儚きもの
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「ただいまー」
「アッ! アベルちょっとストップ!!」
「へ?」
グシャッ!!
「ああーーーーーーっ!!」
「うわっ!? なんか踏んだ!?」
「カァー……」
鈍い音と共に俺の力作スーパーシオマネキ君が、ドアを開けてリビングに入って来たアベルの靴の下で無残に潰れてしまった。
「ちっこくて壊れやすいものを床の上で動かした俺が悪いんだけどさ……ぷーん」
「ごめんて、まさか足元にカニがいるなんて思わないじゃん。って今日もチビカメが来てる! いたっ! また変な貝をなげつけやがって! この野郎!!」
「ケッ!」
「あ~、グランがやさぐれてしまいましたわ~」
「今日のグランはついてないわね、よしよし」
「また新しいカニさんを作りましょうねぇ。今度はもっとすごいの作りましょう」
ソファーの上で膝を抱えて座り、幼女に慰められる俺。いや、まぁ見た目は幼女だけれど多分俺よりずっと年上だし。
ただの不幸な事故なのだが、完成後数分で粉砕されて悲しい。とても悲しい。
空飛ぶ箒作成に惨敗した俺は、空飛ぶシリーズは諦めてもう少し簡単なものにチャレンジしようと思った。
空飛ぶ箒の失敗でくるくると回ったことを思い出し、自動で掃除してくれる魔道具でもできないかなぁと考えて思いついたのが、ゴミを吸い込む自走式の魔道具。
家で使うものなら強度は最低限でいい。
そうだ、サルサル塩原に行った時にたくさん狩ったシオマネキの殻があったよな? そこそこ硬いけれど、装備にするには心許ない強度。よっし、こいつを使おう。
ほぉら、やっぱり貯めておけば使う日がくるだろぉ?
そうだ、カニの殻だから上手く組み合わせてカニ型の魔道具にしよう。チャカチャカと横歩きをする自走式カニ型掃除機、なんか可愛い気がする。
チャカチャカと自分で移動して、壁や家具にぶつかれば方向を変えて、移動中に細かいゴミを吸い込んで体の中に溜める仕組みのカニを作ろうと思ったのだ。
空飛ぶ箒に惨敗した後、家に戻ってリビングでチマチマとカニの殻をスライム素材の接着剤でくっ付けていると、三姉妹が寄って来たので一緒に工作。
付与に詳しいクルにアドバイスをしてもらいながら、自走式カニ型掃除機の完成。
完成した頃にカメ君がやって来て、そろそろ夕食の支度をしないといけないと思いつつ、その前に試運転をしてみようとリビングの床を走らせてみたら、壁や家具にぶつかって方向を変えているうちにドアの方へ行き、そこへアベルが帰宅。
そして、この大事故。
今日の俺、ホントついてない。
ちなみに空飛ぶ箒が失敗に終わった後、クルがソファーにおいてあるクッションに浮遊の付与をしたため、魔力を通して浮遊効果を発動させると意味もなくプカプカと浮くクッションになってしまった。
しかしやはりこのクッションも、俺くらいの体格の者を高く浮かせて自由に飛ぼうと思うと加減が難しく、少し浮き上がらせて遊ぶくらいしかできなかった。
プカプカ浮くだけで実用性はないなと思っていたら、このちょっとだけ浮くクッションに興味を示したのが、朝どこかへ出かけて今日もうちに戻って来たカメ君。
ちっこくて軽いので、少しの魔力でふわふわと浮き、あまり魔力を使わないぶん制御も楽なようで、プカプカするクッションでフラフラと移動しながら尻尾がピコピコと揺れていた。
俺は散々な一日だったけれど、クッションに乗ってフラフラと飛んでいるカメ君を見ると、昼間の大惨事も無駄ではなかったのもしれない。
でもやっぱりスーパーシオマネキ君が、試運転開始直後でお亡くなりになられたのは悲しすぎた。
悲しみの心は料理にも出るもので、今日の料理はスーパーシオマネキ君の喪に服したメニューになった。
つまり、野菜中心。別にスーパーシオマネキ君を踏んでしまったアベルに対する当てつけではない。けっして。
「うっわ、野菜多っ! 絶対さっきのカニのこと根に持ってるでしょ!? だからごめんって!」
