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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第七章

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教科書には載っていないこと

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ふぃ、今日は暑いな」

 夏というにはまだ早い時期、初夏というには暑すぎる日。

 空を見上げると雲はなく、この時期にしては強い日差しに目を細める。


「カーーーーッ!」

「ホーーーーッ!」

 カメ君と毛玉ちゃんの声がしてそれを追うように三姉妹のはしゃぐ声が聞こえた。

 畑を耕す手を止めそちらを見ると、畑の何もない場所でカメ君が水を霧状にして吹き上げ、三姉妹達と毛玉ちゃんがその中で霧状の水を浴びながらはしゃいでいる。

 カメ君がばら撒いた霧のような水が日の光を反射して小さな虹が、三姉妹と毛玉ちゃんの上を飛び越えるようにできている。

 カメラがあったら写真にして残しておきたくなるような光景である。

 そういう魔道具ないのかなぁ? あっても高そうだなぁ。もちろん自分で作るのは知識が足らなすぎて無理そうだ。


「ホント、今日は暑いね。ルチャルトラみたいな南の島ならともかく、こんな山奥でこの時期にここまで暑いのは珍しいね」

 暑いのなら空調の魔道具のある家の中にいればもう少しましな気がするのだが、アベルは何故か日陰に座って本を読んでいる。

 皆が外にいるのに一人だけ家の中にいるのは寂しかったのだろうか? え? 野菜を植えないように見張っている? 畑は野菜を植えるものだろ!?


「フローラちゃんは暑くない? 大丈夫? 暑かったらカメ君のところにいって水を浴びてきてもいいよ」

 そう声をかけると、俺が耕した場所を整えて肥料を撒いてくれていたフローラちゃんがユラユラと横に揺れた。これは大丈夫って意味かな?

「なんなら、アベルのいる日陰で休んできても……ぐぼぁっ!!」

 少し茶化そうと思ったら、恥ずかしがってクネクネとしているフローラちゃんに蔓でペシッと脇腹をつつかれてしまった。農作業中の薄着の上から肋骨の隙間に蔓ウィップが決まってしまって思わず変な声が出た。

 恋する乙女を不躾に茶化してはいけない。




 今日はのんびり家で畑仕事の日。

 ランダと出会った翌日は、鉢に植え替えたのが気になってアベルにルチャルトラに連れて行ってもらい、バロンの様子を確認してルチャルトラで素材を集めつつ依頼をこなしてきた。

 とりあえず鉢植えの育て方の基本的なことは一通り伝えておいたが、俺も南国の植物栽培事情には詳しくないので、わからないことはリザードマン達やベテルギウスに聞くように勧めておいた。

 あのギルド長ならなんとかしてくる気がする。そうそう、ギルド長だからきっと頭もよくて物知りのはずだ。よし、丸投げしよう!!


 で、その翌日――今日は朝食の後からお家で畑仕事。

 カメ君も今日は出かけないでうちにいるらしい。昼間はどうやらルチャルトラでバロン達と一緒にジャングルのパトロールをしているようなのだが、今日は休息日かな? そうだな、仕事には休みも必要だからな。

 アベルも今日はうちでのんびりするようで、出かけていったのは森の見回りが日課のラトだけだ。

 畑仕事を始めると毛玉ちゃんもやって来て、いつになく賑やかな畑になっている。


 初夏の午前、いつもならまだ涼しく気持ちのいい時間なのだが、今日は俺が畑で作業を始めた直後くらいからジリジリと気温が上がり、汗ばむどころか汗だくになっている。

 そりゃ、三姉妹達も水遊びを始めるわけだ。カメ君、今なら痛くない程度の水鉄砲なら大歓迎だよ。


「それにしても本当に今日はあちーな。ルチャルトラどころかこないだのダンジョンの火山エリアくらいあちーな。近くに何か火属性の魔物がいてもおかしくない暑さだな……は?」

「そんなことあるわけないじゃない。大型のレッドドラゴンでも近くでウロウロしてない限り、そこら一帯の気温が上昇するなんてこと……え?」

「カ!? カーーーーッ!?」


 二つ目のボタンまで外した農作業用の上着の胸元を摘まんで、バサバサと服の中に風を送り込みながら空を見上げた瞬間にそれに気付いた時には、周囲の空気がまるで砂漠のど真ん中にいるかのような温度に上昇した。

 俺の言ったことを呆れ顔で軽く流していたアベルも真顔になり、カメ君も警戒するような声を上げ空の方を見上げた。


 何だ、この圧倒的な火属性の魔力は!?


