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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第六章

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閑話:赤いトカゲと青いカメ

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ギルド長、お客様がいらしているのですが……その、あの……ちょっと変わった方で……、あと冒険者にも登録したいとかなんとか。とりあえずお通ししてよろしいでしょうか?」

「ああ、来たか。うむ、通してくれ。あと、妙な海産物を持っていたら受付で預かっておいてくれ」

「え……受付でですか?」

「その反応はデカイか臭いかか……まぁ、なまものだろうし傷まない場所にでも保管しておいてくれ。クラーケンなら干物にでもして皆でわけるがよい」


 椅子に座り窮屈な机の前で決済待ちの書類に適当にポンポンと印を押すだけの作業を中断し、ギルド長室を訪ねて来た部下に指示を出した。

 それがギルド長室から出て行ったのを確認し、すでに時を刻まなくなった小さな時計を懐から出しその蓋を撫でた。




 少し仕置きが厳しすぎたか? いや、その結果、あの乱暴者にも友と呼べる者ができたのなら、人間のことわざで怪我の功名というやつだろう。

 もう、何百年前だろうか? 奴にとっては万の時だったかもしれないな。

 あの時は俺も少しカッと来てしまってな。うむ、少し思い出のある地を津波で更地にされたからな。やはり、あのくらいの仕置きで妥当だな。


 形あるものはいつかは滅ぶ。ものも生き物も大地も。歪なのは終わりのない時を生きる者。

 無限の時の中を一瞬で通り抜けていく存在に価値を見出し始めたのはいつの頃だろうか?

 繋ぎ止めたくても、一瞬で消えていく者達。それらはいつも俺の心を揺さぶっていく。

 虚しさと悲しさと寂しさと共に、生きるということを何度も見せつけては消えていく。

 すぐにいなくなるとわかっていても関わらずにいられなくなるほどに大きな存在。

 長い間虚に生きてきた俺にこの感情を教えてくれたのもまた、俺の中を一瞬で通り過ぎていった者達だった。


 その一瞬で通り過ぎる者達と共に生きることを選んで随分と経つ。

 名を変え、姿を変え、その生活に入り込むことにより、自分も時の中で生きていると実感する。

 他の奴らに俺の考えを理解しろとも、同じようにしろとも思わないが、俺の縄張りの中は俺がルールだ。

 手を出せば報復をするのは当然だよなぁ。

 さぁ、その亀が今さらノコノコとやって来たようだが、奴も俺と同じように変わったのだろうか?

 何も変化のないと思っていた無限の時を変えることができたのだろうか?



 俺の縄張りを荒らした亀を閉じ込めたのは箱庭。一人では出ることができない箱庭に体と力と心にわけて封印してやった。

 自分の力を過信したアイツにはちょうどいい罰。自分より弱い者の力を借りるしかない場所。

 まぁ、その箱庭を埋めた場所にダンジョンができたのは予想外だったが。

 うむ、あそこにあった大きな木と、アレを封印した俺の魔力と、箱庭の中から滲み出た奴の魔力が混ざったのだろう。

 世の中、不測の事態はよくあることだ。そしてそれがまた面白いのだ。うむ……不測の事態だったのだ。俺は悪くない。


 本当はあの山奥に置いておいた俺の眷属を倒して、鍵になっている地図と封印を解く法螺貝を手に入れて亀の体でできた島に行き、島に設置してある封印を訪れた者と協力して一つずつ解けば出られる仕組みだったのだがな。

 封を解くのは亀が俺の魔力を吸収すれば解けるようにしていた。ふはは、相性の悪い火の魔力を吸収するのは辛いのでちょうどいいだろう。

 亀にでも読める海エルフ語であちこちにヒントも書いておいたぞ。俺の気遣いを感謝して諂え。

 手の込んだ仕掛けをしてみたのだが、箱庭がダンジョンに取り込まれてしまって、予想とは違うことになってしまってどうしようかと思っていたのだよな。

 俺も現場を見ていないから、正直どういうことになっていたのかは知らん。まぁ、出てこられたようでよかった。

 ダメそうなら一度様子を見に行こうかなとは思っていた。仮にも水を司る海の主がずっと不在なのもまずいしな。

 うむ……ダメそうならちゃんと俺が出してやるつもりだったんだ。

 いい感じにあの赤毛が出してくれてよかった。ついでにすっかりただの子亀のように飼い慣らされたようでそちらも安心した。


 あの亀を助け出す仕組みは、大昔に共に旅をした少し変わった人間が話していた話を参考にしたんだったな。

 仲間と協力して謎を解き苦難を一つ一つ乗り越えて絆を築き、最後に巨大な敵を倒してハッピーエンド、大団円。

 そいつの故郷で流行っていた架空の遊びとか言っていたな。なんだか面白そうなのでそれっぽくしてみたのだが、たぶん上手くいったようだな。

 うむ、その話を参考にあの亀が人間と協力して、小さき存在と友情でも芽生えて少しは丸くなればと思っていたのだが成功だったな。






「おっさん! 俺様が謝りにきたぞ!!」

 ノックもなしにドアが開いて、ひょろりと背の高い変な男が俺のいるギルド長室に入って来た。

 とりあえずこいつには礼儀から教えるべきだな。

 その変な男の後ろではギルドの職員がオロオロしている。

 うむ、変な奴の案内をさせて悪かった。持ち場に戻っていいぞ。

 目で合図すると職員は、男が部屋に入ったのを確認してドアを閉めた。


 短く刈られた海のように青い髪の毛、海のように青い瞳。やや小麦色の肌に耳がやや尖っている。

 そういえば海エルフからは信仰されている存在だったな。なるほど、海エルフの姿を模したか。

 アイツらエルフのくせに、健康的な肌の色をしていて妙に陽気だからな。

 その花柄のド派手なシャツも海エルフの正装だったな。確かアホガシャツ? 少し違うな? 思い出せない、まぁこいつはアホだしアホガシャツでいいか。

 半袖のアホガシャツに、白い半パン、足元は草履。

 冒険者に登録希望と聞いたような気がするが、その恰好で冒険者をするつもりなのだろうか? そりゃ、受付の職員も困るな?

