名も無き魔剣
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再生というよりも肉塊として成長しているといった方がしっくりくるかもしれない。
アベルとカメ君によりバラバラに粉砕されたリュウノナリソコナイ君だったが、粉砕される前よりも大きな体になって復活している。
体といえるのか疑問の残る見た目――肉塊からトカゲのパーツがいくつも生えている姿。生えているというより何匹ものトカゲを固めた姿といった感じだ。
合体と再生を繰り返し、生えてくる足や尻尾、頭よりも胴体部分が肥大したそれは、自ら動くことは不可能な状態で舞台の中央付近に鎮座して、生えている部位をもがくように振り回し、時折口から呻き声のような鳴き声をごにょごにょともらしている。
その姿には知性や理性そして生気が全く感じられない。
"名無し"という名を持つ魔剣を構え、肉塊のようになったリュウノナリソコナイの方へと距離を詰める。
ここまでのリュウノナリソコナイの様子からして、こいつの強さ自体はたいしたことはないと思われるが、バラバラにしても再生するという生命力が非常にやっかいである。
しかしこの謎の魔剣なら、その再生能力は発動しない可能性が出てきた。それなら、こいつの面倒くさい再生能力に苦戦させられることもない。
「そいつ魔剣だよ! 反動があるから使いすぎないで!」
リュウノナリソコナイのいる舞台中央に向かう俺の後ろからアベルの声が聞こえた。
それと同時にリュウノナリソコナイの周囲に広がる血だまりを風魔法で散らしてくれた。壁や垂れ幕に血が飛び散ってサスペンスなことになっているが、床の血だまりが減って俺としては非常にありがたい。
アベルも究理眼でナナシを鑑定したのだろうか、もしかすると俺より詳しくこの謎の魔剣の詳細が見えたのかもしれない、アベルの声が少し固い気がする。
「ああ、わかってる。やばそうなら、使わないで下がる」
走りやすくなった床の上を駆け抜けながら、剣を持っていない左手を挙げて応える。
尻尾と頭だけというあまり大きくない破片を斬り捨てた時は、軽い痛みと耳鳴りだけだった。魔剣によくある苦痛や不快感系デメリットで、威力が大きいほどその反動が大きい系だろうか?
少し試し斬りをしつつ様子を見て、大丈夫そうならいっきに攻撃することにしよう。
リュウノナリソコナイとの距離を詰めながら、まだ本体と合体せず床でうごうごとしているリュウノナリソコナイの切れっ端を魔剣ナナシの剣先で刺してみる。
ナナシに刺されたリュウノナリソコナイの切れっ端は、ジュッと音を立てて溶けるように赤い液体になる。
それと同時に先ほども感じたチリッとした痛みと耳鳴りを感じた。やはりこれがこの剣で何かを斬った時の反動のようだ。
もしかしてあまり大きな反動はないやつか?
「イイイ……ゲッ……ニニゲ……ッ」
「スイ……タ……タタ……ナカカカ……スイッ」
これなら思い切ってざっくりいっても平気かなと思ったところに、前足に頭が生えた破片と頭だけの破片が飛び跳ねるようにこちらに向かってきた。
魔剣ナナシを振るいそれを斬り捨てると、今までと同じようにジュッと蒸発して、先ほどよりも少し強い痛みがチリチリ手のひらから腕へと駆け上がるように伝わる。
そして破片の口からもれる呻き声と被ったせいか、耳鳴りというか声のような音が耳の中でした。
痛みも耳鳴りも耐えられないほどではないが不快感が半端ないので、できればあまりこの剣を何度も振るわず片付けてしまいたい。
そこから更にリュウノナリソコナイの本体に攻撃が届く位置まで距離を詰める。そのタイミングを見計らったかのようにアベルの氷魔法が、ブンブンと振り回される足や尻尾、口を開けて迫って来る頭を凍らせる。
アベルが凍らせた尻尾の一つを斬り付けると、ジュッと溶けて床に血がパタパタと落ちる。
――……シテ。
チリッとした感覚と共に耳の奥に低い音が聞こえた。
あまり大きな反動ではなかったのでまだまだいけると判断して、それを気にすることなく次は足を纏めて二本切り落とした。
――イ……ン……ナ……イイイイイイッ!!
