隠れているとつい探したくなる
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オークション会場の前に馬車が止まり、最初に降りたのは俺。それにアベルが続き、最後にキルシェ。
御者さんが昇降用のステップを出してくれているが、それでも小柄なキルシェにとってお貴族様の高級馬車の段差は高いのだろう。
うっかりこけると危ないので、スッと手を出す。
「あ、ありがとうございます。すみません、思ったより高くて。飛び降りるのはお作法的にまずいかなって」
乗合馬車ならピョーンっていってもいいけれど、さすがにお上品な上流階級の人達がいるオークション会場でピョーンはびっくりされそうだ。
一応アベルの親戚の馬車で来ているから、家紋がなくても見る人が見たらどこの家かわかるかもしれない。
貴族はお作法に厳しいからな、今日はピョーンはやめた方がいい。手を貸すからゆっくり降りなさい。
冒険者は護衛の仕事で貴族の護衛をすることもあるため、ギルドが行う講習で上流階級の作法を学ぶことができるのだ。
上流階級からの依頼は、マナー講習を合格したうえで性格や素行に問題がない者しか受けることができない。もちろん冒険者としてのランクも高くなければならない。
あんま貴族の絡む仕事は好きではないけれど、たまに面白そうなのもあるし、お金持ちの護衛は報酬もいいしで、一応マナー講習はほぼほぼ合格をもらっているんだよね。
お金持ちの引っ越しの仕事とか貴族所有の倉庫や事務所整理の仕事とか、いらないものを貰える時もあるし、美味しい賄いが出ることもあるしで、そういう仕事をやりたいがために一応マナー講習も受けているのだ。
ははは、その気になればお嬢様をエスコートすることもできるのだよ。
馬車から降りた目の前には、豪華で大型な建物。確かここは貴族向けの催し物がよく行われているホール。
ここまで乗ってきた馬車が、階級の高い貴族のお屋敷が多い地区の方へと進んでいるので何となくそんな気がしていたが、このオークション会場は上級貴族向けのホール――つまり今日のオークションは貴族の中でも階級の高い者向けのオークションということだ。
アベルウウウウ!? なんで普通の少しお金持ち向けのオークションにしなかったのおおお!? 小市民の俺はめちゃくちゃ緊張するんだけどおおおお!?
え? ギリギリでねじ込んだからこのオークションしか空いていないって言われた?
むしろこういう上流階級向けのオークションの方が、ギリギリで滑り込むのは難しいと思うんだけど? いや、俺は庶民だから上級貴族様向けのオークションのことは詳しくないけれど。
そもそも、お貴族様がシュペルノーヴァの鱗なんて欲しがる? コレクター品としても微妙だし、大きさも小さめで傷もあるし?
貴族には古代竜を妄信している層がいるから傷があるものでも欲しがる者がいる? なるほど?
ああ、そういえばユーラティアの国旗には竜が描かれていたな。王家を始め、由緒ある上位貴族の家紋には竜を模したものも多かった記憶がある。
ユーラティア王国ができる以前にこの地にあったズィムリア魔法国の王が古代竜と知ると、どこにでも一定数はいる古代竜信者や古い貴族の家門に竜を模したものが多い理由も何となく納得がいく。
人々の記憶からとうにその理由が忘れ去られた昔のことでも、遙か昔の痕跡はひっそりと人々の中に残っているのかもしれない。
そういや、アベルのマントの留め具も竜の形をしているなぁ。特に意味があるわけではないかもしれないけれど。
俺達の乗ってきた馬車が止まったのは会場裏手の入り口、立ち入りが制限され周囲にあまり人のいない入り口だ。
表の入り口は上流階級の人達がたくさん見えたので、庶民の俺としては裏口からこっそり入れてもらえるのは嬉しい。アベルが平民の俺とキルシェに気を遣ってくれたのだろうか?
