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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第八章

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なんて奇遇な

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「まいど~」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 先ほどナナシが勝手に持ってきた白い竜革の胸当てと肩当て、それとセットの腰当てとブーツを身に着けたキルシェが店主にペコリと頭を下げた。


 サイズを確認するために試着して、大きさを少し調整したらキルシェの体型にぴったりとあったので、そのままお買い上げ。

 同じくナナシが持ってきたハンマー型の鈍器もお買い上げ。

 そしてたくさん買ったので、シランドル製のバンダナをおまけしてもらっていた。布製品だが物理耐性の付与がされている優れものである。

 どれも良いものではあるが、ナナシが選んだのがきっかけになったのがなんだか気に入らないな。

 うるせぇ、カタカタしてんじゃねぇ!

 防具には防御系の付与が、鈍器には魔法と打撃力上昇の付与と魔力消費軽減の付与がされているが、もう少し付与を追加する余裕もありそうなので、帰ったら少し弄らせてもらって付与を追加しておこう。


 武器と防具は揃ったから、防具の下に着る服も選ばないとなぁ。これは冒険者向けの服飾屋だな。

 普通の服でもいいのだが、耐久性や防御面を考えるとやはり専用の防護服の方がいい。

 この店にもあることはあるが、ローブ系だったりデザインが古かったりでキルシェには向かなさそうだ。それに女の子だしどうせなら可愛い服の方がいいだろう。

 今着ている服も厚手の生地で露出も少ないので悪くはないのだが、せっかく良い防具を買ったのだから、その下に着る服も良いものの方がせっかくの良い防具が無駄にならない。

「それじゃ、次は防具の下に着る防護服を買いに行こうか。これは俺が頑張るキルシェの応援を兼ねてプレゼントするよ」

 防護服ならそこそこ良いものでもあまり高くないし、王都で逸れたお詫びも兼ねてだな。

「え? いいんですか? 色々案内してもらっているのに悪いような……」

「まぁ、キルシェが一人前の商人になった時に、珍しい素材を仕入れて来てくれることへの先行投資かな? それじゃ、また機会があったら立ち寄る……」


「ごめんくださいまし~」


 店主に別れを告げ店から出ようとしたちょうどその時、入り口の扉が開きこういう店には似つかわしくない装いのご令嬢が店内に入ってきた。

 派手さはないが品の良いデザイン、そして見るからに高そうな生地に目立たないが細かい刺繍とレース。間違いなくお金持ちのご令嬢である。

 しかしその声には非常に聞き覚えがあった。顔に視線を移すとすごくよく知っている顔。


「「リリーさん!?」」


「しぇっ!? グランさんとキルシェさん!?」


 俺とキルシェの声がハモった。

 あれ? キルシェはリリーさんを知っていたのか

 キルシェも同じことを思ったのか、直後に不思議そうな顔でこちらを見上げた。

 そして正面には驚きで固まっているリリーさん。


「やぁ、リリーさん奇遇だね。リリーさんのお店には時々アベルと一緒にコーヒーを飲みに行くんだ」

 リリーさんに挨拶をしつつ、キルシェに簡単にリリーさんとの関係を伝える。近いうちに、喫茶店のマスターと客という関係からビジネスパートナーになりそうだけれど。

「こんにちは、リリーさん。僕もアルジネに行った時にリリーさんのお店を見つけて、コーヒーを飲んだり本を読んだりしてるんです。時々本も買って――」

「あっあっあっあっ!! そ、そう、グランさんもキルシェさんもうちのお客様ですわ。ホホホホホホホホ、このような場所でホント奇遇ですわね。ホッホホホホホホホッ!」

 今日もリリーさんのお嬢様笑いは絶好調である。

「何だい、お嬢様とお客さんは知り合いかい? お嬢様に頼まれてた例のものを準備してくるから、話すなら奥でゆっくり話してても構わないよ。ついでにお客が来たら対応してくれ」

 ありゃ、リリーさんと店主は知り合いだったのか。なんという偶然。

「とのことですけど、少し奥の応接室でごゆっくりされていきますか?」

 せっかくだし、少しリリーさんと話していくかー。リリーさんなら、流行の可愛い防護服を売っている店を知っているかもしれないから、ついでに聞いてみよう。






「グランさん達はキルシェさんの装備品探しでしたか。それでキルシェさんに似合う防護服ですか……お任せくださいと言いたいところなのですが、今日は午後から用事がありまして、後日改めてわたくしのお店ででもお話ができましたら対応させていただきます、というかぜひぜひわたくしの方でご用意させていただきたく思いますわ。ほら、アベルさんの商会に庶民向けの服飾店を入れるという話がありましたでしょう? そこに冒険者の方々でもご利用していただけるような素材で、見た目も重視したものを取り扱おうかと思って準備を進めておりますの」

