庶民から始まる流行
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リリーさんを巻き込んだアベルの商会計画は、俺がファミレス風レストランの案を出し切った後は頭の良さそうな貴族二人がどんどん話を進め、俺は相づちを打ちながら聞いているだけ。気付けば完全にスヤァ……。
ソファーの座り心地が良すぎるのが悪い。
話は途中までしか聞いていなかったが、一階はたぶん俺が提案した気軽に入れて、幅の広いメニューを取り扱っている庶民向けのレストラン。
料理の種類が多いと料理人の負担が大きくなりそうなので、その通りに作ればいいだけのレシピを使うことになるようで、その一部は俺やリリーさんが考案した料理になり、なんとコーヒーの取り扱いもするそうだ。
まぁ俺の場合、前世の記憶にある料理なのだが。
二階では一階のレストランのメニューで使われる食材のうち、保存の利く乾物や香辛料、お茶、コーヒーや、それらのための機具の販売コーナーにするとかいう話をうとうとしながら聞いていた。
こちらは主にシランドルからのものが多くなり、リリーさんが中心となっての運営になるとかなんとか?
三階はフォルトビッチ商会がやっていた服飾系をそのまま引き継ぐらしいのだが、こちらはリリーさんの意向で庶民向けの動きやすい服や気軽に付けられるアクセサリー、簡単に使える化粧品を中心に扱うことになりそうだ。
ここもまた、リリーさんが中心で監修するとかなんとか。俺もハンドクリームとか化粧水とかを置いてもらう予定だ。
アベル曰く、売り場や商品のことは自分よりすでに店を経営しているリリーさんのほうが詳しいから現場はリリーさんに任せて、自分は経営や宣伝、他商店や貴族へのアプローチに専念するそうだ。
なるほどー……、あれ? 俺は?
あ、うん、商品を考えればいいんだな!! 任せろ、びっくりするような便利ですんごいのを考えるぞ!!
そうだ、スーパーシオマネキ君や勝手にお掃除箒君とかを商品として使えるように詰めてみよう。え? それはいらない? そんなぁ……しょぼーん。
アベル的には貴族向けの高級志向の店や、冒険者向けの付与付き装飾品、小型武器の店もやりたかったようだが、リリーさんにとりあえずコンセプトと客層を絞れと言われ、元フォルトビッチ商会店舗は庶民層をターゲットにした服飾装飾の店に食事処がくっついた気安い雰囲気の店という方向性で落ち着いた。
細かいことはこれからアベルとリリーさんが更に話し合いを重ねて詰めていくようだ。そこは俺がいても寝るだけだしな……スヤァ。
リリーさん曰く、ユーラティアの流行はだいたい貴族から始まり、そこに金をかけることがステータスのような空気で、流行り始めは金持ち貴族が独占するため恐ろしく値段が高く、上級貴族がそれらをステータスとして見せびらかすことが目的になっているそうだ。
そのため下級の貴族や庶民は新しい流行を楽しむことが難しく、手の届く頃にはすでに別の流行になっているらしい。
金持ちに金を使わせる意味ではその構造も悪くないのだが、新しいものや良いもの、便利なものを自慢の道具にするために、一部で独占して流通を堰き止める体質があまり好きではないそうだ。
そのため貴族では流行しにくいもの、独占させず広めたいもの、そういったものを庶民発の流行として広めたいという。
なるほど、確かにマニキュアの時も俺が直接売った分以外は、アベルが貴族優先で広めていって、貴族向けは色々とこだわりのある手の込んだ製品ではあるが、びっくりするほど高い値段だったよなぁ。
貴族中心に作っていく流行も悪くないが、リリーさんのいうような庶民の中から生まれる流行のほうが俺には馴染みがあるな。
その案に関してはアベルも商会の場所が地方であることを考慮して、無理に王都中心である貴族の流行に張り合わず、庶民や中流階級をターゲットとした流行を作るほうが、高級志向バーソルト商会と住み分けができていいだろうと納得した。
「フフフフフ……いいですわね……お父様やお兄様に邪魔されない庶民向けのお店……。庶民向けのレストランのメニュー開発も楽しみですが、庶民向けの洋服店も楽しみですわね……フフフフフ……可愛い、カッコイイ、動きやすい、身に着けやすい、庶民向けだからこそできることはたくさんありますわね。これはもうわたくしの自腹でブランドを一つ立ち上げて……うふふふふふふふ、本格的に準備ができて新装開店の時にはアベルさんとグランさんにモデルを……むしろかのパーティーメンバーの方全員でモデルを……、それなら絵師をたくさん集めて絵を残して姿絵本を……ファーーーーホッホッホッホッ!! やる気がみなぎってきましたわああああああああ!!」
リリーさんからなんかすごく闘気のようなものが出ている。
なんか低い声でブツブツ言っていると思ったら、急に高笑いを始めたぞ!?
