転生開花がぴょんぴょんする
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「何じゃお前、人間でいう特殊性癖者というやつか? わしみたいな異形など、人間どころかリザードマンですら嫌な顔をするぞ」
「そう? 綺麗なおねーさんに種族は関係ないと思うけど? というか三つ目かっこいい?」
何だろうこの転生開花がぴょんぴょんするような感覚。三つ目とかサードアイとかかっこいいよね?
そうそう、額に目を描いてそれをバンダナで隠したりしたよな? うおおおおおおおおお……転生開花ああああああああああ!! 余計な黒歴史を思い出させるんじゃねえええええええええ!!!
「あーもう、結局俺も手伝ってるじゃん。光属性の浄化は嫌だって贅沢だね! 闇属性の妖精だよね? だったら水でいいよね? あと変人で変な性癖はグランだけだからね!」
「ほいほい、なんだかんだでそれに付き合っとるおぬしも変人だと思うのじゃが。こら、光属性はやめろ、チクチクする!」
「どうせ消えるつもりなのにうるさい妖精だね! ほら、できたよ、髪を整えるのは俺には無理だからグランに任せるよ」
「ついでに全体的に浄化魔法を掛けてあげてくんね? 川から流れてきたのかな、服も汚れちゃってるし? いやー、浄化魔法って便利だなー」
「しょうがないなー、どうせついでだからいいけどー」
何か三つ目のおねーさんとアベルがすっかり打ち解けているな。アベルってなんだかんだで人外と仲良くなるの上手いよなぁ。
何となくほっとけなくて、とりあえず怒りを静めつつ会話を持たせるために、気になっていた髪の毛を整えさせてくれと言ったみたら、三つ目のおねーさんは呆れながらも了承してくれた。
うんうん、どうせ消えるなら少しくらい髪の毛を弄ってもいいよね?
水で洗うより、浄化魔法の方が早いし綺麗になるからと、アベルが手伝ってくれることに。
浄化魔法といえば光属性や水属性が主流なのだが、三つ目姉さんは闇属性の妖精らしく光は苦手なので水属性での浄化がいいらしい。
その髪を浄化する間ですっかりアベルと打ち解けている。
「汚れたのはアベルの浄化魔法で何とでもなるけど、千切れてなくなってしまってる腕は無理だよなぁ。とりあえず髪を梳かすから少し触るよ」
俺のマントを肩から羽織り地面にあぐらを掻いて座る三つ目姉さんの後ろに立ち、どっかの町で買った赤い櫛を収納から取り出し、三つ目姉さんの髪を梳かす。少し痛んでいるのは、梳かした後に試作品の髪の毛用の香油を馴染ませて整えておこう。
「俺は回復魔法は苦手だからね。時間魔法なら欠損も治せるけど、君、随分弱ってるから腕を何本も時間魔法で回復させた時の苦痛で消えちゃいそう」
そうだよなぁ、時間魔法の回復は体の時間を巻き戻す方法だから、正しい時間の流れに逆らうため苦痛が伴う。
「とりあえず左右一本ずつ残っておるから、他の腕くらいなくてもええわい。それにどうせわしはこのまま消えるつもりじゃし、消えても時が経てばまた蘇るもんじゃしの。む? 何を髪に付けたのじゃ? この島にはない花の香りがするぞ……ああ、陸地の方で遙か昔に嗅いだことのあるにおいじゃの」
「ん? これはチャンチャンという花の実から採った油にエンジェルフロウの花から採った油で香りを付けたものだな。エンジェルフロウは冬がある場所じゃないと育たないからな」
三つ目の妖精は別のところからルチャルトラに来た妖精なのだろうか? そんな妖精が何だってこんなにボロボロになっているんだ? 彼女の話からすると消えた後も時間が過ぎれば蘇るのか?
「おお、そうじゃそうじゃエンジェルフロウじゃ。思い出したわい、わしの故郷によく咲いておったぞ。ピンクの小さな花でバラに似た香りのするやつじゃ、懐かしいのぉ……」
「ここではないところの生まれなのか?」
エンジェルフロウの香りに昔を思い出しているのか、三つ目姉さんが少し肩を揺らした。
長い髪の毛の毛先まで丁寧にオイルを馴染ませる作業をしながら訪ねる。
なんだか美容師になった気分だなぁ。髪の毛を弄りながらだと、なぜだか話しかけやすい気分になるのは前世の記憶のせいだろうか?