「根に持ってないよ。これはスーパーシオマネキ君を偲ぶ料理だよ。ほら、野菜ばかりじゃなくてここにシオマネキ君のクリームコロッケとグラタンがあるじゃないか。それにこっちはカメ君が持って来てくれた貝を使ったクリームスープだ。野菜も多いが今日は海の幸がたくさん!」
シオマネキクリームコロッケはわりと美味しくできたと思う。命短し、美味しいシオマネキクリームコロッケ。君のことは忘れないよ。
「シオマネキは海じゃなくて塩原の生き物だと思うけど」
そういえばそうだった。つい前世の感覚で海の生き物の気がしてしまうが、シオマネキ君は塩原に棲んでいたカニだ。
「ふむ、たまにはこういう肉々しくないメニューもいいな……アグッ!!」
少し小ぶりなクリームコロッケを丸ごと口につっこんだラトが、口を手で押さえ面白い顔になっている。
クリームコロッケあるあるである。
「カメさんが海の食材を持って来て下さるのでぇ、海の料理が夕食に出てくるのは嬉しいですぅ」
「いつか海にも行ってみたいわね。私も海の魔物と戦ってみたいわ」
「また今日もあの不思議な鏡で海を見せてくださいませ。お礼に森の果物を差し上げますわ」
「カカッ!!」
カメ君と三姉妹はすっかり仲良しというか、三姉妹が海の食材に餌付けされてしまったようだ。
昼間はふらりと出かけていって夕食時に戻って来るカメ君は、連日で海洋性の魔物を持って来てくれている。
非常に助かるのだが、一日で食べきれる量でないのでこのまま続くと収納が海産物で満たされてしまう。
そういえば、今日もシーサーペントを貰ったがシーサーペントを干物にするには森よりも、潮風が吹く海沿いがいい。
亀島での遭難生活で海のそばのスローライフが楽しかったので、海沿いに小さな別荘が欲しくなる。いや、管理が面倒くさいからたまに遊びに行くくらいでちょうどいいから、海のそばにある干物可の宿屋に暫く滞在して平和な海を満喫したい。
釣りや潮干狩りをして、たくさん干物を作って、海で遊んで、そうそう海藻もたくさん欲しいな。あ、でも宝箱はもういいや……。
森から離れられないと言っていた三姉妹達にもいつか海を見せてあげたいな。
「ところでグラン、明日リリーさんに会いに行くから。ほら、前に言ってたお店の話、リリーさんも巻き込む予定だから」
店? ダンジョンでバーソルト商会とかリリーと話し合った商品の話――あーーーー!! 思い出した!!
こいつ、ダンジョンで戻ったら俺と商会をやるとかいってた気がする!!
その話、あれから何も聞いていないぞ!?
「お前さー、そういう大事なことは報告連絡相談はちゃんとしろよー」
「だから今してるじゃん。ダンジョンから帰って来て、リリーさんと連絡ができたのは今日だし?」
ということは、リリーさんも今日の明日で話し合いをすることになったのか。まぁ俺もいきなり店に行って相談しようと思っていたのだが。
「じゃあ明日はリリーさんの店かー。土産を用意しておかないとな」
「あ、リリーさんは実家に戻ってるみたいだから、リリーさんの実家のお屋敷で話し合いをすることになったよ。さすがに侯爵家にいきなり行くのはまずいから、ちゃんと一日前に一度訪ねておいたんだ」
は?
リリーさんはそういえば侯爵家のお嬢様だったんだ。
え……そこでやるの? 別宅に一度泊めてもらったから今更だけれど、あの時はまだリリーさんが侯爵令嬢だったなんて知らなかったし?
ていうか、一日前に知らせてそれで大丈夫なのか!? むしろ今日その知らせのためにいきなり訪ねていったのでは!?
これだから転移魔法持ちは……いや、お貴族様のことはよくわからないので深く考えまい。
「じゃあ、明日はフォールカルテね」
「お、おう……わかった。早めに話し合いが終わったらルチャルトラで素材を集めて帰ってもいいなぁ。バロンも元気にしてるかなー? ちょっと顔を見に行くかー?」
「カッ!?」
俺の横でカメ君が咽せた。
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