それでも日々は続いていく
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「どわああああああああああああっ!!」
我が家の敷地のすぐ外、森の傍の少し広い場所で、俺の乗った箒がフワリと少しだけ浮き上がった後、勢いよく発進して近くにあった茂みに突っ込んだ。
うむ、動くことは動くけれど制御不能だな!! やり直し!! 生産はトライアンドエラーの繰り返しだ!!
「今度は突っ込んでしまいましたわ~。かれこれ十回以上失敗してませんこと?」
「まだ九回目じゃない?」
「まぁ、最初は浮き上がらずにそのまま発射されたり、クルクル回ったりしてましたから、九回目でこれならかなりの進歩ではぁ?」
箒ごと森の茂みに突っ込んでしまった俺の後ろから、三姉妹達の声が聞こえる。
空飛ぶ箒は思ったより難しいな!!
色々ありすぎた食材ダンジョンからうちに帰って来て、平和で平凡な俺のスローなライフが再開された。
帰って来たその日に、海でお別れしたはずのカメ君がうちまでやって来たり、うちで一泊する予定だったカリュオンがラトに付き合って酒を飲みすぎて翌日寝坊したりと、帰宅早々バタバタとしたがのんびりとした日常が戻って来た。
寝坊したカリュオンは、原因を作った番人様が責任を持ってハイエルフの里までの近道を教えることになった。
そして食っちゃ寝ばかりして少しポッチャリした三号に乗って、里へと帰っていった。途中まで一号と二号に乗った三姉妹と毛玉ちゃんが見送りに行ったようだ。二号は非力だけれど、一号は幼女二人乗せるくらい余裕?
さすが陽キャ、三姉妹と番人様とすっかり馴染んでいる。
ところでうちのワンダーラプター達、森の中でよく遊んでいるみたいだけれど大丈夫? いたずらしていない? アイツら誰に似たのかすぐ調子に乗るからな。
え? 俺が留守の間毎日散歩に行っていたらもう森は庭みたいなもの? 三姉妹の乗り物として森の生き物にも認知されている。
カリュオンには森の通行許可をあげたから帰りもうちまで戻って来る? あ、ふーん……、一晩で森の守護者を攻略してしまう陽キャのコミュ力恐るべし。
カメ君もうちに来て夕食を食べた後、そのまま泊まって翌朝、朝食後どこかに出かけていって、夕食ができる頃にご機嫌で戻って来た。
カメ君も転移魔法が使えるみたいなので、うちから海へ行っているのかな? まぁいいや、カメ君が増えたくらいでは、大飯ぐらいだらけのうちのエンゲル係数は変わりない。
あれ? エンゲル係数ってなんだっけ? てててて転生開花さーーん!!
むしろカメ君が魚介類を手土産に戻って来るので、逆に食卓が豪華になりそうだ。
カメ君もアベルと同じでうちを拠点にして職場や海へ通うつもりか? ホントこいつら、行動パターンそっくりの仲良しさんだな!!
で、そのアベルはダンジョンから帰って来た翌日は家でだらだらとしていたが、その翌日は王都へと出かけていった。
家族へお土産を渡しに行くとか? なんだかんだでアベルは家族想いなんだよなぁ。
よくわからないけれどポミュプの目玉焼きがコリコリして酒のツマミにちょうどいいから、ワイン好きの一番上のお兄様にあげたいと行ってポミュプの目玉焼きをたくさん焼くことになった。
ポミュプの目玉料理は見た目が少しエグイけれど、味にくせはあまりなくコリコリして歯ごたえもいいので、お酒のツマミにちょうどいいんだよなぁ。醤油漬けも作ったから瓶に詰めてオマケでつけておくね。
そして俺。
長い間ダンジョンにいたうえに色々ありすぎた反動なのか、創作意欲が溢れ出してしまった。
色々作りたいと思いつつ、帰って来た翌日は荷物を整理しつつポーションを作って、パッセロさんのとこに帰還の挨拶ついでに土産とポーションを持っていったら一日が終わってしまった。
その翌日――今日は思いついたものを欲望のままに形にしている。
生産は爆発だーーーーーー!!
と、浪漫を求め空飛ぶ箒の開発を始めてしまった。
カリュオンがうちから故郷に帰って行ったのでリリーさんのお店に行きそびれてしまい、リリーさんの店に一緒に行きたがっていたアベルも今日は実家に行っているので、リリーさんにお土産を渡しに行くのはまた後日ということになって、暇だったというか、なんか思いついてしまったというか、創作意欲に変なスイッチが入ってしまったというか……つい……。
上手くできたら魔法が使えない俺だって空を飛べるはずだ~~~~!!
