海沿いを行く
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「しばらく滞在されるのでしたら民宿もありますし、パーティーや観光客向けのコテージもありますねぇ。ただこちらは集落の外れなので干物を野生動物に持って行かれる可能性はありますね」
「なるほど、ありがとう。干物が作りたくなったら、コテージを借りてしばらく滞在しようかな」
アベルの転移魔法でピューッとやって来たルチャルトラの冒険者ギルドで、干物可の宿泊施設がないか聞いてみたらコテージがあるそうだ。
民宿と違ってコテージの方が広々使えそうだし、周囲を気にしないでよさそうだし、ルチャルトラに滞在するならコテージを借りよう。魔物除けの魔道具を置いておけば干物もなんとかなるだろう。
「グランがルチャルトラに来たかったのって、もしかして何か欲しい素材とかギルドで仕事をしたいとかじゃなくて、干物が干せる物件を探していたから?」
「干物を干しまくってもいい宿泊施設を探してたけど、せっかく来たからには依頼も少しこなして、素材も集めて帰ろうかなって? それにほら、これからは夏だしルチャルトラでしばらくリゾートでもいいかなって?」
さすがに干物物件探しにだけのために、アベルにルチャルトラまで運んでもらうのはもうしわけない。
「干物がメインで依頼の方がついでなんだ……。でも海でのんびり休暇は悪くないね」
ラトや三姉妹を連れてこられないのは残念だけれど。
三姉妹達は森から離れられないためか、森では手に入らない類のものを土産にすると非常に喜ぶ。
大きな町で流行っているアクセサリーや本、訪れた町でなんとなく買った工芸品や風景画、そして三姉妹達が最も興味を示すのは海のものだ。
海産物は美味しいから食べ物としても喜ばれるけれど、それ以外にも綺麗だったから拾って帰った貝殻や、シーサーペントやバハムートを解体した時に大量に取れる鱗、ただの海岸の砂でさえも珍しいと喜んでくれた。
確かに海の砂は森の土と全然違うもんな。帰る前に海岸によって貝殻と砂を少し持って帰ろうかな。ダンジョンではないので少しだけ。
受付で干物可の物件の話を聞いた後は、依頼が貼り出されている掲示板をチラ見。
「さすがにこの時間は依頼がほとんど残ってないな」
昼間の依頼が新しく貼り出されるのはだいたい朝のため、昼過ぎに来るとめぼしい依頼はほとんど残っていない。昼から始めて夕方までに終わりそうな依頼など尚更だし、Aランクの俺達向けの仕事は更に限られる。
もう少し遅い時間になれば今度は夜間の仕事が貼り出されるのだが、夜は自宅でのんびり派の俺達はそちらはスルーだ。
「めぼしい依頼はないねー、残念。諦めて帰る?」
依頼がないのなら素直に帰ってもいいのだが、せっかく来たのだからなんだかもったいない。
「せっかくここまで来たことだし少し散策してから帰ろうぜ。あんまり行ったことのない海岸線の方とかも見てみたいし」
ルチャルトラといえば、やはりジャングルである。人間である俺達は海よりジャングルの方が活動しやすいし、素材も豊富なのでついジャングルの方へ行ってしまう。
そのためあまり海方面には行かないというか、そちら側は水中や水辺での活動が得意なリザードマン達のパーティーが活動していることが多い。
狩り場が被ると非効率だし、水の近い場所だとリザードマンの方が人間より圧倒的に強く、人間がひょこひょこ紛れ込むと邪魔になりそうで、あまり海岸付近の狩り場には近寄ったことがなかった。
「リザードマンパーティーの邪魔にならない?」
アベルも海岸沿いはリザードマンパーティーがいることを懸念して少し眉を寄せた表情になった。
「邪魔しないように海岸方面からジャングルの外周――そうだな西側の海岸方面を歩いてみる感じ?」
いつもはルチャルトラの冒険者ギルドのある集落から南方面にまっすぐ進んで、最短ルートでジャングルに入っている。
今日は依頼も受けていないし目的もとくにないので、散歩感覚で少し遠回りをしていつもとは違う方向からジャングルに入ってみてもいいかなと思ったのだ。
「そっちの方は俺も行ったことないな。まぁグランが行きたいなら一緒に行くよ、何かあったら転移で戻ればいいしね」
さっすがアベル、付き合いがよくて助かるー。
ルチャルトラはリリーさんの実家のある港町フォールカルテの南の海に浮かぶ、南北に縦長の島である。
島の北側にはフォールカルテからの船が到着する港があり、その周辺がルチャルトラで最も大きな集落で、この集落に冒険者ギルドもある。
島の南部には古代竜シュペルノーヴァの棲む火山があり、島の地図によるとその辺りから流れ出した川が、西と東そして北へと分れて海に流れ込んでいる。
その中でも北へ向かって流れる川が最も長く、下流へいくほど枝分かれをして、島の北部はその川で区切られたデルタ地帯となっている。
冒険者ギルドや港があるのはその中でも一番大きい三角州で、島の北側でもやや西よりに位置している。
いつもなら、冒険者ギルドのある集落からまっすぐ南に行くルートでジャングルに入るのだが、今日は一度西側の海岸へ出て、そこからしばらく海岸沿いを進んでからジャングルに入るつもりだ。
ルチャルトラには冒険者ギルドのある集落の他に、小さな集落がジャングルと海岸の間に点在しており、こちらは外部の者があまり訪れることなく島に住むリザードマン達が暮らしていると思われる。
島の西側の海岸に沿って進むと、時々リザードマンのパーティーが槍で海洋性の魔物を狩っているのが見えた。
すげーな、海の中をめちゃくちゃスイスイ泳いでいるよ。あれくらい泳げたら海中での狩りは楽しいだろうなぁ。
おー、クラーケンだ。海の中でクラーケンと戦っているよ、すげー!!
