竜になり損なった者
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これからものんびりマイペースで更新を続けていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします!!
竜というよりもトカゲを押し固めたような肉塊が二つに裂けて崩れ落ち、気持ち悪くビクビクと痙攣しながら、傷口に近い部分からボコボコと蠢きながら溶けるように赤い血を吹き出してドロドロと床へと流れ落ちていく。
その肉塊の中からは先ほど生えて来た青白い腕がニュッと飛び出したまま、肉塊の痙攣に合わせて揺れており非常に不気味な光景である。
その手の生えている箇所に近い切り口の周囲は特に激しく痙攣し、切り口の肉が再生するのかしないのかボコボコと盛り上がっては溶けて血となって流れ落ちていっている。
リュウノナリソコナイから突如として生えて来た人の腕が気にならなかったわけではない。
ただこの状態から助けられるとは思わなかったから。助けられるなら助けてやりたいと思いつつ、その方法など思いつかず斬るしかないと思った。
生きているというより死ねないだけのような存在に、死という解放を与えてやる方がよいのではないかという傲慢な考え。
だが最後に聞こえて来た生への願望が、とどめを刺すことを選んだ俺の心にチクリと刺さった。
こいつの声だという証拠はないが、なんとなくこいつの声のだという確信のようなものがある。
その声を聞いてしまったせいだろうか、魔剣の反動だろうか、じくじくとした心の痛みがそのまま体の痛みとなる。
ナナシで斬った箇所から再生する様子はないが、ビクビクと痙攣をしながら切り口の周辺の肉がボコボコとする様子は、再生をしようと苦しんでいるようにも見える。
せめてこれ以上苦しまないようにと、再び剣を振り上げる。
慈悲なのか、ただの傲慢な考えなのか。それでも、助からないのなら苦しまない方がいいだろう。
またあの声を聞くことになるかもしれないが、あの声を聞き届けることにしたのは俺だから。
パックリと二つに分かれ、床に近い部分の肉が繋がっているだけの状態のリュウノナリソコナイに向かい再び剣を振り上げる。
まだかろうじて繋がっている部分の肉がボコボコと動き、溶けて血になるのか再生するのか見ただけではわからない。
そのすぐ近くには青白い腕。それをできるだけ視界の端に追いやりながら振り上げた剣を握る手に力を込める。
ボコッ!
「ふおっ!?」
まさに剣を振り下ろそうとした瞬間だったため変な声が出た。
ボコボコと肉が蠢き血が噴き出す切り口から嫌な音を立てて血の塊が吹き出した後、青白い右足が生えてきた。人の。
ふええ……すね毛が生えているのが妙に生々しい。腕も毛が生えているけれど、足ほどは目立たなかったせいであまり気にならなかった。
痩せ細っているが腕と足の長さ、そしてすね毛、いい年の男だろうなぁ……。手と足だけでは人間とは断定できないし、人型の生き物かどうかもわからない。
「うぇえ……、やっぱり人? それよりグラン、魔剣の反動は大丈夫? 汗だくになってるよ?」
「カァ……」
「ああ、肉体的にはそこまできつい反動じゃないから大丈夫だ。出てきたのは人の足ぽいけど、まだ人だとは断定できないな」
舞台端にいたアベルがパタパタと走ってこちらにやって来た。肩の上のカメ君もこのグロテスクな光景にため息をついている。
アベルもカメ君もこの状況に"なり損ない"という意味を察しているようだ。
ボゴッ!!
「うおっ!!」
「ふええ……」
「カッ!?」
足が生えて来た後もボコボコと蠢いていた切り口が更に大きく盛り上がり、今度は左足が。
勢いよく生えて来たため周囲に血が飛び散り思わず後ろに下がった。
あと、アベルは男がふええとかいっても可愛くないからやめろ。
左右の足は肉塊の切り口から並ぶように生え、ボコボコと血を吹き出しながらうねる肉塊の動きに合わせてユサユサと揺れている。
幸いなことに付け根は肉の中なので見たくない部分は見えないので一安心だ。
いや、一安心ってわけじゃねーな!?
