失せ物が見つかる?
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【時鷹の羽】
レアリティ:A
品質:特上
属性:風/闇
効果:失せ物が見つかる
俺の蛇を持っていった鷹が残していった羽を鑑定してみると、何だか微妙な効果。時鷹というのは先ほどの鷹の名前だろうか?
トカゲに飛びかかろうとした蛇を撃退したお礼かなんかかな。多分もう会うことのない妖精だし、深く考えず貰えるものなら貰っておこう。
なくした物が出てくるなら悪い効果ではないから、胸のポケットにでも入れておくか。
羽は四枚残されていたのでキルシェと半分こだ。
一枚はアベルにでもやるか。うん? キルシェも一枚はアリシアにあげる?
あまり大きくない羽なので、後でネックレスか何かに加工してお守り代わりにしてもいいな。
「不思議な妖精でしたねぇ」
キルシェがポカンとした顔で鷹が残していった羽を見つめている。
ただ俺達の前を通過していっただけのトカゲの妖精と不気味な目玉。そして最後に現れた大きな鷹。
ちょっと不思議な場面に出くわしてしまったな。
「妖精だからな、俺達人間の常識は通用しない奴らだ。キルシェもこれから冒険者として活動をしていると妖精、妖精以外にも知能の高い生き物と会うことはあるだろう。妖精を含め知能の高い生き物は、強さ以外にも危険な面がたくさんある。この世には人間より知能の高い生き物はたくさんいて、そういう相手を無闇に攻撃すると手痛いしっぺ返しを食らうことがあるから相手をよく見定めるんだぞ」
妖精や神格持ちの存在を無闇に攻撃すると、弱そうに見えてこちらより圧倒的に強かったり、強い仲間がいたり、執拗に復讐をされたり、呪いをかけられたりと非常に危険である。
もちろん生き物を鑑定できるスキルがなければ相手が神格持ちの妖精かどうかなんてわからない。つまり触らないに越したことはない。
まさに前世のことわざにあった"触らぬ神に祟りなし"というやつである。
関わらないのが一番で、関わっても意思疎通ができるなら無理に争わない方がよいのだが、話の通じない相手なら戦いになることもあるがその時は仕方がない。
キルシェもいつかそういう相手に遭遇するかもしれないし、早めに呪い対策の装備を作って渡しておくか。
強い悪意を持つ妖精には久しく会っていないが、本来妖精とは人間に対して友好的なものは多くなく無関心のものが大半で、価値観の相違から怒らせてしまうと攻撃的になり非常に危険な存在なのだ。
もちろん人間のことを嫌悪していて遭遇すると攻撃や嫌がらせをしてくるものだっている。
そう、本当なら妖精とは適当な距離を保って、積極的に関わらない方がいいのだ。
うちの周辺に現れる妖精達が、悪戯好きな者もいるが陽気で友好的な者ばかりなので、ついその感覚で妖精に接してしまうようになっている。
そういえばトンボ羽君は己のやりたいことに忠実なピクシーらしいピクシーだったな。俺の周りでは可愛い悪戯ばかりであまり実害がなかったが、時々やべー悪戯もあったからな。
妖精の地図を初体験することになった、あの地図とか。
トンボ羽君元気かなぁ。そうそう、ハックとかいうトレジャーハンターにくっ付いていってしまったけれど、上手くやっているのかな?
ハックは何だかんだでお人好しっぽいから、トンボ羽君に振り回されていそうだなぁ。常識の通じない相手と付き合うのって、お人好しで常識のある人が苦労するんだよなぁ。
アベルと腐れ縁が続いている俺みたいに?
そう思うとハックに気の毒さと親近感が湧いてきたな。
昼飯の後は帰って来たワンダーラプター達に乗って、キルシェと共に俺の依頼をこなすために草原の奥へ。
昼飯前にいた場所より少し強い敵も出てくる場所だが、強くてもCランク程度の敵なのでAランクの俺には全く問題ない。
きちんとキルシェを守りながら、冒険者の手本を示しつつ、薬草も採取しちゃうもんねー!!
