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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第七章

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閑話:何でも知ってる?ギルド長

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 なんだバロン、教えて欲しい? 何を? 樹が早く育つ方法? 上手く育てる方法? 大きく育てる方法?


 待て待て待て待て、俺は強い火属性を持っているから基本的に植物とは相性が悪いのだ。


 それに俺が何でも知って――ん? 俺なら何でも知っていると思った? すごく昔からいるすごい竜だから何でも知っているはず?


 む……そ、そうだな……すごい俺は物知りでだいたいなんでも知っているからな。


 あと、俺の正体は皆には内緒だから無闇に口にしないように。え? 皆気付いているのでは? ハハハ、俺の完全な演技力と変化力、バレるわけがなかろう。バレないように火山に本体の気配がするように細工もしてきたし、なんなら活動期と休眠期の偽装もしているからな。バレてない、バレてない……バレていないよな?


 ま、まぁ、樹を上手く育てる方法は少し待ってくれ。そうだ、俺は冒険者ギルド長だからな、仕事もたくさんあるのだ。書類にハンコを適当に押すだけが仕事ではないのだ。


 うむ、後日ジャングルの見回りついでに樹の上手な育て方を教えにいくぞ。


 ハハハ、ジャングルの見回りもギルド長の大事な仕事だからな。暫く大人しく待っていろ、今に偉大な俺がすごい方法を教えてやるからな。


 うん? 青いの? あの亀も手伝ってくれている? まぁ、水属性は植物と相性がいいからな。


 ん? 青いのは海沿いでの植物の栽培についてすごく詳しい? 海エルフの知識か……そそそそそそうだな、あの亀より俺の方が偉大だから、おっおっおっ俺にだってできるぞ! しししししー知っているぞ!!


 う、うむ、後日ちゃんと手伝いにいくからな。偉大な俺が、ランダが偉大な樹になるように手伝ってやろう。








 ……などとうっかり大見得を切ってしまった。

 うむ、困った。長く生きてきたが植物など育てたことはない。そもそも、火と植物は相性が悪すぎる。

 まぁ、あの樹は育てば巨大な聖なる樹になるものだしな。赤毛が上手いことやってくれたみたいだし、少し手伝ったふりをしておけばスクスク育つだろう。

 偉大で万能な俺でも苦手なものくらいはあるのだ。ちょっと植物を弄るのは苦手で、今まであまり弄っていなかっただけだ。

 そ、そうだな、せっかくこの島でもあの樹が生えるというのなら、植物の育成について学ぶのも悪くないだろう。どんなに長生きをしても学ぶことを忘れてはいかぬのだ。


 かの樹の加護を得た若い獣の妖精が、その枝を持ってこの島に来たのはいつの頃だったか。

 島の隅っこに住み着いてその枝を育て始めたが上手くゆかず、嵐の夜に折れてしまい、その樹を育てようとした妖精も樹を守って力尽きてしまったようだったな。


 自然とは小さき生き物にとって脅威である。

 偉大な古代竜の力があれば嵐から守ってやることもできぬことではないのだが、自然の正しい姿に介入しすぎるのはあまり良いことではない。

 この世界に命在る者は偉大な生き物が飼っているわけではない。自立し自分の力で生きているのだ。

 たまに気まぐれで力を貸すことはあっても、大きな存在に依存をしなければ営みが成り立たないような介入はしない。

 その力が失われた時に、自らの力だけで生きいけなければその者達は滅ぶしかないからだ。それは依存する方だけではなく、依存させた方にも責任がある。

 自然の流れの中で生きる力がなければ滅んでしまうのもまた生き物の正しい姿なのである。

 いや、まぁ……ちょうど休眠期というか寝るのが気持ち良かった頃で、あまりよく見ていなかったわけではない。古代竜は長生き過ぎる故に、時折長い眠りに就くことがあるのだ。偉大な古代竜も睡眠欲という生理現象はどうにもならない。

 うむ……偉大な存在の力がなくとも、生き物は自力で生きなければならないのだ。


 そして休眠期が終わってみれば、俺の縄張りに問題児が増えていた。ただでさえ近くで亀がいきっていてめんどくさい時期だったのに、追加で二人も俺の縄張りで暴れ回る奴が増えてしまった。

 おそらくあの枝とその本体にもらった加護の影響だろう。

 あの枝を持って来た獣は姿を変え生まれ変わり、折れた樹からは魔女が生まれた。


 かの樹にはその周囲の不浄な存在を取り込み浄化し、その地を豊かにする力がある。それは成長すればするほどその力の及ぶ範囲が広くなる。

 しかし折れて根だけになったあの樹には、不浄のものを取り込んでも自分で清めるだけの力は残っていなかった。

 代わりに取り込んだ不浄のものを自分の分身として自分から切り離し、それを他者に消させることで浄化する方法をとった。それの分身というのが、あの枝の抱えていた記憶と懺悔を受け継いだ魔女ランダである。


 魔女は古い風習で死んだ者達の無念を掻き集め怨嗟の塊のような存在として生まれる。放っておけば地を呪い生き物を殺すそれを獣が魔女と共に浄化する。

 魔女に宿った不浄のものは浄化され魔女も共に消えるが、樹の残りがその地の無念を吸って再び魔女が生まれてくる。そしてまた獣に浄化される。

 長い年月の間、何度も何度もそれを繰り返し、その度に奴らは島で大暴れをし、あちこちで災害を巻き起こす。

 つい数百年前にも寝ているところにいきなり大地震を起こされ、火山を噴火させられた時は流石に温厚な俺もキレてしまった。ちょうどあの馬鹿亀の津波事件で大切にしていたものが色々と消えてしまった後でふてくされて寝ていた時期だったし。


 あの時は少しイラッときて俺がランダを焼き払ってしまったが、今回はバロンがランダを倒してこのままいつも通りランダは浄化され、またそのうち復活するまで眠るものだと思っていた。

 ん? 赤毛と銀髪がうろうろしていると思ったら、どうやらあの樹を蘇らせようとしている?

