戻って来たスローなライフ
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「ふああああああ……」
「グランさん眠そうですね。王都でキルシェがご迷惑をおかけしたのでしょう? 迷子になったって言っていましたし」
昼飯時になり客がいなくなった店内、ぽかぽかと暖かい日差しに眠気を誘われ大きな欠伸を漏らした俺に、巨乳美人のアリシアがカウンターから声をかけた。
王都から帰ってきた翌日、俺はパッセロ商店に来ていた。
うっかり忘れかけていたのだが、今日はパッセロ商店にポーションを納品して、店の片隅で俺のコーナーをやらせてもらう日だったのだ。
昨日の夕食の後になって思い出して、大急ぎでポーションやアクセサリーを作っていたら、真夜中を過ぎていたよね。
そのためあまり睡眠時間を取れぬまま、朝からパッセロ商店に来ていた。
く……、王都から戻ったらしばらくのんびりするつもりだったが……今日一日頑張って明日からのんびりだな!!
明日からのんびりするんだ。
今日は気合いで頑張ろうとパッセロ商店の片隅で、常連さんにはすっかりお馴染みになってきた俺のコーナーで、手作りアクセサリーの対面販売。
ごめんね、ちょっと今日はお疲れモードで気怠い表情になっているかもしれない。
俺のコーナーで売っているものがやや女性向けのものであることと、パッセロ商店の客層というかピエモンという町の人口比率のせいか、俺のとこにやってくるお客さんは俺より年上のお姉様達が多い。
そのせいかお疲れモードで表情が気怠そうになっていると思われる俺に、優しい気遣いの言葉をかけてくれる人が多い。
ああ、年上のお姉様達にとても癒やされる~。来週はシャキッとしたグランに戻るから今日は許してね。
プロの接客業の人から見たらあり得ない接客なのだろうが、俺は接客は本業ではなくてただのなんちゃって職人だから許してくれ。
そんな気怠い午前をなんとか乗り切って、今週の俺のコーナーも終わりの時間。つい気が緩んで店内で大きな欠伸が出てしまった。
お客さんもいないので、そんな俺の醜態をアリシアも笑顔で許してくれる。
今日はキルシェとパッセロさんは仕入れに出ているようで、アリシアが店番をしている。
午前中は奥さんのマリンさんは家事もしなければいけないので時々しか店に顔を出さないが、大丈夫だ、アリシアにスケベな視線を向ける奴は俺がちゃんと威嚇しておいたぞ!
「ああ、キルシェと逸れてしまったのは俺が目を離してしまったから……結果、無事に合流できたがホント申し訳なかった」
「いいえぇ、キルシェが自分でフラフラと動いちゃったみたいですし、こちらこそご迷惑をおかけして申し訳なく」
「いやいや、逸れた時はヒヤッとしたが結果的にその流れで家出令嬢を保護できたからな。それはキルシェの機転と行動力のおかげだな」
キルシェと逸れてしまったのは俺の迂闊さなのだが、あそこでキルシェと逸れて、キルシェがあの令嬢を助けていなければ、彼女は破落戸に誘拐されていたかもしれないからな。あの家出令嬢が無事に保護できたのはキルシェのお手柄である。
ご令嬢とすっかり仲良くなっていたみたいだし、なんというか結果良し? 怪我の功名?
