カレー曜日
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「コリアンダーとクミンを一だとしたら、カルダモン、クローブ、シナモン、ターメリック、アッピがその三分の一ずつ」
アッピは前世でいうカイエンペッパーに近い風味のスパイスだ。
カレーのスパイスは難しいことは考えない。コリアンダーとクミンを一だとしたら、他はその二分の一弱から三分の一程度。今日は使うスパイスの種類が多いから三分の一でアッピだけはそれより心持ち少なめ。
このアッピの量で辛さを調整することができるが、カレーらしい風味の素ではあるのでなしにはできない。甘口にしたい場合アッピを適量入れた上で、果物や甘い食材を足すのが無難で味に深みも出る。
追求を始めるとカレーに使いたくなるスパイス数は非常に多く、その配合で味が大きく変わり、具材との相性もあるのでカレーの沼は非常に深い。
だが、なんとなくカレーっぽくなる配合は、コリアンダーとクミンを中心に覚えておけばだいたい間違えない――というのは前世の俺の記憶である。
なんで俺前世でカレーをスパイスから作っていたんだ?
多分暇を持て余した独身生活だったんだろうな。まぁそのおかげで、転生してもカレーが作れるわけなのだが。
ありがとう、前世の俺。ありがとう、転生開花。
……く、なんだろうこの悔しさとやるせなさ!?
グツグツとカレーの具を煮込んでいる鍋の横で、間違わないように言葉に出して確認しながらスパイスを小皿に用意していく。
俺のカレーの作り方は材料の野菜と肉を鍋で煮込みながら、フライパンでカレーペーストを作って最後に混ぜ合わせる。
簡単だし失敗もしにくい。前世にあったカレー作りのチートアイテム"カレールゥ"を使った作り方に寄せた作り方だ。
みじん切りにしたタマネギを中火でジワジワと濃茶色になるまで木べらでかき混ぜながら炒める。色が濃くなっても絶対に焦がしてはいけないので、なにげにこの作業は気疲れがする。
色が濃茶色になってきたら、摺り下ろしたニンニクとショウガを入れ、赤ワインを少し足して様子を見ながら焦がさないように更に炒める。
材料が馴染んできて生っぽさがなくなってきたら、水煮にしたトマトをボン。トマトを木べらで潰しながら更に炒める。
水分が飛んでペースト状になったら火を弱火にして、先ほどのスパイスを加えじっくりと混ぜ合わせて、最後に塩で味を調えてカレーペーストが一旦完成。
カレーの味が一種類だけならこれだけでいいのだが、俺が辛い方が好きでアベルは甘い方が好きだし、三姉妹達も辛い派と甘い派で別れるので、ここでカレーペーストを半分に分けて片方には摺り下ろしリンゴとハチミツとヨーグルトとを加え甘いカレーに変えていく。
もう一方の方には、辛さに深みを付ける隠し味に野菜で作ったソースと醤油を少々入れて、こちらはアッピを少し足す。
後は鍋でグツグツしている具材を半分に分けて、それぞれに出来上がったカレーペーストを入れて煮込めば中辛と甘口のカレーの出来上がり。
本当は一日寝かしておきたいところだが、今回はまぁいいだろう。
今日のカレーは食材ダンジョンにいた燃えさかる牛君ヴォルケニックルーラー君の肩肉を使った正統派ビーフカレーだ。
肉以外の具材はタマネギとニンジンとキノコが色々。これに加え色々な野菜を茹でたり素揚げしたりで後載せする予定だ。
イモ系一緒に煮込むより素揚げにして後から入れるのが俺の好みなのだ。
ははは、料理の主導権は作る者にあるのだ!!
