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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第八章

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謎の助っ人?

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「うおおおおい、そっちに行くなよー! 脱走ダメ! 絶対ダメ! あ、そっちのてめぇ、こっそり森に行こうとしてんじゃねーぞ!!」

「グエエエ! グエエエ!!」

「おう、一号もがんばってくれ!! あっちはワンちゃん達が連れ戻してくれてるな。え? 穴に嵌まってひっくり返って動けなくなってる奴がいるぞ!! 今助けてやるからちょっと待ってろ!!」


 いつもと違う仮の放木場が落ち着かないのか、それともすぐ近くに森が見えるせいか、スター・トレント達は落ち着かない様子だ。

 そして木のたくさんあるとこに紛れ込んで棲息するトレントの本能なのだろうか、ちょいちょい木場から森へと脱走しようとする奴がいてそいつらを連れ戻すために広い木場を駆けずり回っている。

 仮の木場のため柵の高さも低く、油断すれば森に脱走されてしまう。森の中に入られると探し出すのが大変そうなので、未然に防がなければならない。

 そして仮の木場のくせにめちゃくちゃ広い。その中でトレント達が自由気ままに過ごしていて、時々思いだしたかのようにフラフラと脱走を試みる。

 一匹動けば連鎖するように他の奴も動きだし、それに対応するために俺も走り回らなければならない。

 そして森に近付くトレントがいれば、木場の周囲に潜んでいるトレント狙いの魔物達がここぞとばかりに寄ってくるので、その対処もしなければならない。

 しかも時々鈍くさい奴がいて、段差でこけたり小さな穴に嵌まって動けなくなったり。

 なかなか可愛いのだが、放置するわけにもいかないので対応に追われまくっている。


「ヒッ……これは確かに三人くらいで丁度良さそうな仕事だな……ヒィ……」

 バルダーナの言葉を信じて、Aランクの俺なら一人でも大丈夫だと余裕をこいていたが、これは思ったよりもしんどい。

 バルダーナめぇ……今日の仕事で今朝の時点で人が決まっていなかったみたいだし、この仕事ができそうな人員を三人見つけるのがめんどくさくて俺一人で行かせたな。

 

「グエエエ!!」

 走るのが得意な一号はわりと楽しそうにトレントを追いかけまわしている。

 チクショウ! 明日はワンダーラプターフル出勤で楽してやるぞ!!


 ワンちゃん達はさすがにトレントを追い立てるのは慣れているので、徘徊するトレントを俺達よりずっと手際よく追い立てて脱走を防いでいる。

 コリベロス君達可愛い上に優秀だなぁ。

 チビッコリベロスもがんばっているな。トレント達もチビッコにはあまいのか、フラフラと森の方へ行こうとしているトレントもチビッコが追いかけていくと、しょうがないなぁって空気を出しながら一緒に戻って来ている。


 あ~~和む~~~って、そこのテメェ、こっそり脱走しようとしてんじゃねーぞ!!

 うおおおおおお、トレントのくせに無駄に足が速ええええええ!! もっと植物の自覚を持てよおおおおおお!!!

 ギエエエエ! このタイミングでグレートボアが柵の方に走ってきているぞおおおお!!

 やめろ、どう見てもショボイ仮の柵だから、でかいイノシシのタックルなんか食らったらぶち壊れるだろおおお!!

 あ、あそこに積んである材木ってもしかして柵補強用? 壊れたら直しとけってか? そういう作業はわりと好きだけれど、それをやっている間にまた別のとこを壊されそうだな。

 というわけでグレートボア君が柵を壊す前に弓をピューッとしておしまい。


 ヒィ、思ったより忙しいな。今日はがっつり仕事をする気だったので弁当を用意していたのだが、ゆっくり食っている時間はあるのだろうか。

 まぁ、俺が休んでいる間は一号にがんばってもらおう。めんどくさそうな顔をしてもダメだ、肉をやるからがんばって働け。

 どわああああ~~!! あっちでトレントが纏まって森へ向かってるうう~~~~!!

 思ったよりも忙しいなチクショウ!!






「ふいいいー、だんだん慣れてきたけどやっぱ範囲が広くてしんどいな。あ、そこのお前ー、さっきも逃げようとした奴だなー? さすがにそろそろ見分けがつくようになったぞぉ、はいはい戻った戻った」

 昼も近付きそろそろ腹も減ってきた頃、フラフラと森へ行こうとするスター・トレントを追い回す作業にも随分慣れて、だんだん先読みをして行動できるようになっていた。

 はっはっは、俺は有能なAランク冒険者なのだ。慣れてしまえばどうということはない。

 ずっと走り回っている気はするが、体力のある冒険者の俺には丁度良い運動のようなものだ。それに明日からはワンダーラプターを三匹にする予定なのでもっと楽になるはずだ。

 ちょいちょい木場に近寄ってくる魔物は狩ってお持ち帰りできるし、結構美味しい仕事である。

 毎年この時期に木場の柵の改修工事をしているという話で、それに合わせてこの仕事をピエモンの冒険者ギルドに依頼しているらしい。

 コリベロス君達は可愛いし、来年もこの仕事を受けようかなぁ。ん、もしかしてこれはバルダーナの策略か!?

