一難去ってまた一難
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「ェアッ……アベル!! おにぃ……ふぉっ!?」
こちらに向かって来ているのは五人の騎士達。その先頭を走っている白銀の騎士さんが、その途中で突然こけた。
あ、床が濡れていたのね、ドンマイ!!
見覚えのある銀色の鎧に赤い房付きのクローズドヘルム。
あ、昼間の騎士さんだ! 一緒にいるのは昼間の部下さんかな?
昼間からずっと働いているのかなぁ? ご苦労さまです!!
「これはこれは、第三騎士団のえぇーと何番隊の隊長さんだったっけ? わざわざ来てくれたみたいだけど俺とグラン、あとこのチビカメで片付けちゃったよ」
「二五番だよ! ちゃんと覚えて!! 不審な人物が紛れ込んでいると報告があってこちらに来たのだが、現地に来てみれば会場に魔物が出てアッベルが対応していると聞いてね。俺達の部隊は人も魔物の対処もするからね。でもいいところを赤……ごにょごにょ。あっ、それより防具もなんもなしで魔物と戦うなんておにいちゃ……ぶおっ!」
一度こけたがすぐに起き上がってこちらに向かって来ながら、アベルと話していた白銀の騎士さんがまたこけた。なんだまた床が濡れていたのか、ついてない人だな。
って、不審な人物ってもしかしておチヨちゃんのことだったりする?
そうだよね、席に入る時はいなかったのに、いつの間にか増えていて一緒に避難したし? あれ? でも避難したのはつい先ほどだし、もしかしてその前からバレてた!? 一度中を覗かれた時!? やっぱあの時に見られていた!?
どうやって言い訳をしよう!? 妖精ちゃんでしたーで許してくれるかな!? そうだ、難しいことはアベルに丸投げしよう!!
魔物処理のために駆けつけたのは昼間に旧市街地を一緒に走り回った白銀の騎士さんとその部下さん達だった。
どうもー、ご縁がありますね?
舞台の上から軽く会釈をしておく。ていうかアベルと知り合いっぽい?
王都の騎士団はいくつかに分かれていてそれぞれで担当が違う。
第一は王族の専属部隊でいわゆる親衛隊。第二は王城担当。第三が城下町担当。第四とか第五もあるけれどなんだったかな、品行方正な俺は騎士にお世話になることなんてないのであんま詳しくないんだよね。
広い城下町を担当の第三騎士団は騎士団の中でも最も規模が大きく、部隊数も多い。城下町で起こった事件は、だいたいこの第三騎士団が担当になり、人同士のいざこざから侵入してきた魔物の処理まで幅広くトラブルの対応をしてくれる王都の守り神だ。
城下町でよく見かけるため、王都に住む庶民が最も身近に感じるのがこの第三騎士団である。
二五番隊ってどういう部署だったっけ? 確か一桁台の隊が貴族専門で十番台の隊は城下町の警備をしているイメージがある。
二十番台ってなんだろう? うーん、わかんないや。さすが城下町担当、部隊の数も多いんだなぁ。
「ここを片付けている間に、何があったか詳しく聞かせてくれるかな? 魔物は倒しちゃったみたいだからどんな魔物だったかと、そこに倒れてる男のこととか。あ、ちょっと部下に指示を出すから待ってね。そこの君達は周辺のチェックとそこらに転がっている魔物の肉片や血液の採取、それから倒れている男の救命処置」
舞台の上に上がってきた銀色の騎士さんがてきぱきと部下の騎士さんに指示を出すのを聞きながら倒れている男に視線をやる。
リュウノナリソコナイの肉塊が崩壊してできた血だまりの中に倒れる男、その姿はだいたい人間である。
だいたい人間――つまり全てが人間ではないのだ。
最も目がいくのは人間のそれではない顔。
リュウノナリソコナイがまだトカゲの姿をしていた時に体表を覆っていた鱗、それが顔のほとんどを覆っており、顔の造形も人間というより人間とトカゲを足して割ったような感じだ。
閉じられている目は眼球の大きなトカゲのよう。口と鼻のあたりも人間の頭に無理矢理トカゲのパーツを嵌め込んだような形である。
体はだいたい人間なのだが、ところどころ鱗のようなものが張り付いている。
そして尻尾。
リュウノナリソコナイの肉塊から引っ張りだしたものの、男の尻の上部からはトカゲの尻尾がニョロリと生えていた。
トカゲ男といえばトカゲ男なのだが、ルチャルトラで見かけるような一般的リザードマンとは全く違う。
なんというか人間とトカゲ系の竜が混ざったような、中途半端に合体させたような印象である。
なり損ないの竜というかなり損ないの人のようである。
色々気になることはあるが、騎士隊が来たからこの場はもう騎士隊にまかせて俺達は一般人に戻ろう。
たまたま、事件現場にいて面倒くさい魔物をやっつけたヒーロー冒険者!! ちょっとオークション品を拝借したけれど、この場を制圧したことでチャラにして?
