難しい話は眠くなる
誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。
「フォルトビッチ商会ってあの色んな意味で面倒くさかった商会?」
俺の中では面倒くさかった――自分の手を汚さず他人を誘導して実行させる会長のやり口が胸くそすぎて、加害者であることには変わりないが加害者にさせられた奴らに対する感情のやり場に困り、思わず非合法な仕返しをしてしまったやつ。
「そう、そのフォルトビッチ商会。当時の副会長がそれまでの不正や犯罪行為を洗いざらい吐いて、証拠と共に商会の膿を全部出してくれたんだよね。会長は残念な人だったけど副会長はまだ良心が残ってたみたい? 会長も突然自首して罪を償うとかって自分で牢屋に入ったらしいよ?」
お、おう。ソーリスにいる間とかその後も時々狸宅に遊びにいって色々置いてきたからな。
おかげで変な称号は付いたけれど、自分から罪を償いに行ったのかー、いやー、良かった良かったー。仕返しした甲斐があったなー?
「確かその副会長の息子さんが今の会長でしたよね。不正を排除した時にかなりの数の従業員を切ったとかで、商会の規模を縮小して商会の名前も変えてらっしゃいましたよね。それでもやはりあちこちに賠償したり、取り引きを切られたりして苦しかったようですが」
あれ? リリーさんもその話を知っているのか? 貴族様の情報網すごっ!
「うん、だから優しい俺が出資してあげたんだ」
優しいというか黒いというか出資というか買収というか、お貴族様こわっ!
って、アベルが俺と商会をやるって言っていたのって元フォルトビッチ商会?
確かにソーリスの商業区画の一等地にあった立派な店舗だったのは覚えているけれど、いわく付きまくりいいいいいいいい!!
「確かに信用は一度落ちてしまいましたが、その後の立て直しに高位の貴族が関わっていることが噂になると、一度離れた者も興味を持って再び近付いて来そうですね。商人というものは金のにおいには敏感ですから」
「でしょー?」
ティータイムの世間話のような軽い雰囲気で、商会一つ買収した話をするお貴族様達こわい!!
「場所もソーリスでしたから、東や南からわたくしの店に物を運ぶ途中で通過しますし、条件次第ではお力添えも可能ですわ。ところでどのような商会として展開される予定ですか?」
俺もその辺の話を全く聞いていないな。
「うーん、とりあえず元フォルトビッチの店舗が結構でっかいから、そこを服飾装飾系だけで全部使うのはもったいないんだよね。バーソルトが東にもチョイチョイ出てきてるから王都の流行りものはバーソルトのほうが圧倒的に有利だし。だから華美な服飾装飾系は少し抑え気味にして、庶民と冒険者向けの服飾品や装備品を中心にしたいんだよね」
「なるほど、確かにお金持ち層は西部の流行のほうを好むんですよねぇ。なんというか東部の文化も良いものが多いのですが、やはり王都という都会の流行に乗りたがる方が多いですし。逆にシランドルからの物は西部より安く手に入りますから、シランドルに影響を受けたものは庶民の間で流行りやすいですね」
あ、また眠くなる話題になってきた。
「そうそう、だから東と北の物を中心に取り扱ってそれらをそのうち西の方に持っていくのもありかなって。まぁこれはまだ先の話だけど。とりあえずはあの商会の立て直しを兼ねて、服飾系をやや縮小して代わりに食品系を入れようと思ってるんだ。ここでグランとリリーさんに協力してほしいんだよね。一階に軽食、二階に服飾装飾系、三階を高級レストランにしたいなって思ってるんだ」
レストランかー、できればカレーを出したいなー……うとうと。
前世のレストランと喫茶店を足して割ったようなお店で出てきたような、少し懐かしい気持ちにさせてくれる味のカレー。
あー、甘いカレーライスが入っている、お子様ランチプレートみたいなのもやりたいなー……カレーのてっぺんに旗を立てるんだ……すやぁ。
「んんんー、上を高級レストランでしたよね……下に軽食系の店に庶民や冒険者向けの服飾装飾品の店も入れるつもりですかぁ……。ちょっとターゲットとしている客層にばらつきがありすぎますわね。手広い展開をされたいのはわかるのですが、最初はある程度絞られたほうがよろしいかと。そのほうがお客様にもわかりやすいですし」
「言われてみたら確かにそうだよね。グランが作った物を色々取り扱えるように、下の方はやや庶民向けで上の方は高くて珍しいものって思ってたけど、同じ場所でやると高級感が薄れちゃいそうだね。うーん……高級志向の店はバーソルトがオルタ・クルイローに店を持っててソーリスにも進出予定だし、俺達は冒険者や庶民向けかなぁ」
「でしたらレストランを入れるにしても高級志向より、お洒落さだけを残して気軽に入れる雰囲気のものがよろしいかと。わたくしども貴族の感覚ですと、お金を出して個室で静かにゆっくり食事が当たり前ですけど、庶民や冒険者の方でしたら収入との兼ね合いもございますし、過度なサービスをなくして価格を抑え、入りやすい雰囲気のほうがよろしいのでは? それに元が服飾屋の店舗に料理屋を入れるとなると改装も大規模になりますし、でしたら上にレストランを持って来るより、下の軽食屋と統一してしまったほうが改装工事の費用も抑えられるかと」
ガクンッ!
