お貴族様のお買い物感覚
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「どうも、アベルがいつもご迷惑をおかけいたしております。これ先日まで潜っていたダンジョンのお土産です、お納めください」
「ふぉあ!? 保護者ムーヴ頂き……あ、いえ、なんでもありませんですことわよ、ほほほほほほほほ。お土産ありがとうございます……ヒッ!? これはもしやバハムートオイル漬け!? オルタ・ポタニコのダンジョンへ行かれていたのでしたっけ……これが噂に聞く食材だらけのダンジョン……」
綺麗な応接間、高そうで品の良いソファーにアベルと並んで座りリリーさんと向かい合い、テーブルの上にバハムートのオイル漬けの入った瓶を置いた。
バハムートくらいの食材になると、さすがのリリーさんも驚いたようだ。
へへーん、これも冒険者の特権だな! カメくんの協力のおかげだけど!
「そうそう、色々あって戻って来るのが遅くなっちゃったんだよね。帰ったら連絡するって言ってたから急いで連絡したよ。ついでにお父上には俺からお土産を渡しておいたよ。ふふふふ、いきなりで迷惑をかけちゃったかな?」
「いえいえいえいえいえ、ちょっとこちらで用事があったものでお店はお休みして戻って来ていたので、わざわざ遠くまでありがとうございます、ホホホホホホホ。お父様もアベルさんのお土産は大変喜んでおりましたわ、ホホホホホホホホ」
アベルもお土産を持って来ていたのか。侯爵様に渡したとなるとやっぱバハムートかなぁ……だよなぁ、あそこで手に入れた最高級品はバハムートとレッサーレッドドラゴンあたりだもんなー。これはお土産が被ったかもしれない。
今日はアベルが昨日宣言した通りリリーさんとあれこれ話し合うためにフォールカルテにやって来た。
場所は以前泊めてもらったリリーさんのご実家が所有するお屋敷。今回は侯爵様のお屋敷と知ってしまったのでめちゃくちゃ緊張している。
このお茶もお茶菓子もきっと庶民の俺には想像できないくらい高いものかもしれない。このティーセットとか絶対やばい値段がしそう。ちょっと鑑定……いや、やめておこう、値段を見てびびって落としたら弁償できない額かもしれない。
「ええ、それで昨日先にいただいた手紙の方には目を通しましたが、わたくしの見間違いではなければアベルさんが商会を持たれるとか、そこでグランさんのお店を出すとかというお話でしたけど、先日のバーソルト商会様のお話とはまた別のお話なのですよね?」
まぁその話、俺はなーんにも聞いていないのだけれどね。
「うん、バーソルトとは取り引きをするし、あそこの持っているルートを使わせてもらう予定だけど商会自体は俺がオーナー。ちょうど良い感じに傾いた商会があったから、買収したんだよね」
その辺で中古装備を買うような感覚で言うな!!
「まぁ、立て直せる見込みがあって、過去の実績や商業的なパイプを持ってる商会なら、傾いてる時は買い時ですからね」
お貴族様の買い物感覚はわからないな。
「そそ、いい感じの老舗で実績とコネはあるんだけど、先代の経営者が悪すぎたみたいでさー、評判悪くなって傾いて世代交代したみたいだけど上手く行ってなかったみたいでぇ? 俺達の住んでる場所からもそこまで遠くないし、そこそこ栄えてる地方都市だけど、人口もほどほどで競合も多すぎないみたいな?」
そっかー商会がお買い得だったのかー。
「まぁ、それはお買い得でしたわね。地方は多少不祥事があっても老舗は地元のお金持ちが固定客を握ってますからねぇ。少々何かあっても、値段が高くても昔からあるお店を使っちゃうみたいな。地方都市は地元に根付いた商会は強いんですよね」
あ、なんかそれわかる気がするわ。
俺の前世のばーちゃんも、新しくできた安くてでっかい店よりも、少し値段が高くても昔から付き合いがあって、買った後のフォローも世間話のついでに困っていることを聞き出して対応してくれる馴染みのある店でよく買い物をしていたな。