裏口から入れてもらえるのならハゲ散らかしたおっさんや、雑食貴族子息や肉食系淑女にキルシェが絡まれる心配はなさそうだ。
裏口の周囲とそこまでの道には葉の密度の高い木が植えられ、裏口に入る者の姿が周囲から見えづらくなっている。
そういう場所なので入場する側の視界もいいとはいえなく、死角になりやすい場所、外部からの攻撃が見えやすい場所には警備の者が配置されている。
俺も職業柄ついこういう場所は気になるので、周囲の地形や気配を探ってみたら、姿は見えないが思ったより多くの警備が配置されているようだった。
アッ! 潜んでいる周囲を警戒している人めーっけ!!
日がほぼ沈み薄暗くなってきたこの時間、三階角部屋のベランダの手すりに同化するように隠れている黒い服の人、気配はほとんどしませんがチラッと見えていますよ!! ついでに背後の窓ガラスに頭が映っていますよ!!
真っ暗だったら気付かなかったかもしれないけれど、まだ少し日の光が残っているのだ。確かにそこは、上からこの辺りが見回せて警戒するのはちょうど良さそうな場所だけれど、警備の知識があるとわかりやすいポイントだからつい見てしまうのだよ。
あ、目が合っちゃった……、びっくりしたようにコソコソと引っ込んだけれど、仕事を張り切りすぎて警戒しすぎているせいか、隠密スキルの上から気合いが漏れていますよ。
アッ!! あっちの木の陰にもっ!
へー、木の陰の潜む系の人は迷彩柄っぽい装備なんだ。真っ黒より迷彩の方がやっぱ見つけにくいな……アッ、また目が合っちゃった、やっほー!
迷彩状の装備で見えにくいけれど、頭装備の金具の部分が日没後に残る薄い光を反射している。もう少し頭の位置を考えた方がいいんじゃないかな?
あっちの茂みにもいるなー、人の影が自然物の影の上に落ちて少しだけ濃い影ができているな。ほんの少しだけ光がある時に起こりやすい現象だな!!
あ、ここの人も目が合っちゃった、せっかくだから手でも振っておくか。
「グラン……、警備の人を見つけてガン見するのはやめてあげて、手を振るのもやめてあげて。関係ない人にもいることに気付かれちゃうからね。それとどうして気付いたか教えてね、警備の担当者に伝えておくから」
警備の人の反応が面白くて、つい隠れている人を見つけだして遊んでいたら、アベルに脇腹を肘でつつかれてしまった。
「お、おう。気配がするのがつい気になって思わず探してしまった。そうだな、隠れて警備しているのがばれるようなことをしたらまずかったな。ああ、気付いたのはわりと単純なことだから後で纏めておくよ」
「ええ、隠れて警備している方がいらっしゃるんです? 僕は全く気付きませんでした!」
キルシェの反応に、俺が見つけた警備員さんがほっと息を吐くような気配がした。俺は気付いていますよ!!
「はー、優秀な警備のはずなのにグランがあっさり見つけちゃうから、これは警備部に報告かなぁ。俺からしたらトレースの魔法を使わなければ気付かないくらいにちゃんと隠れているのにねぇ。でもグランに見つかっちゃったから兄さん達に伝えておくね」
アベルの言葉に警備員さんが動揺した気配がした。
ダメだよ、動揺して隠密スキルが乱れていたら、竜の巣に忍び込んで落ちている鱗を拾えないぞぉ?
隠密スキルの乱れは心の乱れって、冒険者になった頃に読んだ隠密ハンドブックに書いてあったよ。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました」
馬車から降りて思わず周囲の警備状況に気を取られたが、最後に馬車から降りたキルシェを俺とアベルで挟むように横並びになり、到着した場所から道なりに歩き出すと、裏口で待機していた初老の紳士がアベルの方に向かい深々と礼をした。
白髪交じりに灰色の髪の毛をオールバックにした、ベテラン執事風の品のいい紳士。何となくセバスちゃんって呼びたくなる。よっし、君のことは心の中で勝手にセバスちゃんと呼ぶぞ!
「うん、こちらこそ急にお願いしてごめんね。中に入ったら適当に過ごすから、飲み物と食事だけ最初に纏めて持ってきてくれたら、後は呼ぶまで放っておいてくれていいよ」
うっわ、アベルからいつも以上の上流階級オーラが出ている。なんだこれ、別に光っていないのに謎の眩しさといつも以上の胡散臭さがあるぞ!?