やべ、寝てた。
「なるほど、確かに冒険者で活動してる時はすぐに入ることのできる、一階の店に入ることが多いね。食べてすぐに出ちゃうから周りのこともあまり気にしないしね。でも冒険者が集まるような酒場や定食屋の雰囲気じゃなくて、冒険者も来るけどそれ以外の中所得者層の人も落ち着いて食事ができるような?」
色々な人に色々な料理を気軽に食べてもらえる店はいいなぁ。料理のジャンルを限定せず、色々なメニューがあるレストランが前世にあったよな。専門性はないけれど浅く広くといった感じのメニュー。
気軽に一人でもフラッと入れる雰囲気で、メニューも多いから色々選べて、値段は高すぎず、味は当たり障りがなくてわりと満足できる。
「それでもやはり客層のターゲットが広めですねぇ……ううーん、広げすぎると結局客のターゲットを絞れず、どちらも逃がしてしまうことになりやすいんですよね。しかし、食に関して言えれば、できるだけたくさんの方をターゲットに、たくさんの種類の中から選んで食べてもらいたいとは思いますね。ソーリスでしたらオルタ・ポタニコのダンジョンも遠くありませんし……しかし手を広げすぎると、雑多な感じになってしまってわかりにくくなりますし……」
確かに少し雑多なイメージがあったな。だけどそれが逆に気安い雰囲気になって気軽に入れて、値段も手頃、料理の種類も豊富。軽食からガッツリ、デザートもお酒も――そんな飯屋があったらな。
いやしかし、リリーさんの言う通り手を広げすぎるとゴチャゴチャしてわかりにくくなるし作るほうも大変である。
確かに食材ダンジョンは遠くないが、素材にこだわりすぎると値段は高くなるし、庶民向けならほどほどの食材で、できるだけ多くの種類。
専門的な高級料理ではなく気軽に色々楽しめる店かー……あったよな前世にそういうの。
「ファミレス」
思わずポロリをしてしまった。
「グラン、寝ぼけてる?」
「今、なんと?」
やべ、うとうとしながら考えていたからつい前世の単語をポロリしてしまった。
「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた。そうだな、使い回しの効く食材でできるだけ多くのメニュー。高級品じゃなくて高級品を模したものを安めの食材で……味がぶれないようにレシピはできるだけわかりやすい――手間の少ないメニューで全て調理する者で共有してマニュアル通りに作る。レストランの小綺麗な雰囲気を残しつつ、メニューは定食屋に寄せた気安い感じ? デザートや軽食もあって、近所の店に買い物に来た人が休憩気分でフラッと入ったり、暇な女性や学生が昼間に集まっておしゃべりしたりしてるような? 酒も取り扱ってるけど酔っ払いが騒ぐなら飲み屋のほうがいいような雰囲気? 隣の人が気にならないように席と席の間には仕切り板みたいなのを入れるだけでも周囲は気にならなくなりそうだな。ああ、でもやっぱ食品系と服飾系を近くに置くのは問題がありそうな……あの商会の建物ってどんなだったっけな……」
思いついたことを取り留めもなく言葉に、最後のほうはもう思考の海にドップリと浸かりほぼ独り言状態である。
まさに前世にあったファミレスってやつのイメージだ。
ファミレスならカレー系も出せないかなぁ? カレーは世界中に広まっても困らないんじゃないかなー? 米はやっぱ難しいかなー? せめてカレーコロッケはできないだろうか?
いや、服飾屋の下でカレーはまずいか? 消臭系の魔道具でごり押しできないか? というか、カレーの匂いは腹が減るから一階でガンガン匂いテロをしたいな!!
「グラン、ちょっとそれ詳しく。それから綺麗にわかりやすく紙に纏めて?」
アベルの声で我に返ると、アベルの非常に圧のある笑顔が見えた。
「グランさんの持っているそのレストランのイメージ、何となくわかった気がします。いいですね、その案もっと細かく詰めましょうか」
ひぇっ!? リリーさんの笑顔も圧がある!!
この後、二人のキラキラ貴族から詰められまくったというか、考えていることを絞り出されたというか、ファミレスっぽい店に向けてものすごい勢いで話が詰められた。
お読みいただき、ありがとうございました。




