アグレッシブなお嬢様
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若者君に教えてもらった道を進むと、やや幅が広いしっかりとした道に出た。
そこには地元の人が使う小さな商店や酒場が並んでいる。その通りに出てすぐ左向かい側に看板が上下逆の店があった。
その周囲に見える店のいくつかに見覚えがあり、現在地がだいたいどの辺りかわかった。
「ああ、ここか。へぇ、この店がそういう店だったんだ、ふぅん」
騎士さんも何となくわかったようだ。
「この先の分かれ道を左に行って道なりに行くと冒険者ギルドの本館裏手っすね」
女性の足なら十五分から二十分くらいだろうか。この辺りでは比較的広めで歩きやすい道。
道に迷い付近の住民に聞いたのなら、このわかりやすい道を教えられてここまで来たのも納得できる。
確かに他の細い道に比べればわかりやすく歩きやすい道ではあるが、治安はあまり良い場所ではなく、油断すると間違えて脇道に入ってしまいまた迷ってしまうような場所だ。
そして、キルシェ達のにおいがするというのは、若者達が言っていた例の酒場方向。
「キルシェとセレさんのにおいはあの建物の中で間違いないんだな?」
店の正面が見える位置の建物の陰に身を隠しながら青エルフ君に問う。
「ああ、飴は確実にあの建物の中だな。ただお嬢ちゃん達はもう少し奥の方の感じがする」
「ふむ……、飴はあの酒場の中辺りで、セレとキルシェちゃんはその奥ということかい?」
「んあ? まぁ、そんな感じかもしれないな。建物の中まではよくわかんねーな。嬢ちゃん達はちょっと遠い感じだ」
「むう……、飴は目印のように置いてたから、後をつけていた奴がいるならそいつらが拾って、持ち帰って店に入った可能性もあるね。店の奥の方にいるということは捕らわれていると思っていいかもしれないね。うちの部下はまだ来ないし、俺達だけで制圧しちゃおっか?」
騎士さんから殺気に近い気配が漂い始める。
青エルフ君の鼻を信じるならそう考えるのが自然なのだが、店周辺の地形と気配を探ると少し違和感がある。
その店があるのは三階建ての集合住宅の一階部分。二階から上はあまり大きくない部屋がいくつか入っているアパートになっているようだ。
もちろんそこに住人の気配はするし、酒場の辺りにはあまり強くなさそうだが複数の男性っぽい気配。昼を少し過ぎた時間だが、この時間の飲食店にしては客入りの少ない店の印象だ。元から流行っていない店なのか、客は関係者のみの店なのか。
関係者のみというのなら、関係ない人を巻き込む心配もないのでこちらとしてはやりやすい。
酒場の建物の向こうには裏庭のような空間があるが、そこに別の小さい建物があるのがわかる。小さい建物だが地下室があるようで、構造的に倉庫――酒場の食料庫っぽい構造ではある。
青エルフ君のいうキルシェ達のにおいはこの倉庫の辺りからか? 確かに誘拐した女の子を入れておくにはちょうどよさそうな場所だな。
しかしそこには女の子二人の気配らしきものはない。
「酒場の奥にキルシェ達がいるのは間違いないのか? キルシェ達の持ち物とかじゃなくて?」
「本人達で間違いないぞ。本人と持ち物はにおいが違うから間違えるわけがないな」
言いたいことはわかるし、その情報はありがたいのだが、言い方がどうにも変態臭がしてならない。
そしてキルシェ達は店の奥にいるようだが、その気配を拾うことができない。
「おかしい、キルシェ達の気配が拾えない。気配が外に漏れないような分厚壁の場所にいるのか? いや、そんな地形は感じないな? だとしたら気配を消している? キルシェは冒険者だからそれくらいできそうだけど、お嬢様は――」
カメ君がついているなら最悪の可能性はないだろう。あぁ、気配がないのはカメ君が何か魔法でも使って気配を消しているのか?
更に集中して気配を探ってみる。
あぁ……これキルシェか? 倉庫の地下室辺りでほんの少し気配を感じた。確かに一緒に誰かいるな、これがセレさんか?
カメ君の気配はわからないな……。まぁカメ君はすごいカメだから、完璧に気配を消していてもおかしくないな?
「セレも気配くらいは消せるよ。というかそれが厄介なんだよなぁ……、まさかあんなに才能があるとは思わなかったんだよ……」
「へ?」
俺がキルシェとセレさんの気配に気付くのと、騎士さんの困ったような声が聞こえたのはほぼ同時だった。
その意味のわからなさに変な声が出た。
「キンキラキンのお嬢ちゃん、リザードマンの子供くらいやんちゃだったぞ?」
海エルフ君。言いたいことはわかるけれど、その比較対象はどうなんだ!?
