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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第七章

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閑話:王都の休日――とある商人の娘の場合・参

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 古い建物が建ち並び、そこに見えるのは年季の入った店や集合住宅。

 その建物の周囲には、そこに暮らす人々の物だと思われる物がゴチャゴチャと置かれ、道にまではみ出している。

 ピエモンでもよく目にする路地裏らしい光景。王都という僕の知らない大都会だというのに、なんとなく安心感のある町並み。

 油断をすれば道に転がっている物に躓いてしまいそうになる。ただそれだけのことでも、ルナちゃんと並んで歩く道は何故か楽しく感じられ、些細なことで顔を見合わせ笑い、特別ではないよくある出来事も妙にわくわくした気分になった。

 とりとめのない話が妙に弾む。平民と貴族、全く違う育ちの僕達だけれど好きな小説の話に始まり、冒険者の話、グランさんやエクお兄様の話、出会ったばかりなのに不思議なくらい話が合って、おしゃべりが楽しくて止まらない。


 そんな僕達を最初に足止めしたのはでっかい犬。

 道の真ん中でゴロンと寝そべり、通行の邪魔になっている犬。一見寝ているように見えるが、その耳は僕達の方へ向いている。

 人の生活圏で放し飼いにされている犬は地域の番犬や道案内役を兼ねていたりする。

 ピエモンの町にもこういうワンちゃんはいるからね。日頃から店の手伝いで町のあちこちに商品を届けに行っている僕にとって、地域犬をあしらうくらい簡単なことなのだ。


 はいはい、熊さんの干し肉ですよー。これをあげるから通してくださいねー。

 あ、カメさんもいります? はい、どうぞ。

 え? ルナちゃんもいるの? ただの干し肉なので味は微妙ですよ? あ、食べたことがないから食べてみたい? うん、ワイルドな味でしょ?

 何々? ワンちゃん、何かくれるのですか? 何これ、ただの縄? 干し肉のお礼かな? まぁいいや、貰えるなら貰っておきますね。

 グランさんがよく、その時は不要に思えても残しておけば思わぬことで役に立って、それで命拾いをすることもあると言っていました。

 ルナちゃんのお兄様も、冒険者は予想外のことが起こりまくるとおっしゃってる? そうですよね、何が起こるのかわからないのが冒険者ですからね。常に不測の事態に備えておかなければいけませんね。




 ワンちゃんの前を通り過ぎ、道なりに進んでいると、道の脇に積み上げてあった樽が突然崩れてきた。

 咄嗟に身体強化を発動して左手はカメさんを隠すように肩に、右手はルナちゃんの腰に回して自分の方に引き寄せながら抱え込んで前へと跳んだ。

 その後ろで、酒屋と隣の建物の間に積み上げてあった樽がガラガラと崩れ周囲に散乱した。あまり大きくない樽だが、何段にも詰まれ数も高さもあって危なかった。

 咄嗟にルナちゃんの腰に手を回してしまったけれど、ものすごく細くて折れそうで怖いくらいだった。

 どうやったらあんな細くなれるの!? しかも胸は僕より大きいよね!? 本当に同じ人間!? これが平民と貴族の差!?


 あ、樽が詰んであった建物の隙間から酒屋の店主らしきおじさんが出てきた。

 作業していたらぶつかって樽が崩れた? もー、危ないなー。何とか避けたからよかったですけれど、通行人にぶつかったら危ないですから気を付けてくださいね。

 え? お詫びにワイン? 僕、お酒飲んだことがないです。ルナちゃんもない? だったらお酒とは別に葡萄のジュースもくれる? そういうことなら頂きます。

 それにしても崩れた樽があちこちに転がっていって片付けるのは大変そうだなぁ。




 うわー、今度は荷馬車が立ち往生して道を塞いでるー。

 積み荷の大きな布の束が崩れちゃったのか。僕も馬車で仕入れに行き始めた頃、荷物の積み方や縛り方が下手くそでよく荷崩れを起こしていたので、この光景は他人事には思えないなー。

 馬車が邪魔で先に進めないから、荷物を直すのを手伝ってきますね。ルナちゃんは待っていていいですよ。

 え? 一緒に手伝う? 手伝う人数は多い方が早く片付く? カメさんも手伝ってくれるんですか? 


