閑話:亀と珍獣
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「バロン、コイツ嫌い。コイツ知ってる、昔、ジャングルに、海水かけた。元に戻す、大変だった。コイツ、嫌い」
何だ? この珍妙な生き物!? しかも微妙に俺にケンカを売ってないか?
まぁいい、万年も閉じ込められていたことを思えばだいたいのことは許せる。俺は海のように広い心を持つ竜なのだ。
ここはおっさんの島……いやおっさんの縄張りの島、ルチャルトラ。
あの忌ま忌ましい箱庭から脱出後、脱出時に世話になった赤毛達としばらくダンジョン生活を送った後、海へと帰ってきた。
海まで連れて行ってくれるという言葉に甘えたら、あの銀色め……加齢臭のする島に連れて来やがった。人間のくせに転移魔法が使えるので利用しがいのある人間だと思っていたのだが油断も隙もない。
まぁアイツの中には、性悪のキンピカラグナロックの一部が住み着いているみたいだから、転移魔法くらい使えてもおかしくないし、性格が悪いのも納得がいく。
しかし、キンピカの一部が住み着いているだけでたいしたことがないので、過去の借りを返すにはちょうどいい。遠慮なく水を受け取るがよい、ふははははははは!!
本体はどっかで休眠中か? 魂と力の一部を人間の中に隠して、人間に紛れ込んで暮らすなんて酔狂な奴だな!!
それにしてもびびったよなー、あのダンジョンの城はどこかで見たことあると思ったら劣化古代竜達の国じゃねーか。ご丁寧に城の主まで再現しやがって驚かせるんじゃねーよ、バーカバーカ。
本来出てくるようなものでもなかったようなのだが、どうやらうっかり鍵が揃ってしまったらしい。
しかも城の主に反応して性悪キンピカがギンピカの中から出てきてびっくりしたよな。
俺は陸地のことにはあまり興味はなかったが、あのド派手な親子ゲンカのことは覚えているぞ。
劣化古代竜達が国を作ってイキっていた頃だったから、気に食わないから少しキンピカの手助けをしたような、していないような。それでキンピカとは顔見知りだったんだよな。
足癖の悪い奴で、あの箱庭に閉じ込められる前に何度か蹴飛ばされたのはちゃんと覚えているからな!!
そうだ、キンピカを見て思い出したよ。キンピカとよく一緒にいた赤毛の人間。
そいつとキンピカであの黒竜を退けたって聞いたな。俺が世話になった赤毛と雰囲気が似ているから、当時を思い出して赤毛を敵と見なして連れ去っちまったか。
さすがにまずそうだったので、キンピカが赤いのを追いかけて黒竜の空間に行った時に俺様が津波をピューってして押し戻してやった。俺の本気の前にはダンジョンの作り出した模擬体など恐るるに足りないのだ。いや、あのくらいなら本物だったとしても俺の足元にも及ばないな。
キンピカでもなんとかできたかもしれないが、人間の中でコソコソしているような奴に任せていると時間がかかりそうなので、俺が奴の活躍の場を奪ってやったぜ。
キンピカは後始末だけしておけばいい。ぬ? 封印が解ける前まで時間を戻して、念の為に別の封をしておく? これなら俺もキンピカも正体がばれない? 別にばれても俺は構わないが?
む? 正体がばれたらびびって飯を作ってくれなくなるかもしれない? それは困るな、やっぱ内緒にしておこう。
あの後、赤毛達が黒竜の玉座に食い物を置き始めるから、俺様も仕方なく好物のコロッケを置いてやったが。しかもあの黒竜、模擬体のくせにちゃっかり回収してやがるし。
模擬体のくせにキンピカに会って何か思うところでもあったのか?
で、海まで連れて行ってくれるという言葉を信じてついて来たら、おっさんアイランド!! そういえばルチャルトラとか言っていた気がする、くそがーーー!!
しかも、おっさんの気配の目の前に転移するし、思わず驚いて隠れちまったじゃないか。……決してびびったわけではない、いきなり暑苦しい気配がして驚いただけだ。
その上、機嫌良く飯を食った後の感動のお別れの瞬間を邪魔しにくるし? べべべべべべべべ、別にびびってないし、思わずクラーケン投げたわ!
