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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第七章

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俺は何も知らない

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 この暑さ、確かに最近よく行くルチャルトラの暑さに似ている。夏でもそこまで気温の上がらない山間部のピエモンでは、なかなか体験できない暑さである。


 そんなわけで、シュペルノーヴァが上空を通り過ぎた後、畑仕事を適当なところで切り上げてパッセロ商店へ行ってみることにした。

 ありがたいことにアベルの送迎付き。そしてカメ君もついて来た。

 あんなやばいのがやばい魔力をまき散らしながら通り過ぎたとなると、町の方が心配になったのだ。


 


「こんにちはー」

 すっかり見慣れたドアを開け店の中に入ると、昼前でちょうどお客さんがいない店舗に、パッセロさんとアリシアが店内で商品を整理していた。

 二人ともその表情は少し気怠そうである。

「ああ、グラン君いらっしゃい。今日は納品の日じゃないけど、何かあったのかい?」

 いつもより覇気のない声のパッセロさん。

「さっきでかいレッドドラゴンがこの辺りを通過していったのが見えたから、大丈夫かなって様子を見に来たんだ。あんまり大丈夫そうじゃないかな?」

「ドラゴンが通過したのですか? 今日は暑いと思っていたら、いきなり更に暑くなって目眩と肩こりが……。今は少し気怠さがあるのですが、母は昼休憩も兼ねて先に奥で休んでます」

 アリシアもぐったり顔になっていて、なんだか怪しい色気を醸し出している。

 そりゃ、あんな規格外の生き物が魔力をまき散らしながら上空を通過したし、この暑さだからなぁ。


「レッドドラゴンの魔力に影響されたみたいだな。とりあえずコップいっぱいの水にこれをほんのちょっとだけ溶いて飲めば治ると思う」

 そう言って俺が取り出したのは小瓶に入った黄褐色の粉。

「ありがとうございます、水を持って来ますね」

「え、それ何? 魔力酔い止めみたいだけど材料……」

 アリシアが水を取りに行き、アベルが俺の取り出した小瓶を見てキュッと眉を寄せた。

「ふむ、ローパーの体液とミミン貝の殻が原料かね」

 さすがパッセロさん、高い鑑定スキルをお持ちのようだ。

「ローパーの血液と粉末にしたミミン貝の殻をじっくり煮込んで、乾燥させ粉末にしたものだ。ローパーの血液には魔力を整える効果があるからな、強い魔力に当てられて乱れた魔力を分解して整える効果の薬だよ。だけど飲みすぎると魔力の分解が始まって魔力枯渇状態になるから、少量を水に薄めて飲むんだ」


 あのダンジョンで黒い古代竜に会った後、ドリー達が魔力に当てられた状態になったからな。あんなこと滅多にないことだが、またあると困るので帰宅後魔力酔い回復薬を作っておいたのだ。

 少量で効果抜群!! 備えあれば憂いなし!! 早速役に立ちそうだな!!

 念のためルチャルトラから帰宅後に飲んで効果を確認しておいた。ルチャルトラはシュペルノーヴァが近くにいるせいか、長時間滞在すると魔力抵抗の高い俺でも気怠さを感じるようになる。

 昨日と一昨日ルチャルトラから帰還後、試しに飲んでみたらシャキッと回復! よっし、大丈夫!!

 鑑定した感じも一度にたくさん飲みすぎなければ問題なさそうだし、少量を水に溶いて飲めばいいので間違った使い方をしなければ副作用もでない。


「確かに見た感じ、少量なら魔力の少ない人にも使えそうだけど、ローパーの体液……体液」

 なんでだよ、ローパーの触手グラタンとかローパーの触手パスタとかアベルも好きだろ!?

