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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第七章

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正当防衛でぶん殴っていい権利

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ガサ入れだ!!」

「たのもー!!」

「正義の味方の海エルフさんだ!!」


 騎士さんがバーンッと店のドアを開けて、俺がその後に続く。最後が海エルフ君。

 さすがに小汚い酒場の入り口を大人三人横並びで通過は無理だったので早い者順での突撃だ。


 ところで、奥にキルシェ達がいるのは確かなのだけれど、いまいち状況がわからないし突っ込んでも大丈夫なの?

 ここの奴らがキルシェとセレお嬢様を誘拐監禁している証拠もないけど?

 二人がいるのはわかっているから何とでもなる? キルシェとセレさん以外にもつつけば色々埃が出そうだから問題ない? 別件捜査でごり推し上等?

 あとは貴族を信じろ? 相手も後ろに貴族はいるみたいだけど? 騎士さんのお家の方が間違いなく上? これが権力の正しい使い方?

 なるほど、ちょっと意味がわかりませんね!? 貴族こわっ!!


「なっ!? 騎士?」

「騎士様がここに何の用だぁ?」

 店内に踏み込むとテーブル席に座っていた男達が立ち上がり、手に持っていた食事用のナイフをこちらに向けすごんだ。

 あーあーあーあー、いきなりナイフなんかこちらに向けるから、正当防衛でぶん殴っていい権利ができちゃったじゃないか。


 店内に踏み込むとガラの悪い男がテーブル席に数名と店主らしき男がカウンターの向こうに一人。

 外から確認した気配の数より少ない。

 キルシェ達が奥で何かしていることに気付いてそちらに向かったか?


「騎士様がこんなところに何の用ですかねぇ? 見たところたった三人だけで乗り込んで来られたので?」

 店主はニヤニヤと嫌な笑いをしながら、俺達から見えないカウンターの下でごそごそと手を動かしている。

 おそらく攻撃の準備をしているのだろう。


「閃光ポーションを使うぞ」

 直視すると目が痛くなるので投げる前に小声で二人に伝える。

「え? それ今言う?」

「そういうのは突入前に言えって」

 言う前に突っ込んだのはお前らだ。やはり初めて共に行動する相手と連携を取るのは難しいな。

 だがチンピラ程度の相手を纏めて無傷で無力化するには閃光ポーションは有能すぎるのだ。

 よぉし、投げちゃうぞーーー!!

 ん?


「キュッ! キュキュキュキューーーーー!!」


 腰のポーションホルダーに挿してある閃光ポーションの瓶に手をかけた時、バタッとカウンター後ろの扉が外れて前に倒れ、それがカウンターに立っていた店主を背後から直撃しそのまま扉の下敷きに。

 なんというか、クソ痛そう。

 ボロそうなドアだったからな……、店の設備はこまめに修繕しような。


 そしてその外れたドアから甲高い鳴き声と共にフラワードラゴンが飛び出して来た。

「あああああー、フラワードラゴン君ーーー!! そっちは多分ダメなやつーーー!!」

 ドアの奥は通路になっており、その奥の方から聞き慣れた声が聞こえた。

「もう行ってしまったようですし、このまま全部なぎ倒していきましょう!」

 その後に聞こえてきた声は鈴の鳴るような上品な声だが、その内容はなんとも物騒である。

「セレ……」

 すぐ横で騎士さんがぼそりと呟いた。なるほど、噂の家出ご令嬢様……。


「ガキどもが店の方に行くぞおおおお!!」

 奥から男の声が聞こえる。

「うごっ! 丸太!?」

 あ、察し。


 キルシェ達がこちらに来ているのなら閃光ポーションはやめよう。

 店にいた男達は飛び出してきたフラワードラゴンと店の奥の騒ぎに気を取られ、俺達から注意が逸れている。

「キルシェ! 俺だ、グランだ! そのままフラワードラゴンが進んだ方に来い!!」

 店の奥へ向かって叫びながら、収納から取り出した砂を近くの男達の顔面に向かってぶちまけた。

 はっはー!! Aランク以上でしか入れないダンジョンの海砂だ。ありがたく目潰しされてろ!!

 俺に続いて海エルフ君が指先からブシューッと強烈な水鉄砲を放って、それに当たった男が勢いよく吹き飛ぶ。

 騎士さんは……うっわ、すっとんでいって普通に殴っている。指先までプレート装備の騎士パンチめちゃくちゃ痛そ。

 店内は人数も少ないし、この二人が制圧してしまいそうだから俺はキルシェ達の確保を優先しよう。


「グランさん!?」

 扉の奥からドタドタと足音がしてキルシェの声が聞こえた。

「店に入ったらカウンターを飛び越えてこっちに来るんだ! 足元に気を付けながら倒れてる扉は思いっきり踏んでもいいぞ! そして後ろは振り返るな!!」

 俺が叫んだとほぼ同時にキルシェが扉から姿を見せた。そしてその腕の中にいるものに気付き目がいくが、それについて聞くのは後回しだ。

「わかりました! ルナちゃんこっち!」

 扉の前で一度足を止め後ろを振り返り、キルシェの後から来た眩しい金髪をなびかせるパンツスタイルの美少女と共にカウンターを乗り越えた。

 カウンターの向こうからグエッというカエルを潰したような声が聞こえて来た。よかったな店主君、扉越しだが年頃の女の子二人に踏んでもらえるなんてご褒美だろ!!


