歴史に消えた者を想う
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「ええ、当時王子の一人だったガーランド王が、父王を倒してズィムリア魔法国の王になったという経緯はシル姉様に伺いました。それがグランさんの言っていた、ガーランド王の日記のことですね。ズィムリア魔法国中期終盤から後期の頭で大きな内乱――いえ、大陸全体を巻き込んだ戦争があったことは、魔法国史に詳しい者の間では有名なんです。ただ残っている記述が少なく、わたくしの知っている限りではそこにガーランド王の名前が出ている記録は残ってません。ズィムリア魔法国は今から千年以上前の国、そしてその中期といえば更に千年ほど前、当時のことは僅かに残る文献と伝承からの憶測なんですよね。それからガーランド王の名前が出てくるのはズィムリア魔法国の終期――最後の王だったという記述のみで、そこで大きく国が荒れたような記録が残ってないにも関わらず、何故かズィムリア魔法国が突然なくなりその後にユーラティア王国が現れるのです。一説ではズィムリア魔法国がガーランド王の意志により解体され、ユーラティア王国に名を変えたといわれてます。グランさんがおっしゃっていたズィムリア魔法国の王が古代竜だった説、わたくしはその説はありだと思いますわ。なぜなら千年単位で続いた国――人間から見れば長い繁栄に感じても、古代竜に取ってはそうでもない時間だったと思われます。それにユーラティアの建国記には、初代ユーラティア王は竜より力を授かり王となったとありますの。これはグランさんがおっしゃっていたズィムリア魔法国王古代竜説――ズィムリア魔法国最後の王ガーランドがラグナロック説と辻褄が合うと思いませんか? なんらかの理由でガーランド王が人間である初代ユーラティア国王に王位を譲り、ズィムリア魔法国がユーラティア王国になったと考えると自然ですよね? ああ、グランさん達が歴史的発見をされたおかげでこのような推測ができるように。それにそれにそれにシル姉様から聞いた日記の話によればガーランド王は人間のご友人と協力し、種族による厳しい身分社会の支配者だった父王を倒し王になったとか。ああ、なんて尊いのでしょう。そして悠久の時を生きる古代竜の王、ご友人や家臣、国民をずっと見送り続けていたのですね。尊すぎますわ……。ああ、そんなガーランド王が王をやめ、どこかへ姿を消し、以後ガーランド王の名もラグナロックの名も全く記録に残っていない。いいえ、そもそもラグナロックの名はズィムリア魔法国史には出て来ないんですよね。古代竜としての名より一人の王としての名だけを残し……はああああああああああああああああ……尊い尊い尊い尊すぎて仰げば尊死しそうですわあああああああああ……ああ、これは書ける! 書ける気がしてきましたわああああああああ!! あぁ~~~、今日の予定全て蹴っ飛ばして帰りたいですわ~~~~!! 何やら嫌な予感のする呼び出しですし、やっぱこのまま帰ってしまおうかしら……」
すごい、ほとんど息継ぎなし。
ものすごく熱く語られたが、アベルの難しい話くらい右から左に耳の中を通り過ぎていった。時々疑問形で語り掛けられるが答える前に話が続いていく。
うん、とりあえずリリーさんがガーランド王が大好きなのはよくわかった。
どうやらリリーさんはシルエットとは知り合いのようで、あのダンジョンの図書館で俺とカメ君以外が引き込まれたガーランド王の日記の話は、シルエットから聞いていたようだ。
リリーさんの話によるとシルエットとはズィムリア魔法国の歴史研究仲間らしく、時々会ってお互いの意見を交換しているらしい。
それに加えリリーさんの実家には薬草の産地もあるし、世界各地の薬草を取り寄せるルートもあるので、シルエットはかなりのお得意さんらしい。
そういえばシルエットが休暇中は近くの魔女に会いに行くとか言っていた気がするが、リリーさんのことだったのかな?
