ぱぱっと稼ぎたい
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タルバと物々交換で手に入れた宝石や、作ったエクストラポーションを売りに行きたいのだが、アベルはなんだか忙しそうなので転移魔法で送迎を頼むのは申し訳ない。
アベル達は王都方面で仕事しているようなので、アベルが仕事に行く時に連れて行ってもらえばいいのだが、先日王都でえらい目にあったばかりなのでなんとなく王都には近寄りたくない気分だ。
かといってピエモンは田舎すぎて、王都ほどではなくてもオルタ・クルイローに匹敵するほどの町は、うちから日帰りで行ける範囲にはない。
ピエモンのあるソートレル子爵領の領都ソーリスまで日帰りで行けるが、田舎の少し大きい町といった感じで少し物足りない。
効果の高いポーションや高級な宝石を売りに行くなら、オルタ・クルイローやフォールカルテくらいの規模の町に行きたい。
そう思うとアベルの転移魔法はやはり便利すぎるチート魔法である。
俺だって勇者なら転移魔法くらい使えてもいいのに。おかしい、どうして俺は転移魔法が使えないんだ。
などとないものねだりをしても仕方ないので、自力で遠くの町まで行くか、アベルについて王都に行って売ることにしよう。あまり行かない町にふらりと行ってみるのもいいな。
ソーリスから北上してユーラティアの北東部に行ってもいいなぁ。あの辺りはあまり行ったことがなくて、その更に北となると全く行ったことがない。
ドリーのパーティーであちこち行ったけれど、あっちの方には何故か行かなかったというか、俺が誘われた時はその辺りに行くことはなかったんだよな。
ユーラティアの北東部には確か公爵家――王家と血縁のある大貴族の領地があった気がする。
冬は雪に閉ざされるが、夏は涼しく過ごしやすいため金持ち貴族の避暑地もある地域だ。山間部は一年を通して雪が積もっていると聞いている。
いいな、今はまだ肌寒い季節かもしれないが、夏の暑い時期になったら行ってみようかな。
そうなると、宝石を売りに行くのはその時でもいいか。
む? 結局現金が増えていないじゃないか。
貯蓄はあることはあるから急ぐことはないのだが、今はなんかお金を増やしたい気分なのだ。
はー、素直に働くかー!!
そんなわけでタルバと物々交換をした翌日は、朝から一号に乗ってピューッとピエモンの冒険者ギルドを訪れた。
「お? グランが朝から来るなんて珍しいな。しかも今日はいつもは来ない曜日じゃないか」
「ああ、ちょっと稼ぎたいなって思ってな。何かいい仕事ないか? 泊まりがけじゃないやつがいいな」
ギルドへ行くと受付にバルダーナの姿が見え、バルダーナも俺に気付きこちらにやって来た。
朝の混み合う時間だが、ピエモンの冒険者はDランク程度の兼業冒険者が多く、Aランクの俺とは依頼の取り合いにはならない者達ばかりなので、依頼掲示板周辺の人が減るのを待とうと思っていたところだった。
最近では他の町から来たと思われる冒険者を見かけることもあったが、今日はそれっぽい冒険者は目に付かず地元のおっちゃん達ばかりのようだ。
時々綺麗なお姉さんや可愛い女の子の冒険者も見かけるんだけど、今日はいないようで残念。
「うちはBランク以上の仕事はほとんどないからなぁ。でも今ならちょうどいいのがあるぜ? ランクは高くないんだが、結構走り回ることもあって体力がいるし、場合によっては魔物の相手もしないといけないからできる奴が限られてるんだよなぁ。いつもなら若いねーちゃん達のパーティーがいるんだが、先日から見かけてないとこを見るとどっか他の町にいったかなぁ。そんなわけで一仕事しないか?」
バルダーナが依頼の紙を俺の前でピラピラとさせる。
「どんな仕事だ?」
「農場の改修工事に伴う、家畜の移動の手伝いかな。町から少し離れた場所にある農場だから周辺に魔物もいる、もしそれらが襲ってくるようならその駆除もだな。ついでに近くに危険性のある魔物がいたらそれも駆除対象、これでCランク。いやー、今日からの仕事なのだがちょうどいい冒険者がいなくて、職員がいくしかないと思ってたんだよなぁ。Cランクだが報酬はBランクに近いやつだから行ってくれないか? もちろんランク手当も付くぞ。本当は三人くらいでちょうどよさそうな仕事だが、グランなら一人でいけそうだな? 忙しいかもしれないがその分報酬も独り占めできるぞ。稼ぎたいならちょうどいいと思うのだが、どうだ?」
俺の前にピラリと出された依頼書を受け取り、その詳細を声に出して確認した。
「スター・トレント放木場改修工事に伴う、スター・トレントの移動時の護衛と補助。周囲の危険な魔物の駆除」
家畜ってトレントのことかよおおおおおお!!!
