閑話:遥か地より来た者
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大昔の話をしよう。
始まりはあの古代竜の国ができるより前の話だ。
とある山地に世界の始まりからある巨大な樹があった。
いいや樹の姿をしているが元は女神だったとか、古の竜だったとか、違う世界から来た者だったとか。
かつて世界を飲み込もうとした強大な忌まわしき存在を地中に封じ浄化するために巨大な樹になったとかなんとか。
その樹には淀んだ魔力を浄化する力があり、世界の淀みを養分として吸い上げ浄化し、綺麗な魔力として世界に戻す役割を果たしていた。
樹は動けぬことを不便に思い、自分の分身として三人の女神を作り出し、その女神達を通して世界を知り、女神達を使い世界に加護を振り撒き、女神達に力を分け未熟だった世界を豊かにした。
まぁ、この辺りまでは古い古い書物に神話として書き記されているな。
そうやって世界は徐々に豊かになり、樹が手を加えずとも生き物達は自らの力だけで営みを続けられるようになった。
また樹は生き物同士のことに介入しすぎるのはよくないと、争いで世界が乱れても自ら介入することはなかった。時折、三人の女神や眷属を使い暗躍をしたり、生き物に加護を与えたりすることがあったくらいだ。
この頃の樹は今とは比べものにならぬほど大きく、三人の女神の力も強かったため樹から離れた場所でも活動できたようだ。
それがどうして小さくなってしまったか?
うむ、それはこれから話そう。
樹には守護者がいた。
元は樹と同じ神だったという話もある。
金色のシャモアの姿をした守護者は樹を、そして樹の作り出した女神を守っていた。
そうやってどれくらいの間、樹は世界を浄化し続けただろう。世界の淀みを養分とし、それを浄化し続けた樹は、大きく大きく育っていた。
その間、世界には生き物が増え、人間もまた今ほどではないが少しずつ数を増やし始めていた。
生き物が増えれば争いも増える。
それぞれの欲望と正義が渦巻き、争いを繰り返しながら様々な種族や国が繁栄し、そして滅びていった。
古代竜が統治する国ができたのもこの頃だな。
無限ともいわれる寿命を持ち、この世で最強と謳われる古代竜が最も繁栄していた時期だな。
古代竜といっても全ての古代竜ではなく、比較的若い世代の古代竜の国だ。
古代竜の中でも最も長寿の部類の始祖と呼ばれる者達はこれには関わらず己の縄張りに引き籠もっていたな。
若い世代の古代竜は始祖に比べれば随分と弱いが、それでも他の生物とは次元の違う強さを持っている。
そんな古代竜が国を作れば、他の種族は刃向かうことなどできるわけがない。
そんな古代竜の国に対抗しようとした人間の国が、樹の下にいるという忌まわしき存在を解放し古代竜に対抗しようとした。
そのような者を解放して古代竜の国を滅ぼしたところで、その後の世界がどうなるかなど考えるに易いことなのに愚かなことよの。
いや、今思えばその人間も、かの樹を焼き払いたかった何者かに唆されたのかもしれぬな。
そもそも忌まわしき存在はとうの昔に樹によって浄化されていたのに。樹はただ世界の淀みを浄化するためだけに存在しているだけだったのに。
そしてあの日、樹のある高原に火が放たれた。
降り注ぐ火矢が高原の植物や生き物を燃やし、その矢を浴びながらも樹と女神を守るため、人間を追い払いながら火を消そうとする金色のシャモア。
だが敵の数は多く、いかに強い番人であろうと、攻めてくる人間を追い払いつつ高原に放たれた炎を食い止めるには限界があった。
緑に覆われた高原を舐めるように燃やす炎は樹へと近付き、その炎がかの大樹に燃え移るのは時間の問題だった。
あの日たまたまその場にいた私はその光景をぼーっと見ていたのを覚えている。
炎はやがて大樹にも燃え移り、巨大な樹が空を赤く染めるほどに燃え上がった。
その樹が燃え崩れ始めた頃、背中にいくつも矢を浴びた金色のシャモアが樹を折り、それが倒れる様を私はぼーっと見ていた。
そしてその樹の中から銀の竜が現れ、金色シャモアはその体を捨て本来の姿を現し、彼らが共に飛び立っていくのを。
その地を去る前に銀色の竜はその場にいた私に、自分の分身である三人の女神を三つの苗木にして託した。
それと同時に抜け殻になった金シャモアの体と私を同化させ、番人として力――金シャモアの持っていた力と樹についての記憶の一部を与え語った。
樹がなければこの世には淀みが溜まり続け、再び忌まわしき者が現れるだろう。
自分はここから去るが、その苗木を上手く育てることができれば大樹となり淀みは浄化され、忌まわしき者が作り出されることはないだろう。
再び欲望のままに樹が折られたとしてもよいように三本を別々の場所に植え、そこから更に株分けをするように。
この世界はもうすでに神の手はいらない。終わるも続けるも、この地に生きる者に委ねると。
こうしてたまたま観光気分で大樹を見に来ていた私は、かの大樹の消失に巻き込まれ、不本意ながら世界の行く先を握ることとなった。
私は元々索冥という麒麟族の神獣だった。
大陸の東でその地の生き物に崇められながら暮らしていたが、どうにも退屈で別の神獣にその地を譲り旅に出た。
そして旅先でこれである。
でかい樹があると聞いて見物に訪れ、自分と似たような姿の金シャモアと意気投合し、大樹の根元で何日間か分からぬが酒を飲んで楽しくすごしていた。
ちょっと飲み過ぎて意識が飛んだ後、目覚めればこの始末である。
意識がはっきりした時には金シャモアと同化させられ、白いシャモアの姿になっていた。
酒は飲んでも飲まれるなとは古よりよくいったものだ。
その苗木、収納に入らないどころか離れようとすると体が動かなくなる。どうやら近くにかの樹がなければ――かの樹の力が届かぬ場所では動けなくなるようだ。
金シャモアと同化した影響か? その力を得ると同時にかの樹に縛られてしまったのか?
