三人寄れば
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「これはまさにカレー……いえ、スパイシーではありますが癖が強すぎず食べやすいバランスですね。スパイスの生産地辺りで食べられているものは、かなり尖った味わいなので好き嫌いが出そうですが、このバランスの方向性なら広く好まれるのではないかと。しかしやっぱり米がネックになるので、そこはリュにするか、リュを使った麺類、もしくはナッ……パン系……いえ、でもカレーに合うパンとなると専用の窯が必要になりますね。ううん、パンは別の場所で製造するという形にして……そちらではパン屋……カレーパンもそちらでという手も……。いえ、それよりもちょっと食べ過ぎて……ウッ」
できるだけ色々な種類を食べてもらおうと量は少なめにして色々出してみたのだが、女性のリリーさんには少しきつかったようで、考え込みながらお腹をさすっている。
「大丈夫かい? 無理はしない方がいいと思うぞ」
「いえ、まだカレーライスの食べ比べと、コロッケしか頂いてませんし。それにまだリュもありますから」
先に試食した分とは別に米ではなくリュも試してみようとリリーさんがリュを炊いてくれて、この後そちらも試食する予定なのだがリリーさんはすでにお腹が苦しそうだ。
リヴィダスやシルエットのような戦うお姉様方がもりもり食べるので、すっかりその感覚に慣れていたが、普通の貴族令嬢様は食は細そうだよなぁ。
リリーさんは体の線も細いし、とても小食そうである。
「少し休んでからにするかい? 苦しかったら無理はしなくていいよ。食べ過ぎに利く薬草もあるから必要なら言ってくれ」
今日はとくに予定もないし、時間はまだ昼前なので無理に急いで食べる必要もない。
「ほほほほ、お気遣いありがとうございます。でも少しだけ失礼させて頂ければ大丈夫だと思いますわ」
リリーさんが席を立ち、厨房の奥の棚から紙の束とペンを取り出してきた。
「ああ……」
そういえばリリーさんは魔女だったな。
魔女とは魔法に高い適性と高い魔力、そしてユニークスキルを持つ女性のことを言う。
リリーさんのユニークスキルらしきものは、以前図書館でテロ事件に巻き込まれた時にチラリと見たのを覚えている。
紙に描いた絵がゴーレムとなって動き出すスキルだか魔法。
紙とインクを使った付与かとも思ったがおそらくそうではなく、あれがリリーさんのユニークスキルではないかと思っている。
そして魔力を使えば腹が減る。
「少し騒がしくなりますがご了承を」
リリーさんがサラサラとペンで紙に何か絵を描いている。
それを描き終わりリリーさんが紙に手を当てると、絵の描かれた紙がくしゃりと変形して描かれたものの姿になる。
にゃーん。
紙でできたそれは鳴き声など出さなかったが、俺には鳴き声が聞こえた気がする。
「ネコちゃん!」
「あぁ~、グランの動物好き病が発動しちゃったよ」
うるせぇ、ネコちゃんだから仕方がないんだよ。
「あら、猫がお好きでしたか?」
「ああ、懐っこい動物はだいたい好きだな」
「動物だけならいいんだけど、グランの場合魔物や虫もだからねぇ」
うるせぇ、いつの時代もどこの世界でも可愛いは正義なんだよ。
「邪魔でしたら店内にでも放しておこうと思ってましたが、ではグランさんの方へ」
リリーさんが命令をしたのか紙のネコちゃんがタタタッと俺の方へ走ってきてピョンと膝の上に乗って丸くなった。
うおおおおおおお……猫だ!! 紙でできているけれど猫だああああ!!
「うっわ、動物どころか紙でもいいんだ……」
うるせぇ、紙だけれど可愛いネコちゃんじゃないか。
「ふふふ、魔力を使えばお腹も空きますし、こうしてちょっと紙のゴーレムを作って魔力を消費させていただきますわ」
リリーさんがサラサラと二匹目のネコちゃんを描き始めた。
なんだ、ここは天国か。
「甘い方はリュよりもコメの方が合うけど、これはまだまだ味の改良の余地がありそう。コロッケはイモが多いから辛い方くらいでちょうどいいかな? それとこのラッシーって飲み物、これカレーにも合うけどそのまま単品でもわるくないよね。果物を一緒に入れるのはどうかな?」
にゃーん、にゃーん、にゃーん。
「そうですね、リュはコメに比べ香りが強いですし、なんならリュそのものにスパイスで味付けしてもいいくらいですから、甘口より少し辛いくらいが合いますね。コロッケはパタイモでかさ増しされる分カレーの、スパイスの使用量を抑えられるので値段も手頃にできそうですね。こちらはカレーパンと合わせて持ち帰り用のメニューにもできそう……そうですね、店の一角に店の外からコロッケとパンを買える持ち帰り専用のカウンターを設けるのはどうでしょう。カレーの匂いで客寄せにもなりそうですし」
にゃーん、にゃーん、にゃーん。
「売り方はそれでいいと思う、カレーの味はコストと手間と相談しながら調整だね。スパイスの種類の少ない方の味をもっと詰めていくのがいいかな? もう片方のスパイスの種類が多い方、これは別口でとことん材料にこだわって貴族向けの店でやるのもありかな。って、グラン聞いてる?」
にゃーん、にゃーん、にゃーん。
「ああ、うん一応聞いてるにゃーん」
にゃーん。
ネコちゃんがいっぱいいるから仕方がない。
リリーさんが試食をしてお腹がいっぱいになる度に、魔力消費のために紙ゴーレムのネコちゃんを出していたせいで、俺はそのネコちゃん達に囲まれて超ご満悦である。にゃーん。
「く……尊い……」
リリーさんが俯いてため息を漏らしている。
大丈夫? またお腹いっぱいになった? 魔力消費にネコちゃんだしてもいいよ?