「そっそ、だから店舗は元の商会の人でまともだった人を残して使ってる。お金を出してるから運営の方針には口を出してるし、足りない人員はバーソルトから借りて、ダメな部分は全部たたき直してる。そこにこれからグランのお店を出そうかなって? どう? リリーさんも一口噛まない? ご実家の息のかかってない商会が欲しくない?」
よくわからないけれど、アベルの笑顔が黒い。
「確かに実家の邪魔が入らない窓口は欲しいんですよね。しかもアベルさんのところならお父様やお兄様、弟が突撃してくることもないでしょうし。しかしこれに釣られてしまっては、後が色々な意味で色々な方面が怖いような……」
リリーさんがものすごく悩んでいる。
「グランの作った物や考案したものをバーソルトに持ち込んでたんだけど、グランが無計画にあれこれ作るからおっつかないんだよね? それにバーソルトはユーラティア西部では敵なしだけど、東部はちょっと弱いんだよね。と思った矢先にいい感じに傾いた商会があったし、東部ならリリーさんのご実家が強いしと思って? ふふ、ついでにシランドルとのパイプも欲しかったしね。どうかな? 商会はソーリス、ユーラティア北部と東部の分岐地点。元は服飾装飾の老舗だったけど、一階を軽食系のお店にして上の階に高級レストランと服飾装飾系をいれようかなって?」
ソーリスかー。アベルの転移に頼らなくてもうちから日帰りで行ける距離だし、パッセロさんのとこの親戚の商会もあるし悪くないな。
俺が何をやることになるかは知らないけれど。
ん? ソーリスの服飾装飾系の老舗?
「ソーリスですか。確かに東からの物をアルジネに運ぶ時に通過しますね。なるほど、そこで北方からの物を融通して頂けるならありですね。あれ? でもソーリスから北の方の領地は――」
「うん、俺の義母の実家があるね。俺自身はパイプを持ってないけど、その買い取った商会が持ってるから、俺が商会に関わっていることは当面出さないで取り引きをする予定。そこでさ俺の名前出したくないし、ドリーのとこもあそことあまり仲良くないし、できれば中立系家門のリリーさんが店に関わってくれると俺としても助かるんだよね。リリーさんはリリーさん自身で功績を持っているし、侯爵家ではなくてリリーさん個人で充分なんだ。俺の名前を商会の後ろ盾に使うのは色々難しいから、リリーさんの力がちょっと欲しいなみたいな?」
なんか難しそうな話になってきて眠くなってきたぞ。
「あぁー……、なるほどそういうことですか、うちは南方系ですから北方の家門とは可もなく不可もなくですからね。それに、うちの家族の関わってない窓口は欲しいと思っておりましたし。いい話なのですけど――ところでそのソーリスの服飾装飾系の老舗といいますと、有名どころでは一つしか思い浮かばないのですが……」
うつらうつら。
「あ、知ってる? さっすが、貴族女性の情報網ってすごいよね、情報ギルドもビックリってくらい色んなことを知ってるよね」
「ええ、まぁ、仲の良い方とは時々集まってお話もしますし、わたくし自身もお店をやっておりますからね、噂の収集は貴族としても経営者としても重要なので。それでその商会というのはやはり」
スヤァ……。
「うん、元フォルトビッチ商会、グランと大もめしたところ」
ふぇ? 何か言った?
何だっけなんか聞いたことのあるような単語が聞こえたような。
「あー、やっぱり……。あの噂は兼々……地方の大店の大不祥事ですからね。会長さんが辞任して、その後副会長さんが会長代行をしておられましたが、当時の不正や犯罪行為を全て明るみに出して、息子さんに会長職を譲られて引退されたとかなんとか」
ん? フォル? 俺と揉めた? 不正? 犯罪行為? 会長が辞任?
アッ!!
「思い出したーーーー!! タヌキーーーーー!! ニトロラゴラーーーー!! ホホエミノダケーーーー!!」
うとうとしていたが、聞こえて来る単語にようやく記憶が蘇り目が覚めた。
フォルトビッチ――マニキュア騒動で色々揉めて、腹いせにニトロラゴラやらホホエミノダケやらを会長の自宅に置いてみた、あのうさんくさい商会だ。
「あ、グラン起きてたの? 寝てたと思った」
失敬だな、少しうとうとしていただけだ。
お読みいただき、ありがとうございました。