 おっと、そんなことを考えていたら茂みの中に魔物の気配がするな。これはシカ系だな。よぉし、君はシカソーセージになってもらおう、ズラトルクの弓ピューッ!!


「おーおー、やってるなー」

 茂みに潜んでいたソーセージ君……じゃなくてシカ君を仕留めそれを回収して戻って来ると、木場の持ち主の屋敷がある方から冒険者風の男が歩いて来ているのが見えた。

 少し離れたところにも人の気配が二つあるが姿は見えないな。この男の仲間だろうか?


 こちらに向かって来ているのは俺と同じくらいの背丈に同じような体型の男。年の頃はバルダーナと同じくらいに見えるが、むっさいバルダーナとは違いシュッとしたイケオジ風である。

 長い茶髪を後ろで一つに束ね、肩と胸、腰と足といった急所部分は使い込まれた金属プレートの防具、そして背中には小型のカイトシールドを背負い、腰にロングソードをさげており、いかにも熟練の冒険者という雰囲気だ。


 気配を控えめにして近付いてきているが、逆にそのせいでなんとなくわかる――この男、相当強い。

 冒険者なら間違いなくAランククラス、それもドリーレベルかそれ以上かもしれない。

 実際、声が聞こえる直前までこの男の気配には気付かなかった。いや、この男より離れた場所にいる、この男の連れらしき二つの気配の方に先に気付いたくらいだ。


「どうも~。えぇと……?」

 冒険者っぽいけれど誰だろう。なんと返事をするべきか悩んで言葉が詰まってしまった。

 広い木場に俺一人はきついと思ってバルダーナが寄こしたのか? いや、ピエモンにこんな強そうな冒険者はいないよな?

 それにCランクの依頼にAランクの冒険者二人は、ギルドの利益がほとんどなくなりそうだ。しかも連れが二人いる三人パーティーみたいだし。


「ああ、ここの農場主とは知り合いでな、毎年この時期にこちらの方で用事があるので様子を見に来ただけだ。ふむぅ、ピエモンの冒険者ギルドに立ち寄った時に、バルダーナが人がいなくてAランクの冒険者一人に任せたと言っていたので、手が足りてないのなら手伝うつもりで来たが上手く立ち回っているようだな」

 バルダーナめぇ、やっぱ人が足りなくて俺一人に押しつけやがったのか。

 まぁ、俺も報酬独り占めできるからそれでいいけれど。

 この強そうなイケオジはここの農場主の知り合いか。話の感じからしてバルダーナとも知り合いっぽいな。


「ああ、最初は後手後手だったが慣れてきたらなんとか。明日からはワンダーラプターの数を増やすからもっと楽になるかな?」

「そうかそうか。若いのになかなか器用で機転も利くようだし、手助けは必要なさそうだな。それとも昼休憩をするならその間だけ見ておいてやろうか?」

 明日からは二号と三号も連れてくるので余裕を持って昼休憩を取れそうだが、今日は一号と俺だけなので飯を食っている途中でトレントを追い回しに行かなければならない事態もありそうだし、この申し出は非常にありがたい。


「そういうことならお願いしようかな。ちょっとパパパッと飯を食ってきます!!」

「おう、ゆっくり食ってきていいぞ。昼休憩中の俺の報酬はギルドに請求するから気にせずゆっくり休め。俺はここの木場には慣れているから、ワンダーラプターも今のうちに休ませてやれ」

 午前中だけで予想外に走り回ることになって体力を使ったので、昼休憩時に他の冒険者に代わってもらってその分報酬が減ったとしてもゆっくり飯が食える方がいい。

 走るのが得意な一号も随分走り回っているからな、午後も走り回ってもらうためにしっかり休憩させてやろう。


「じゃあちょっと飯を食ってきます!! 一号飯にするぞー!!」

「グエエエエエ!!」


 木場を走り回る一号を呼ぶと、機嫌良さそうな返事と共に小さな前足をパタパタさせながらこちらに走ってきた。

 よしよし、ゆっくり休憩して午後からもがんばろうな。





お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして、もしかして♪ 何となく、毎年、仕事を受けた人がものすごく大変で、リピーターになってくれないんだな、この依頼 と、おもってしまった 明日からは全員動員で大騒ぎ~(/…
[良い点] すっごい面倒なタイプのタワーディフェンスゲームみたいな状況になっててワロタ。見てる分には微笑ましいけどこりゃ大変だ。 [一言] まさかこの流れでまともな(?)冒険者っぽい人との出会いが待っ…
[一言] コリベロスに目が行ってるのをわかってか前足ぱたぱたさせて可愛さアピールしてる1号あざとい。可愛い。
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