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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第八章

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ピクニック気分のランチタイム

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ひえええ……、防具に付いた汚れはいつの間にか落ちますけど、服に付いた汚れは勝手には落ちませんよね」

 そりゃそうだ。

 防具は比較的綺麗だが、服がすっかり悲惨なことになっているキルシェがせっせと浄化魔法をかけて汚れを落としている。

 浄化魔法が使えるだけ俺よりもマシである。

 その便利な浄化魔法も魔力抵抗のない繊維に使っていると、服が綻ぶのが早くなる。

 冒険者が好んで身に着けるような服は、汚れにくい加工や付与がしてあり、魔力による劣化に強い素材が使われている。

 俺が身に着けている服も物理耐性や魔力耐性が付与されているし、汚れにくく、汚れても落としやすい素材のものだ。冒険者はどうしても活動中に汚れやすいから仕方ない。

 ことあるごとにアベルに汚いとか臭いとか言われてシュッシュッと浄化されているが、冒険者なら、とくに近接職なら汚れるのは仕方がないのだ。

 キルシェもリリーさんに専用の服を作ってもらえば、汚れの悩みは軽減されるだろう。


「あんま、何度も浄化魔法をかけていると服が傷むから、目立たない程度まで落として帰ってから手洗いする方がいいぞ」

「確かにそうですね。汚しすぎて姉ちゃんに怒られそうだけど、諦めて家に帰ってから洗います」

 服にせっせと浄化魔法をかけているキルシェを横目に俺は昼飯の準備。

 天気が良くポカポカと暖かいが時折ひんやりとした風が吹き抜ける心地の良い草原の昼。まさにピクニック日和である。


 下草の少ない場所で野営セットを出して、やや薄めにスライスしたサラマンダーの肉に塩と少量の胡椒を振って焼きながら、その横でタマネギスープを温める。そしてレタスを千切り、パンを切る。

 焼きすぎる前に火から離した肉と千切ったレタスをパンに挟む。挟む前に粗く挽いたマスタードをかけておくのも忘れない。

 今日の昼飯はサラマンダーのミートサンドと、刻みパセリをチラしたシンプルオニオンスープ。そしてハチミツを入れたホットミルク。

 日が当たっている時はポカポカと暖かいが、強い風が吹いたり、日が陰ったりした時は少し肌寒く感じ、なんとなく暖かいものが欲しくなるので飲み物はホットミルクにしてみた。

 それらに加えて家で作ってきた輪切りにしたタマネギのフライ。ついでに、デザートにリンゴを追加しようかな。

 カメ君がリンゴ好きなせいで食後にリンゴを出す癖がついてしまった。


「ほら、お前らも肉食え。食ったら適当に散歩してきていいぞ。でも山の方に行くと敵が強くなるからあんま遠くまで行くなよ。それと騎乗用の装備を着けているから野生の魔物と間違えられることはないと思うが、他の冒険者には気を付けろよ。もちろん変な悪戯もダメだぞ」

「グエー」

「ギョヘー」

 ワンダーラプター達に肉を与え自由行動の許可を出す。近くに人の気配はないからあまり遠くまで行かなければ大丈夫だろう。


 今日はキルシェと二人だけなので大きなテーブルや椅子は出さず、座りやすい小ぶりな岩が複数転がっている近くに小型のテーブルだけを出し、その上にできたばかりの料理を並べた。