そんなリザードマン達の海狩り風景を眺めながら海岸沿いを進むと、海に流れ込む川にぶち当たる。人間の冒険者達が島の外周側にあまり来ないのは、この川のせいだ。
下流が枝分かれしてデルタ状になっているため、海岸沿いを進むとどちらにいっても川にぶち当たり、それを超えなければ先に進むことができない。
下流なので川幅もそこそこあり水量も多い、そして魔物や肉食の魚も泳いでいる。しかし橋なんかない。泳ぎが得意なリザードマンならこの程度の川幅に橋など必要ないからだ。
リザードマンには必要なくても、人間ではこの川幅を、装備を着けたまま泳いで渡るのは少々厳しい。しかも泳いでいる途中で魔物に襲われる可能性が非常に高い。
そのため、島の外周方面で活動する人間はほとんどいない。冒険者ギルドのある集落からジャングル方面なら、橋が架かっている場所もあるため皆そちらへ行くのだ。
人間には渡りにくい川でも、俺には転移魔法が使えるアベルがついている。アベルの転移魔法のうち"ワープ"なら目視範囲に転移することができる。
というわけでアベル大先生、お願いします!! ぐえー……、一緒にワープする時に俺を掴んでいないといけないのはわかるけれど、なんでフード!? ぐええええー、首が絞まるううううううう!!
そんな感じでアベルの転移魔法で川を飛び越えながら海岸沿いを進んでいった。
時々ジャングルの方からサワサワと風が吹いてくる。その風からはなんとなく馴染みのある聖属性魔力を感じた。
バロンかなー? ジャングルで遊んでいるのかな?
一緒に水属性の魔力も感じるので、これはバロン達と一緒にいるリザードマンの子供達かな?
随分力強い感じのする魔力だなー、さすがリザードマンだな。
俺達が進んだ方向は冒険者ギルドのある集落から見て、よくバロン達がいる川とは反対方向の川なので、それなりに距離は離れていると思うのだが、ここまで彼らの魔力が風に乗って流れてきているのか。
何やってんだ? あんま暴れているとギルド長に怒られないか?
うお!? なんか聖の魔力がポーンしたような感じの強風が吹いたぞ? バロン達は何をやってんだ?
「この風に含まれてる聖属性の魔力はバロンの魔力かな? なんか水の魔力も感じるけどこれは……」
アベルが眉を寄せながら風が吹いて来たジャングルの方を見ている。
俺も少し気になり、察知のスキルで周囲の様子を探ってみる。近くにはあまり強い魔物の気配はない、あってもジャングルによくいる魔物の気配くらいだ。
集中して更に探索範囲を広げてみると、俺達のいる場所から離れたジャングルの中にバロンらしき気配を見つけた。
バロン達の場所は、俺達のいるデルタ地帯よりずっと上流の方か? 結構ジャングルの奥の方まで行っているみたいだけれど大丈夫なのか? かなり距離があるため詳細まではわからない。
強い聖属性の気配はバロンだなぁ、水っぽい魔力は今はしない? 先ほどのはリザードマンの子供が、何か強い魔法を使った時だけ水の魔力を感じたのかな? うーん、子供達の気配は小さすぎて、ここからだとよくわからないな。
うーん、バロンの気配は感じるけれど落ち着いている感じ? 今はもう何もしていない? さっき少しはしゃいでいただけなのかな?
ダメだ、離れすぎていてわからないな。
まぁ、バロンは元気そうみたいだし大丈夫か。いや、元気すぎて大丈夫じゃないかもしれない。
暴れすぎて、ギルド長にお説教されていないことを祈っておこう。
あまり広範囲に探索スキルを使うと俺も疲れるし、近くの気配を見落としやすくなる。
「何か気になることはあった?」
「バロンの気配は見つけたけど、今は落ち着いてる感じ? 今はジャングルの魔物の気配くらいしか感じないし、何かやって遊んでたのかな? 次またなんか変化があったら様子を見にいってみるか」
バロンは強いからルチャルトラのジャングルにいる魔物くらいならなんとでもなりそうだけれど、どちらかというとはしゃぎすぎて何かやらかしていないかの方が心配だ。
「俺は遠くの気配まではわからないから何ともだけど、あの珍獣ならジャングルの魔物相手に負けることはない気がするね。ま、後でちょっとバロンの家の様子を見にいってみよか」
「そうだなー、それじゃもうちょっと進んでみるかー」
バロンが何をやっているのか少し気になったが、今はもう静かになったし気にせず先に進むことにした。
お読みいただき、ありがとうございました。