そ、そのうち以前の詫びを入れに行くつもりだが、今はまだ心の準備ができていないだけだし!!
気が利く赤毛が手土産を持たせてくれたから、しばらく海でのんびりして心を落ち着かせてからだ。
ん? 手土産を持たせてくれたのはいいが、食べるとなくなってしまう。人間とは命の短い生き物だということを忘れていたな。
うむ……貰ったものは大事に残しておこう。この小さなバッグではすぐに劣化しそうだから、鞄ごと秘密のカメ袋の中に入れておこう。古代竜は空間魔法くらい当たり前のように使えるのだ。
大事に取っておくと食べるものがないので、飯でも食いに行くか。奴も俺様と別れるのを名残惜しそうにしていたしな。
先読みのできる俺様は、赤毛にもギンピカにも変エルフにも目印を渡しておいたからな。うむ、これからはこまめに飯を食うついでに会いに行ってやろう。命の短い人間とめいっぱい共に過ごせるように、たくさん会いに行ってやろう。
カーーーーッ!! 俺様が会いに来た……いや、飯を食いに来たぞおお!!
ぶへっ!? 何だこの結界!! 亀の姿だと弾かれたぞ!?
その気になればぶち壊せそうだが、赤毛の家を守っているもののようだし壊したらまずそうだな。俺は常識のある亀なのだ。
まぁ、俺くらい偉大な存在になるとこの程度の結界をすり抜けるなど余裕なのだ。
魔力を全部隠してただの亀になればスィ~と。ただのカメさんがちょっと通りますよ~。ほぉら、すり抜けた、チョロッ!
長い子亀生活でただの子亀状態になれすぎてしまったが、こんなところで役に立つとは思わなかったぜ。
どうだー、俺様が来たぞーーーー!!
ん? なんか赤毛組以外にも変な奴らがいるな? なんかどっかで見たことあるようなないような……、はて、誰だったかな? 思い出せぬな、まぁいいか。
赤毛の家も突き止めたし、一応マーキングしておくか。うむ、これでいつでも遊びに来られる。
飯も食ったし、赤毛の家でゆっくり寝たら次はおっさんだな。
もう怒っていなかったみたいだし、早めに詫びを入れておくか。時間を空けて機嫌が悪くなったらめんどくさいし。
クラーケンが好きだと言っていたな、今度はもう少しでかいクラーケンを手土産にしよう。ついでに面白そうだから俺も冒険者になろう。
ヒトに化けるなら準備がいるな、クラーケンを狩るついでに海エルフの島に顔を出して民族衣装でも貰っていくか。
お、久しぶりに顔を出したらありがたがって色々貰ったぞ。うむうむ、でかいクラーケンは来る途中に始末しておいたぞ。ついでに赤毛が喜びそうなシーサーペントも仕留めておいてやったぞ。
よし、民族衣装も貰ったし海エルフに化けて、俺は冒険者になるぞー! 俺様ならすぐに最高最強の冒険者だーーーー!!
おっさん! 俺様が謝りにきたぞー!! ついでに冒険者になりに来たぞー!!
え? 規則は規則だから一番低いランクからやれ? ついでにヒトの中に混ざるならヒトの生き方と常識を学べ?
いや、あの赤毛よりマシだと思うけど? アレは悪しき例? なるほどわかるわ……そうだな、俺は常識のある竜だから、あの非常識な赤毛一味みたいにはならないぞ。
ふむ、同じくらいのランクの冒険者と共に学べ? 奴らの至らぬところは教えてやれ? しょうがないカメ~、偉大な俺様が面倒を見てやるカメ~。
そして現在に至る。
俺より少し早く冒険者になったという珍妙な生き物が、珍妙な顔でこちらを睨んでいる。
「まぁ、落ち着けバロン。こいつもお前と同じように悪さをしたが、心を改めた奴だ。先に出て来たお前のほうが少し先輩だな? お前も冒険者に登録してヒトと共に生きる術を学んでいるのだろう? こいつも同じだ、先に学び始めたお前が後輩のこいつに色々教えてやるのだ」
んあ? 俺様が後輩? ん? こいつも何かして閉じ込められたのか? なんか少し親近感が湧くな?