 二人が扉から出てきた後、通路に向かって閃光ポーションを投げてやろうかと思って構えていたのだが、彼女達を取り巻くようにわらわらとフラワードラゴンも扉から出て来て、ポーションを握って振りかぶった体勢で停止してしまった。

 何だこのフラワードラゴンの群れは!?

「店の方へ行ったぞ! 逃がすな!!」

 わらわらと出てきたフラワードラゴンの群れに思わず閃光ポーションを投げるのをためらったが、フラワードラゴンは光属性の亜竜だったな?

 よっし、閃光ポーションを投げても光耐性がありそうだから問題ないな!?


 ポーイッ!!


 扉の奥でポーション瓶が割れる音がして、パァッと白い光が通路の中へと溢れる。

 ちゃんと通路の奥の方に向かって投げたから店内までは被害はないぞ。通路から男のうめき声が複数聞こえるが、まだ動いている奴の気配もあるな。

 おまけも付けてやろう。くらえ、目や喉がくっそ痛くなるスモークポーション!! なんと今なら悪臭付きで更にお得!! うっわ、思ったより臭っ!!


「セレ!」

「ふぇ!? げっ! ノワ兄様!?」

 近くの破落戸を騎士パンチで殴り倒した騎士様が、カウンターの奥から出てきた美少女ちゃんの方を振り返りその名を呼んだ。

 そして美少女ちゃんは、悪戯を見つかった子供のような反応。すごく活発なお嬢様みたいだしお兄ちゃんも大変だなぁ。

 うんうん、わかるよ、俺もガキの頃に気が強くて活発な妹に振り回されまくったからな。


 店内にいた男達は騎士さんと海エルフ君でほぼ制圧されて、ほとんどの者が意識を飛ばしている。意識のある者も何らかの攻撃を受け、戦意を削がれた状態だ。

「げっ、てなんだ! げっ、て!! 優しいノワ兄様が迎えに来たのに! ん? そっちの子はどこかで――っと、何はともあれ無事でよかった。詳しい話は後で聞くから、こっちに来てお兄ちゃんの後ろで大人しくしていなさい」

「……はぁい」

 騎士さんが両手を広げながら美少女ちゃんにうながすと、周りの状況を確認して少し俯き加減で返事をして美少女ちゃんが騎士さんの方へ移動する。


「グランさん、逸れちゃってすみません。助かりました、ありがとうございます」

「とにかく、無事でよかった。ここが落ち着くまで少し下がっててくれ」

「は、はい」

 騎士さんと美少女ちゃん兄妹に続いて俺もキルシェを手招きしながら、その腕の中にいるものを改めてマジマジと見た。


 えぇと、そのお子さん人間じゃないよね?


 キルシェの腕の中にはぷっくりとした体型の小さな子供が抱きかかえられていた。

 顎の辺りパツンと切りそろえられた白いおかっぱ頭の左右から蝶の羽のような形をした耳が生えているのが見えた。

 亜人? いや……これは……。謎の子供も気になるがもう一つ気になることが。


「それ、知っているぞ。場所によって呼び名は変わるが、木や家に住み着いてそこにいる者に幸運を運ぶと言われる妖精だな。海エルフの里でもでかい木に宿っているのをたまに見たことあるぞ」

「キュッキュッキュー」

 気になることがあってキルシェの周囲を確認するがそれを見つけることはできず、そんな俺の横に海エルフ君がやって来ておかっぱ頭の子供を指差して言った。

 そして海エルフ君の言葉を肯定するようにキルシェの周りにいたフラワードラゴンが、チョロチョロと彼女の周りを走り回る。


「ガキどもはどこだ! ついでにあの妖精のガキもいないぞ!!」

「店の方だ! 騎士がいるぞ気を付けろ!」

 何でそんなものをキルシェが……という疑問を投げかける前に、店の奥から追加の足音が複数と男の声が聞こえてきた。

 どうやらまだおかわりがいるようだし、閃光弾や少し臭くて目が痛くなる程度の煙ポーションだとすぐ復帰してくるよな。あ、女の子達に踏みつけのご褒美を貰った店主さんも復活しちゃった?

 三人だけなのでチンピラどもを一時的に戦闘不能にしても、拘束はしていないので暫くすれば復帰してくる。

 これは復帰してくる気がなくなるくらい心を折っておかないといけないかな?


