気温が高いとピョンピョンする
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「うーん、これも特に欲しくはないなぁ。一回くらいオークション参加してみたいけど、今のとこ欲しい物がないなー。あー、このワイン美味い! 高級品の味! 金の味がする!」
「うん、そこそこいいワインだよね。でも普段グランの家で飲んでる、俺が兄上のコレクションから持ち出してきてるワインの方がもっと高くていいワインだよ」
ヒッ!? 晩酌の時にアベルが持ち出してくるワインって、高そうなワインだとは思っていたけれど、もしかして俺の想像以上に高いやつだったり?
大丈夫? お兄さんのコレクション持ち出して後でワイン代を請求されない? ワイン一本でうちの家より高いとかないよね?
個室状のボックス席の真ん中にあるテーブルの上には、高そうなワインやシャンパン、おつまみを兼ねた軽食の他にキルシェ用のフルーツジュース、それから高そうなフルーツの盛り合わせが置いてある。
高そうなワインを飲みながらつまみを口に運びつつオークションを眺めているが、今のところは俺のハートにキュンとくるような物が出てきていない。
「甘いチョコレート菓子!! あぁ……チョコレートが甘すぎて、一緒にリンゴジュースを飲むと酸っぱいいいいいい!! 損した気分になるううう!!」
キルシェも今のところオークションに出ている品には惹かれないないのか、テーブルの上のチョコレート菓子に夢中である。
「カアアアアアアッ!!」
当然のようにオークションの品よりシャクシャクした果物の方が好きそうなカメ君は、フルーツの皿の前を陣取ってご機嫌で皿の上の果物に前足を伸ばしている。
せっかく巻いてもらったスカーフが果物の汁で汚れないように、前掛け代わりに俺のハンカチを巻いてあげるよ。
「それにしても、コレクター品や装飾品ばかりで面白そうな物が出てこないね、やっぱ後半からが本番だね。グラン、あんまり飲み過ぎると途中で眠くなっても知らないよ?」
「序盤は美術品や宝石類ばっかりだなー。大丈夫、大丈夫、高そうな酒だから悪酔いはしないだろ? 次はこっちのシャンパンを」
このワイン、口当たりが良くてスイスイといってしまうな。
次はシャンパンでも飲もうかなぁ。シャンパンも高いものみたいだから少々飲み過ぎても二日酔いにはならないだろう。
おつまみのチーズとサラミもめちゃくちゃ美味しいし、フルーツもフレッシュ、食べなきゃもったいない。
それに上級貴族だらけで警備も厳重みたいだから、魔物や犯罪者の心配もないし、個室なので変な奴に絡まれる心配もないので安心して緩い気持ちで過ごすことができる。
うんうん、ここも天井の上に警備の人がいるんだな。さすがに真上にいられると酒を飲みながらくつろいでいてもわかるよ。
天井の照明の脇に俺の親指くらいの穴があり、俺達がこの席に来て暫くしたくらいに、天井に誰かやって来て中の様子を窺っている。
天井裏は埃っぽいのだろう、気配は消しているようなのだが息で吹いてしまったのか、穴から落ちてきた僅かな埃で気付いてしまった。気付かれたくなかったら警備に入る前に天井裏を先に掃除した方がいいんじゃないかな?
それにその穴さすがにでかすぎない? 天井を見たら間違いなく気付かれると思うよ?
やほー、元気ー? 仕事してるぅ?
天井を見上げたら穴から覗いている目と俺の目が合ってしまった。
びっくりした? ごめん、気付かないふりをした方がいいんだっけ? でもあまりゴソゴソしていると気になるから……。
「ちょっと、グラン? シャンパンを開けるならこっちに向けないでよ? それとわき見しながら開けるのもやめてよ?」
天井にいる人が気になってしまい、シャンパンのコルクをキュッキュッと親指で押し上げながらつい天井の方を見てしまった。
アベルの方に飛んでいくと怒られそうなので、シャンパンの口は上向きに。
「おう、それじゃ開けるぞぉ? ポーンッ!!」
ポーーーーーーンッ!!