 まぁ、奴に交流のある生き物なんて海エルフくらいだしな。その服は海エルフに用立ててもらったのだろうか?

 そこはせっかくだから、仲良くなった赤毛や銀色に頼めばよかったものを……。それともまだ子亀のふりをしているのだろうか? 絶対ただの亀ではないとバレているだろう? 騙せていると思っているのか?


 まぁ、まずはこいつの謝罪を聞いてやろう。

 あのどうしようもない、力だけしか信じなかった奴が、あの箱庭に閉じ込めた張本人のところに来た。しかも謝りに。

 どれだけの心境の変化があったのだ。やはり長い時間か? いや、ほんの一瞬だけ触れた小さき存在か?

「そのわりには、礼がなってないな」

「う、うるせぇ。俺はリザードマンの礼儀なんて知らねーし! と、とりあえず、おっさんの縄張りに水をかけたのは悪かったし! すまなかった!」

 決まりが悪そうに目を泳がせながら、モジモジと謝る変な男。

 もう昔のことで怒りなどとうに収まっている。長い時の中たかが数百年といっても、その間ずっと怒りを維持するのはさすがにめんどくさい。

 それにこの亀がけじめを付けに現れるほど変わったというのなら、もうそれでいいだろう。

 どんな思い出も形があるものはいずれなくなる。それが少し早まっただけだったのだ。

 手に持ったままだった時計を懐へと戻し、椅子から立ち上がる。


「うむ、その謝罪を受け入れる。それで、これからどうするつもりだ? 冒険者になりたいと聞いたが」

「ああ、アイツらが面白そうだったから? やってみたくなった? 俺様くらい強ければ最高ランクでいいだろ?」

 まるで子供のようにキラキラとした顔でそう言う。

 内容はともかく、少し見ない間に随分と変わったようだ。

「いいや、規則は規則だ。Gランクから始めて、皆と同じように研修を受け、簡単な依頼から慣れていってもらうぞ。冒険者というのは、力だけではない。知識も常識も人柄……いや、竜柄も必要なのだ」

 こいつはまず常識を教えるところからだ。

 しかし、何がわからないかわからない。きっとこいつ自身もそうだろう。

 長い間隔離されていたうえに、こいつは隔離前は友達とかいなさそうだったしなぁ。せいぜい海の民に少しだけ慕われていたくらいか?


「常識が必要? あの赤いのとか変なエルフとか、人間の常識がわからない俺でも間違いなく非常識な奴らだったと思うが、たぶんランクの高い冒険者だったぞ?」

 あの悪しき例を一般的だと思われては困る。

 王都から遠く離れたこの地でも知っているぞ。各地のギルド長の間で共有される問題児リスト。亀をここまで連れてきたあの三人組……いや、あそこのパーティー関係者は、王都の問題児リストの筆頭として情報共有をされている奴らだぞ!!


「あれは悪い例だな。うむ、あれを見習わず正しく常識的な冒険者を目指せ。奴らが非常識だと見抜いた偉大で賢い古代竜なら、この世の常識くらいすぐに覚え人々の生活に馴染むくらい簡単だろう」

「む? そうだな、賢い俺様なら非常識な人間くらいわかるからな。人間の常識や規則くらいすぐに覚えてやろう。あの非常識な奴らより立派な常識竜になれる自信があるぞ」


 チョロい。


「そうだな、お前はやればできる竜だ。そうだ、お前と同じく長寿だが少々常識に欠ける奴が最近冒険者登録をしたのだ。共に切磋琢磨し学ぶにちょうどよいだろう。冒険者登録が終わったら紹介してやろう、仲良くするがよい。お前の方が先に常識を身につけたら教えてやってくれ、ついでに偉大な知識を教えてやってもいいんだぞ」

「ん? 同じような長寿種か。だがやはり古代竜ほどではないのだろう? これは俺が少し出遅れたくらいでもすぐに追い抜いてしまうな。そうか、仕方ないな、長寿種として先輩の俺が面倒を見てやろう」


 こいつ、チョロすぎるぞ。


「それと、その長寿種と共にいる小さき者達が、この島やヒトの中で生きる術や常識を教えてくれるはずだ。その者から知識を吸収すればすぐに島の生活に馴染めるだろう。だが小さきもの故に我らより弱くそして知らぬことが多い、彼らに教わる代わりに彼らが困っている時は助けてやって、知らぬことがあれば知識をわけてやってほしい」

「しょうがないな、偉大な俺は小さき者にも寛容になることにしたのだ。任されてやろう」


 チョロすぎて逆に不安になってきたぞ?


「では、下の受付で冒険者の登録をしよう。その後、講習を受ければお前も今日から冒険者だ」








 

お読みいただき、ありがとうございました。


※明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします!!

今年ものんびり展開でマイペースに更新していこうと思ってますので、よろしければお付き合いください。

四日から再会予定だったのですが、二日開けたらそわそわし始めたので一日早いですが更新を再開します。

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― 新着の感想 ―
ギルド長、カメくん気にかけた方が良さそう……チョロすぎて不安になる(^-^;
たぶん、奥様との思い出の地を津波で流された?? そりゃあ怒るよね……
[一言] 更新楽しみさせて頂いてます あけましておめでとうございます 今年もよろしくお願いします。
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