 キルシェから詳しい話を聞く前にお片付けの時間だ。




「屋内での戦闘っていうのはなぁ! 出口を制したものが勝ちなんだよおおおおおお!! つまり、出口閉鎖!! くらえ! 必殺、酒場で土砂は可哀想だから丸太を詰め込むくらいで勘弁してやろうアタック!!」

 数名の男がカウンター奥の扉の外れた出入り口から店内に入って来たので、カウンターに飛び越えるついでに店主を蹴り倒し、出入り口に丸太を詰め込んで封鎖。復帰地点を封鎖なんて当たり前だよなあああ!?

 おっと、これはただの大容量のマジックバッグなので気にしないでくださーい!


「君達、ガキが逃げたとか言っていたよね? つまり捕まえてたの? ガキってうちのセレのこと? まぁ、後でゆっくり話を聞けばわかるからいいや。あとその子が連れてる妖精、ちゃんと届け出だしてる? 町の中で魔物を飼育するのは届け出がいるのは知ってるよね? うんうん、珍しいやつほど審査が厳しいからね? こんな場所で妖精の飼育なんてまず許可が下りないから絶対出してないよね? それとも許可証を偽造してるのかな? まぁいいや、調べればわかるもんね。それとセレをガキとか言った時点で不敬罪適応!! つまり殴ってよし!! 今日の俺はただの騎士さんだから殴るだけで勘弁してあげるよおおおお!!」

 騎士さんの拳が光っているなぁ。攻撃魔法は苦手って言っていたけれど、自己強化や攻撃補助系はすごく得意そうだな。

 いやー、拳が強化されまくって唸りを上げているけれど、相手のおっさん生きてる? ギリギリ生きていそう? 


「いいか、あれは人間の常識をよく知らない俺から見ても絶対非常識な奴らだからな? 真似はしない方がいいと思うぞ? お嬢ちゃんも冒険者になるなら常識を大事にしないといけないぞ? おっと、今日のところは偉大な海エルフのお兄さんが悪い奴らを水でピューってして倒して全部縛っておいてやるから、今後冒険者になるなら手本にするといいぞ」

 おいこら、そこの海エルフ、サボってんじゃねーぞ!! ついでに自分だけ常識人のふりをしてんじゃねーぞ! 木造の店内で水を撒きまくると後片付けが大変だろ!! 常識的に考えろ!!


「グランさんあぶない!」

「うおっと!? 大丈夫だ、このくらい問題ない!」

 出入り口に丸太を詰め込んだ俺の後ろから椅子を持った男が近づいて来て、カウンター越しに椅子を振り下ろそうとする気配には気付いていた。

 振り返りその椅子を左手で受け止めて、収納に没収。まいどありっ!!

 手に持っていた椅子が突然消え、そのことに反応できずそのまま椅子を振り下ろす動作を続け、前のめりに体勢を崩す男。

 俺はカウンターに足をかけ乗り越え、そのまま体勢を崩した男の顔面を蹴飛ばして客席側に着地する。

 冒険者の靴はめちゃくちゃ硬いからなー、痛いよなー。まぁ、取り調べの時に少しくらい手当てしてもらえるんじゃないかな?


 おっとぉ? 次はナイフを持った男か? 残念、ナイフより椅子の方がリーチは長いぜ!

 先ほど没収した椅子を取り出し、その面の部分をこちらにナイフを向けた男の顔面に押しつけるようにぶつけ、とどめに椅子の上から蹴飛ばしておく。

 はっはー! 屋内乱闘、ちょっと楽しくなってきたぞおおお!!


 ん? そこのおっちゃん、酒瓶割って武器にするのはいいけれど、安酒でもお酒がもったいないよぉ?

 食べ物を粗末にする奴はお仕置きだー!! くらえ、怪しい痺れキノコアタック!! 痺れキノコはキノコだけど食べ物ではないからセーフ!!


「屋内では皆様剣は使われないのですね」

「人が相手だし傷付けないため?」

「めっちゃ殴る蹴るで傷付いてるぞ? 屋内で剣を使わないのは、障害物が多くて長い剣は特性を活かせないどころか、不利になるからだな。俺様みたいにパパッと魔法が使えるなら魔法が楽でいいが、魔法が苦手なら小型の武器や素手での立ち回りを覚えるといいぞ」

 青エルフ君はキルシェとセレお嬢様を守るような立ち位置をキープしながら、水鉄砲で男をなぎ倒しそのまま水で作った縄で拘束していっている。

 くそぉ、魔法羨ましいし、戦況を解説するほど余裕あっていいな!?

 そのままキルシェとセレお嬢様を守っておいてくれ。





お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カメくんがどんどん冒険者としての常識を身につけつつあって ほっこりする。
[一言] フラワードラゴン大量発生事件~(//∇//)
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