「うむー、わしは陸地の山の上の生まれでな。この島に来たのはいいが馴染めなくてのぉ……。わしをここにつれてきた者が先に逝ってしまい、わしもその後すぐに命が尽きたはずじゃったんだが、気付いたらこのような姿で蘇っておったのじゃよ。ほほほ、この地の古い風習に女は連れ合いに先立たれるとその後を追うことを強制する風習があっての、墓が近かったせいか、夫の後を追ったものの死にきれなかった女どもの怨念を吸収してしもうたようでの……ほほほ、わかるか? わしはこの地の未練と恨みをたくさん吸収した、悪くて怖い妖精なのじゃ。ほれ、怖がれ、もっと怖がれ、呪ってやるから怖がってみよ」
「ははは、怖いなー。綺麗に仕上げるから呪うのは勘弁して欲しいなぁ。さすがに今はそういう風習はもう残ってないんじゃないかなぁ? あ、アベル、ちょっと生温いくらいの風でオイルの付いた髪の毛を乾かしてくれないか?」
「はいはい。そうだねぇ、この島はリザードマンの自治区ではあるけど、ユーラティア王国の一部で、他の種族の流入も多いからそういう風習はほとんど残ってないんじゃないかなぁ」
おどけるようにすごむ三つ目姉さんは怖いというより可愛い。そして悲しい。
呪うとすごんでみているが、彼女からはもうほとんど力が感じられない。本人の言う通り彼女に残されている時間はあまりないのかもしれない。
ヘアオイルを馴染ませた髪の毛にアベルに頼んで生温い風を当ててもらうと、エンジェルフロウの香りは更に強くなり、そしてオイルが乾いた髪は艶が出て、櫛を通すとサラサラとしたまっすぐな髪になった。
「へぇ、ボサボサだったのが嘘みたいだね。白というか銀髪? そのヘアオイル後で詳しく見せてね」
「うん、元々どっかで売るつもりで作ったものだし、アベルとやる商会に置きたいかも。っと、どうだい、綺麗になったろ?」
おっとうっかり商売の話になりかけた。
収納から取り出した手鏡を後ろから彼女の顔の前に出してその顔を映すと、彼女の肩越しに鏡に映る彼女の顔が見えた。
少し落ち着かない表情になりながらも、三つの目で鏡を凝視している彼女の頬が少し赤い。
気に入ってくれたのかな?
髪の毛を整えるとやはりかなりの美人である。午後の日の光を浴びてキラキラとする白銀色の髪に、人間とは違う造形の顔、邪悪な妖精と言っていたが、その姿からは神々しさに近いものを感じた。
「ま、まぁ、悪くないかな。お前らが勝手にやったことだが一応感謝はしておく。どうせ消えるなら綺麗なまま消えるのも悪くない、ありがとう。それとこのマントは返しておくぞえ」
「え? っちょ? お姉さん服は布面積少なすぎて……」
三つ目姉さんがこちらを振り返り、羽織っていたマントを投げるように返され、布面積の少ない彼女の服を思い出して思わず目を泳がした。
ギリギリ隠れてはいるのだけれど、健全な青少年の俺にはセクシーすぎて刺激が強いんですよ。
あっ! まぶし! 髪の毛がキラキラして眩しいのかな!?
それに千切れた腕が痛々しいし、って思ったよりたくさん腕があるのね?
残っているのは肩から生えている一組、残りは背中の辺りから八組かな? 全部で九組十八本の腕があったようだ。
「はー、男の癖に情けない奴じゃのぉ」
サラサラになった白銀の髪を前にたらし、それで布面積の少ない胸元が隠れた。
それでもまだ際どいことにはかわりないけれど。
「それじゃあもういいかな? 君もいつ消えてもおかしくないくらい弱っているし、元々力のある妖精なら消えるとこを人間に何て見られたくないでしょ?」
そうだよなぁ、せっかく綺麗にしたけれど彼女に残されている時間はもうあまりないだろう。
力のある妖精ならそれだけプライドも高く、弱って消えるところなど見られたくないはずだ。
アベルがここから離れようと俺に目で合図をした。
「そうだよな、なんか邪魔しちまったかな? 元気でなって言うのはおかしいけど達者でな?」
また時間が経つと蘇ると言っていたし? 消えてもいつか復活する類の者なのだろう。それが今いる者と同じ者かは知らないけれど。
「まぁ待て、どうせ勝手にわしのことを弄ったのじゃ、最期まで付き合え」
最期はそっとしておいた方がいいだろうと立ち去ろうとした俺達を、どこか清々しいような表情の彼女が引き留めた。
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