うおお!?
今まで中で一番大きな音で耳がビリビリとする。右手から伝わる痛みは不快ではあるがまだまだ耐えられる範囲だ。
耐えられる範囲だが今の反動は少し大きかったので、続けて押さず一呼吸入れ間合いを調整ながら、今まで切り落とした部分をチラリと確認する。
切り口は焼け焦げたようになり、今のところその部分に再生するような動きは見えない。反動は少々気持ち悪いが、これはいけそうだ。
よっし、次は凍っている頭の根元から胴体までざっくりいくぞ。
反動は更に大きくなりそうだが、半端なのを何度もくらうより少し大きめで回数を減らす方がよさそうだ。しかしどれくらいの反動がくるかはわからないので、いっきに真っ二つとかはやめておこう。
そぉっと、そぉっと……バッサアアアアアアアアッ!!
――ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイタタタタゴゴゴゴゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメゴメゴメゴメゴメゴメメメメメメメメメメメメメメメメメッ!!
イタイタイタイタイイタイタタタタタタタタタタタッタッタッタッタッタスケテタスケテタスケテタスケテテテテテテテテテテッ!!
ニゲタイニゲタタタタタイイイイイイイイイカエリタタタタタタタタタッタッタッタタタイタタタイイタイイタッ!!
オナカスイタオナカスイタノドカワイタカワイタタタタスイタスイタスイスイスイスイスイタタタタタタイタイタイタイタイタイタイタイタ……タ……タタタタッ!!
「うおああああああああああああ!?」
今まで一番大きく斬り付けた反動は当然のように一番大きかった。
今まではずっと耳鳴りだと思っていたものがハッキリと聞こえ、体を突き抜けるような痛み――いや、これは体ではなく心が痛いのかもしれない。
強い後悔のような懺悔のような感情がハッキリと剣から流れ込んできて、思わず叫び声を上げ大きく後ろに跳んでリュウノナリソコナイから距離を取った。
そのタイミングで馴染みのある浮遊感と共に、リュウノナリソコナイが後退したように見えた。
実際は後退したのは自分である。アベルが俺の異変に気づき自分のいる舞台の端まで空間魔法で俺を引っ張ったのだ。
「グラン、大丈夫? ……じゃないよね。やっぱその魔剣、捨てよう。グランから離れないなら、壊しちゃおう」
「カッ! カカーッ!!」
「ハァ――……、いや……少し驚いただけだ。身体的ダメージはほとんどないから心配するな」
肩で息をしながら、今にも魔剣を叩き折りそうな雰囲気のアベルとアベルの肩の上のカメ君を手で制する。
うっかり所有者認定されてしまっているけれど、本来は俺のものではないし、こんな高そうな剣を折ってしまうと賠償金が怖い。弁償することになるくらいなら無傷のままで俺が買い上げて、なんとか呪いを解いて売るかそうじゃなかったら分解して素材にして元を取りたいし、これを壊すなんてとんでもない。
それにこいつならこのリュウノナリソコナイをなんとかできる気がする。
大きく斬り付けた時に聞こえて来た声、それまではただの耳鳴りだと思っていたもの。
それと耳障りなリュウノナリソコナイの鳴き声が似ているような気がした。
流れ込んできた懺悔と後悔の念を思い出し、剣を握る手にジクジクとした痛みを感じながら舞台上のリュウノナリソコナイに視線をやる。
俺がナナシで斬り付けた傷は、首が生えていた場所から肉塊のような本体にかけてパックリと大きく開いて、ブシュブシュと血が噴き出している。
ナナシで斬った箇所は再生しない――そう予想していた。
ボコッ!!
血が噴き出す切り口から細長いものが生えてきた。
くそ、ナナシでも再生するのか?
いや、違う……これは……。
「うぇぇ……何あれ。今度は人間の腕?」
「カァ……」
すぐ横でアベルとカメ君のドン引きしたような声が聞こえた。
ナナシで斬り付けた傷口から生えて来たのは、血色の悪い人の腕に見えた。
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