なんだ、気合いを入れていたのか? リリーさんは面白い人だなぁ。
俺とアベルをモデルにとか聞こえたような気がするけれど、聞かなかったことにしておこう。モデルはイケメンに限る、つまりアベル頑張れ!! 見た目だけならカリュオンもエルフ系イケメンだから紹介してもいいぞ!!
「リリーさんが頑張ってくれるみたいだし上手くいきそうだね」
「お、おう。俺もリリーさんに負けないように、商店の色に合わせた商品開発を頑張ろう」
「グランが頑張りすぎると世に出せないものになりそうだからほどほどにね」
相変わらず、失礼なやつだな!!
今日の話し合いは一旦ここまでで、来週改めてリリーさんのお店で厨房を使いながら、お店のメニューを考えてみようという話になった。
元々服飾系の店だったところを食品系に変更するので大きな改装になるため、それが完了するまでに俺とリリーさんがメニュー開発や商品の考案しつつ、アベルは各所への根回しをすることになる。
それと同時進行で、シランドル方面の物資の確保をリリーさんがやるとかなんとか。アベルがリリーさんを巻き込んだ理由の一番はこれだろう。
料理に服飾装飾に輸送にリリーさんがすごく忙しそうだな。でもなんか妙に生き生きしているな。わかる、新しいことを始める時はすごくワクワクするんだよなぁ。それが自分の興味のある分野ならなおさら。
そういう俺も、アベルが勝手に進めていた商会計画ではあったが、内心すごく楽しそうだと思っている。
しかしリリーさんの仕事量が多すぎて心配なので、過労で倒れないようにスタミナ回復のポーションでも差し入れをしておこう。
話し合いは昼には終わったのだが、ちょうど昼時だったため昼ご飯を兼ねた軽食を頂いてしまった。
突然の話し合いのために応接室をお借りした上に、お昼ご飯まで頂いてお世話になります。お礼に食材ダンジョンで手に入れたララマニィのジャムをたっぷり使ったパイを置いて帰りますね。これはメイドさん達の分で、皆様でお分け下さい。
そして帰る前にふと思い出したことを一応リリーさんに聞いてみた。
「冒険者向けの宿屋で、海沿いにあって干物可のところないかなぁ? 窓際にクラーケンとかシーサーペントをたくさん干しても怒られないところ」
フォールカルテも海沿いの町である、干物可の冒険者向けの宿屋があってもおかしくない。
「ひ、干物ですか……。干物は美味しいのですが、宿で干すと近隣の部屋を含めて臭いの問題がありますからね……」
やばい、引かれた?
「いてっ!」
やっぱ、干物可物件は難しいかー、と思っていたらアベルに足を軽く蹴られた。
「普通に考えて宿屋で干物を作るのはグランくらいだよ!!」
ええー、そんなことはないと思うけどー?
「ルチャルトラでしたら気候の関係で開放的な構造の宿というか下宿もあると思いますので、そちらで聞いてみてはいかがでしょうか? あちらのリザードマンの皆様なら魚の香りはむしろ好物ですからね」
やっぱルチャルトラかっ!
「了解、時間があったらルチャルトラにも行くつもりだったし、ルチャルトラのギルドで聞いてみよう」
冒険者ギルドでは冒険者の希望に添う施設を紹介してもらうこともできるのだ。
「もー、ダンジョンであれだけ干物を作ったのに、更に干物合宿でもするつもりなの?」
「うちは山奥だから海産物は貴重なんだよ! それに干物は美味しいからいくらあっても問題ない!」
「ありすぎは問題なんだけどねぇ」
「確かに干物はちょっと増えすぎたな。来週リリーさんのお店に行く時に差し入れをしよう。それじゃあ、リリーさんまた来週!」
「え、干物ですか……ええ、楽しみにお待ちしております。ではまた来週」
リリーさんに別れを告げ、アベルの転移魔法でルチャルトラの冒険者ギルドの前へ。
よっし、干物可の下宿がないか調べてみよう。
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日はお休みさせていただきますー。金曜日から再開予定です!!