いきなり三本の苗木と世界の行く末を託されて途方に暮れた私は人に化け、高原から苗木を持ってまだ炎が収まらぬ高原から離れた。
樹が倒れても忌まわしきものが現れることなく、ただ燃え続ける高原で混乱気味の人間の目を欺いてその地から離れ後ろを振り返ると、騒ぎに気付いた始祖の古代竜がまだ燃え尽きていない大樹の方へと向かっているのが見えた。
現場の混乱はきっと奴らが何とかするだろう。私はただ巻き込まれただけだ、後始末など知らない。
あの場から離脱はしたものの、これからどうしたものかと考えた末、とりあえず昔からの友人であるお人好しのレイヴンの元を訪れ、手土産代わりにとりあえず一つ押しつけることにした。
事情を話すとレイヴンは、どうせ自分はこの森から動く気がないからと快く引き受けてくれた。持つべきものはお人好しの友である。
あれはレイヴンの住む森ですくすくと育ち、新たな眷属を作り出していたな。たしかラミアの姉妹達だったか。
もう一本は私とレイヴンの師である霊鳥に。めちゃくちゃ怒られたが、呆れながらもお師匠様は引き取ってくれ、険しい山の中に植えたとかなんとか。
元々偏屈な鳥だったし、人が近寄れない場所が好きな鳥だったしな。山の中といわれて納得した。
暫く会っていないが元気にしているだろうか。いや、気配はするから元気そうだな。
そして私。
苗木を鉢に植えそれを抱え、植える地を探し各地を転々と旅をした。最終的に樹を隠すなら森の中という言葉に従い、広大な森の中に樹を植えた。
樹はすくすくと育ち、苗木から若木になる頃に三人の女児を産みだした。それがウルとヴェルとクルである。
三つの苗の中で親株に一番近い力を持っていたからか、番人の力を持った私がそばにいたからか、三姉妹はかの樹の作り出した女神――苗木になってしまった女神にそっくりだった。
それから私は樹を、三姉妹を育てながらこの森で生きてきた。
その三姉妹もまた私と同じく樹の影響下でしか活動できない存在だった。樹より離れればどんどんと幼くなっていく。
樹の成長と同調するように三姉妹達も成長した。そして樹が成長するほど私と三姉妹の行動範囲は広がり、今では広い森の中なら自由に活動することができるようになった。
しかしまだ、樹はかの大樹に比べ随分小さく、そして成長すればするほどその成長速度は緩やかになっていき、今では年に数センチ程度の成長速度となっている。
新たな樹が成長する間、かの古代竜の国で内乱が起こったり、古代竜の国が終わり後に人間の国ができたり、その人間の国の者が私を森の主と崇め始めたり、ちょうどいいので森に近寄らないように契約を結んでみたり、森に棲むものには神獣と崇められてみたり。
その間、何度か樹の枝を折り私と同じような神格持ちに託した。どこかですくすくと育ち、その地を浄化していることだろう。
色々とあって今に至る。
む? 眠ってしまったか。
月が明るい夜とはいえ、もう夜も遅い。
いつのまにか眠ってしまった三人をベッドへと運び毛布をかける。
今思えば、あの金シャモアに嵌められたような気がしてならないが、今となってはもう分からぬこと、知ったとしてもどうしようもないこと。
時が過ぎるうちにこの森の生活も案外悪くないと思い始めた。
グランと出会って以来、暫く興味のなかった森の外の世界の話に触れることが増えた。
三姉妹達はグランやアベルの、そしてたまに訪れる町の子の話す話をいつも楽しそうに聞き、人間の本を夢中で読んでいる。
今日はあの不遜な亀が水鏡の魔法で三姉妹達に海の中を見せ、三姉妹達は目を輝かせながらそれを見ていた。
樹の頂上まで登れば遥か遠くまで見渡せる。しかしまだ海は遠い。
彼女達が本物の海を見ることができるのはいつになるのだろう。
いつか遠い未来、三姉妹達が外の世界に行きたいと言ったら、その時私はどうするのだろう。
もし三姉妹達をこの樹から解き放つことができる方法が見つかったら、私はどうするのだろう。
それがもし他の誰かを身代わりにする方法だったら、私はどうするのだろう。
お読みいただき、ありがとうございました。
明日からグラン視点に戻って、新章になります!!