たくさん作ったから残ったらコロッケかなぁ。寸胴鍋二つ分だからストックもできそうだな。
カレー作りが一段落して台所の窓から外を見ると、そこから見える景色から夕方の気配がした。
「カーーーッカッカッカッカッ!」
中辛の皿と甘口の皿を目の前に並べ、左右の前足に一つずつ持った小さなスプーンを使ってそれを交互に食べ比べているカメ君が、テンションを上げまくってテーブルの上で面白い声を出している。
カメ君はカレーが大好きだもんなー、残ったやつは一晩寝かせた後にコロッケにしておくからね。
「相変わらずこのカレーって料理は、スパイスの香りがすごくて食欲が刺激されるね。なによりニンジンが入っていても気にならないのがすごい。グランはこれをレストランで出したいんだよね?」
「ああ、スパイスは四種……いや、三種でもいける。ユーラティアであまり見ないスパイスは二種だけだな、これならコストも抑えられるか?」
コリアンダーとターメリックさえなんとかなれば、アッピはユーラティアでも普通に手に入る。あとはニンニク、ショウガ、トマトがあればそれっぽくなる。
コリアンダーはその気になればユーラティアの気候でも栽培できるし、育て方もそんなに難しくない。一年草で成長も早く植えて放置していてもすくすく育ちまくるので、シランドルに行った時に種を買ってきてうちの畑にも植えてある。
ターメリックの方は多年草だが気温が低いと枯れてしまうので、ユーラティアの一般的な気候だと植えっぱなしだと冬が越せない可能性が高い。
スパイスそして米の壁をなんとか乗り越えて、アベルがやろうとしている商会のレストランでカレーをメニューに入れたいのだ。
いつかカレーが広まって気軽に色々な味のカレーが食べられるようになるといいなぁ。いや、俺が知らないだけでカレーのようなものは、世界のどこかにあるかもしれない。
アベル商会の場所がソーリスなら、シランドルからものを取り寄せやすい場所なのも好都合だ。
しかし米はやっぱ遠いなぁ。カレーライスがダメならカレーパン、カレーコロッケ、カレーうどん……あっ! うどん! うどんもあるな!!
いや、そもそもカレーと相性のいいものは多い。米がダントツかもしれないが、他にも組み合わせはたくさんある。
「グラン? 一人でブツブツ言ってるけど何か思いついたり考えていたりするものがあったら、ハッキリとした形じゃなくてもいいからメモに残しておいてね? 一人で考えるより俺やリリーさんも一緒にも相談してくれた方が遠回りしなくて済むかもよ?」
「ああ、そうだな。米がやっぱ難しそうだから、米を使わないメニューを考えていたんだ。そういえば明後日リリーさんとまた打ち合わせだったよな? 明日、思いついたものを試作してみるかなぁ」
確かに材料の確保は俺が一人で悩むより、アベルとリリーさんに相談して貴族パワーに頼る方がいいな。
俺にできることは、コストを押さえて安定した味を提供できるメニューを考えてレシピを纏めることだ。それも誰かに相談しながらの方がひらめきがありそうだから、一人で考え込むのはやめよう。
「そうだね、試作するなら俺も付き合うよ」
「それはつまり試食役をするということではありませんの?」
ウルが鋭い。
「この試食はグランと一緒に商売をするため、商品の研究だからカレーが食べたいから手伝うわけじゃないよ。仕事の一環だよ仕事の」
「あら、そういうことなら私も手伝おうかしら?」
ヴェルは明らかに試食がしたいだけだろう?
「そういうことでしたらぁ、私もお手伝いしますぅ」
「うむ、伊達に長生きはしていないから、参考になる意見が出せると思うぞ。亀の甲より年の功と昔出会った人間が言っていたな」
「カッ!? カカカカカカッ! カーーーッ!!」
クルとラトも参加してきた。
ラトのその言葉は前世でも聞いたことのある言葉だな? どっかで転生者が持ち込んだのか?
そしてラトがそんなことを言うから、カメ君が煽られたと思ったのかメチャクチャ抗議しているように見える。
「カメ君も手伝ってくれるかい?」
「カカッ!」
もうこれは全員参加の流れである。
これは明日のお昼ご飯はカレーを使った料理の試作品かな!?
お読みいただき、ありがとうございました。