 店の奥の応接室に通してもらい、ローテーブルを挟んでリリーさんと向かい合いソファーにキルシェと並んで腰をかけ、事情を話しキルシェの服について相談してみた。

 そしてこの回答。急いで微妙なのを買うより、少し待つ程度なら良いものを買った方がいいな。


「お、それはちょうど良いな。そういうことならリリーさんにお願いするか――」

 しかし庶民向けといってもお貴族様感覚だと値段が少し怖いな。

「ふふふ、ご安心ください。素材の値段で変わってきますが、オーダーメイドにしても相場より少しお高いくらいですわ。素材持ち込みにしていただけるなら、追加で使った材料費にデザイン料と、工賃を足した価格でお作りできますわ。そうですねぇ、例のお店がオープンした際にキルシェさんとグランさんにモデルをしていただけるなら更にお安くいたしますわ。アベル様もお誘いいただけるならもっと」

「よっし乗った。俺とアベルはモデルをしてもいいぞ。キルシェはどうする?」

 ぬあ? 値段に不安を感じたのが顔に出ていたか?

 だがモデルをするだけで割引なら安いもんだな。俺一人では恥ずかしいしアベルは問答無用で巻き込もう。何か甘いものでも作っておけばきっと巻き込まれてくれるはずだ。

 キルシェはどうかな? や、キルシェは宝石の原石だからモデルなんかやると悪い虫が付くか!?

「モ、モデルですか?? リリーさんのお店ですか? 僕は背も低いし髪も短いし……女の子らしくもありませんし、僕にできますか?」

「できますできます! キルシェさんは間違いなく宝石……金剛石でございます! わたくしの目に間違いがないことは、わたくしが保証いたしますわ!! ぜひぜひぜひ、やりましょう!」

「はははははははいいいいい」

 リリーさんのものすごい押しでキルシェが承諾してしまった。

 仕事が絡んでいる時のリリーさんの気迫はすごいなぁ。


「それでは、一度キルシェさんとお店の方へお越しください。それにキルシェさんが遠方での商売に興味がおありでしたら、お力添えができるかもしれませんわ。今日は時間もございませんし、詳しい話はお店にお越し頂いた際にでも」

 そうだ、そういえばリリーさんのご実家は陸運関係に力を持っている貴族様だったな。

 俺は冒険者に関してのことなら教えることはできるが、商売のことについてさっぱりだからなぁ。

 リリーさんの実家のことを考えると少し緊張はするが、ここで会ったのも何かの縁だし、遠方との取り引きのことを聞くなら俺の周りではリリーさんが最も頼りになる人物だ。

 キルシェの将来のことを考えると、リリーさんにアドバイスをもらうのがいいのだろうな。


「キルシェはどうしたい? リリーさんは自分で店をやっているし、遠方の物品も取り扱っているからその取り引きについても、各地の特産についても詳しいんだ」

「そういうことでしたら、ぜひお話を伺わせていただきたいですのですが、ご迷惑じゃありませんか?」

「いえ、いえいえいえ、頑張る女の子は応援したくなるものですからね! いいですわね……男装の麗人行商人……これはありありのありですわ……全身プロデュースも兼ねてこれはやり遂げなければならない案件ですわ……ふふふふふふ」

 頑張る女の子は応援したくなる、すごくわかる。

 その後は何かブツブツと独り言を言いながら考え込んでいるようで、小声でよく聞き取れなかった。

 まぁ、俺も考え事を始めると独り言が出る方だし、他人の独り言は気にしない気にしない。

 

「店にいる日を教えてくれたらその日にでも伺わせてもらうよ」

「あ、え、はいっ! すみませんちょっと考え事をしてしまいましたわ。とととととりあえずこちらに確実にいる日をメモしておきますね」

 リリーさんも忙しそうだし、いきなり行くと臨時休業もありそうだから確認をしておいた方がいいだろう。

「じゃ、近いうちにキルシェと一緒に店にお邪魔するよ。ところでリリーさんはここのお店とは馴染みなのかい?」

 リリーさんから受け取ったメモを懐にしまうふりをしながら収納へ入れ尋ねる。

 普通のお嬢様なら冒険者向けの古物屋には興味なさそうなのだが、リリーさんは少し変わったお嬢様みたいだしなぁ。


「え? ええ、ええ。ええーと、ここの店主は非常に良い目と鑑定をお持ちで、とくにズィムリア魔法国中期から後期にかけてのものにはかなりお詳しいので、よく利用させていただいてまして、今日もその商品を引き取りにきましたの。実はわたくし歴史――とくにズィムリア魔法国後期の歴史が好きでして、その頃の資料を集めるのが趣味ですの」

