コンビプレイ
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ドラグリフは頭と翼と前足が鷲で胴体から下が竜という、Bランクの亜竜だ。
今こちらに向かってきているのは翼を広げた幅が五メートルほどなのでドラグリフにしては小ぶりな方で、少し弱めのC+くらいだろうか。
ドラグリフは見た目がグリフォンに似ているのでグリフなどという名を付けられているが、立派な竜の仲間である。
翼は鷲の翼であるがその翼角、翼の頂点部分からは三本の鋭いかぎ爪が出ている。
鷲の羽に竜の皮や爪、そして肉もわりと美味しいし、内臓も骨も素材として優秀なやつだが、ピュンピュン空を飛び回るので魔法が使えないレンジ弱者の俺とは相性の悪い相手である。
俺は少々突っつかれても平気だがキルシェが狙われるとまずいし、上空からの攻撃からキルシェを庇いながら戦うのは、防御型ではなく回避型の俺には少々しんどい。
「とりあえず三号はキルシェを安全なとこまで避難させてくれ。他の魔物が来そうならそいつも追っ払って、キルシェを守ってくれ。おっと一号、お前は俺と一緒にドラグリフ討伐だ」
「ギョッ!」
「グェ!?」
ワンダーラプター達に指示を出すと三号は得意げな顔でキルシェの前にいき、キルシェの服の襟を咥えてヒョイッと自分の背中に乗せ、木が生えていて上空からの攻撃が防げる場所へと走りだした。
偉いぞ、三号! キルシェは任せたぞ、後で美味い肉をやろう!!
一方一号。手綱を取って俺が背に乗ろうとすると――あ? なんだその嫌そうな顔は? そうだよな、お前ら格上の相手からはスタコラと逃げるもんな!
安心しろ、俺がいる! 俺がいるぞーーーー! ドラグリフくらいAランクの俺がなんとかしてやるぞ!! 飼い主を信じろ!!
俺は攻撃に徹するからお前はドラグリフの攻撃を避けてくれ。いいか? 逃げるんじゃなくて避けるんだぞ?
そうだ、俺とコンビプレイだ。よろしく頼むぞ!!
なんだナナシ、カタカタしてもお前を使う予定はねーからな!!
「一号、お前の足に期待してるぞ! ドラグリフの攻撃を避けつつ、俺が弓で奴の頭か胸を狙い易い場所をキープするんだ!」
「グエェー!」
ちょっと煽てるとやる気が出たのか、一号が威勢のいい鳴き声を上げた。
よしよし、がんばったら晩飯は美味しい肉になるぞぉ。
右手で手綱を握り、左手にズラトルクの弓を取り出す。矢はまだ取り出さず手綱を握ってワンダーラプターを操りながら、ドラグリフがこちらに近づいてくるのを待つ。
ドラグリフは頭が鷲で、胴体から下がドラゴン。獣、人、不死には特効があるズラトルクの弓だが、ドラグリフにはどの部位を狙っても特効効果は出なさそうだ。
しかも撃ち上げる形になるので、非常に戦いにくい。できるだけ引きつけながら戦いたいな。
さぁ、攻撃するために高度を下げろ。
弓矢の届く位置まで下がってきたらバシッと弓を撃ち込んでやるぜ。
うるせぇ、ナナシ。カタカタしてもお前の出番はねーぞ。相手は空中にいるから剣の出番はなっしんぐ!
ヒュッ!!
弓の射程外の高さで円を描くように飛ぶドラグリフから牽制とばかりに風魔法で作られた小さな竜巻が飛んできた。
俺が指示を出すまでもなく一号がヒョイッと竜巻の範囲内から退避する。
たかが小さな竜巻といっても地面付近になると砂や石を巻き上げるため、風によるダメージだけではなく、それらのダメージもくらうことになる。
ヒュッ!!
一つ目の竜巻を避けたらすぐに次が。もちろん弓の射程範囲外から。
てめぇ、汚ねーぞ!! 正々堂々と殴り合いに来いよ!!
あ? なんだよナナシ、カタカタしてもお前の使いどころはないぞ。
ヒュッ!!
キエエエエエエエ!!
弓の射程外から魔法ばかり飛ばしやがって、魔法が使えない俺への当てつけか!?
あ、お前今クチバシの端が上がったのが見えたぞ!? 軽く身体強化を使っているから視力も上がってんだぞ!! くそがーーーーー!!
うるせぇ、ナナシまで俺をバカにしてカタカタしやがって!!