 何となく俺が言ったこと。アベルが呆れ顔で否定したこと。まさにそれが、俺達の頭の上、そう高くない位置をすごい勢いで南から北へと飛んでいった。


 でっか! レッドドラゴンでかっ!! なんであんな低い位置を飛んでんだよ!! ていうかなんでこんな人間の住んでいる場所の近くにレッドドラゴンが飛んでいるのだ!?

 その大きな翼と長い尻尾の先が炎のようになっているのが、地上からでもはっきりと見える距離だ。保有している火属性の魔力が具現化しているのか?

 そんな現象が起きるなど間違いなく恐ろしくランクの高いレッドドラゴンだ。

 周囲に火の粉をまき散らしているわけではないので火事の心配はなさそうなのは幸いだが、そのレッドドラゴンの放つ魔力の影響でジリジリと暑いのに鳥肌が立つという妙な状態になっている。

 

 大きさとその魔力からしてかなり強そうなレッドドラゴンは幸いこの周辺には興味ないのか、そのまま森の上の方へと飛び去っていき、その姿も見えなくなり、圧倒的な火の魔力も名残だけを残してその圧はなくなった。

 今日、くそ暑いのはあのレッドドラゴンがこちらに近づいていたからか?

 あの速度ならかなり離れた場所にいる頃から、その影響がここまで出ていたことになる。SどころかSSクラスだろうか、もしかするとSSSクラスかもしれない。

 SSSランクは魔物の強さの最上位の表記で、強さの上限が不明の魔物もこの中に含まれる。

 上位の竜種にはこのSSSに評される個体も多い。上位のドラゴンこわいこわい。



「うっわ、ビックリした、あんな大きなドラゴンがあんな低い位置で飛んでるなんて、うっかり災害レベルだよ」

「すぐに通り過ぎていったから、環境や作物に大きな影響はなさそうだけど、あれが上空を通過した町は魔力に当てられた人もいるかもなぁ」

 キルシェ達は大丈夫だろうか……。キルシェは最近冒険者を始めてすっかり逞しくなっているが、これほどまでに桁違いの魔力のレッドドラゴンが近くを通過したとなるとやはり心配だ。


「あら、あれはシュペルノーヴァではありませんこと? ずいぶん急いでいるみたいですけど、何かあったのかしら?」

「炎をまき散らさないように普通の渡り竜達よりずっと高い場所を飛んでいたみたいだけど、魔力だだ漏れすぎでしょ。あの大雑把さはシュペルノーヴァに間違いないわ」

「さすがですねぇ、高い場所を飛んでいても地上に影響がありましたねぇ。方向からしてテムペストさんのところに向かってるんですかねぇ?」

「ケッ!」

 

 え? 三姉妹の口からポンポンと耳を疑うような固有名詞が出ているのは気のせいか?

 そしてカメ君は嫌そうな表情で周囲に霧雨を降らし始めた。

 あー、冷たくて気持ちいいー。巨大なレッドドラゴンの通過で、火属性の魔力の影響でヒリヒリするほど上がった気温が下がっていくのがわかる。

「あら、気持ちいい。カメさんありがとうございます」

「あんな火属性の魔力だだ漏れ状態でテムペストのとこに近づいたら、ケンカになるんじゃないかしら? それはそれで楽しそうね」

「怒られたら帰る時はもうちょっと控えめで帰ってくれるかもしれませんねぇ」

 三姉妹が世間話をするかのごとく、不穏な固有名詞の話をしているが、その固有名詞はやっぱあれですか?