 ルナちゃんそれ布だから、持ち上げる時は畳んであるのが崩れないようにね。端っこだけ引っ張るとぐちゃーっと……あぁ~、手遅れぇ~~!!

 そうだよね、お嬢様だもんね。うんうん、知らないことは覚えればいいし、これで一つ覚えたよね。

 あれ? カメさん? あっ、ルナちゃんが崩した布に埋まっちゃってるー!! 今助けますよー!!

 ああ、使用済みのシーツみたいですからじっとりしていて臭いますね……、カメさんは災難でしたね……。


 荷崩れの原因は荷物を縛っていた縄が千切れてしまったことらしい。

 ワンちゃんに貰った縄を出すとそれでもいいので欲しいと言われたので、浄化魔法で綺麗にしてそれをおじさんに渡すとものすごく感謝されて、近くの宿屋の割引券や、宿で出しているお茶菓子を貰った。おじさんは、宿屋さんに出入りする洗濯屋さんだったようだ。

 へー、二人部屋で休憩だけの利用もできるんだ。ピエモンの宿は宿泊専用だから、短時間の休憩だけでも入れる宿屋は初めて見ました。

 今日はアベルさんの知り合いのお宅にお邪魔するし、僕だけで王都に泊まりがけで来るようなことは当分なさそうだしなぁ。

 ルナちゃん使う? 外泊なんか絶対無理? そうだよね、超お嬢様っぽいもんね!!

 うーん、これはグランさんにあげることにしよう。グランさんなら、王都の宿屋を使う機会があるかもしれないしね!!




 馬車の荷物は無事に積み直せて、馬車が出発したので僕達も先に進むことができた。積み直している間にお馬さんが我慢できなかったのね……僕たちは何も見なかったことにしよう。

 ルナちゃん曰く、次の曲がり角を右に曲がって後は道なりだそうだ。

 って、曲がり角を曲がったところに薪用の短く切った丸太がたくさん転がってる!! 曲がり角の先に丸太なんて危ないな、もう!! 近くの家の薪用の丸太が崩れたっぽい?

 ルナちゃん、何で丸太を蹴っているの? ああ、危ないから隅っこに寄せているのね。でも強く蹴りすぎて転がった先で跳ね返って更に散らかっている気がするな。もっとそっと蹴ってあげた方がいいんじゃないかな?


 あっ! あそこでうずくまっている女の人は丸太を踏んで足を捻ったのかな?

 大丈夫ですかー? 立てますかー? 痛くて無理? ポーションはー……、魔力酔いするから無理?

 ここにうずくまっていると馬車が来た時に轢かれるかもしれませんね。うーん、お家が近いなら僕が背負っていきましょうか? 大丈夫です、僕こう見えて力持ちなんです。見た目はこんなですけど女ですので安心してください、なんなら確認します?

 痛っ! カメさん、髪の毛を引っ張らないで? ルナちゃんは何で脇腹をつつくの!? もしかして僕が女の子なの疑ってる? 確認する? 何でそっぽ向くのぉ!?

 怪我をしている人をそのままにしてはおけませんし、こういう理由の寄り道ならグランさんもきっと納得してくれるはず。







「ありがとねぇ。買い物の帰りにあそこで動けなくなって、どうしようかと困っていたからすごく助かったわぁ。これ、たいした物じゃないけどよかったら貰って」

 道でうずくまっていた女の人を背負って家まで送り届けると、たくさんたくさんお礼を言われ独特な上品さを感じる香りのする可愛い匂い袋を貰った。

 綺麗な色の布に少し変わった柄の刺繍が入っており、小さな鈴の付いた紐で袋の口が結ばれている。その紐の結び方もどうやってあるのかわからない複雑でそして可愛い結び方になっている。布の材質もピエモンでは見たことのないものだった。