わかるぞ、君は世間知らずすぎて空気読めない君だろ!? ほら、妹さんとリザードマンを比較するから騎士さんからすごく微妙な空気が出始めたぞ!!
種族差別はよくないと思うのだが、もう少し考えて発言することを覚えた方がいいと思うぞ。
「うちの可愛い弟――妹にとっては兄なのだが、それがそりゃーもう素晴らしい魔法使いでねぇ。それに憧れて魔法使いになりたいと言い出して、しかし魔法の才能がないので諦めたと思ったら今度は剣を振り回し始めてね。まぁ、剣を振り回して気が済むのならと思い俺が手ほどきをしてやったのだが、想像以上に才能があってさ、今年から学園に入る年なのだが、学園で習うようなことは習得済みだからと卒業までの間冒険者をやりたいと言い出してね。当然のように兄上と義母上に猛反対されてケンカになって、警備の隙をついて家を飛び出してしまったのだよ」
バイザーが下ろされたヘルムの中から騎士さんの深いため息が聞こえた。
なんともアグレッシブなお嬢様だな!?
そりゃ、いくら剣の才能があってもいきなり冒険者になると言ったらご家族も心配だよなぁ。
「あのキンキラキンのお嬢ちゃんなら、偉大な俺様の目から見ても人間にしては才能がありそうだったぞ? まぁ、才能があってもまだまだ磨きが足りなくて意味がないけどな。それとやべーくらい世間知らずっぽかったぞ? 大丈夫か、お前の妹? ちゃんと常識を教えてるか? 冒険者の前にまず常識を勉強した方がいいぞ?」
や、お前が言うな。
「世間知らずの海エルフ君に言われたくない気もするけど、まぁ妹の世間知らずは否定できないね。学園卒業までの間で空いた時間だけとはいえ、どうしても冒険者をしたいというのなら、市井の常識も教えないとな。心配ではあるけどこうして家出をされるくらいなら、すごくしっかり準備をして送り出したいよ」
騎士さんがハァとため息を漏らす。
大丈夫? お貴族様が庶民の常識わかる? 俺が冒険者の常識と合わせて庶民の一般常識も教えてあげようか?
「んー? こそこそと何かやってる感じか? あ、キルシェ達の気配が動いた」
騎士さんの話を聞いていると、キルシェ達が動く気配を感じた。
あれ? キルシェ達と一緒に小さな気配? カメ君じゃないな? てか、カメ君の気配がないな? まぁ、カメ君は気配を消すのが上手くていつもほとんど気配を感じないなぁ。
え? 小さな気配がわらわら出てきたぞ?
これは――。
ガタッ!!
キルシェ達の気配が大きく揺れた。これは何かに動揺した感じか?
それと同時に店の中の気配が一気にざわめいて、店の奥に向かった気がする。
「まずい、何かよくわからないけど、キルシェ達が店の奥の方で何かしてて、店の中の連中のうち何人かがそっちに向かってる!」
収納の中からゴーグルを取り出して装備する。続いて、閃光ポーションと目や喉が痛くなる煙の出るポーションを取り出して腰のポーションホルダーにかけて、突撃準備完了。
「何だかよくわからねーが、確かに建物の中が騒がしいな。水で押し流しちまうか?」
海エルフ君は見たところ武器のようなものは持っていない。収納持ちなのか拳で語るエルフなのか。
あ、エルフ? もしかして魔法使い? にしては随分筋肉質だし、タックル一つでおっさんを弾きとばしていたよね?
「いやいやいや、それは他の住民もいるし、奥にセレ達がいるから押し流すのはダメだよ。つまり安全に正面突破だよ!!」
騎士さんが剣も抜かず酒場の方へと走り出す。はやっ! というか素手!? こっちも拳で語るタイプ!?
腰の剣は飾り? あ、屋内はロングソードは不利だよね? なるほど?
「む? 建物ごと押し流すのはまずいか。面倒くさいがチマチマやるかー、俺は細かいこともできる器用な海エルフなのだ」
海エルフが騎士様に続く。
「え? ごり押し正面突破!?」
待ってーーー!! 俺も突撃するーーーーーー!!
お読みいただき、ありがとうございました。
※リアルの都合で明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。土曜日から更新再開予定です。




