妖精が呼び寄せたもの
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「うん、何でもないよ。シャンパンのコルクが勢いよく飛んでびっくりしただけだから。あ、それとさ君達、警備の配置のこと何か聞いてる? オークション中は君達だけでいいって言ったはずだけど、他にもいたみたいだよ。そっか、君達も聞いてないんだ。じゃ、いいや」
アベルが入り口の扉をパタリと閉めた。その向こうには小綺麗な制服を着た警備の人。
白髪妖精ちゃんが突然現れ、思わず大きな声を出してしまい、その前にもコルクの栓を吹っ飛ばして大きな声を出していたのもあって、入り口の外で警備をしている人が中の状況が気になったのか扉をノックされてしまった。
壁も扉も分厚いから中の会話は聞こえないと思っていましたが、声が大きかったみたいですね。すみません、少し騒ぎすぎました。
ここに来る時はいなかった白髪妖精ちゃんをこっそりと机の下に隠し、アベルが上手く誤魔化してくれたようだ。
あれ? 入り口の人たちは上にいた人のことを知らなかったのかな?
見える場所での警備と、見えない場所での警備は担当の部署が違うのかな? 部署が違ったら詳しい配置までは把握していないのかもしれない。
それより問題は……。
「もう出てきて大丈夫だぞ」
机の下の妖精ちゃんに声をかけると、机の下からごそごそと出てきて空いている椅子にちょこんと腰を掛けた。
「そういえば、支配人には三人って伝えてたのに椅子が四つ……ただの偶然?」
アベルが腑に落ちない表情で首を捻っている。
椅子が四つあったのは、そういうものかと思って気にもしていなかったけれど、普通は人数分だけ用意されているものなのか?
ん? もしかして妖精ちゃんの仕業?
椅子に座った妖精ちゃんの方を見ると、俺の視線に気付いてこちらを振り返りニパァと笑った。
……幸運じゃなくて椅子を呼び寄せたと思っておこう。
「ところで、妖精ちゃんはチョウピラコちゃんでいいのかな?」
昼間に妖精ちゃんが残していった石の名がチョウピラコのお守りだったため、それがこの妖精の名前ではないかと思ったのだ。
俺の問いに妖精ちゃんはまたもやニパァと笑った。チョウピラコちゃんであっているようだ。
「でもチョウピラコちゃんだとちょっと呼びにくいから愛称で……そうだなー、おチヨちゃんって呼んでいいかな?」
女の子みたいだし髪型と服の印象から、なんとなく名前の頭に"お"を付けたくなった。
俺が問うとおチヨちゃんは不思議そうに首を傾げた後、嬉しそうにニパァと笑った。俺が付けた愛称を気に入ってくれたようだ。
「またそうやって名前を付けちゃうー」
元の名前をもじった愛称だからセーフだよセーフ!!
「おチヨちゃんですかー、可愛い愛称ですね。あ、このチョコレート菓子とても美味しいですよ。でもリンゴジュースを飲むなら先に飲まないと、チョコレートで口の中が甘くなっちゃうと、ジュースが酸っぱく感じちゃう。それとも飲み物はお酒の方がよかったですか?」
キルシェが皿の上のチョコレート菓子を一つおチヨちゃんに渡すと、おチヨちゃんがニパァと嬉しそうに笑う。
その微笑ましい様子を見ながら俺は部屋の隅にある棚からグラスを一つ取って、それにシャンパンを注いでおチヨちゃんの前に置く。
お酒だけれど大丈夫なのかなぁ? 妖精だから大丈夫かぁ?
「それで、おチヨちゃんはどこから入って来たんだい?」
一番の疑問を問いかけてみる。
そこそこ力のある妖精っぽいからなぁ……。時々いるんだよな、どこから入って来たのかわからない、気付けば隣にいることもある妖精。
こういうところが妖精と魔物の違いでもある。妖精は時々実体がないもののような行動をする時がある。
いや、妖精なりの理屈と能力なのだろうが、妖精の能力なんて知られているものより、そうでないものの方が圧倒的に多い。
俺の問いにおチヨちゃんが床を指差した。
「ん? 床から来たのか?」
これにはブンブンと首を横に振る。
「うーん……、元からここにいた?」
今度はニパァという笑顔。
俺達が来る前からここにいたってことか? 全く気付かなかったよ!!
「えぇと、ここがお家? それとも俺達が来るのを知っててここで待ってた?」
首を横に振った後、ニパァ。
「キルシェに会いに来たのかな?」
ニパァ。そして俺の方、カメ君の方と指を差した。
キルシェだけではなくて俺とカメ君にも会いに来たのか。アベルは昼間いなかったからか、アベルの方は指を差さなかった。
「へぇ、君がグランとキルシェちゃんが言っていた幸運の妖精ちゃんか。ふぅん……いいよ、せっかく来たんだからゆっくりしていって。そこにあるものは好きなものを好きなだけ食べていいよ。おかわりが欲しかったら持ってきてもらうから遠慮しなくていいよ。幸運――を呼ぶ妖精か……、助けたって言ってたけど、実は助けられたのかもしれないね――」
え? アベルが妖精に優しいだと!?
最後の方は独り言のようで、よく聞き取れなかった。
アベルの言葉にキョトンとした表情になったおチヨちゃんだったが、すぐにその言葉の意味を理解したのか明るい表情で椅子の上に立ってテーブルの上の果物に手を伸ばした。
「椅子の上に立つと危ないですよ、欲しいものがあったら僕が取ってあげますよ」
キルシェがごそごそと椅子ごとおチヨちゃんの隣に移動していく。
おチヨちゃんも近づいてきたキルシェに、コクコクと首を縦に振って応える。
妖精の幼児に、パッと見儚い美少年。なんだこのメルヘンな組み合わせ!?
これはやはりカメラ! カメラを作るしかないな!! いや、探せばそれっぽい魔道具がありそうだな!?
「相変わらずあまり良い物は出てきてないけど、せっかく来たんだから少しくらいオークションを見ようよ」
アベルに促されて舞台の方を見ると、美術系の骨董品が出ているのが見えた。キルシェの番まではまだ暫くある。
しかしアベルのいう通りせっかくきたのだからオークションも見てみるべきだな。
美術品ばかりで面白くないと思っていても、見ているうちに面白い物が出てくるかもしれない。
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