色の光がロングソードにも絡みつき剣を振るう度にそれが尾を引いていて超かっこいい。
ロングソードも結構高そうでかっこいいやつだしいいなぁ……ん? 何だナナシ? なんか文句あっか?
剣で処理できる範囲の敵は剣で処理しているけれど、遠くの相手にはショートソード程の光の剣を飛ばして仕留めているのが見える。
しかもその光の剣を、脱走しようとしているスター・トレントの進行方向の地面に刺して足止めしていて、俺みたいに走り回ることなくトレント達の脱走を防いでいる。
何それ、かっこいいし、便利だし、強いしメチャクチャ勇者っぽいんだけど!?
べべべべべべ、別に羨ましくなんかないんだからね!!
ヴォルフさんはここの農場主と知り合いということで、毎年この時期に用事でピエモンに来るついでに改修工事の様子見に来ているとのことで、この木場での作業には慣れているらしい。
大人のコリベロス達もヴォルフさんのことは知っているらしく、トレント達を見張っている合間に尻尾をパタパタさせながらヴォルフさんにかけよっていっている。
羨ましいな。俺も毎年来ていたらコリベロス達に懐かれるかな?
そんなヴォルフさんの動きを参考にしようと思って観察していたのだが、俺とはタイプが違いすぎてこれは参考にならない。
くそぉ、やっぱ魔法剣士ってかっこいいなぁ! 俺も魔法が使えたら魔法剣士になりたかったんだよ! そうだよ、絵に描いたような勇者になりたかった頃が俺にもあったんだよ!
いいなー、近くの敵は剣でスパーッとして、遠くの敵は魔法でビシーッ! しかも光属性、すごくヒーローっぽい!! いいなー、いいなー、いいなー!!
ヴォルフさんの戦闘スタイルは参考にならなかったが、食事をしながら少し離れた場所で放木場全体を見ていたので、トレント達の動きの癖やトレントを纏めるコリベロス達の動きを客観的に見ることができた。
俺が思っているよりもコリベロス達はよく動いており、トレントが森に行きそうに見えてもその一歩手前できっちりと連れ戻している。
トレントは基本的にコリベロスを信用して任せ、コリベロスだけでは足りていない時だけトレントの対処に当たり、それ以外は自分は周囲の魔物を警戒することに専念でよさそうな感じだった。
やはりトレントの動きを見てから対応をする後手後手の立ち回りになると、気付かないうちに視野が狭くなるから気を付けないといけないな。
「すみません、すごく助かりました」
「グエエ~」
ヴォルフさんが木場を見ていてくれたおかげで昼飯を落ち着いて食べることができた。
同時にヴォルフさんの動きを見て気付いた点も多かったので、午後からはそれを活かして効率を上げていける気がする。
食べ終わって空になった弁当箱を収納に戻し、ヴォルフさんのとこまで行ってお礼を言うと、付いてきた一号も前足をパタパタさせながら首を上下に振って鳴いた。
これはこいつなりの礼の仕草なのだろうか。やっぱりうちのワンダーラプターは賢くて可愛いな。
「もういいのか? ちょうど楽しくなってきたところだから、もう少しゆっくりしていてもいいのだぞ?」
そう言われるとその言葉に甘えたくなるのだが、そのまま飯の後ダラダラしていると眠くなるし、ヴォルフさんには連れもいるようだし、そろそろ俺が現場に戻る方が無難である。
「いや、大丈夫っす。お連れさんを待たせてるみたいですし、俺も十分休ませてもらったので戻れますよ」
「ふむ、気付いていたか。トレントやケルベロスに慣れてない奴らだから、離れた場所に置いてきたのだが流石だな」
イケオジヴォルフさんがニヤリと口の端を上げた。
少し離れた場所で、何をするわけでもなく静かに待機しているような感じの気配が二つ。
とくに気配を消しているわけでもないので、日頃から周囲の気配を拾うことに慣れていたら気付かないわけがない。
「ええ、とくに気配を消しているわけでもなさそうですし? あ、昼休憩の間見てもらったお礼です、よかったらお仲間さんと一緒に昼ご飯の足しにでもしてください」
