大丈夫だけど大丈夫じゃない
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アベルの魔法で凍り、そしてカメ君の水鉄砲で砕かれたリュウノナリソコナイがガラガラと床に崩れ落ち周囲に散らばり、その一部は床の上を滑るように俺のすぐ近くまで転がってきた。
破片の大きさは人の頭ほどのものから俺の拳より少し大きめのものまで。ばらばらとした大きさだがさすがにここまで砕けてしまえば再生はしないだろう。
「終わったかな? グラン、大丈夫ー?」
「ああ、ちょっとはたかれただけだ」
リュウノナリソコナイを粉砕したアベルがこちらを振り向き、俺は台車に手をかけて立ち上がりながらそれに応えた。
はー、最後の最後で酷い目にあった。
とりあえずよくわからない奴だったし、バラバラになった体の一部を持ち帰って冒険者ギルドに提出しておかないとな。
カタ……カタタ……ッ!
硬質な音がすぐ近くから聞こえた。
カタタタタタタタタッ!!
タタタタタッ!!
カタカタカタカタッッ!!
最初の音の後を追うように、別の場所でも同じような音が鳴り始め、その数がいっきに増えた。
「これでも生きてるっていうの!?」
「カカーッ!?」
アベルの周囲は砕け散ったリュウノナリソコナイの凍った肉片が無数に散らばっている。
それが一斉にカタカタと震えだし、凍った肉片が質量を増やしながら近くの肉片と合体し形を成していく。
前足や後ろ足、尻尾や頭に。
そしてそれらは近くにいる別の肉片と合体し大きさを増していく。また頭として再生した部分は近くにある肉片をバリバリと食べているのもある。
頭しかないのに食べた部分はどこに入っているのだろうなどと思ったが、他の肉片を食べた頭は再生速度が速くなっている気がする。
再生を始めた肉片同士が合体し大きくなり、大きくなった頭が別の肉片を食い再生速度を上げる。
元は一つの生命のはずなのに地獄絵図の一言しかない。
「イ……イタッ……イイイイイ……」
「ァ……カ……」
「ス……タ……スイイイイイ」
「ニ……ニニニニ……ククククク」
頭部として再生した部分は飢えているように口をガクガクしながら妙な鳴き声を漏らしている。
再生し、合体しながら食い散らかし、肉片はだんだんと数を減らし大きな塊となっていく。
だんだん大きくなってきた肉片はピョンビョンと跳ねながら、時々アベルの方に跳んでぶつかりそうになっている。
「アベル、一旦引くんだ」
数は減ってきたが、アベルの周辺にはまだまだ肉片が散らばっており、一斉に飛びかかるようなことがあれば危険だ。
「うん、そっちにいくよ――げええ!?」
俺の方に転移をしようとしたアベルの足首に、近くでウニョウニョしていた尻尾が巻き付き、アベルが変な声を出しながらこちらに転移してきた。
うわあああああ……ウニョウニョ尻尾も一緒にきたああーーーー!!
「ぎゃーーー、キモッ!! ヒッ! 絡みついて振ったくらいじゃ取れない!! グランちょっとこれ取って!!」
「えぇ? 俺ぇ!?」
「カカカッ」
「あ、このチビカメ! 今俺のことを嘲笑っただろ!! ぎえっ! 太ももまで上ってきた! ぎえぇっ!!」
「あー、もう! 取ってやるから大人しくして、踏ん張ってろ!」
絡まった尻尾を落とそうと足をブンブン振るうアベルと、それをアベルの肩の上で楽しそうに見ているカメ君。
アベルの足に絡まってビチビチしている尻尾を掴んで引っ張って引き離す。
アベルから尻尾を引き離すのはあっさりだったのだが、その後がいけなかった。
グワッ!
「うおお!?」
アベルの足を離れた尻尾から突然頭がボコッと生えて来て、俺に向かって口を開いた。
びびった俺は尻尾をポイッと投げてしまった。アベルとカメ君の方に投げないように後ろに投げたのが、更なる大惨事の原因に。
ガッシャアアアアアアアアンッ!!!