俺の膝の上、肩の上、更に頭の上まで紙のネコちゃんがわちゃわちゃと乗っている。
カサカサとしか言わないネコちゃんだが、俺にはこのネコちゃん達の心の鳴き声が聞こえているぞ。にゃーん。
「スパイスが三種だけなら、アッピはすでにユーラティアでも生産がされていて、コリアンダーはユーラティアの環境でも育つ、問題はターメリックか。冬でも暖かい日が多い場所で尚且つ乾燥していない地域じゃないとターメリックは難しいかもしれないな」
「それでしたら、うちの実家の領や近隣の領地がまさしくそれですね」
「でもあの辺ってすでに耕作地帯として安定してるよね? そこに新しい作物を入れる余裕はあるの?」
気候が合う場所があっても、新しい作物の栽培を受け入れてくれる農家があるかどうかの問題。
「実はですね、オルタ・ポタニコで食材の豊富なダンジョンが見つかった影響で、オルタ辺境伯領周辺の農業事情に大きな影響がありそうなんですよ。オルタ領は元々あまり耕作に向いていない土地で、農作物は周辺の領に頼ってましたでしょ? うちの実家もそうですけどオルタ辺境伯領と接している領は、何かしらそちら向けの農業をやっているのですよ。ですから食材ダンジョンの影響でその農業のいくらかは、この先方針を転換しなければならなくなると予測しておりますの」
ああ、そういえばあのダンジョン、ものすげーでかい穀倉地帯の階層があって、あれをどうにか活用したいってドリーが言っていたよな。
あのダンジョンにはそれ以外にも薬草から果物、ラゴラ系、とにかくあらゆる食材があった。
あれの活用が始まると、オルタ辺境伯領が他所の領に頼っていた農作物を自領でも賄えることになる。となると困るのは今までオルタ辺境伯領用の農作物を作っていた領地の農家だ。
あっ!
チラリとアベルの方を見るとアベルも頷いた。
「技術的な問題や、農地の状態、農家の人達のこともあるけど、食材ダンジョンの影響で農家が転換期を迎えるなら、コメやスパイスを始めとした新たな農作物に徐々に切り替えていくチャンスでもあるね。食材ダンジョン内で採取できる農作物は収穫や持ち出しにまだまだ課題があるから今すぐどうこうではないけど、オルタ辺境伯の行動力を考えるといずれあのダンジョンの農作物を活用する計画を実現するだろう。そうなってから周辺領地の農家が方針転換するのは遅すぎる、今から転換を考慮した動きを始めるのがいいだろうね。ね、この話プルミリエ侯爵は何て言いそう? リリーさん説得できそう?」
あ、これは俺が首を突っ込むところのない話だ。にゃーん。
「そうですね、どちらにせよオルタ向けの農業は転換が迫られることになるので、新たな農作物の試験期間も考えて早めに対処をしなければいけませんからね。そうですね、お父様とお兄様にはその線で話してみましょう。実はスパイス系の作物の栽培は以前から少しずつ始めていたので、こちらはすんなりいくと思います。問題はコメですか……、知識はないことはないのですが……ううん、やはり原産地で実物を見てみないことには……それ以前にコメを食べるという文化が……うーんうーん」
ああ、リリーさんもお悩みモードに入ってしまったにゃーん。でも俺は難しいことはわからないにゃーん。
「スパイスへの切り替えはあまり問題なさそうだね。しかしコメか……これはまずは高級品として金持ち階級にカレーと一緒に認知度を上げて、受け入れられるようなら国内で栽培する農家も増やすことができるかもしれない。コメを使ったカレーを貴族向け、リュを使ったものや、カレーをアレンジしたものは庶民向けの店を中心に展開という形でもいいね。とりあえず、グランにカレーに使うスパイスで主要なものを書き出してもらおうか」
「にゃーん」
あ、間違えた。
「ふぇ!?」
ネコちゃんに囲まれすぎて至福のあまりついにゃーんとか言ったせいで、リリーさんに驚かれたようだ。
ごつい男がにゃーんとか言ってすまん。にゃーん。
「えっと、ああ必要な素材ね。うん、書き出しておくよ」
「うん、お願い。じゃあ俺とリリーさんは材料の確保について詰めていこうか」
「そうですね、カレーでしたらメニューのアレンジの幅も広いですので、材料確保方法とコストと照らし合わせながら展開する商品を考えていきましょう」
アベルとリリーさん達は難しそうな話になりそうだな。
俺は心を無にして必要な素材を書き出していこう。難しいことは頭のいい二人に丸投げだ。
……ついでに俺が個人的に欲しいものもこっそり書いておこうかな。
お読みいただき、ありがとうございました。