「っちょ!?」
「わっ!?」
「カメッ!?」
思ったより勢いよく封をしていたコルク栓が飛んでしまい、アベル達が驚いて声をあげた。
今は初夏、室温もやや高めで、シャンパンの栓が勢いよくピョンピョンする季節である。
カッ!
「あ……」
吹っ飛んでいったコルクがピンポイントで天井の穴に刺さってしまった。
なんという偶然。なんという事故。警備の人ごめんなさい。
あ、穴から覗けなくなったから帰っていくの? すみません、すぐ外します。って、もういっちゃった、はやっ!!
「あー、もう。天井にコルク栓が刺さるなんて、何をやったらそんな吹き飛び方になるの?」
「いや、刺さったんじゃなくて、元から空いてた警備用の穴にコルク栓が嵌まっただけだ」
アベルがものすごく呆れた顔でこちらを見ているが、馬鹿野郎、ただのコルク栓が天井に刺さるわけがないだろ!! 天井に元から覗き穴があったの!! そこに偶然嵌まっただけなの!!
「え? 警備用の穴?」
ああ、アベルも気付いていなかったのか。バラしたのはまずかったかな?
まぁ、もうどっかいったみたいだし問題ないか。
「ああ、あそこのコルクが刺さってるとこ。さっきまで警備っぽい人が覗いてたよ」
「マジで? もー、中に入ったら警備は入り口だけでいいって言ったのにー。さては俺とグランの会話を盗み聞きするためだな……兄上のバーカバーカ。他に見えない場所に誰かいたりする?」
「今近くにいるのは入り口の外にいる警備の人が二人だけかなぁ? 上にいたのは一人だけで穴が塞がったタイミングでどっかいったよ。天井のコルク栓は回収しとく?」
「いや、いいや。また覗かれたくないし、帰る時まで放置」
アベルのお兄様がアベルを心配してひっそりと護衛を付けていた感じか?
俺とアベルの会話なんてたいしたことは話していないし、聞かれても困らないけれど……はっ! もしかして、俺がアベルに貴族にあるまじき庶民感覚の遊びでも教えていると思われているのだろうか?
すみません、冒険者として活動するうえで、庶民的な生活感や料理はたくさん教えたかもしれません。非常識な遊びや下品な言葉は教えていないと思います、アベルが非常識なのは元からです。
「さて、シャンパンを飲むかなぁ? アベルはもちろん飲むよな? キルシェとカメ君も飲むかい?」
「うん、もちろん貰うよ」
「ぼ、僕はお酒は飲んだことがないので遠慮しておきます」
「カメッ」
キルシェもそろそろお酒デビューしても問題のない年なので、悪酔いしにくい良い酒ならと思ったが無理に勧めるのはやめておこう。
カメ君は前足をビシッと前にこちらに差し出したので、シャンパンを飲む気満々なのだろう。
収納からカメ君用の小さな器を出して、それにシャンパンを注ぐ。その後にアベルと自分のグラスにも。
やや黄味の強い上品な色のシャンパンの入ったグラスを手に取り、高級酒にワクワクした気分になりながらそれを口に運ぼうとした時――。
クイッ!
すぐ横で服の上着の裾を引っ張られる感覚があった。
アベルは俺の向かい側。
キルシェは服が引っ張られた方とは反対側。
カメ君はテーブルの上。
ん? 何かに引っかかったか?
クイッ! クイッ!
また上着の裾を引っ張られる感覚が。
そちらを見るとテーブルの下に見える白。
「ふお!?」
正確には白い頭。おかっぱで蝶の羽のような耳がピョコンと出ている。
「ええ!? 子供!?」
「あっ、昼間の妖精ちゃん?」
「カッ!?」
アベル達もそれに気付いた。
俺の上着の裾をクイクイと引っ張りながらこちらを見上げるおかっぱ頭の妖精ちゃんが、俺と目が合うとニパァと笑った。
「えぇと、さっきぶり? もしかしてお酒が欲しいのかな? それともお菓子? 果物?」
なんと声を掛けていいかわからず、適当なことを言ってしまったのだが、妖精ちゃんは嬉しそうにコクンと頷いてこちらに向けて両手を広げるように差し出した。
全部欲しいってことかな!? 幼児に酒をあげても大丈夫か!?
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日は更新をお休みさせていただきます。土曜日から再開予定です。