「ええ、王都でお友達ができたと昨日帰ってきてからずっとその話をしてましたね。それで張り切っちゃって、今日も父さんについていったんですよ」
「ははは、同年代の友達ができてお互いに感化しあって、目標に対してモチベーションが上がったんだろうな」
気の合う同年代の友人ができるとお互いに良い刺激となり、はっきりとした目標が見えやすくなってやる気も出てくる。
俺もアベルと一緒に行動するようになってからはそんな感じだったかなぁ。
アベルは俺より二つ上で、性格も戦闘スタイルも全く違うが、それでも自分に近い年齢の友人がメキメキと成長していくのを目の前で見せつけられると、焦りと共に刺激にもなった。
それに何より気安く話せる友人というのは、無意識のうちに心に余裕を与えてくれる存在だ。
多少面倒くさい奴ではあるが、アベルとの付き合いがなかったらもっと早く王都を離れていたかもしれないな。
いいや、アベルとの縁があったからドリー達との縁が繋がり上には上がいるということを身近に感じて、驕ることなく自分の能力と向かい合えたのかもしれない。
キルシェとセレお嬢様がお互いに良い影響を与えあえる縁になればいいなと思う。
だがそれは張り切りすぎて浮かれてしまう原因にもなる。
そうだなぁ、今思えば俺とアベルも結構無謀なこともして、周りの人に迷惑をかけたからなぁ。とくにドリーにはいっぱい怒られたなぁ。
アベルがチートなので事なきを得たが、普通に危ない場面も多かった。
うむ、キルシェが張り切りすぎて危ないことをしないように、先輩冒険者としてなだめることも必要だな。
「そういえば、キルシェがグランさんのところに武器の扱いを習いに行くと言ってましたが、ご迷惑じゃないですか?」
「ああ、問題ないよ。どうせ俺自身も鍛錬をするし、家にいる時は時間の融通は利くし、俺に教えられることを教えておく方がキルシェの安全にも繋がるからな。それにその日はうちの手伝いもしてくれることになっているから、俺も助かるんだ」
そう、週に一回くらいのペースでキルシェが俺のところに武器の扱いを習いに来ることになったのだ。
冒険者ギルドでも武器や魔法の基本講習はしているが、それよりもっと実践的でキルシェに合わせた武器の扱い方を教えるつもりだ。器用貧乏のギフトのおかげでだいたいの武器が扱えるので、誰かに教える時は非常に助かる。
魔法はアベルや三姉妹にお任せだな。
俺が武器の扱いを教える代わりに、キルシェにはうちのことを手伝ってもらうことで取り引き成立。
最近やることが増えすぎて家のことが疎かになりがちになってしまっている。週一でもキルシェが畑やワンダーラプターの世話を手伝ってくれるのは非常に助かる。
今日も帰ったらカレーを作らないといけないし、その前に冒険者ギルドに顔を出して楽そうな依頼だけ受けて帰って、明日以降に消化するかなー。
あー忙しい忙しい。
気怠い午前中が終わってパッセロ商店を出た後は冒険者ギルドに依頼だけ受けて帰るつもりが、ギルド長のバルダーナに捕まって樹の育て方を根掘り葉掘り聞かれて時間を食うことに。
そんな大雑把な聞き方をされても答えようがないよ! せめての樹の種類を教えてくれ!! 知らない樹って何だ!?
何でもいいから樹が育ちそうな肥料をくれ? 普通のスライムゼリー系の肥料なら? そうだ、鶏糞ならぬラプター糞もあるぞ?
ワンダーラプターも大きな括りで見れば鳥に近い竜だからだいたい鶏糞。え? 大雑把すぎる? 懐の広い男だと言ってくれよぉ!
ワンダーラプター達がうちに来て半年が経つからな、ラプター糞の発酵も終わっていい感じの肥料になっているぞ?
ワンダーラプターは一応亜竜種だし、スライム系の肥料よりも効果が高いよ、多分。
うん? それでいい? じゃあここで出していい? あ、袋ある?
え? 収……マジックバッグにそのまま突っ込んであるから? なんで袋に入れないでそのまま入れたかって? 袋に入れるのが面倒くさかったし、使う時はマジックバッグからそのままばら撒けるから? なんというか効率化ってやつ?
大丈夫、食品とは混ざっていないから……、多分。
ほらいざとなったら攻撃にも使えるし? え、使うな?
まぁ臭いし、肥料になるものをぶちまけるのはもったいないからやらないよ。
うん、袋を用意してくれたら入れておくよ。
解体場に行って素材を詰める袋を貰って入れておいてくれ?
ええ~、めんどくさ~い。ここで出しちゃダメ? やっぱダメ? ですよね~!!
代金は次に依頼の報酬受け取る時に纏めてでいいよ!!
まけない! 王都で散財して金欠なの!!
お読みいただき、ありがとうございました。




