珍妙で怪しい海エルフ
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目の覚めるような鮮やかな青い短い髪と、真っ青な三白眼がやたら印象的だった。
ひょろりと背が高く、耳が少し尖っているところを見るとエルフ系の種族なのだろうか?
しかしエルフにしては健康的にやや日焼けした肌の色、そしてエルフらしからぬ……いや、ユーラティアでもこんな服装は見慣れないな。見るからに薄い生地の半袖シャツ。そのシャツには青を基調した色使いでド派手な花柄が描かれている。
なんだろう、今世では見慣れないが、前世ではそんなシャツあった気がする。ア……ア……アー……なんだっけ、これ以上は転生開花が悪さしそうだからやめておこう。
そのド派手な青系のシャツに下は膝丈のハーフパンツ、足元は指先が出ているスリッパのようなサンダル。靴底が木製であるため、前世にあった便所サンダルを思い出す。
晴れた日は少し汗ばむくらいの季節ではあるが、その恰好は初夏というか夏。夏は夏でも常夏の南国を思わせる恰好である。
南の海のように鮮やかな青い髪とド派手なシャツのせいか、黙って立っているだけでも騒がしく感じる不思議な男。前世のイメージでとてもチンピラっぽく見えてしまう。
前世ではこんな恰好の奴はたまにいたが、今世でこんな恰好している奴初めて見たな……まさか、転生者か転移者!? いや、耳が尖っているから転移者ではなさそうか?
「あー、その独特の民族衣装、君は海エルフだね。見たところ派手な喧嘩をしていたようが、ここは人間の町だから海エルフでも人間の法を守らないとだめだよぉ? いい? ただの喧嘩でもやりすぎたらお説教しないといけなくなるからねぇ?」
え? 海エルフ? なるほど?
騎士さんの言葉で気付く。南方の島に住み、漁業を中心とした生活を送っているというエルフ。ユーラティア本土ではほとんど見ることはない種族で、海沿いの街でたまに見かけるくらいだ。
見慣れない服装だと思ったらなるほど民族衣装。随分派手でカジュアルな民族衣装だな!?
「む? わかっているぞ、俺様は偉大で賢いこだ……海エルフだからな。人の町では人の法に従うようにおっさんにも耳が痛くなるくらい言われたし、小さい奴らを殴る時は加減するように言われたからちゃんと守ってるぞ。こいつらは人間のお嬢ちゃん達に絡んでいた奴らだから、お嬢ちゃん達を探すついでにちょっとお仕置きをしただけで俺は悪いことはしてないぞ」
やたら尊大な態度の青い海エルフ。その尊大さがなんともいえない不安を感じさせる。
わかるぞ、こいつは南の島から王都に出てきたばかりの世間知らずで非常識君な海エルフだろ!?
この海エルフの妙ちくりんな尊大さも気になるのだが、もう一つ気になること。
「人間のお嬢ちゃん達?」
青い海エルフの言葉が引っかかり聞き返した。
この辺りは怪しい店や破落戸の溜まり場が多く、お嬢ちゃんといわれるような年頃の女の子が入り込むような場所ではない。
キルシェにはカメ君が付いているので物理的には安全だと思うが、ずっと合流できていないことで不安になってくる。
「えっ! あっ! そ、そう、お嬢ちゃんが人間がいっぱいいる場所で変な奴に絡まれて、それで二人一緒に細い道に入って仲良くウロウロしているうちにまたそいつらが現れて絡まられてー。俺がそいつらをぼこって、その時に大事なものをなくして探してたらお嬢ちゃん達を見失ってー。あー、いや大事なんかじゃねーぞ! ちょっとだけ気に入ってただけだ! で、嬢ちゃん達を探していたらそいつらにまた会ってー、こいつらがまだお嬢ちゃん達を探してたみたいだから念入りにボコって……あ、そう! お嬢ちゃん達!! 多分この先に入り込んだんだと思うけど、道が入り組んでて俺も迷って、お嬢ちゃん達も迷ってる……と思う」
説明することに慣れていないのか非常にわかりづらい状況説明なのだが、とりあえず女の子がこの辺りで迷っているということのようだ。
「そのお嬢ちゃん達というのは、どんな見た目だい?」
俺が問う前に騎士さんが尋ねた。
「えぇーと、短い黒髪のちんちくりんと……、長い茶髪だったがその赤いリボンが解けたら髪の毛がキンキラキンのお嬢ちゃんが途中から一緒だった」
フラワードラゴンが投げ出して騎士さんの手に収まった赤いリボンを海エルフが指差した。
「キルシェだ!」
「セレだ!」
俺と騎士さんがほぼ同時に声を上げた。そして顔を見合わせた。
んんん? キルシェと騎士さんが探しているご令嬢は一緒にいるということか?