あれ? 魔剣君、リュウノナリソコナイを倒したら魔力チューチューはやめてくれた? だんだん色が黒くなってきてるね? そろそろ俺の手から離れてくれるかな?
あっ! 離れるかと思ったらまたピッタリくっ付きやがったというか、剣を握る手が開かないぞ!! ふざけんな、この野郎!!
魔力はチューチューするし、敵を切れば精神ダメージがすごい声が聞こえてくるし、それと連動して体も痛いし、しかも高そうだし、絶対にいらないよ!!
そういうのが好きなドMさんに買ってもらって? きっと可愛がってくれるよ?
ああああああーーー、離れろーーーー!! 俺は収納スキルに入らないものは持ち歩きたくないの!! こんな長い剣はいらないの!!
ふおおおおおおおお!? 長い剣は持ち歩きたくないと思ったら短剣サイズになったぞ!? これなら元の剣と全く違うからパクッてもバレな……いやいやいやいやいや、こんな物騒な剣はいらないよ!!
おいこら! 鞘とベルトにぶら下げる器具まで付けてアピールしてもだめだぞ!! 剣のくせにションボリしたオーラ出してんじゃねえ!!!
「グラン、何してるの? なんでその剣の形が変わってるの? 何をやったの? 究理眼を使わなくても俺にはわかるよ、その剣絶対に性悪剣だよ!」
「わかる、すごく粘着質な押しかけ剣な気がする。あっ! 勝手に手から抜け出してベルトにぶら下がってんじゃねえ!! さも最初からそこにありましたってオーラを出ししてんじゃねえ!!」
手から外れてくれたのはいいのだが、小型のナイフ状になって勝手にベルトにぶら下がられてしまった。何なんだこの剣!?
「やっぱ、魔剣だよね? グランのことを主だと思ってるよね? 生意気な魔剣だね。でも離れないものは仕方ないから、とりあえずここが片付いたら持ち主にコンタクトを取ってみよう。壊すのはそれからでもいいよね、ふふふふふふ」
「そうだな。とりあえず手から剣は離れたし俺達の知っていることを、騎士さんに話すか」
仕方ないで片付けないでほしいところだが、今はこの状況を騎士さんに説明するのが先だ。
リュウノナリソコナイの残骸と謎の男が転がっている傍らで、てきぱきと部下に指示を出している白銀の騎士さんの方へと振り向く。
部下の騎士さんは指示された場所に散って作業を始めている。
「騎士さーん、事情の説明したいんだけどぉ、そろそろ大丈夫ぅ?」
アベルが白銀の騎士さんの方に近付きめっちゃタメ口で話しかけた。俺はその後に続く。
随分気軽に話かけているところを見ると白銀の騎士さんと知り合いのようだ。その白銀の騎士さん隊長さんだし、装備も高そうですごく身分が高そうな人に見えるけれど大丈夫? 貴族社会って身分には厳しいイメージがあるけれど、アベルと同じくらいの階級? それともアベルの方が上?
アベルは末端貴族の妾腹と聞いているが、多分そこそこ階級の高い家門の出身だと思っている。日頃からすごくいいとこのお坊ちゃん臭が出まくっていたし、ドリーの実家である辺境伯家のお屋敷にいっても、侯爵令嬢であるリリーさんの家門のお屋敷にいっても全く臆した様子がなかった。
庶民の俺は階級の高い貴族屋敷にびびりまくっていたが、アベルはさも当然のように落ち着いて振る舞っていて、高位の貴族とのやりとりに非常に慣れているように見えた。
「あ、ごめんごめん。じゃあ、事情をおにいちゃ……ごめんごめん、つい癖で」
白銀の騎士さんが話している途中で上から小さな灰色っぽいものが落ちて、クローズドヘルムに当たりカンッと小気味のよい音を立てた後、床へと落ちてコロコロと転がった。
何だネジか。
「ん? 俺は何もやってないけど? でも外では普通に喋らないと氷を落としちゃうよ、いや日頃から普通に喋って?」
何だ、この二人仲良しさんか?
「あれ? 今落ちてきたの氷じゃなくて――」
「ネジが落ちてきたみたいですね、ネジ……」
白銀の騎士さんのヘルムに当たった後床に落ちたネジを拾い上げる。
パラッ……。
細かい埃が落ちてきて、舞台を照らす照明に反射した。
「急いで舞台から離れろ!!」
「全員舞台からすぐに降りろ!!」
俺と白銀の騎士さんがほぼ同時に叫び、アベルが俺と騎士さんの間で視線を彷徨わせた。
直後、アベルの背を俺と白銀の騎士さんが押したのもほぼ同時だった。
脳筋二人に押されたアベルとその肩に乗っていたカメ君が落っこちるように舞台の下へ。
そして俺達の上には舞台の天井――照明装置や舞台の仕掛け等が設置されている金属の天井部分が音を立て崩れ落ちてすでに目の前まで迫っていた。
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