閑話:護衛泣かせの人達
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「やっべー、何なんだアレ? アレは特殊な訓練なんか受けてない、ただの平民冒険者だよな?」
「ああ、お前はあの赤毛を見るのは初めてだったか。エスクレ……いや、アベル様がもう何年も前から傍に置いている冒険者で、諜報部のドリアングルム殿も目を掛けている者だな」
「おい、気を付けろ。あの方がここにいるのは非公式だ、迂闊にお名前を口にすんじゃない。誰かに聞かれたらどうすんだ」
「そうだな、迂闊にお名前を出してはならなかったな。しかし我々隠密警備部の休憩室を盗聴できる奴などいるのか?」
「先ほど、隠れているのを見破られたばかりだろ、何事も慢心してならない」
「そ、そうだな。はぁ、あの赤毛がいるのがわかってたのについ油断をしてしまった……はぁ。見つかったのがアベル様にもバレてしまったからなぁ。上の方々に報告するっておっしゃってたし。あ"ーーーーーーー、絶対ネチネチ嫌味を言われた後、地獄のような訓練があるやつだ。はー、マジあの赤毛……マジああいうイレギュラーな動きする奴は困るんだよ」
「そういえば先輩達はアベル様が冒険者になられた頃から、護衛を任されていたんですっけ?」
「まぁ、そうだな。といっても実力でAランクになられてからは、今回のように貴族として行動される時だけだな。というか冒険者として活動している時に護衛とか無理! 転移魔法でピュンピュン飛び回るようになられてからは、護衛なんて不可能! しかも秘密裏に護衛が付けられていることに気付いてからは、ちょいちょい魔法を使って護衛のあぶり出しをして遊んだり、わざと尾行しやすいように移動したと思ったら突然俺達の後ろに転移してえげつない悪戯をしたり?」
「あー、転移魔法……。転移魔法なんてあの方の護衛に入るようになって初めて見ましたよ。あんなので移動されたら絶対護衛とか無理でしょ」
「そうそう、公の場で使われることは滅多にないけど、冒険者モードの時はすぐに転移魔法でどっかに行くから、護衛とか無理無理の無理で随分前に諦めたよな。ソロで冒険者として活動なされている時もあるが、危険な場所はドリアングルム殿が一緒のことが多いし」
「そうなんだよなぁ。ドリアングルム殿もドリアングルム殿でやることなすこと豪快だから、冒険者活動中に近くをウロウロしていると範囲攻撃に巻き込まれるし、あそこのパーティーはダンジョンで暴れ始めると範囲攻撃で蹂躙するから、その騒ぎで周囲の魔物の群が集まってきてプチスタンピードみたいになるし、ぶっちゃけ俺達いても役に立たないし? そもそも俺達は対人護衛が専門で魔物やダンジョンは専門外だしな」
「あそこのパーティーなぁ……。俺がアベル様の護衛や監視に参加するようになった時は、すでに赤毛もあのパーティーに混ざってることが多かったなぁ。あの頃は二人ともまだ小さくて可愛げが……ないわ、全然なかったわ。あの赤毛のクソガキ、あの頃から俺達の任務の邪魔をしやがって。そもそもアベル様だけだったら俺達の存在バレなかったっしょ?」
「そうだな、あの赤毛が現れるまで割と平和だったなぁ。アベル様のヘイトはほぼほぼドリアングルム殿に向いてたし? 俺達は手負いの猛獣のようなアベル様をこっそり守ってこっそり観察して上に報告するだけの簡単なお仕事。それがあの赤毛が現れてからは今日みたいに遊び半分で見つけるものだから、猛獣様……間違えた、アベル様にもバレて嫌がられるし。今はすっかり丸くなられたけど、あの頃はまさに猛獣だったからなぁ……」
「赤毛も俺達を見つけ出してやろうとかそんなんじゃなくて、ただ見つけて今日みたいに手を振ってくるから質が悪いんだよなぁ。何なんだ、アレ? 普通に考えて隠密スキルで隠れてる奴を見つけて手を振るか? 攻撃してくるのならまだわかるが、何で手を振ったりガン見したりするんだ? 男に手を振られても嬉しくないっちゅーの!」
「はー、普段から表に出て護衛している騎士や兵士はいいよなぁ、見られてなんぼのポジションだし?」
「でも騎士団は騎士団でノワゼット様がいるじゃん」
「あー、ノワゼット様が訓練場にいらっしゃる時の訓練という名のしごきはやばいからなぁ。特に今日はセレーナ様が脱走されたから騎士団やべーよ。しかも見つけ出したのはノワゼット様って聞いたぜ? やべーよ、近寄ると部署が違う俺達もとばっちり食らうから絶対近寄らんとこ」
「あぁ、一週間くらいは近寄らない方がいいな。セレーナ様もなぁ、年頃の女性なのにどうして剣術を……。このままアベル様の後を追うようなことがあったら俺達過労と心労で倒れるのでは?」
「いや、セレーナ様は魔法があまりお得意ではないので、アベル様のように転移魔法でピュンピュンがないだけマシでは?」
「って思うじゃん? セレーナ様はどうやらパワー系のギフト持ちのようだから、そっち方面を本気で鍛えられるとノワゼット様と同じ方向に行くぞ」
「あぁ~、幼少期から見守ってきた我らが麗しのセレーナ様が~筋肉質になってしまう~」
「セレーナ様は側室様によく似て、昔から非常に思い切りのよい性格のお方だぞ。やはりセレーナ様の双子の兄ヘリオス様こそ学者肌でおっとり系で素直に守られてくれる癒やしだろ。最近はスライム学に興味があらせられるようで、一層勉学に励まれてるご様子だし、マジ癒やし系」
「それをいったらアベル様だって幼少期は大人しくて、本好きで、妖精みたいに美しくて可愛い方で素直に守られてくれる方だったぞ? それが色々ありすぎて、やさぐれまくったうえに、冒険者になられてからは色々と学ばれて更に進化して今のアレだからな? それにあのご兄弟だし油断はできない?」
「はー、あのご兄弟は能力もあって自分の立場も理解しておられる方々なのに、理解したうえで素行に問題あるからなぁ……護衛する方の身になってほしいわ」
「ん、誰か来たな。ああ、あの方の席の警備をしている騎士の。え? また見つかった奴がいる? 聞いてない配置だから一応確認? ん? 誰かいたっけか?」
「俺達、オークション中は休憩室で待機していていいって話だったが? そそ、アベル様はご友人とのプライベートな話を聞かれるのを嫌がるからな。上のお方もそれを思って、オークション中はあの周辺には騎士と兵士しか配置の指示を出されなかったはずだ」
「どうせあの赤毛がいるから部屋の近くで潜んでいるとバレて、後でアベル様にものすごく嫌がらせされるし、いらないと言われた時は俺達は近寄らないよ」
「それに、隠密警備部で配備されてるのはここにいるのが全員だが?」
「ああ、席に入るのを見届けた後は、ここで待機してたな?」
「別口での警備? いや、ないな。隠密系で別口がいるなら聞いてる。というか聞いてないと敵だと思って攻撃する元になるだろ」
「じゃあ、その見つかった奴は誰だ?」
「そも護衛なら見つかった後に逃げないだろ」
「…………」
「…………」
「俺は上に確認をする。お前達はすぐに周囲の警戒に当たれ!」
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