 古代竜のシュペルノーヴァさんとテムペストさんのことですかね。


「そのシュペルノーヴァとかテムペストとかってやっぱ古代竜のことだったりする?」

 おっかなびっくり三姉妹に確認をとってみる。

「そうよ? それ以外に何かいる?」

 さも当然のようにヴェルが答えてくれた。


 やだ……そんなのがケンカとか絶対に大怪獣大戦じゃないですか……。テムペストさんってカリュオンの実家の近所にお住まいってカリュオンから聞いたような……カリュオン大丈夫かな?

 ていうか、大きなレッドドラゴンが低い位置を飛んでいるのかと思ったのだが、三姉妹の話から推測するとどうやら超巨大な古代竜が高い場所を飛んでいたのが、巨大すぎて遠近感がおかしくなっていたようだ。

 あれで、渡り竜達よりずっと高い場所を飛んでいたんだ……近くで見たらどんだけでかいんだよ……。


「シュペルノーヴァって、古代竜の中でも小さい方だって古い文献で読んだことがあるけど、それであの大きさなんだ……。記述が間違っていたのかな?」

 アベルもポカンとした表情でシュペルノーヴァの飛んでいった方角を見ている。

「間違ってませんわ。シュペルノーヴァは二つ名を持つ古代竜の中ではラグナロック、アルコイーリスと並んで最も小さい方ですわ」

 え……あれで小さい部類なの? そしてまたすごい固有名詞が普通に出てきた。三姉妹達は古代竜の実物を見たことがあるのかな?


「海の方なので実際にその大きさは見たことないですがぁ、一番大きいのはクーランマランさんらしいですよぉ。その次がマグネティモスさん、その次がテムペストさんですかねぇ」

 二つ名に王と名前の付く古代竜の名前がポンポンと出てきて、冒険者ギルドの教本にも載っていないような情報が普通に垂れ流される。

 そうだなぁ、亀島で見た鮫顔君めちゃくちゃでかかったもんなぁ……。

「フンスッ!」

 カメ君が三姉妹の足元でものすごくドヤ顔になっている。


 テムペストは暴風王という二つ名を持つ、大きな森のような姿をしたグリーンドラゴン。古代竜の中でも最も人間に友好的で穏やかな性格らしい。ただし他の古代竜に比べての話だ。怒らせるとその二つ名の通り暴風を巻き起こすとかなんとか。

 アルコイーリスは太陽王と呼ばれる、光属性の古代竜。ほとんど目撃情報はなく古い文献に僅かに記録に残るだけの幻の古代竜だ。その光という属性と二つ名から、古代竜信仰者からは神のような扱いになっている。

 そしてマグネティモス。地竜王と呼ばれる土属性の竜で、テムペストと同じく古代竜の中では比較的穏やかな性格だと言われている。あくまで古代竜の中ではの話なので、怒らせれば大地震を起こして国一つくらい簡単に壊滅に追い込んでしまうだろう。マグネティモスは俺の実家の近くにある荒野ペトレ・レオン・ハマダでも目撃の記録が残っている。

 そんなやべー古代竜の話を世間話のようにする三姉妹、そうだよな、女神の末裔だったよな。


 しかし、ピエモンからは遥か離れた南の島ルチャルトラに棲んでいるはずのシュペルノーヴァが、何故こんな場所まで飛んで来たのだ?

 三姉妹の言うようにテムペストのところに向かっているのだろうか?

 人間とは次元の違う巨大生物の考えることなど、矮小な人間である俺にはわからないが、住み処から遠く離れたこの地までシュペルノーヴァが飛んで来たという異常な事態が、何か良くないことの前兆ではなければいいと願うばかりだ。



お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シュペルノーヴァの移動は貴方の無茶振りのせいですよ、とグランに言ってあげたいですね。これはますますカリュオンの話が楽しみです。 後クーランマランが一番大きいんですね。 [気になる点] ア…
[一言] グラン巻き込まれそうな予感 風「面白い人間紹介して」 赤「面白い人間、、、あいつがいるな良いぞ」 という展開?
[一言] 巨大な赤いドラゴン(縮めて赤ドラ←毎回縮めるな(笑))さんは、一応、気を使ってたっか~~~い所を飛んでたけど、ひっくいとこを飛んでるでかいドラゴンだと思われた 着地する場所はどうするん…
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