あ……ああああああああああああああーーーーーー!!
背後で聞こえるガラスの割れる音。
あーーーーーっ!! 後ろに断罪の剣の入ったショーケースがーーーーーー!!
やべーーー!! 魔力遮断機能付きのショーケースだよな!? やべええええええ!! 絶対メチャクチャ高いーーーー!! 緊急事態だったから許してもらえないかな!?
アベルに言い訳を手伝ってもらえばなんとかなるかな!?
ショーケースが割れただけに留まらず、俺が思わずぶん投げてしまった頭尻尾君が、断罪の剣のある台車の上に華麗に着地。
カランカランカランッ!
台座に飾られた状態で台車の上にあった断罪の剣が、頭尻尾君とぶつかって床に落下。
やべぇ! 断罪の剣にもしものことがあったらまずいのでは!?
一旦、俺の収納の中に保護しておこう。
……これは保護だから! 高級品の保護だから!! この騒動を片付けたらちゃんと返すから!!
床に転がった断罪の剣に手を伸ばし、その柄を握る。その時、その剣が大きさのわりに妙に軽いことが気になった。
そしてそれを収納の中に引き込もうとした時、急激に魔力を消費する感覚があって、ガクンと剣を握った手が地面の方へと引っ張られた。
急激に魔力を消費し手の力が抜けた? いや違う。
断罪の剣を収納にしまおうとした瞬間、剣の重量が急激に増えたのだ。俺の魔力が何故か大量に消費されたと同時に。
その感覚、まるで断罪の剣に魔力を吸い取られたようにも思えた。
収納スキルとは魔力依存のスキルである。
その収納空間への物の出し入れも僅かながら魔力を使用する。つまり収納に物を出し入れする時は、その対象物が俺の魔力に触れるということだ。
しかしその量はほんの微量なので普段ならあまり影響はない。ただ、極稀に俺の魔力に反応するものもある。
これもその類のものか!?
収納に引き込もうとした時の俺の魔力に反応し、そこから俺の魔力を無理矢理吸収し始めたのか、剣を握った手から魔力が吸い出されるような感覚が体中を巡った。
思わず手を放そうとしたが、指が剣にピタリと吸い付くように固定されて自分の意思で動かすことができず、収納にぶち込もうにも剣に意思でもあるように全力で拒否をされている。
まずぅ……。
気持ちは焦るのだが、不思議なことに魔力を吸われているにもかかわらずあまり嫌な感じはしない。
「その剣は――」
「カッ!? カメーッ!?」
アベルとカメ君も俺の異変に、そして断罪の剣の異変に気付いたようだ。
「よくわかんねーけど、多分大丈夫な気がするっ! あ、でも大丈夫じゃないかもしれなあああああああっ!!」
高そうなガラスケースと断罪の剣を弁償しないといけなくなった場合的な意味で。
そうしている間にも、剣が俺の魔力を吸い上げていく感覚は更に加速し思わず叫んでしまった。
「え? 大丈夫じゃないって!? グランそのやばい剣、早く放して!」
あ、余計なことを言ったせいでアベルに誤解されたかも!! というか放せっていわれても放せないんだよおおおお!!!
そして、俺の魔力をもりもりと吸い取っている断罪の剣君。
真っ黒だったその姿が、俺の手が握りしめている柄の部分から黒い色が剥がれ落ちるように輝かしい色に変わっていく。
まずは柄と鍔が白と金を基調とした色に変わる。黒い時はよく見えなかった細かな装飾がはっきりと浮き上がり、それは柄から刃の部分へ。
禍々しさすら感じていた黒い刃の色が変わっていく。ガラスのような、クリスタルのような透明な刃に。
まるで俺の魔力で色がついていくように、真っ黒な殻を破るように、本来の姿に戻るように――断罪の剣は白と金を基調とした透明な刃の美しい剣に変化した。
ふええええええええ……何これ、メチャクチャ高そう!!
お読みいただき、ありがとうございました。