「これやっぱり人? トカゲが再生しなくなって人が再生してる? それにこれは……」
この異様な光景を目の前に俺もアベルと同じことを思い始めていた。そして気付いたこと――アベルの表情からしてアベルもそれに気付いたようだ。
「沌の魔力が少し薄くなった気がする」
再生を繰り返し肥大し続けていたリュウノナリソコナイから感じる沌の魔力は、その大きさと比例するように強くなっていた。
アベルとカメ君がバラバラにして再生した時が最も沌の魔力を強く感じただろうか。それがこの魔剣で本体を斬った時から、リュウノナリソコナイの体から溢れ出る沌の魔力が少しずつ薄くなった。
二回目、大きく縦方向に斬り付け現在の状態になり、更に沌の魔力は薄くなった。
魔剣に斬られて弱ったから? それともこの魔剣がこいつの沌の魔力を弱めている?
サクッ!
答えを探すより先に、剣の先で肉塊を刺してみた。
ボコッ!!
腕が生えて来た。
少しの痛みと耳の奥に響く悲鳴、そして更に沌の魔力が薄れた気がする。
「沌の魔力は薄れていってるみたいだけど、それ魔剣だよ? 無理しない方がいいよ」
「ああ、さっきバッサリいった時ほどじゃないから問題ない。よくわからないけど、戻せるかも?」
こいつが竜になり損なう前に。
もう一度刺すと骨と皮のように痩せた右の肩から胸が肉の中から出てきて右腕と繋がった。
その胸は僅かだが上下している。これは助けることができるかも。
「グラン、このトカゲの部分まだ動くから気を付けて」
「カカーッ!」
肉塊の中から現れる人の部位に気を取られていたら、まだ動いているトカゲの部位が近くでブンブンと無造作に振り回されている。
それをアベルが氷魔法で凍らせ、カメ君が水の縄で拘束する。
「わりぃ、助かる。とりあえずこの人みたいなのを肉塊から掘り出せるかやってみる。会話ができる奴なら何だってこんなのがここに入ってきたのか聞けるかもしれない」
「この人っぽいのが生きてたとしても、この状態から助かるかわかんないし、人間かどうかも微妙だし、危なそうだったらすぐにとどめを刺すからね」
「ああ、わかってる。だけどやれるとこまでやってみるよ」
あれだけ無茶苦茶な再生を繰り返した後だ。
もしこいつが竜になり損なったナニカなら、その元の存在は生命力を削られまくって、元の姿に戻ったとしてもその先どれだけ生きられるかはわからない。
だがそれでも、少し余計なお世話をしたいと思った。
――普通に生きられたら。
その言葉が妙に頭の中に残っていた。
「何とか掘り出せたけどこれは……」
「なかなかしぶといね、一応生きているみたいだよ」
「カメェ……」
アベルとカメ君に援護してもらいながら、魔剣ナナシでサクサクと肉塊状態の部分を刺し続けた。刺す度に竜になり損なう前の元の体らしきものが生えてくる。
その作業はトカゲの肉塊の中から、人を掘り起こしているようだった。
そしてリュウノナリソコナイの肉がほぼ溶けて赤い血になる頃、痩せ細った男を肉塊から掘り出すことができた。
その男の姿に少し戸惑いながらも、生まれたままの姿なのであまり見たくない部位には布をかけた。
痩せ細っているのは元からなのか、それともリュウノナリソコナイとして無茶苦茶な再生を繰り返した結果なのか。
今にも止まりそうなほど弱い呼吸はしているが、ここから助かるかはわからない。
助かったとしてもこれは――。
その姿に戸惑いながらもリュウノナリソコナイの肉塊の中から出てきた男を調べようと思った時、一般客の姿がなくなった観客席の通路を通って、魔物向けの装備を持った騎士達がこちらに向かって来ているのが見えた。
お読みいただき、ありがとうございました。




