俺は絶対に認めない
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【ノー・ネーム】
レアリティ:???
素材:???
オーナー:グラン
属性:無
効果:アライメント・ゼロ
禍々しさすら感じる真っ黒な長剣だった断罪の剣君、それが俺の魔力をチューチューしまくってキラッキラのピッカピカの神々しい剣に。
そのあまりの様変わりに思わず鑑定してみると、俺の鑑定スキルが足りていないようでその正体に繋がる情報は何もわからなかった。
というか名前が断罪の剣じゃない?
ノー・ネーム、つまり名前がないという名前なのか。
ならば、なにゆえ断罪の剣と呼ばれていたのか? 名前がないから暫定的に付けられた名前だったのだろうか?
しかし、その名の由来はありそうな気がする。
効果もアライメント・ゼロというよくわからない効果。そのままの意味なら属性ゼロ、属性がないという意味だろうか。属性といってもエレメント的な属性ではなく性質的な属性のことだ。
しかも効果としてのアライメント・ゼロ……なんのこっちゃ!?
そんなことよりもっと重大な鑑定結果に、剣を持つ手がプルプルする。
オーナーに俺の名前が見えるんですけどおおおおおおお!!
時々あるんだよ、持ち主を選ぶ武器や防具。
魔力で認識して使用者を制限する機能のある装備品は、人工的に作られたものでも結構ある。盗難防止のために高価な装備品には、使用者制限の効果が付けられていることも多い。
また、武器自体に色々な追加効果を付与するのはわりと普通であり、装備品でありながら魔道具のような一面を持ったものは一般的にもよくある。
俺の装備にもそういう性質のものはいくつかあるし、そういう装備品は大好きだ。
そういう効果が付与されているものの場合、手順を踏まなければ所有者として登録されないはずである。
収納スキルを使う時の魔力、極微量の魔力を通したくらいでは所有者として登録されるなんてことはまずないし、その程度で所有者登録されるのなら出品前の鑑定でも登録されていそうだし、そんなことがあったのならその効果を制限する魔道具が一時的に取り付けられていそうだ。
まぁ人工的な所有者登録なら解除はそんなに難しくないから大事にはならい。
問題は人工的な所有者登録ではなかった場合。剣自身が意志を持ち俺を所有者に選んでしまった場合。
そう、剣の意思で持ち主に選ばれてしまうこともあるのだ。
人工的な付与で持ち主を制限できる装備が魔道具的なものなら、装備品の意思で持ち主を選ぶものはゴーレムやガーゴイル的なものといったところだろうか。
装備品に意思がある――その理由は様々だが、意思故に持ち主を選ぶ装備品がこの世には存在する。
それが剣ならば魔剣と呼ばれるものである。
俺の魔力に反応し、俺の魔力を吸い取って姿が変化し、オーナーに俺の名前。俺の鑑定スキルでは詳細がほとんどわからないこの剣。
もしやこれは魔剣というやつでは……もしかして俺、魔剣の所有者に選ばれちゃいましたぁ!?
うげええええええええ!! 魔剣に所有者に選ばれたらそれを解除するのは難しいんだよおおおお!!
魔剣からの所有者認定は呪いにも近く、解除は呪いを解除する魔法やアイテムになる。そうなるとその剣自体も破損したり、特殊な効果が消えたりするのだ。
やべえええええええ、これはお買い上げか弁償コースでは!?!?!?
確かズィムリア魔法国時代の剣だったよな? これいくらするんだ?
これは破産フラグというやつでは……どうしようせっかくのマイホームを手放すことになったり、それどころか借金奴隷になるようなことになったり。
アベルにお金を借りようかな? 溜め込んでいる素材を売りまくればなんとかなるかな? 冒険者ギルドの仕事も頑張ればなんとかなる!?
いやだーーー! お家も手放したくないし、奴隷も嫌だーーーーー!!