「コウハイ? 後輩? バロン、先輩? バロン先輩! わかった、バロン後輩の面倒見る! バロン、デキル守護神! 後輩の教育、任せる!」
なんだ、こいつ? おっさんの口車に簡単に乗せられているけど大丈夫か? いや、別の意味でも不安要素しかないのだが!?
珍妙な生き物はピョンピョン跳ねて喜んでいるようだが、ようは俺にこの島の習慣や冒険者の規則を教えるという雑用を押しつけられただけだよな?
まぁいい、チョロそうな奴だし適当に持ち上げて、この地や冒険者についてのことを聞き出してしまおう。
って、こいつが冒険者? え? 喋っているけれど片言だし犬か猫か獅子かよくわからない姿だし、顔は珍妙だし、冒険者って何でもありなのか?
一応神格らしきものは持っているようだから、土着の妖精が信仰を集めて格が上がり強さを得た存在か。
まぁ、俺のほうが圧倒的に強いな。信仰などなくても俺は強いのだ。
「この強そうなお兄さんも冒険者?」
珍妙な生き物の周りに小さなリザードマンが三匹。おっさんと違って目に優しい緑なので好感が持てるな。
リザードマンの子供か? 子供なのに俺の強さがわかるようだな、賢くそして物事を正しく見ることのできる目を持っている子だな。
「うむ、強くはあるが登録して初心者講習を終えたばかりなのだ。しかもこの島に来て間もないので島のこともよくわからぬのだ、お前達で色々教えてやってくれ。冒険者としては初心者だが海や水のことについては世界でも有数の識者だ。リザードマンは海や川での狩りもするだろう、水の扱い方や水棲の魔物についてこの者に教えてもらうがいい。教え、教わり共に学ぶのだ」
うむ、海そして水のことなら世界中探しても俺より詳しい者などおるまい。
そうだな、リザードマンは本来水辺に生きる種族だ。暑苦しい火属性のおっさんより、水属性の俺のほうが相性がいいはずだ。
「お兄さん水の扱いが得意なの? 泳ぐのも? 魚を獲るのも?」
子供が目をキラキラさせながら寄って来たぞ! いいぞ、もっと敬うがいい!
「そうだ、俺様は水の扱いなら世界一と言っても過言ではないぞ。泳ぎも魚の追い込み漁も得意なのだ。いいだろう、お前達の知識と交換だ、海のこと水のこと、しっかりと俺様が教え込んでやろう」
素直な子供は嫌いじゃないぞ。この素直さ、竜懐っこさ、海エルフの子供を思い出すな。アイツらはめちゃくちゃ人懐っこいからなー、貢ぎ物を貰いに行くついでに泳ぎや漁を教えてやっていたな。
「冒険者は共に行動する者とパーティーというやつを組むのだったな。よし、共に行動する時は俺様とお前達はパーティーだな」
「パーティー? バロンと子供いつも一緒、つまりパーティー。お前もこれからは一緒、だったらパーティー。お前と俺、子供達守る、戦い方教える。子供達、俺達にリザードマンやヒトのこと教える。知ってること教える、知らないこと教えてもらう、あげて、貰って、お互い様」
物知りな俺様は知っているぞ、冒険者として共に活動する者達のことをパーティーというのだろ?
しばらくこいつらと一緒に冒険者活動をすることになるようだし、俺達はパーティーというやつだな。
そう言うと、珍妙な生き物が面白い顔をしながらピョンピョンと跳ね回り始めた。
変な奴だな。
赤毛達を見ていたから知っているぞ。パーティーというものは、みな自分の特技を活かした役割を持ち、お互いの足らないものを補い合いながら活動をするのだろ?
俺にできること、俺が知っていることと、こいつらのそれとは違う。だからお互いにそれを交換して、足りない部分を補うのだ。
「うむ、あげて貰ってお互い様だな。よろしく頼むぞ」
こうして俺はちょっと加齢臭のする島で、小さき者と珍妙な生き物と共に冒険者をすることになった。
おっさんやキンピカが、小さき存在の中に紛れ込んでいる理由が、もう少しでわかりそうな気がした。
お読みいただき、ありがとうございました。