「キルシェもこっちに来て適当なとこに座るんだ」

「あ、すみません、お昼ご飯グランさんに全部任せちゃって……ありがとうございます!」

 適当な岩の上に腰を下ろしながらキルシェを手招きした。

 キルシェが服の汚れを落とすのに夢中になっている間に、昼飯の支度は俺がパパパッと終わらせた。めちゃくちゃ簡単なものだけだけど。

「なぁに、簡単なものだけだから気にしなくていいさ。それより冷めないうちに食っちまおう」

「はい、いただきます!!」

 テーブルを挟んで向かい側にある岩の上にキルシェが腰を下ろし、向かいあって食事を始める。

 冒険者をやっているとよくある食事風景だが、いつもの面子ではないのと気持ちのいい初夏の草原ということもあって、なんとなくピクニックのような気分になる。


 そんな和やかな気分になるランチタイムだが、魔物のいる草原のど真ん中なので警戒は緩めていない。

 一応近くでワンダーラプターが遊んでいるので、魔物が寄ってきたら仕留めてくれるだろう。

 それでも細かい虫の魔物もいるので油断はできない。うちのワンダーラプターは虫を食べ物と認識していないようで進んで狩ろうとはしないのだ。

 誰に似たのか食欲に忠実な奴らである。


 今日の昼飯のサラマンダーミートサンドは小柄なキルシェのことを考え、ボリュームより食べやすさを重視して肉が薄めにスライスしてある。

 部位は脂肪がノリノリのバラ肉。

 食材ダンジョンの火山エリアでヘソ天で寝ていた奴らの肉で、岩盤浴ばかりをしていて運動不足なのか脂がノリノリでほどよく柔らかい。

 サラマンダーの肉は濃厚な味だが癖はあまり強くなく非常に食べやすい。牛肉をギュッと濃縮したような感じだろうか。

 挟んでいるパンごと噛めば熱い肉汁とレタスの冷たいシャキシャキが同時に口の中に広がる。肉の濃い味に苦みの少ない新鮮なレタスの味、そしてピリっとマスタードと小麦香るパンの味。

 一度にたくさんの味のコラボレーションが楽しめるのはサンドイッチの醍醐味である。


「ほええ……サラマンダーの肉おいしい~。ピエモン周辺にはいない魔物なので、あまり食べる機会がないんですよね」

「ああ、言われてみるとそうだな。王都だとお手頃価格の肉だから、迷ったらサラマンダーの肉って感覚が今でもあるな。こいつはこないだまで籠もってた食材ダンションのサラマンダーの肉だが、王都のサラマンダーの肉より脂が乗っていて俺はこっちの方が好みだな」

「オルタ・ポタニコのダンジョンでしたっけ? 最近ソーリスに行った時は随分食材の種類が増えてましたね。そのうちピエモンにも入ってくるようになるかなぁ……でもピエモンは小さな町だしなぁ」


 王都では近くのダンジョンでサラマンダーが狩りやすいため、ランクの高い魔物のわりにはお手頃価格の肉だった。

 ピエモン周辺にはダンジョンもサラマンダーの生息地もないので売っていても少々高いのだが、食材ダンションへ行く冒険者が増え、ヘソ天サラマンダーの肉が持ち帰られるようになると、ピエモンでもサラマンダーの肉が手に入りやすくなるかもしれないな。


 発見されてさほど時間が経っていないため、まだまだ未解明なところが多くランク制限の厳しいダンジョンだが、調査が進めばBランクでも立ち入り可能なエリアが広がるかもしれない。

 そうすればダンジョンに入る者も増え、持ち出されるものはどんどん増えてくる。

 ピエモンからソーリスまでは馬車なら半日かからない程度、ソーリスからオルタ・クルイローが早ければ三日か四日、オルタ・クルイローからオルタ・ポタニコが一日。

 食材ダンジョンの影響はピエモンのすぐ近くまで来ている。

 それでもやはり距離があるので多少は高いかもしれないが、だとしても今までよりずっと色々な食材が入って来るようになりそうだ。

 あの広大で食材だらけのダンジョンの影響がピエモンにも出ると思うと少し楽しみである。



 この先変わっていくと思われるピエモンの食糧事情を思ったり、キルシェと他愛ない話をしたりしながらもりもりと飯を食っていると、近くの地面からシャリシャリという地面の砂を踏むような音がかすかに聞こえた。

 ああ、何か小さな気配がこちらに近づいて来ている。

 小動物か? 虫か? こちらに敵意がある感じはしないけれど随分近くまで来ているな。

 念のために警戒はしておこう。




お読みいただき、ありがとうございました。


明日と明後日の更新はお休みさせて頂く予定です。土曜日から再開します。

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― 新着の感想 ―
[一言] サラマンダーの肉 パクパク食べてるけど、金額、後で判明して愕然とするのかな~(笑) カレーなんて、同じ重さの金より、もしかしたら高いよね……頑張れ、流通経路と生産(゜ー゜)(…
[一言] 未来の嫁さん(仮)に餌付けしてる図ってのが見えるんだよ不思議だなぁー(棒読み
[良い点] 魔法耐性が低い衣類は痛みやすい設定、あまり見なくて面白いなあ。 この作品こういう細かい描写が多いのに、それ自体が興味深くて物語のテンポが損なわれないのがすごいんだよなあ。 [一言] 特別な…
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