「ハハハ、この世には見た目ではわからない良いものはたくさんあるからね。ローパーの体液というのは少し驚いたが、そういう効果の薬にもなるのだね」

 さすがベテラン商人のパッセロさん、話のわかる人だ。

 この世には見た目がエグくても、有能な効果だったり美味しかったりするものはたくさんあるのだ。


 アリシアが水を持って戻って来たので、それに薬を溶いて飲んでもらいパッセロさんとアリシア、奥で休んでいたマリンさんも無事に回復。

 お礼にポーション用の瓶をたくさんサービスしてもらった。ポーションの瓶はいくらあっても困らないのでとてもありがたい。それともこれは、瓶をサービスするからもっとポーションを納品しろという遠回しな催促かな?

 よっし、頑張ってポーションをたくさん作るぞぉ!!



「ただいまー。あれ? グランさん、アベルさん、こんにちは。今日は納品の日じゃなかったですよね? 五日市で見かけなかったので今日は来てないのかと思いました」

 サービスして貰った瓶を収納に詰め込んでいると、カランカランと店のドアベルが鳴ってキルシェが店の入り口から入ってきた。

 あ、今日は五日! 五日市の日だった!!

 しまったダンジョンに行っていたせいで完全に日付感覚がおかしくなっている。ダンジョン帰りにはあるあるなダンジョンボケ現象である。


「おかえり。そういえば五日だったんだなー、ダンジョン帰りですっかり忘れてたよ。今日来たのは、さっきでかいドラゴンが飛んでいっただろ? すげー魔力を振り撒いて通り過ぎていったから大丈夫かなって様子を見に来たんだ。キルシェは大丈夫だったか?」

 予想通りキルシェは顔色もそこまで悪くなく、いつも通りのケロッとした表情だが、見ただけではわからないこともあるので念のため確認をしてみる。

「見ました見ました! ちょっとびっくりしましたが、平気ですよー! レッドドラゴンなんて初めて見ました!! すごく大きくてびっくりしました!! 今日すごく暑かったのはあのドラゴンが近付いてきていたからですか? 強いドラゴンがいると近くの環境に影響があるって冒険者ギルドの資料で読みました!! すごいドラゴンってすごいんですねぇ!!」

 ドラゴンの話を振るとキルシェがめちゃくちゃ興奮気味に早口で捲し立てた。これはすごく元気そうだな!?


 そうだよなぁ、あんなでっかいドラゴンは冒険者をやっていたってまず見ることはない。

 情報源は三姉妹だし、混乱を避けるためにシュペルノーヴァの名前は伏せているが、最も所在がはっきりしている古代竜とはいえ、住み処から遠く離れたこの地でその姿を見ることなんて普通なら考えられない。

 ある意味、運が良かったのか? すごい古代竜だしなんか御利益あるかな? 通過したついでにドラゴンフロウとか生えないかな? 通過しただけだとやっぱ無理?

 いてっ! カメ君、なんで急に俺の髪の毛を引っ張ったの? そうだったカメ君はクーランマラン推しでアンチシュペルノーヴァだったっけ? そのわりにはルチャルトラに通って……いたっ! なんで蹴るの!? 俺の考えていることわかっているの!?


「あんだけでかけりゃ、周囲に影響がでるからな。今日はそのせいであちーあちー」

 カメ君、お店の中だから暑いけれど水鉄砲はダメだよ。ほら、青色の綺麗な飴玉をあげるから機嫌直して?

「あ、綺麗なカメさん! 先日の納品の時に話してたカメさんですね!」

「私もさっきから気になってました。宝石みたいで綺麗ですね、この辺りの水辺にも亀はいますがこんな綺麗な色の亀は初めて見ます」

「カッ!」

 キルシェとアリシアに綺麗と言われて気を良くしたのか、すぐ横で機嫌の良さそうなカメ君の声が聞こえた。

「うひゃ、可愛い。亀なのに飴玉も食べるんですね。そうだ、五日市で買った木イチゴの飴があるけど、あげていいですか?」

「カカッ!」

 俺が返事をするより先にカメ君が返事をした。この食いしん坊め。

「じゃあ私はバター飴を……あら可愛い」

 アリシアまで!? もしかしてカメ君、結構モテる!?