 世界には僕の知らない物がまだまだあることを実感する。


「ふふふ、内職で作っている匂い袋よ。私の故郷の辺りではお守り代わりに匂い袋をポケットに入れておくの。親切な女の子達に幸せが訪れますように」

 へー、こんな可愛い匂い袋だから持っていると何かいいことがありそうな気がしてくるな。

「ありがとうございます。大事にしますね!」

「ありがとうございます。キルシェさんとお揃いですわ」

「カッカァー」

 お揃いの匂い袋を貰って、嬉しくてルナちゃんのものと見比べているとカメさんにチョイチョイと髪の毛を引っ張られた。

 いけない、早く冒険者ギルドに行かないと。


 チョイチョイと髪の毛を引っ張るカメさんに急かされるように、匂い袋の女の人にお礼を言ってその家を出る。

 女の人を家まで送ったため、旧市街地の奥の方まで来てしまったが、道はちゃんと覚えているから問題ない。僕も冒険者だから、一度通った道はちゃんと覚えるようにしているのだ。



 道はちゃんと覚えている……覚えて……おぼ……ああああああ……!!!


 だだだだだ大丈夫! ここに来るまで緩い下り坂が続いていたので、帰りは上りの方へ行けば、あの丸太の転がっていた道に戻れるはず!!

 あれ? たしかこっちの道から来たような? あ……ここさっきも通った道だっけ? 一度先ほどの女の人の家まで戻って――どこだったっけ……。

 しまった、思った以上に似たような建物が多い。地元ッ子のルナちゃんならきっと……。

「あらら……この辺りは、わたくしが覚えてきた地図には記載がなかったというか、省かれていた辺りですかねぇ。旧市街地の奥の方は細かい建物が密集してる上に、増改築を繰り返してる建物が道を潰すこともあると聞いてますわ」

 つまり、ルナちゃんも知らない道。

 カ、カメさん、道を覚えています?

「カ!? カカ……カ……ヵ……ァ…………」

 あ、目を逸らされたっ!

 ととととととりあえず、少しでも広い道を探して辿って歩いていきましょう。広い道を辿ればもっと広い道に出るでしょうし、人がいれば道も聞けますし、細い道よりわかりやすいかなって?




 そうやってできるだけ綺麗な道を選んで歩いていると、少し変な形をした三叉路に出た。

 僕達が進んで来た方から正面には少し急な上り坂。そして右手には建物が張りだして少し見通しが悪くなった先に緩やかな上り坂。

 うーん、どっちだろう?


「あっ! 見つけたぞ!!」

「お嬢ちゃん目立つもんなぁ、覚えてる奴も多くて探しやすかったな」

「おじちゃん達とちょっと一緒に来てもらおうか。平民の坊主の方はいらねーかなー?」

 うわっ、あの人達はっ!

 右側の坂道をダラダラとこちらに向かって歩いて来るガラの悪いおじさん三人組が見えた。

 先ほど広場でルナちゃんに絡んでいた人達だ。


「逃げよう!」

 ルナちゃんの手を取り急な坂道の方へ走ろうとすると、そちらからも三人の悪い男がこちらに向かって来ているのが見えた。

 右の道から来たおじさん達も急な坂の方から来た男達に気付く。

「いいとこに来た! そっちの道を塞いで逃がすな!」

 ええーっ! 仲間なの!?

 男の数は合わせて六人。あまり広くない三叉路を封鎖するように立たれ、背の低い僕は前がよく見えなくなる。男達がこちらに向かってジリジリと距離を詰めると後ろに下がるしかなく、ルナちゃんを庇うように前に立ち元来た道の方へと後ずさりをする。


「大人しくついて来れば、何も痛いことも怖いこともしないぞー」

 男の一人がこちらに手を伸ばしてくる。

「カーーーッ!!」

 それに目がけてカメ君が勢いのある水を男の顔へと放ち、それをくらった男が水の勢いに押され後ろに倒れた。


「何だこの亀!!」

 その攻撃で男達の手が止まり、――え?

「フォアッ!?」

 カメさんもそれに気付いたのか、すぐ横で変な鳴き声が聞こえた。

 男が一人倒れ、その隙間から正面の急な坂道が見えた。そこから見えたのは坂道だけではなく、急な坂道を勢いよく転がってくる複数の樽! 樽!! 樽!!!

 何で樽うううう!?