 滅んだ国の歴史的資料集めとはなんともお金持ちらしい趣味である。

 そしてこの店の店主がズィムリア魔法国のものについて詳しく、良い目と鑑定を持っているのは先ほどのやりとりで何となくわかった。

 言われてみると店に置かれているものはズィムリア魔法国の中期から後期のものが多かったな。

 それにしてもズィムリア魔法国か……最近その名をやたら耳にするような気がする。いや、高ランクのダンションに暫く籠もっていたせいか。


「へぇ、そうなのか。先日までオルタ・ポタニコのAランクのダンジョンに籠もっていたけど、十五階層でズィムリア魔法国中期終盤の城が見つかったんだよな。色々歴史的発見はあったけど、それが証拠品として回収できるものじゃなくて目撃情報だけで終わっちまったから、記録には不確定情報として残るかもしれないが、表には出て来ないだろうなぁ」

 その城を見つけたのは俺なんだけどな! えっへん!

 そして別に機密事項でもないし、もう公表はされている情報なのでペラペラと話しても問題はない。

 物的な証拠が何も残っていないせいで、正確な情報として表に出せないのが非常に惜しい。

「ふ、ふぇ!? かのダンジョンの十五階層のお話は伺っております。発見されたのもグランさん達ということも。その辺りの噂は耳にしましたが、できれば詳しいお話をお聞かせくださいまし! くぅうううううう……そういえば影のお姉様が飼育員様とは別行動だったと……、あ、いいえいえいえいえいえちょっと独り言がっ!」

 リリーさんのテンションがメチャクチャ上がってしまった。


 あの階層を発見したのが俺達のパーティーであるという情報が、すでに耳に入っているようでさすがである。

 この感じからしてリリーさんは相当の歴史好きなのだろうか?

 前世にもいたようなぁ、歴史好きな女子。世界史派、中国史派、日本史戦国時代派、日本史近代派……おっと、うっかり転生開花を使ってしまった。

 俺も歴史はわりと好きだったなぁ。修学旅行で刀とか十手とか買った買った……アーーーーーツ!! 余計なことまで思い出させるんじゃねえええ!!


「ああ、物的証拠は残ってないから信じるか信じないかは任せるよ。俺が見たのはガーランド王のメイドだったっていうガーゴイルちゃんかな。アベル達はビブリオに引っ張られてそのガーランド王の日記の中に引き込まれたんだ」

 ガーランド王がラグナロックだというのは話してもいいのだが、突拍子がなさ過ぎて話を盛っていると思われそうだなぁ。

 だがあそこの階層の調査が進むとズィムリア魔法国の王が古代竜だったという証拠が出てくるかもしれない。そうするとガーランド王=ラグナロック説も真実味を帯びてくる。

「ええ! ええ、ええ! ガガガッガガガァーランド王!! ああ、推しです! 最推しです!! 詳しくその話を聞かせていただけますか!? その話を聞かせていただけるならキルシェさんの服のデザイン料と工賃は無料にいたしますわ!!」

 ふおっ!?

 しょうがないなぁ……現場を見て来た冒険者の話をじっくり話すとするか。


 何だ、ナナシ? 何カタカタしてんだ? そういえばお前もズィムリア魔法国時代の剣だといわれていたな。

 ご大層な剣のようだが、テメーの反動はしんどいから使ってやらないからな!!

 ショボーンしても知らねぇ。

 今はとりあえずリリーさんに俺が知っているガーランド王の話をして、可愛くスタイリッシュにそして機能的なキルシェ用の服を作ってもらうの!




お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
リリーさん、推し(アベル)の中に推し(ラグナロック)が居るって知ったら尊すぎて逝きそう…
[一言] なんだかんだ律儀に相手して仲いいな、グランとナナシ
[良い点] まさかの遭遇。リリーさんがキルシェを知ってたのは、姫様を受け入れる関係で知ったのだろうか。 というかサラッとアベグラ&キルシェ(おめかしVer)のモデルの約束を取り付けるとは、やはりこの…
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