箒を浮かせて飛ばすくらい簡単だと思ったんだよ!!
しかし冷静に考えると、地震系の攻撃を躱すためにブーツに付与をしておくことがよくある浮遊系の効果も、かなり魔力を消費して数十センチ程度浮き上がるだけで、浮いたまま自在に動くのは難しい。その地震を避けるだけの短い時間、そして低い高度ですら魔力の消費は大きい。
浮遊系の付与も魔法もめちゃくちゃ燃費が悪くて、長時間成人男性を浮き上がらせたまま自在に移動するのは難しいんだよなぁ。
アベルがたまにプカプカ浮いているのは魔力お化けのなせる技である。そのアベルでさえ浮いた状態での移動は、転移魔法の魔法によるワープ移動の方が多い。
それくらい浮遊状態での行動は魔力と魔力操作の技術が必要なのだ。
浮遊系の魔法や付与は、浮き上がらせるものの重さ、浮き上がらせる高さ、そしてその後の移動の速さに比例して必要な魔力が増えていく。
装備品にその付与をするならその魔力の供給元は魔石や素材ではなく、使用者の魔力にしなければ一瞬で素材の持っている魔力がなくなってしまい、落下してしまう。
かと言って、使用者の魔力を動力源にして長時間使用になると、使用者の魔力が多くなければ難しい。
人を乗せて空の高い場所をぴゅんぴゅんと飛び回るのは、魔力コスト的にも技術的にもなかなか難しいのだ。
魔力の多さには自信があるので、実用性がなくとも短い時間でも飛べたらいいなと思って作り始めたら、想像以上に苦戦をすることになった。
重力操作で箒と使用者を軽くする付与をして、風魔法で発進!!
……浮き上がらせるの忘れて跨がった俺を置いて箒だけ前に飛んでったわ……、あまりの急発進に思わず手を放したから箒だけ飛んでったわ……。
いや、これは飛んだっていうか発射されただけだよな?
よかった、上に乗っていなくて。重さに対して風魔法の効果が少し大きかったかな。
よく考えたらまっすぐではなくて、向きを変えられるようにしないと……よし、風魔法の方向を指定して威力もまろやかにして、それから前より先に上に……。
よぉし、今度こそ!!
ぐえーーー、上に指定したら何故か箒が上向きに立ち上がって浮かび上がり、その場でクルクル回り始めた。
ぎえーーーー、目が回るうううー!! やべー、緊急的に止める方法を考えていなかった!! あ、手を放して魔力を送るのやめればいいだけだった。
ぐえっ! 手を放したら当たり前だが地面に落ちてしまった。俺も箒も。
く……、なかなか難しいな、しかし、これは改良すれば自動掃き掃除機になるのでは!? ってそうじゃない!! 俺が作りたいのは空飛ぶ箒だ!!
と、試行錯誤を繰り返し、浮いては落ち、発進して突っ込みを繰り返していた。
前に進む力の付与の加減と俺の魔力制御ミスが原因の失敗も多いが、そこを改善して少し浮いて前に進むのは安定し始めた。
といっても発進から加速の制御が難しく、何度も茂みに突っ込んでいる。
発進と加速、方向転換の調整はまだまだかかりそうだが、浮く方はだいたい制御できるようになってきたな。次はもう少し高く、そしてスムーズに浮き上がって発進できるかやってみよう。
上昇効果を少し高めに、前に進む力の出力は少しまろやかに書き換えて、よしもう一度!
気を取り直して広い場所で箒に跨がりなおして、今度は少し効果が高めなので気持ち多めに魔力を送り込んでぇ~。
カーーーーンッ!!
頭の中で鐘が鳴り響いた気がする。
そして箒をポロリと落とし、そのまま体をくの字に折って地面に転がった。
「ぐおぉぉ……」
今度は上昇する力を強くしすぎたようで、跨がった箒が急上昇した。そして大事故。急所への直撃。
そうだよな、箒の柄なんていう細いものに跨がるから、加減を間違えたらこうなるよな?
悲しいかな、男の急所事故。
冒険者の下着はこのような事故に備え物理耐性が施されているのだが、至近距離からの箒の柄急上昇アタックは下着の物理耐性を超えてしまったようだ。
涙目になりながら地面に転がり、ぐったり。
「あ~、十回目も失敗に終わりましたわ~」
「なんで箒に乗って飛ぼうと思ったのかしら? 人間の考えることは面白いわね」
「面白そうだから私達もやってみますかぁ? 箒は危なそうなのでクッションで試してみましょう」
悶絶する俺をよそに三姉妹の呑気な声が聞こえる。
俺は大惨事だが、今日も平和だな~。
お読みいただき、ありがとうございました。