っていうかピエモン近郊にトレント木場なんてあったのか。
その体のほとんどが何らかの素材として需要があるトレントは、大人しい性質の種を中心に人工的に飼育されている。
木にはたくさんの種類があるように、トレントにもたくさんの種類がある。
その半数以上は人間に対して攻撃的で危険なトレントで、飼育なんてできたものではないが、中には大人しい性質の種もいる。
そういった大人しい種のトレントは人間に家畜として飼い慣らされ、また飼育のために品種改良やその研究もされており、トレントの飼育は世界の各所で行われている。
ちなみに観葉植物感覚の小さな観葉トレントもいる。
トレントは魔物ではあるが植物の性質も合わせ持っているため、こまめに剪定すれば大きさも制御することができるのだ。
たまーに、逃げ出した観葉トレントの捜索捕獲依頼や、持ち主の手に負えないくらい大きくなってしまった観葉トレントの剪定依頼が冒険者ギルドにされることもある。
今回のようなトレント木場関連の依頼もわりとよくある依頼である。
まぁ、ピエモンは大きな森が近いからトレントの飼育には向いている場所だよな。
トレントにはどっしりと根を下ろし動かないタイプと、地面から抜け出し動くタイプがある。中には活発に動き回る足の速いトレントもいて、獲物を見つけると獣顔負けの速度で追いかけてくる奴もいる。
依頼書に"トレントの移動"と書いてあるので、今回のトレントは動き回るタイプのトレントなのだろう。
その動き回るトレントの移動の手伝いと護衛、それに加え木場周囲の魔物駆除で日中だけの仕事だしきつい仕事でもないな。
ふむふむ、改修工事をやる五日間の仕事か。報酬もCランクにしてはいい方だし、俺はAランクで更に手当も付くし、一人で頑張れば報酬独り占め。いいぞ、やってやろう。
おっと、一つ大事なことを聞いておかないと。
「これは駆除した魔物は俺が引き取ってもいいのか?」
すごく重要。
「ああ、引き取っていいやつだ。だが魔物狩りに夢中になって本来の仕事を忘れるなよ?」
「おう、忘れない、忘れないぞ。じゃあこの仕事を引き受けようかな。場所はワンダーラプターなら三十分くらいか。アルテューマの森沿いなら、明日からはうちから直接いってもいいか?」
「ん? ああ、言われてみるとお前んちから直行した方が近いな。それなら今日行ったら次は最終日の終わった後にギルドに寄ってくれればいい。もちろん毎日依頼完了のサインを貰うのを忘れるなよ」
ん、俺んちの場所って教えたっけ? 森の近くに住んでいるのは言ったような気もするな?
現場の木場はピエモンから見て北東側方面に進んだ辺り。俺の家は北西側。
どちらもピエモンの北側にある広大な森、アルテューマの森沿いのため、一度ピエモンを経由していくよりうちから森に沿って直接行った方が近そうな場所なのだ。
「おう、了解! じゃあAランクの俺がバババーンと五日間働いてくるよ」
「おう、もし一人できついようなら人員は追加するからな」
パパパッとバルダーナギルド長自らが依頼の受け付けをやってくれた。
本来は三人くらいでやる仕事のようだが、俺には頼もしいワンダーラプターの一号もいるし実質二人だ。
Cランクの依頼だしAランクの俺と頼もしい相棒がいればなんとかなるだろう。
しかも狩った魔物は持ち帰ってもいいときた。
よぉし、ぱぱっとお金を稼いじゃうぞー!!
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