「ところで、でかいドラゴンが通過したけど五日市の会場や町は大丈夫そうだったか?」

 キルシェとアリシアに飴玉を貰ってご機嫌のカメ君が、俺の肩の上でゴソゴソとリュックに飴をしまっている気配を感じながら、気になっていた町の様子をキルシェに聞いてみた。

「ええ、ちょっと騒ぎにはなりましたけど、大丈夫そうでしたよ。朝から暑かったせいで、飲み物系の屋台はめちゃくちゃ混んでましたけど」

 思ったより町に影響は少なかったようだ。


「あのドラゴンの影響で間違いないと思うけど、今日はホント暑いよね。暑すぎて嫌になっちゃうよ」

 アベルが店の外を見ながら肩をすくめた。確かにシュペルノーヴァが通り過ぎた後もまだ暑い。

 さすが古代竜、かなり広範囲に影響をもたらしていると思われ、今日は暫く暑いと思われる。

「冷却用の魔道具を使うか迷う気温ですよねぇ。でもあれを動かすと高くつきますし、今日は五日市の方に人を取られてますから、五日市が終わるまでお客さんもほとんどいませんしね」

 少し暑い店内で悩ましげにため息をつくアリシア。

 温度を下げる系の魔道具は、値段の高い氷属性の魔石を使い、その消耗も速いため運用コストは高い。夏場は店内が暑いと客足が遠のくので使用する店も多いが、お店の利益を考えるとそうポンポンと使えるものではない。


「どうせ今日はお客さんも少ない日だし、パーッと雨でも降ってくれたらいいのだがね」

 パッセロさんが店の外を見ながらぼやく。

 だなー。パーッと雨でも降ってくれれば、気温も下がるだろうし、帰ってからの畑の水遣りもサボれる。

「魔法で雨を降らすことはできるけど、極地的に短時間が限界だからねぇ。しかもさっきのレッドドラゴンのせいでここら一帯の火の魔力が活発になってるし、これを涼しくなるくらい落ち着かせる雨を降らせるのは俺でも無理かなぁ。時間が経って落ち着くのを待つしかなさそ」

 魔力お化けのアベルもそう言っているし、この暑さは諦めるしかないか。まぁ、シュペルノーヴァの魔力だし人の力ではどうしようもないな。


「フーン……」

 耳元で聞こえたカメ君の声に一瞬気を取られた直後――。


 パタッ……。


 店の窓に何かが当たったような音がしてそちらを見ると、窓ガラスに水滴の跡。

 そして、連続でパタパタという音が聞こえ、窓に増える次々とできる水滴の跡。

 強い日差しで明るかった外は、いつの間にか少し暗くなっている。


「あら、雨だわ。急いで洗濯物を収めないと!」

 アリシアがパタパタと店の奥から中庭の方へと向かっていく。

「あ、傘立てを出しておかないと」

 キルシェは店の隅っこにしまってある傘立てを店の前に出し始める。

「いいタイミングで雨が降り始めたな。これは気温も下がるし、五日市を早めに切り上げて帰ってくる人も多そうだから、午後からはお客さんも増えそうだな」

 パッセロさんが窓の外を見ながらうんうんと頷いている。


「カァ~」


 カメ君の満足げな声が聞こえた。

 知らない。俺は何も知らない。


 あ~、雨が降り始めて気温が下がって過ごしやすくなったな~。 






お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いそいそとその場で食べずにリュックにしまうカメくんが可愛い。
[一言] カメ君、巨大な赤いドラゴンさん(縮めて巨赤ドラ)の無自覚にやらかした後始末を処理してく 「カ~」 自分はこれくらいなら気にしないけど、小さきか弱い者達は、暑くてたまらないらしいの…
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