アベルやカリュオンが急に腹が減ったと言いだしても対応できるように、収納の中に入れていた手で持って食べられるサイズで焼いたベーコンポテトパイの包みを三つヴォルフさんに渡した。
焼いて粗熱を取ってから収納につっこんだものだが、まだまだホカホカで食べ頃である。
手伝ってもらったお礼はちゃんとしておかないとな。冒険者同士の偶然の出会いでできた縁は大事にしておけば、またいつかどこかで再会した時にお互いそれに助けられることもある。
「む、他人の昼飯風景を見ていて小腹も減ってきたところだからありがたく頂こう。グラン君といったな、いずれ機会があればまた会おう。では!」
「ええ、またどこかで会えたら!」
握手を交しヴォルフさんに別れの挨拶をする。その背が木場から遠ざかるのを見送った。その先で、お仲間二人と合流したのが遠目に見えた。
遠目だがお仲間もプレート混じりの防具と長剣か……すごく脳筋パーティーだな。
まぁ、この辺りでリーダーがAランクなら脳筋パーティーでも火力過剰だよなぁ。もしかしてここに来ていないだけで他にもメンバーがいるのかもしれない。
とてもお優しいイケオジだったのでまたどこかで会えるといいな。
そしてこの後は木場の護衛を再開。
ヴォルフさんを見習って、無駄にトレントを追いかけ回さず、コリベロス達を信じて魔物の気配に集中することにしたら随分楽になった。
何だよ、一号。お前のこともちゃんと信用しているから。
明日は二号と三号も連れて来ると、俺はもう魔物の相手をするだけでよくなりそうだな。
へへ、近くに生えている植物素材を集める余裕も出てきそうだ。
夕方が近づくと仮の木場にいたトレント達を、トレント小屋へと誘導して今日の仕事は終わり。
おっと、農場主さんに今日の仕事完了のサインを貰わなくちゃ。
それと今日一日一緒に仕事をしたコリベロス達をナデナデするのも忘れずに……アーッ、やっぱ一日だけじゃ友好足りない? まだ触らせてくれない?
撫でようと思って手をだしたらスススッと逃げられてしまった。チビッコまで逃げるなんてソンナァー……仕事は一緒にやってもナデナデは許してくれないてか?
いいだろう、最終日までには絶対に仲良くなってやるぞ!!
コリベロスは名残惜しいが暗くなると魔物と遭遇しやすくなって面倒くさいし、夕食の支度もしないといけないので、今日のところはナデナデは諦めて撤退。
森に沿って夕日の方角へと一号に乗って走る。
あれ?
初夏のやや冷たい夕方の空気の中、一号を気持ち良く走らせているとその気配に気付いた。
一号もその気配に気付いたのか、森の茂みの切れ目で足を止めた。
そしてすぐに気配の主が見えた。
茂みの奥から周囲の木々を揺らしながらこちらに向かって来る白い影。
それにくっ付くように気配が三つ。
「あらら~、やっぱりグランで間違ってませんでしたわ」
「今日は冒険者の仕事って言ってたけど、この辺りで仕事をしてたのね」
「向こうから来たってことは、あっちの農場さんでお仕事だったんですかぁ?」
「ふむ、野生を忘れたトレントとケルベロスのにおいがするな」
姿を見せたのは大きなシャモアとその背に乗った幼女三人――ラトと三姉妹だった。
「ああ、今日から五日間あそこの農場で仕事さ。ラト達も森の見回りかい?」
「ああ、今日は重要な仕事があって少し遅くなってしまった」
シャモアの姿で喋るラトは見慣れないので少しシュールに思えてしまう。
「仕事?」
「わたくし達も森の管理者としての仕事をしてますの」
「そうよ、私達がいるから森が平和なのよ。感謝しなさい」
「今日はお土産もありますよぉ」
「そうだな、土産はグランになんとかしてもらおう」
森の番人の仕事をして土産か。
森の民に何かお供え物でも貰ったのだろうか。
「土産って食い物か? 食い物なら今夜のおかずになるかな? とりあえず帰って飯にするかー」
ラトや三姉妹と他愛のない話をしながら、赤く染まった空の方へと進む。
振り返れば赤味のある西日に照らされる地面に、俺達の長い影。
たまにはこういう珍しい組み合わせの帰り道も新鮮でいいな。
お読みいただき、ありがとうございました。