シルエットも相当な歴史好きでものすごくオタク気質だから、なんとなくこの二人の歴史トークは想像できる。
まぁオタクって、好きなものを語り合える者同士だと息継ぎの時間も惜しくなるよね。わかるわかる。
そして何やらこの後用事もあるみたいだし、リリーさんは忙しそうだなぁ。心の中で応援だけしておこう。
「ほえええええ……僕は歴史はさっぱりわかりませんが、歴史の本も読んでみたいですね」
「ええ、ええ。歴史を題材にした小説もたくさんありますから、また本を読みにいらしてください」
そういえばキルシェはよく三姉妹達と本を読んでいるみたいだしなぁ。
てか、その時代のことは三姉妹が知っていそうだな……歴史の本なんか読んだらうっかりポロリをしてしまうのではなかろうか。
「そういえば前にリリーさんのところで買った"暁の獅子と白夜の竜は黄昏れに見ゆ"とても面白かったです!!」
「ふおおっ!?!? えっ!! あっあっあっ!! そ、そそそそそうですね! アレは王都で舞台化もされている人気作でして」
「ええ、ちょうどグランさんと先日王都に行った時に近くでやってたんですよー」
「へぁ!? そそそそそそ、それはもしかしてご覧になられて?」
「いえ、近くでやっていたことは後で知ったんですよ。ものすごい人出で迷子になってしまって……あっ! でもあしゆ友達ができました!!」
「あしゆのお友達がっ! それは大変よろしかったですわね。同じ趣味の友達がいると趣味が更に楽しくなりますからね!」
「ええ、わかります! 友達と話してまた読みたくなって最初から読み直してます!!」
キルシェとリリーさんが俺の知らない本の話で盛り上がり始めたぞ。
流行の小説か? 舞台化もしているならすごく人気がありそうだな。
そんなに人気があるなら面白いんだろうな。でっかい町に行った時なら売っているかな? というかちょうどオルタ・クルイローなんていうでっかい都市にいるのだから、帰りに本屋に寄ってみよう。なかったらリリーさんに聞いてみればいいか。どうせアベルも本が好きだし、家においておけば暇潰しに読みそうだ。
しかし趣味の合う友達かー。俺とアベルは仲は良いが趣味は全く違うからなぁ。
俺と趣味が合って、素材収集やスライム育成について語り合える友達が欲しいなぁ。
うっかりリリーさんと話し込んでしまったが、おかげでキルシェの防護服はリリーさんにお願いできたし、キルシェの将来遠くに商売に行きたいという漠然とした夢も、リリーさんの力添えで現実味を帯びてくるかもしれない。
実家がキャラバン隊を持っているリリーさんなら遠方の商売のノウハウや、その現実もよく知っているだろう。それは楽しいことばかりではなく厳しいことも。
その話をリリーさんからじっくりと聞けるならキルシェにとって大きなプラスになるだろう。その話を聞いて夢の実現を目指すか、諦めて別の方向を目指すことになるとしてもだ。
店主がリリーさんの注文の品を持ってきたタイミングで俺達は退散。
リリーさんはこの後に控えている用事のためオルタ・クルイローに来たとかなんとか。
店を出ると外には小ぶりだが上品な馬車が待機しており、おそらくリリーさんの乗ってきた馬車なのだろうと察した。
あれ? 御者さんも護衛さんもみんな女の人なのか。いいなー、一日でいいから俺もその職場に混ざりたい。
軽く頭を下げて馬車の前を通り過ぎると、御者さんと馬車の傍らで待機している護衛のお姉様方にニッコリと笑顔を返してもらえた。
さすがリリーさんの付き人だけあって、みんな綺麗で感じのいい人ばかりだなぁ。
はー、綺麗なお姉さん達の笑顔でこの後何かいいことがありそうな気がしてきたぞー!!
買い物もあっさりと終わったし、冒険者ギルドに預けているワンダーラプター達を引き取って冒険者ギルドの依頼をやりに行くかー!!
オルタ・クルイロー周辺はピエモンより強い魔物もいるが、俺がついているからキルシェも安心して依頼をこなせるはずだ。
よぉし、今日も張り切って素材を集めちゃうぞおおおおお!!!
お読みいただき、ありがとうございました。