ワンダーラプター達もいるので、少々の魔物は彼らが撃退してくれる。よって俺は、ワンダーラプターディフェンスを抜けてきたやつだけを倒せばいい。
「はっはー! 近接職は格好いいだろう~!? 遠くの敵は弓でぴゅーっと!!」
「ほえ~、グランさんが普通に戦っているの見たの初めてかも?」
え? 普通になってなんだ、普通にって? いつも普通な気がするけど?
採取作業をしているとワンダーラプターディフェンスをすり抜けて、二本角の馬の魔物バイコーンが近づいてきたので、スパッと角を切り落として、サクッと心臓と突いて倒した。
どうだー、格好いいだろうー! ついでに上空でうるさいハエの魔物も撃ち落としておいたぞー!
バイコーンは強い個体はBランクでも上の方だが、俺達の前に現れたのはやや小さめの弱い個体だった。
こいつら善良な若い男性を好んで食べるっていうとんでもない馬なんだよな。
善良な若い男性、つまり俺のことだ。なのになんでこいつはキルシェの方へ向かいやがった。
キルシェはボーイッシュな僕ッ子だけど女の子なの!! おいコラ、若くて善良な男性は俺!!
魔物のくせに見た目で判断してんじゃねえってことでバッサリと斬り捨ててやった。
ついでに近くでブンブンうるさいハエの魔物も、食材ダンジョンで手に入れたズラトルクの弓で矢を射って始末。虫に特効は付いていない弓だが、所詮は虫だし元から良い弓だしで一発粉砕。
魔法を使わず近距離も遠距離も対応。このお手本のような戦い方をぜひ参考にしてくれ!
「この辺りでバイコーンが出てくるのか。バイコーン素材は結構良い値段だし、肉は馬肉で美味いんだよなあ。若い男性ばかり狙う肉食の魔物だし、草原の平和のためにバイコーン狩りをしてもいいな」
そういえば、冒険者ギルドで見た依頼の中には、バイコーンの討伐依頼もあったな。もっと山寄りの方で出るかと思っていたので、バイコーンの討伐依頼は受けてこなかったな。
この辺りにそれなりの数が棲息しているのなら事後報告でも報酬が出るやつだろうし、バイコーン狩りで小遣い稼ぎも悪くないな。
「ひえ、馬なのに肉食なんですね。でも薬草を採らないと遅くなってしまいますよ」
「おっと、それもそうだな。バイコーンは見かけたらにしておこう」
危ない、つい欲に目がくらんで採取依頼を疎かにするところだった。これはうっかりうっかり。
バイコーンを倒した後は、ほぼワンダーラプター達が近づいてくる魔物を始末してくれて平和な採取時間が過ぎていった。
俺は薬草を採取しながらキルシェに薬草の効果や見分け方や採取時の注意事項を説明し、キルシェはメモを取りながら俺の話を熱心に聞いている。
「この辺りは魔物のランクもそこそこ高いし、採取対象の薬草も他の植物と間違いやすいものばかりだな。鑑定スキルがあればだいぶ楽になるなるが、その鑑定スキルも使用者の知識や鑑定対象に関係あるスキルに精度が依存するからな。ランクの高い薬草になると詳細までわからず間違いやすくなるから、やはり学ぶことを怠ってはいけないな」
「そうですね、僕も将来色々なとこに商売に行くのなら、鑑定スキルを磨くためにも、鑑定スキルだけに頼らないためにも、もっと学ばないといけませんね。こうしてグランさんに薬草のことを教えて貰えるのはとてもありがたいです」
キルシェが熱心に聞いてくれるので、俺も教え甲斐があって楽しくて、つい他の植物についても話してしまう。
「これは今回の採取依頼とは関係ないけど食べられる草だな。こっちも依頼対象ではないが食べられるやつ。いやぁ、この時期は食べられる草がたくさんある時期だからなー、草に困らないよなー」
薬草以外にも今が旬の野草がたくさん生えているので、キルシェに説明しながら回収していく。