そして、二人ともこのゴチャゴチャした路地の中にいるようだ。
「お、おう、確かに黒いちんちくりんの方はそんな名前だったな。キンキラキンの方はルナとか名乗ってたような……」
む? この男キルシェの名前を知っているのか? なんか少しソワソワしているし怪しい気もする。
他に何か隠しているような気もするが、今はキルシェを探すのが優先だ。
「ルナはセレのミドルネームだ。身分を隠すためにミドルネームを名乗っててもおかしくないな。海エルフの君、今回は情報提供に免じて見逃してやるが喧嘩はほどほどにするんだぞ?」
こんなところで派手な喧嘩をしているし、なんだか言動も怪しい男だが、俺も騎士さんも今は忙しい。この男がここで何をしていたか追及している時間が惜しい。
「そうだ、その黒い髪の方、一緒に綺麗な青い亀を連れてなかったかい?」
念のため確認しておこう。カメ君のことだ、ずっと肩に乗っていて逸れるようなことはないと思うが念のために。
「えっ!? 亀!? そ、そうだな!? 綺麗で格好いい亀がいた気がするななななななな!?!?」
む? なんだ急に動揺したぞ? やはり怪しい男だな? 少し問い詰めてみるかぁ?
ヒョロヒョロしたチンピラっぽいし、少し脅して……いや、先ほどの水砲はこいつの水魔法か。海エルフって言っていたし、こんなチンピラみたいでも実はすごく強いのかもしれないな。
何か知っている感じはするし、どうしたものか。
「赤毛君の探している子と俺の探している令嬢は共に行動しているということか」
「みたいっすね。とりあえずこのまま探しに……ってどっちに行ったかわからないな」
怪しい海エルフも気になるが、やはりキルシェを探す方が優先だ。
気配を探るにもゴチャゴチャと建物が密集して細い道が入り組んでおり、そこには住人もいるので人の気配だらけで、キルシェ達をピンポイントで探すのは難しそうだ。
「俺様が一緒に行ってやる。俺様はこう見えて鼻が利くんだ、嬢ちゃん達の匂いなら覚えているぞ」
ものすごくドヤ顔で胸を張る海エルフ。ありがたい申し出だが、怪しい上に変態臭まで出てきたぞ?
「そんなに鼻が利くのか?」
「おう、俺様くらいになると、その気になれば海の中に零れた血一滴だって見つけることができるぞ」
俺が尋ねると青い海エルフは更に得意そうな顔になった。人相は悪いし怪しいけれど、不思議と悪人臭はしないな? ただの世間知らずの変な奴か?
大袈裟に言っているだけかもしれないが、恐るべし海エルフの嗅覚。摩訶不思議海エルフの生態、海エルフは鮫かなんかかな!?
「海エルフってそんな能力もあったのか。しかし、そういうことなら協力を頼もうか、よろしく頼むよ海エルフ君」
え? 騎士さん、あっさり了承しちゃうんだ。まぁ俺達だけでは探すのに時間がかかりそうだからな、利用できるものは利用したいのはわかる。
「おう、任せろ。俺様は偉大で責任感のある海エルフだからな。ちゃんと見つけてやるぜ!」
胸を張って尊大に言い放つ青い海エルフ君は悪い奴には見えないのだが、なんとなく本当に任せていいのかという不安も感じてしまう。
しかし、複雑に入り組んだ路地でキルシェ達の足取りがはっきりとわかるような手がかりはなく、捜索には時間がかかりそうだ。怪しさはあるが、この珍妙な海エルフの力を借りる方がキルシェ達を早く見つけることができるかもしれない。
珍妙で騒がしい海エルフ君が加わり、騎士さんと三人でキルシェと家出令嬢ちゃんを探し更に路地の奥へと向かった。
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