 ふむ、古の風習もほとんどなくなり、島に溜まる不浄な魔力も減り、ランダの復活のサイクルも長くなりそうだなと思っていた矢先だった。

 俺の大切な時計を直してくれたあの赤毛なら、上手くやってくれそうだな。


 あの樹が育てばその周辺は勝手に浄化されるし、聖属性の魔力が周囲を豊かにする。あって損はない樹だな。

 そもそもあの樹は世界中どこにでもある、汚れて淀んでいる魔力を正しい魔力の循環の中に戻す役割を持つものだ。何本あっても悪いことはない。

 大昔は世界に一本だけだったが色々あって折れてしまい、今は世界各地にその子や孫の樹が散らばっている。

 一本だけだと折れた時に困るからな。うむ、大は小を兼ねる。人間のことわざだが良い言葉である。


 あの樹が蘇りそうなのは非常に良いことだ。もちろん俺も応援をしている。

 うむ、応援をしているだけのつもりだったのだがどうしてこうなった。

 ギルドの図書室でこっそりと植物図鑑を開いてみるが、植物の栽培については基本的なことしか載っていなかった。

 やばい、あれだけ見栄を張ってしまったのだから、もっとすごいことをしなければ俺の威厳に関わる。


 困ったな……、そうだ、最近配備された遠方の冒険者ギルドの者と即座に連絡がとれる魔道具で他のギルド長に聞いてみよう。

 ギルド長同士付き合いもあり、中には親しくしている者もいる。特にユーラティアの王都のギルド長とピエモンという小さな町のギルド長は、奴らがまだ平職員だった頃からの付き合いで、当時は色々な場所でギルドの任務をこなしてきた。

 いい大人のくせに少々常識に欠ける奴らだが、人間にしてはそこそこ強くて知識も豊富な奴らだ。聞いてみれば知っているかもしれない。


 まずは王都の……え? 剣のことならともかく、植物の育て方なんか知るわけがない? ああ、そうだったな、お前はなんでも剣で解決しようとする脳筋という奴だったな。

 やっぱここは俺が知っている人間の中でもトップクラスの情報通で無駄知識を集めることを趣味にしている変な奴、ピエモンの……む? 見てみりゃわかるかもしれないけれど、自分は庭いじり程度のにわかだからグランに聞け? ああ、そういえばあの赤毛はピエモンに住んでいたな。

 いや、赤毛は当事者だから聞いたことがバロンにバレそうだから却下だ。赤毛に聞きに行ったことが亀にバレて馬鹿にされるのも癪だし。


 むぅ……あの樹といえばやはり元の樹の分体を持ち去ったあの鹿か。そういえばアレの森もピエモンの近くだったな。

 アレに聞けば確実なのだが、アイツの住み処は出入り禁止にされているしなぁ。以前少し交流があった頃に奴に付き合って酒を飲んでいたら、飲み過ぎた勢いでうっかり火を噴いてしまったのだよなぁ。すまんかった、すまんかった。

 そのうち謝りにいかないとな……そろそろ機嫌は直っているだろうか。近いうちに面白い酒でも持って謝りにいくかなぁ。


 鹿奴以外だとやはりアイツか……植物のことならこの世で一番詳しいだろうアイツ――暴風王テムペスト。

 アイツなー、悪い奴ではないのだけれど、めんどくさいのだよなぁ。

 グリーンドラゴンとかいう知識を溜め込む習性のある種族の血筋で、奴もその例に漏れず無駄知識を溜め込むことが大好きだ。そしてそれを誰彼構わずうんちくとして語るのはまだよいのだが、わけのわからん問いを投げかけてくるのが本当にめんどくさい。めんどくさい……めんどくさい……。

 しかも、機嫌を損ねるとその二つ名の如く荒れ狂うし、実のところちょっと苦手なんだよなぁ。その上、説教くさいし、俺より若いくせに、何故か妙に加齢臭がするんだよなぁ。

 しかし植物系の生き物の血が混ざっているため、植物に関しての知識は非常に深く、その扱いはおそらく世界一であろう。


 むぅ……めんどくさい奴だが一度会いにいって知恵を借りるとするか。ついでにあの樹を育てるのに良さそうなものを持っていたらわけてもらおう、そうしよう。

 偉大な古代竜の力で介入しすぎるのはよくないのだが、奴の力を借りてついでに俺の加護で暑さや炎に強くしておけば、俺の威厳は示せそうだな。あの亀も無計画に水をやっているみたいだし今更かもしれない。

 ……多少豊かになりすぎても俺の縄張りだし、まぁいいか。


 そうと決まったら、明日にでも仕事を休んでピューッと飛んでテムペストに会いに行ってくるか。




お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
バレてるけど皆から好かれてそうなギルド長
自然の正しい姿に介入しすぎるのはあまり良いことではない。 ここがちょっとよく判らんのだが、そもそも大樹はこの星にあった淀みを浄化して、綺麗な魔力にして循環させるというこの星の摂理そのものだよね? あ…
[良い点] 「大は小を兼ねる」だと、小さい樹が複数あるより元の巨大な樹の方が良いことになりませんか? 「備えあれば憂いなし」とかの方が適切な気がします
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