上からピュンピュンと小型竜巻を飛ばしてくるのを避けるのは難しくないのだが、弓の射程外からの攻撃のため反撃ができない。
おそらく俺が持っている弓を警戒しているのだろう、なかなか知能の高い奴のようだ。しかし諦める様子はないのか、上空をグルグル周りながら、時々竜巻を飛ばしてくる。
「指示するまで体力を温存しながら最小限の動きで避けるだけでいいぞ」
「グエッ!」
これは根比べになりそうだな。動き回って体力を消耗し動きが鈍くなったところを狙うつもりかもしれない。
だがそれは奴も同じ。あの巨体で飛び続けるのは、体力と魔力の消耗が激しいはずだ。
ドラゴンを始めとした空を飛ぶことのできる巨大な魔物は、翼の力だけではなく風魔法など飛行を補助する魔法を使って飛んでいる。
鳥のように空を飛ぶことに特化した体でもない生き物達が空を飛べるのは魔法の力なのだ。つまり空を飛びながら魔力を消費しているため、時間が経てば奴も高度の維持ができなくなるはずだ。
その前に帰っていくか? それとも仕掛けてくるか? せっかくの素材だから仕掛けてきて欲しいよなぁ?
魔力を多く持つ生き物は美味しい傾向がある。魔力量の多い俺は奴にとって美味そうに見えるのだろうか?
俺の弓を警戒しながらも諦めることはなく上空を旋回しながら、俺の方へと鋭い目を向けている。
やだなぁ、俺は食われるより食う方がいいんだよなぁ。
……なんだよ、まだカタカタしてんのかよ。でも、使わないったら使わない!
お前を使うくらいなら足を止めてでも、クソ重デカ弓を使う方がいい。
ん? ワンダーラプターを降りて大弓を使うか?
あの弓ならズラトルクの弓より射程はずっと長い。
だがアレは威力と飛距離を重視しすぎたせいで、本体が重すぎて持ったまま動き回るのが難しい上に、弦が非常に堅いので弓を引くのも少し時間が必要だ。
完全に足が止まるので、竜巻を一発くらってしまいそうだな。いや、痛いけれど一発くらいなら我慢できるか。
カタ。
「ふぉ!?」
ズラトルクの弓を収納に収めようとしたら、黒い小さなナイフになってベルトに張り付いていたナナシが、シュルリと弓に巻き付くように移動してきた。
おいこら、弓に張り付いたら収納に入れられないだろ!? 魔剣は疑似生命体みたいな判定だから収納に入んねーんだよ!!
って、あああああああああああああーーー、魔力をゴリゴリ吸ってんじゃねええええ!!
さては貴様、勝手に起動するつもりだな!? ってもう起動してるうううううう!!
あああああああ……ズラトルクの弓と勝手に合体してなんか無駄にキラッキラした格好いい弓になってるぞ!?
なんか無駄にすげー能力だな!? でもやっぱり手にくっついて魔力をチューチューしてやがるな!?
しかも剣の時より燃費が悪いのかすごい勢いでチューチューされている。
この野郎! 厚かましすぎるぞ!!
なんだよ、そのドヤカタカタは? お前ならドラグリフのとこまで矢が届くとでもいうのかよ?
くっそ、ものすごくドヤカタカタしているな!?
あー、もうわかったわかった、使ってやるから! 使ってやるし、これだけ魔力をチューチューしているのだから、反動を少し負けろ!
どうせ相手は魔物だし、人を斬るより反動は少なめか? しかも弓だから矢がプスッ?
あ、矢だからもしかして反動なかったりする?
なんでそこでカタカタやめるんだよ。やっぱ反動あるってことかよ。
「グエェ~」
「おっとぉ」
厚かましいナナシに気を取られていると、再びドラグリフが竜巻を飛ばしてきたのを一号がヒョイッと避けた。
「いいぞ、一号。おっと、そのままあそこにあるでかい岩を駆け上って大きく上にジャンプできるか?」
「グエッ!」
ちょうど視界に入った、人の背丈よりも大きな岩を目指すよう一号に指示を出し、手綱から左手を放し収納から雷撃効果を付与した矢を取り出した。
ワンダーラプターの揺れる背中から落ちないように、鐙にかけている足に力を入れ立ち上がりバランスを取る。
一号が自信ありげな返事をして、ダダダッと地面を蹴る音をさせながら俺が指示した岩へと走った。
そしてそのまま岩を駆け上がる。
俺は取り出した矢を番え、振り落とされないようにバランスを取りながら弦を引き絞る。
ドラグリフが俺の狙いに気付いたのか、バサバサと羽ばたいて高度を上げつつ俺達から距離を取ろうとしているのが見える。
もう遅いぞ!