 


 おじさん達はまだその樽に気付いていない。

 チラリと後ろのルナちゃんに目をやると目が合って、無言で頷いた。僕の考えていたことが伝わったみたいで嬉しい。

 転がってきた樽がおじさん達にぶつかったら、その隙に逃げるつもりだ。魔物用の目くらましの煙玉でも投げておけば逃げ切れるだろう。

 カメさんの攻撃で一度怯んだ男達が気を取り直し、再びこちらに手を伸ばそうとした時――。


「グァッ!」

「は?」

「何だ!?」


 転がってきた樽が後ろから男達にぶつかり、何が起こったか理解が追いついていない男達が後ろを振り返る。

 その隙に逃げ――ええええ!?

「ていやーーっ!!」

 ルナちゃん!?!?


 後ろを振り返った男の脇腹を目がけてルナちゃんが蹴りを入れた。

 違ううううう! 逃げるんですよおおおおおお!!

 あああああああー!! おじさん達にぶつかって飛び跳ね、こちらに転がってきた樽をルナちゃんがおじさん達の方に蹴り返したああああ!

 あああああー、もう! 僕もこちらに転がってきた樽を掴んで投げちゃううう!!

 使えてよかった身体強化! ありがとう、グランさん作の重力操作機能付きの指輪!!

 空樽だったようで思ったより軽い! そおおれえええええええ!!

「ファーーーーーッ!?」

 カメ君もびっくりしている。うん、ルナちゃんって思ったより好戦的なお嬢様でびっくりしたよね!!

 やっぱり、出会ったばかりで無言の連携なんてできなかった。


「この野郎!!」

 樽が転がってきて混乱していた男達が体勢を立て直し始め、こちらへと向かってくる。

 相手は体格のいい男だし、数も多い、完全に体勢を立て直されると逃げ切れなくなってしまう。

「ルナちゃん、逃げるよ!」

「え? あ、はいっ!」

 引く気配のないルナちゃんの手を掴んで、男達のいない元来た道の方へと駆け出す。


 暴れたせいで緩んだのか、ルナちゃんの髪を束ねている赤いリボンがパラリとほどけて宙を舞う。

 リボンが解けた直後、茶色だったルナちゃんの髪の毛が毛先から根元へと、光が広がるように眩しい金色へと変化した。

 それはまるで急激な夜明けのよう。その不思議な光景と眩しい金色に思わず目を奪われた。


 それに目を奪われたのは僕だけではなかった。

 ガラの悪い男達も眩しい金色に目を奪われ呆けたような顔になっている。

 そのくらいルナちゃんの髪の毛は眩しく神々しかった。


「カッ!! カカカカカカーーーー!!」


 いつの間にか僕の肩から地面に降りたカメさんが、男達の前に立ちはだかり僕達を追い払うような仕草で前足を振った。

「逃げろってことですか?」

「カッ!」

 カメさんがコクンと頷いた。

 何だろう、すごく小さいカメさんなのにすごく頼もしいオーラが出ているし、可愛い子亀さんなのにかっこよく見える。


 ランクの高いダンジョンからグランさんが連れ帰ってきたカメさん。僕達が一緒にいる方が足手まといになってしまうのかもしれない。

「わかりました、先に行ってますね。カメさんも無理はしないでください!」

「カメッ!!」

 ものすごく力強いカメさんの返事。ここはカメさんを信じて任せることにしよう。


「ルナちゃん、行くよ!」

「え? エクお兄様に貰ったリボンが――」

 解けて宙に舞い、風に吹かれるようにフワフワと飛んでいくリボンをルナちゃんが取りに戻ろうとする。

「ダメ! 今は逃げよう、リボンよりルナちゃんが無事に帰る方が大事! それはお兄さんもきっとそう思うはずだよ」

 ルナちゃんの手を引き細い路地へと駆け込む。


 おじさん達はカメさんに任せ、建物の隙間の細い道を奥へと進み、更に細い建物の隙間に滑り込みそこに身を隠してカメさんが追いついてくるのを待つことにした。














「キュ?」


 そんな僕達の前にエメラルドグリーンのフラワードラゴンが姿を現した。

 木箱の上から僕達を見下ろし首を傾げるその姿に、なんとなく嫌な予感がした。





お読みいただき、ありがとうございました。

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[一言] なるほど~ つまり、あれだね、迷子だ(笑)
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