「え……食べられる草は知ってますが、食べられなくて困ることはないですね。ああ、ピエモンは農家が多くて野菜は豊富なのであまり野草は食べないんですよ。王都やグランさんの故郷は野草を食べるんですか?」
ふぉっ? 言われてみるとピエモンは農業が盛んだから季節の野菜は豊富なんだったな。
「俺の実家の辺りは野草というか山菜が多いから、それはよく食べてたな。王都にいた頃は、あっちは物価が高いからわりとよく草は食べてたな。おっと、これも食べられる草だ、キルシェもいる? 遠慮しなくてもいいぞ? こっちにも食べられる草がっ!」
「グランさん? さっきから草ばっかり摘んでる気がしますが大丈夫ですか? それと草は遠慮しておきます」
キルシェに少し困った顔で心配をされてしまった。しかも草もご遠慮された。
「だだだ、大丈夫だよ。なんかあんまり探さなくてすぐに見つかってるから、思ったより早く終わりそうなんだ。あぁ、今キルシェが見ているそれも依頼対象のやつだな。疎らに生えてることが多くて探しにくいやつなんだけど、今日は山をかけて探したとこがほぼアタリなんだよな、ラッキーラッキー。もしかしてキルシェのギフトのおかげかな?」
だったらすごくありがたいことだな。
「んー、どうなんでしょう? さっきの鷹の羽の効果とか? 失せ物が見つかる効果でしたよね」
「ああ、確かにそうだったけど、薬草は失せ物じゃないしなぁ。もしかして探しものも見つかりやすくなるのかな? 待てよ……だとしたらこの羽はものすごく強力なものでは?」
採取の手を止め懐に入れた"時鷹の羽"を取り出しそれをまじまじと見る。改めて鑑定してみるが効果は『失せ物が見つかる』で間違っていない。
「失せ物だけではなくて、探しものも見つかるならすごく便利そうですねぇ」
なんてキルシェは呑気なことをいっているが、便利どころの話ではないぞ。さすが妖精が残していったもの、とんでもアイテムである。
いや、まだそうと決まったわけではない。見つかりやすくなるとかいう感覚的な効果のため、その効果をはっきりと立証しづらくなんともいえない。
「探しものが見つかりやすくなるなら、高価な素材を探せばひょっこり手に入るかもしれない? あぁ~、うっかり高価な素材がその辺に落ちてないかな。よぉし、依頼の薬草を探しながら探してみるか!! キルシェも探すぞ! いける、キルシェのギフトと合わせればすげーものが見つかるのでは!?!?」
すごくワクワクしてきたぞ!! これは一攫千金のチャンスなのでは!?
「えぇ……そんな都合の良いことがあるんですかねぇ。それに高価な素材といっても漠然としすぎててすぐには思いつかないですよ」
言われてみると確かにそうだな。それなら高ランクで物知り冒険者の俺が具体的な例でも挙げてやるかぁ。
「そうだな、古代竜とかだとまた売るのが手間だし、ほどよく高価でパパパッと金になるようなやつ? 普通のドラゴンとか? いや、普通のドラゴンっていっても普通に強いからな、今出てこられてもすごく困るな。出てくるならほどほどのやつ? ん? 何かこっちに来てる? なんか強そうなのが空から来てる!?」
んんんんん?
キルシェと話していたら空から強力な魔物の気配を感じた。
「グエエエエエエ!!」
「ギョエエエエエ!!」
俺がその気配に気付いたのとほぼ同じタイミングで、少し離れたところにいたワンダーラプター達が戻って来て俺の後ろに隠れるように駆け込んだ。
強力な気配のする空を見上げると翼を広げた大きな鷲が見えた。しかしその下半身はトカゲ……いや、ドラゴン。
うげぇ!! ドラグリフうううううう!!
翼開長は五メートルを超えているだろうか。そんな魔物が空中を滑るように俺達の方へと近づいてきていた。
お読みいただき、ありがとうございました。