ワンダーラプターは騎獣の中でも足が速い、そしてその強靱な後ろ足は跳躍力にも優れている。
空中を緩く旋回している大型の魔物が、方向転換をして飛び去る速度よりもずっと。
二メートルを少し超えるくらいの高さの岩を一号が駆け上がり、その頂点から大きく上へと跳躍する。
「わりぃ、一号! 後でベヒーモドキの肉を追加してやるから、背中を借りるぞ!!」
「グエエ!?」
鐙から足を外し、身体強化最大状態で一号の背中を蹴って、一号が跳躍した更にその上へ。
そして頂点で矢を離す。
狙いはドラグリフの喉元。最悪の体勢だがいける気がする。
頼むぞ、ナナシ。穀を潰しているだけ働いてくれるよなぁ?
矢を放つ瞬間、更に魔力を吸われた気がした。
ビュッ!!
矢を放った瞬間、俺が想像していたより力強い音が聞こえた。
俺の手を離れた矢は一直線にドラグリフの喉元へ向かう。
これはもう逃げ切れる距離でも速度でもない。
だがドラグリフは腐っても亜竜。そこそこに強く知能の高い魔物だ。
避けられないと理解したのか、矢を迎え撃つように翼をはためかせ突風を巻き起こし、その風は矢を放った後落下している俺のところまで届いた。
これは、防がれたか?
突風に煽られ空中で崩れた体勢を、体を回転させつつ立て直しドラグリフの方を見上げると、風を割るように鏃から白い光の粒子をまきちらしながら飛ぶ矢が、威力を弱めることなくドラグリフの喉元に迫っているのが見えた。
あの矢、威力アップと雷撃の追加攻撃の付与はしてあるけれど、白い光の粒子が出るような効果はしていないと思うぞ?
弓に同化するように張り付いてドヤカタカタしているお前の効果か。
そして俺が着地すると同時に矢がドラグリフの喉から後頭部へと突き抜けて、その周辺でバリバリと火花が散るのが見えた。
その直後――。
キョエエエエエエエエエッ!! ピイイイイイイイイイッ!! ギギギギギギギギギギギギイイイイイイイイイイイイイイギギギギッ!! ビビビビビビビビビエビエビエビエビエビエエエエエエエッ!! キッキキキキキキキイイイキキキキキキイイキイキキイイキキキキキキッ!!
ものすごくうるさい獣の断末魔のような鳴き声が耳の奥で響き頭を押さえた。
リュウノナリソコナイの時のようにハッキリとした言葉ではないだけマシなのかもしれないが、ただひたすらうるさく頭が痛い。
これは言葉の通じぬ者の叫びなのだろうか。
「うるせぇ! これは食物連鎖だ! 自然の弱肉強食だ! この後お前は美味しく召し上がって、素材も全て有効活用してやるから素直に召されろ!!」
あまりのうるささに叫んでしまった。
その俺の叫びが終わる頃、頭部を矢で貫かれたドラグリフがドサリと地面に落ちてきた。
まだ生きてはいるが、体がビクビクと痙攣している。
この大きさを体勢の整っていない状態から一発で仕留めるのは無理だと思い、一発撃ち込んで高度が下がったら落ちてくるまでひたすら矢を撃ち込むつもりだったが、一発目で致命傷になったようだ。
ドラグリフにしてはやや小型のコイツが弱かったのか、ナナシがズラトルクの弓にくっついて威力を上げたのか、その両方か。
考えようにも頭の中に響く鳴き声がうるさく集中できないので、ドラグリフにとどめを刺そうと腰の剣に手を伸ばした。
シュルッ!
あっ! てめぇ、勝手に人の魔力を吸って剣に変形して、勝手に右手に収まってんじゃねええ!! しかも無理矢理握らせてるんじゃねええ!!
ドラグリフにとどめを刺すまで離れましぇーん! みたいにカタカタしてんじゃね!!
あああああああーー!! くそおおおおおお!! この粘着剣めえええええええ!!!
弓から離れ、あの時と同じキラキラの剣になった魔剣ナナシを握りしめ、言葉を持たぬ者の叫びを耳の奥に聞きながらドラグリフの首にそれを振り下ろした。
お読みいただき、ありがとうございました。