しかも魔剣とかいうやつ、確かに強力な効果と威力のものは多いが、その反面デメリットが大きいものがほとんどだ。
命を削るもの、魔力を大量消費するもの、剣を振れば苦痛を感じるものなど色々とある。え、やだ……そんなものに持ち主に名指しされたくない。
格好いい魔剣や剣が自分だけを選んでくれるのは浪漫が溢れているけれど、使用感を考えると体に優しいローリスクのお買い得武器の方が使い勝手が良くて好きなんだよおおお!!
アッ! ノー・ネーム君、やめて! 魔力吸わないで!! おのれ、このナナシ野郎、吸うなっつってんだろ!!
アァッ! 剣の名前がナナシに変わった!! 違う、名付けではなぁい! 勝手に名付けられないでえええええええ!
俺は絶対に認めんぞおおお!! お前のオーナーになる金なんてない!! うちでは魔剣は買えません!!
くっ! 相変わらず俺の手から魔力をチューチューしやがって! この野郎、収納の中にぶち込んでやる! くっそ! 入らない!!
魔剣はガーゴイルみたいな判定だから収納に入らないものが多いんだよな。さては貴様、やはり魔剣だな!?
うおおおおおお、俺はそこのキモイリュウノナリソコナイ君をどうにかしないといけないの! 変な魔剣と遊んでいる暇はないの!!
いいから、魔力チューチューをやめて手から離れてくれ!!
「イイイイイ……スイ……タタタッタッッタッタッタ」
ぐええええ!? ノー・ネームな魔剣ナナシ君に夢中になっていると、台車の上から頭尻尾なリュウノナリソコナイの破片がこちらに口を開けて伸びて来た!!
そんなに手に吸い付いて離れないなら、この気持ち悪い君をお前でぶった切ってやるぞお! 魔力チューチューした分働いてくれ! でも弁償はしたくない!!
うおおおおお!! くらえ、絶対に弁償しねーぞスラッシュウウウウウ!!
魔剣ナナシ君が手から離れてくれないので諦めて、そのまま頭尻尾君をぶった斬ってやった。
ジュッ!!
ナナシ君で斬った、いや触れたというべきか――その直後に尻尾から頭が生えたリュウノナリソコナイの破片が、高熱の金属に触れた肉のような音を立て蒸発するように形を失った。
同時に軽い耳鳴りとチリッとした感覚が手のひらにあった。おそらく魔剣を使ったことによる反動だろう。
形を失ったリュウノナリソコナイの破片はどろりとした赤い血のような液体となってパタパタと床に散り、その状態から再生する気配はなくなった。
こ、これは……もしかしてコイツならリュウノナリソコナイ君を楽に殲滅できるやつでは!?
でかしたナナシ君、さすが高そうな魔剣!! 反動があるのが少し気になるが、ついでに残っているやつも片付けるのを手伝ってくれ!! 俺の魔力をチューチューした分は働いてもらうぞ!!
剣を握りしめると透き通った美しい刃先がキランと光った気がした。
「グラン、その剣は……」
アベルがものすごく険しい表情でこちらを見ている。
「わかんない! でもコイツだとあの妙な生き物が倒せそうだ。反動がちょっと気になるけど、今のところそんなに大きな反動はない」
ちょっとした耳鳴りと手のひらがチリチリするくらいなら問題ない。
それより魔剣を変化させて、所有者認定されて、それを使ったことによる賠償問題の方が俺としては心配だ。まさにでかすぎる対価になりそう。
いくぜ、リュウノナリソコナイ君!! ここからが本番だ!!
魔剣ナナシ君を握りしめて舞台の方に視線を移すと、再生した自らの破片同士で合体し、喰らい合い元の大きさより大きくなったリュウノナリソコナイが、ぶくぶくとした肉の塊からトカゲの部位を無秩序にいくつも生えたような姿になり、そこから更に再生が暴走するようにその質量を増やそうとしている光景が見えた。
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