「かしこまりました」
セバスちゃんがアベルに再び深く頭を下げ、続いて俺達にも頭を下げる。
すみません、俺はただの平民なので、あまり畏まられるとビクビクしちゃう!!
そのセバスちゃんに先導され、裏口から劇場に入り関係者用の通路らしき場所を通ってオークション現物の席へと案内をされた。
後ろには警備のお兄さんが二人。上級貴族様向けの施設のことなんて知らないし、アベルを先に行かせてその横にキルシェ、俺が二人の背中を見守る形でちょこちょこと付いていっているので、背中に警備のお兄さん達の視線が刺さる。
俺はアベルの友達なので怪しい人じゃありませんよー。怪しくないのでそんなピリピリしないでください!!
それにしても、この通路にも警備の人が多いなぁ、さすが上位貴族向けのホール。建物の内部にも見えている警備だけではなく、見えない場所にも警備員がいるようだ。
へー、天井裏や途中の部屋の中にもそれっぽい人がいるんだなー。扉に張り付いているみたいだから、思わずよろけたふりをしてドアノブに触れてみちゃった。
あ、びっくりした? 仕事の邪魔してすみません!! 大人しくしています!!
そして案内されたのは、ステージを斜め上から見下ろし、出品される品がよく見える場所にあるゆったりとした個室状の席。真ん中にテーブルがあり、座り心地の良さそうな椅子が四つ置いてある。
個室なので他の客に遭遇することもないので、上位貴族を見て俺がびびることも、キルシェに変な虫が付く心配もなさそうだ。
しかしこういうホールのボックス席ってめちゃくちゃ席代が高い印象があるんだけど? しかも上流階級向けのホールだと、金を払ってもこんな席は簡単に取れない気がするけど?
席に通されておっかなびっくり周囲を見回した後アベルを見ると、ものすごく胡散臭い笑顔で返された。これは聞いても答えてくれない時の笑顔。
案内されて席に座るとすぐに、軽食と飲み物が運ばれてきた。
うひゃー、軽食だけれどめちゃくちゃ高級感があるな! さすが貴族向けのホール!
せっかくだから高級料理を堪能して帰ろう。おぉ? こっちのワインも高そう!
キルシェにはワインはまだ早いかな? ジュースもちゃんとあるぞ!!
「それではごゆっくりどうぞ」
食事が全て運ばれてくるとセバスちゃんが一礼をして、ボックス席のドアを閉めて出て行った。
パタリと入り口の扉が閉まり、それまで胡散臭い貴族のような表情だったアベルの顔が少し緩み、椅子に座る姿もだらりとリラックスした姿勢になった。
「この後は呼ばなければ誰も来ないから、好きにくつろいじゃって大丈夫だよ。でも扉の前には警備がいるから、騒ぎすぎると踏み込んでくるかもしれないから気を付けてね? ま、いくら非常識なグランでもこんなところで騒ぎは起こさないよね?」
失敬な奴だな。
「俺は常識ある平民だからこんなところで騒がないよ。それより、せっかく料理と酒もあるし摘まみながらオークションを見ようぜ」
オークションが行われているステージの方を見れば、ステージ上のテーブルの上に置かれている出品物。俺達のいる席はステージに近い二階席のため、テーブルの上の物は肉眼でもよく見える。
しかし、ステージの後ろには白い大きな布が張られ、そこに魔道具を使って出品されている物が大きく映し出されており、遠くの席からでも現在オークションが行われている物をハッキリと確認することができるようになっている。
庶民向けのオークションだとこんな魔道具は使われないから、遠くの席だと双眼鏡を使うか身体強化で視力を上げて見ないといけないんだよな。
舞台後ろに映し出されているものはリストの序盤にあったものだ。時間は十八時を過ぎているが、まだまだ始まったばかりのようだ。
不人気の掘り出し物があるといいなと思いながら、テーブルの上の皿からチーズを摘まんで口に運んだ。
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