一割の約束
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個室にはオークションに参加するための魔道具が置かれており、欲しいものがある時はこの魔道具に付いている数字のボタンを押して金額を入力すれば、舞台の背後の白い幕に映し出されている、オークション品の映像に入力した金額が表示される仕組みになっている。
ちなみに誰がその金額を入力したかは、参加者側からはわからない。
これは超高額品がぽんぽんと出品されるので、落札者の安全とプライバシーを守るためだそうだ。
階級の低い貴族や平民が混ざるようなオークションには何度か参加したことがあるが、そこは金額を叫ぶ形式だったので落札するとすごく目立つし、落札できなくても金額が大きくなれば大金を持っているのが周囲にばれてしまう。そのためオークションに参加した帰りは強盗を警戒しなければいけない。
これだけ警備が厳重な会場なら悪い奴は入れそうにないから落札後の安全面は平民向けのオークションよりよさそうだが、やはり超高額品を競り落とすと噂にもなりそうだし、金額やものによっては妬みの対象になってもおかしくないからだろうか。
そう思うと落札者がわからない配慮はあった方がいいのだろう。
それにシャイで恥ずかしがり屋で目立つのが嫌な俺でも、この形式なら気軽にオークションに参加できそうだ。
……と思ったのだが俺の物欲が反応するような品が出てくることはなく、時間が過ぎていった。
「キルシェ、退屈じゃないか?」
特に面白いものも出てこないためボーッとオークションを眺め、つまみを口に運びなら酒を飲んでいるだけ。
俺は酒を飲んでいるからいいけれど、ただオークションを見ているだけのキルシェは退屈じゃないだろうか?
「いいえ? ピエモンにいたら絶対に目にすることもないようなものばかりですし、カメさんとおチヨちゃんもいますから、全然退屈じゃないですよ」
ああ、カメ君もおチヨちゃんもキルシェと一緒に和気藹々とフルーツやスイーツを摘まみながらオークションを見ているな。
キルシェは商人気質だから見ているだけでも楽しいのかなぁ? カメ君とおチヨちゃんはどうなのかな? 人外さん達には馴染みのない場所だからそれなりに楽しいのかな?
「退屈なのはグランでしょ? さっきからお酒のペースが上がってるけど大丈夫? やだよ、酔い潰れたグランを担いで帰るの」
「大丈夫、大丈夫だってばぁ」
ボーッとオークションを眺めながら酒を飲んでいたらだんだんいい気分になってきたな。
だが、まだまだ俺は酔っ払っていないぞぉ!
「うっわ……グランの"大丈夫"の後は碌でもないことになるって、俺の勘と経験がいってる」
相変わらず俺に失礼な奴だな!
「グランさん、あんまり飲み過ぎると欲しいものが出てきた時に正常な判断ができなくなりますよ。父ちゃんも酒を飲みながらの商談は金銭感覚が緩みやすいからダメだってよくいってます。でも商談っていいながらよく飲みにいってるけど」
「お……おう、確かにそうだな。酒を飲むと気が大きくなって財布の紐が緩みがちになるからな」
人と話しやすくなる反面、自制心も緩くなるからな。
「ほら、お酒ばっかり飲んでないで、そろそろキルシェちゃんの出品したシュペルノーヴァの鱗の番だよ」
「ケッ!」
アベルにいわれて舞台の方を見れば、落札されて舞台の外へと運び出される品と入れ代わりで、箱状のものに布が掛けられた出品物がコロ付きの台に乗せられ舞台中央まで運ばれてきたのが目に入った。
鱗の持つシュペルノーヴァの魔力は相変わらずで、掛けられている布、その下の鱗が入れられていると思われる箱状のものも、おそらくある程度の魔力を遮断するものなのだろうが、そこから溢れている独特の熱い魔力が俺達のいる場所でも感じられ、布が掛けられ中身が見えない状態でもそれがシュペルノーヴァの鱗だとはっきりとわかった。
そしてその魔力を感じてか、ご機嫌でリンゴをシャクシャクと囓っていたカメ君が不満そうな声を出した。
うんうん、確かにシュペルノーヴァはいかにもレッドドラゴンって感じの格好いいドラゴンだったけれど、可愛さはカメ君の方が圧倒的に上だからね。可愛いは正義!!
いたっ!! なんで食べ終わったリンゴの芯をこっちに投げつけたの!! その仕草も可愛いけれど、お行儀悪いよ!! 可愛ぃゎ正義ぃ!! イタタタタッ!! ちっこい氷がいっぱい降ってきた!
シュペルノーヴァの鱗が舞台に運び出されると、その強い火属性の魔力に気付いた者達のざわめきが聞こえた。
そして司会役の男性が掛けられている布を取ると更に濃い魔力が周囲に広がり、観客席のざわめきも大きくなった。
布が取り払われ、ガラスケースに入ったシュペルノーヴァの鱗が姿を現す。豪華な台座に乗せられ……ん? これはキルシェが拾ってきたそのままではなく、綺麗に磨きあげられているのか?
舞台後ろの白い幕に大きく映し出されたシュペルノーヴァの鱗は綺麗に磨きあげられ、俺が見た時は付着していた汚れはなくなり、付いていた小さな傷はほとんどわからなくなっていた。
大きな傷はさすがに残っているが、それはそれで本物の竜の鱗らしさを醸し出すアクセントともいえなくもない。
「うわぁ、すごく綺麗になってるぅ」
「でしょー、せっかくだからコネのある腕利きの職人に大急ぎで磨いてもらったんだけど、これなら思ったより高く売れるかも? ふふふ、鱗が売れたら一割を貰う約束だったけど、これは思ったよりたくさん貰うことになるかもねぇ」
「今回はアベルさんにたくさんお世話になりましたからね。地方で出品するより高く取り引きされそうですし、ここまでお膳立てをしてもらって、二割とか三割でもよかったのに」
「ふふふ、元から一割の約束だったからね。王都までの送迎とオークションの手配だけならそれくらいで十分だよ。綺麗にしてもらったのは、その分の工賃を払っても、その分以上に上が狙えるかなって思っただけだよ。高く売れれば俺の取り分も増えるからね」
「高く売れるかなぁ、売れるといいなぁ」
キルシェが持ってきた状態だといいとこ金貨五〇枚くらいだと思っていたが、これはひょっとするともっと上が狙えるかもなぁ。
「ん? 喉がかわいたのか?」
ついに出てきたシュペルノーヴァの鱗の方に気を取られていたが、テーブルの上の方に気配を感じてそちらを見ると、おチヨちゃんがワインの瓶に手を伸ばそうとしていた。
尋ねるとコクコクと頷いてニパァと笑顔。
幼い子供のようだがお酒が好きらしい。妖精だから年齢なんて見た目通りではないのはわかるけれど、幼児にお酒を飲ませる罪悪感みたいなものが少しある。
「おつまみはチーズとサラミでいい? ワインのつまみはチョコレート菓子も合うぞ。とりあえず全部少しずつ小皿に載せておくか」
棚から新しいグラスを出してワインを注ぎ、つまみを適当に皿に載せ、おチヨちゃんの前へと置く。
おチヨちゃんはニッコリと笑いワインを一口飲んで、チョコレート菓子を摘まんで口に運びながらオークションが行われている舞台の方へと向き直った。
ん? なんかおチヨちゃん、キラキラしていない? 照明が艶のある白い髪の毛に反射しているだけかな?
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