さよならじゃなくてまたね
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砂浜に出していたテーブルと椅子を片付けていよいよお別れの時間だ。
カメ君はゴーグル付きの帽子をリュックにしまい、海に帰る準備は完了したようだ。
リュックも帽子も防水効果が付与してあるけれど、帽子はうっかり流されたらいけないからな。リュックは大丈夫かなぁ?
「カッ!」
「いよいよ、お別れだな、カメ君元気でな」
「なぁにが"この海岸に来たら会ってやってもいいカメ~"だ。たまに来てあげるから、その時はちゃんとお出迎えしてよね!」
「ははは、カメッ子ー、気を付けないと人間の寿命は短いぞー。俺はエルフの血が混ざってるから少し長生きかもしれないけど、それでもカメッ子よりか短いと思うぞー」
「カメッ!?」
おい、カリュオンやめろ。なんか悲しくなるからやめろ。
カメ君がにわかに驚いた顔になったところを見ると、寿命の違いのことを忘れていたのかもしれない。そして、カリュオンの言う通りカメ君は俺達よりずっと長寿なのだ。
この世界に存在する生物は前世に比べ長寿の生き物が多く、人間は寿命が短い部類になる。
ふとオーバロで出会ったオアンネスの少年を思い出し、時の流れの違う種族との交流の難しさ、そして寂しさを思い出した。
きっと俺達はカメ君を残していくほうだから。
そうだな、カメ君の好きなカレーがこの世界に残るようにカレーを広めないとな。
そうすれば俺達がいなくなった後、カメ君が人と交流をすればまたカレーを食べることができるかもしれない。
俺達よりずっと長生きをするカメ君が、遠い未来、俺達を忘れたとしても好物がずっと好物であるように。
カメ君の正体には触れないようにしようと思っても、やはり事実というものは変わらない。
だけどカメ君が何であれ、俺にとってはあの日袖口に張り付いていた小さな亀で、それからずっと俺の肩の上にいた愛嬌のある子亀なのだ。
たとえカメ君にとって俺達が、長い時間の中を一瞬で通り過ぎるちっぽけな存在だとしても、俺にとってはもうパーティーの仲間なのだ。
あーやだやだ、しんみりしてしまった。
またここに来れば会えるとカメ君は言っているみたいだし、しんみりするのはやめやめ。
自力で来るには遠いけれど、アベルを買収して会いに来よう、そうしよう。
「じゃあ、また遊びに来るからな」
「カッ!」
「ふん、しょうがないから冒険者の活動のついでに遊びに来てあげるよ」
「ケッ!」
「海に飽きたら森に遊びに来てもいいぞぉ。近くにテムペスト様も住んでるしな」
「カァ……」
しんみりしないようにカメ君と別れの言葉を交わす。
大丈夫、ここに来ればきっとまた会える。うん、また会おうね。
次に会う時は浜辺でカレーパーティーかな?
俺の肩上から砂浜の上に降りたカメ君がトコトコと波打ち際に向かって歩いて行く。
さよならじゃなくて、またねカメ君!
「カッ! カッ!? カアアアアアアアアアア!?」
海に入る直前、こちらを振り返り尻尾をピロピロと振りながら前足を上げたカメ君が、突然驚いたような声を出してドボンと海に飛び込んだ。
「おう、楽しそうなことをしてたみたいだなぁ。俺にも声をかけてほしかったなぁ」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえて振り返ると、どでかい真っ赤なリザードマン。
「ふおっ!? ベテルギウスギルド長!? どどどどどどうも、こんにちは」
気配を消してやって来たのかまったく気付かなかった。カメ君が驚いて海に飛び込んだのもギルド長が来たからか。
やべぇ、ダンジョン生物を海に放ったことがバレると怒られるかも。
無闇にダンジョンから生き物を連れだして外に放す行為は、生態系上あまりよろしい行為ではない。
カカカカカカカメ君なら、ちっこいからセーフセーフ。
「ギルドの外から聞いたことのあるような騒ぎ声が聞こえたから、見回りついでにここまで来てみたが、また人ではない生き物と交流をしていたのか?」
「お、おう。可愛い亀と遊んでました!! ぶへっ!?」
突然海から五〇センチ足らずの小型セファラポッドが飛び出して来たというか、投げつけられるように飛んで来て俺の頭にぶつかった。
カメ君かな? セファラポッドはありがたくもらっておこう。そしてセファラポッドが頭にぶつかったため、髪の毛がベタベタになったし、生臭い。
って、やば! 髪の毛にセファラポッドの足が絡んだ! おいこら、放せ!!
「そうか、可愛い亀か。で、その亀は悪い亀じゃなかったか?」
ベテルギウスが意味ありげに俺達に尋ねた。
「ああ、悪い亀じゃないよ。短い間だけどすっかり仲良くなったから、海に帰す前に一緒に飯を食っただけだよ」
セファラポッドを髪の毛から引き離しつつ答える。嘘は言っていないな。
「生意気で態度が悪くて性格もひねくれてるけど、悪い亀ではないね……ぎゃっ!!」
海の中からアベルに向かって大型の二枚貝が飛んで来たぞ。まぁこれは、素直じゃないアベルが悪いな。
「ちょっと素直じゃないとこがあってヤンチャなだけで、話のわかるいい亀だよなぁ? お? 魚をくれんのか? ありがとさん!」
カリュオンには、放物線を描くように受け止めやすい軌道でビチビチとする魚が飛んで来た。少し小さめだが前世で見たことあるブリってやつに似ているな。照り焼きにしたら美味いんだよなー。
「ふむぅ、亀と随分仲良くなったようだな。そうか、亀と人が仲良くなれたか、そうかそうか。ぬっ? 俺にはクラーケンか。まぁ、クラーケンは嫌いじゃない」
「ケッ!」
海の中からものすごい勢いで一メートル超えのクラーケンがベテルギウスに向かって飛んできたが、ベテルギウスはそれを難なく片手でキャッチ。
そして波の音の隙間からカメ君の声が聞こえた気がする。
「なかなか面白い亀に出会えたようだな。俺もその亀にぜひ会ってみたかったな。安心しろ、悪いようにはしないさ。人と交流を持てるようになった亀にちょっと興味が湧いただけだ。うむ、俺はだいたいギルドにいる、気が向いたらいつでも来るがいい」
「はーい、時々仕事しに行きまーす」
海から投げつけられたクラーケンを担いで去っていくベテルギウスの後ろ姿に軽く頭を下げた。
海を振り返ると見えるのは寄せては返していく波だけで、カメ君の姿は見えなかった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「おう、そうだなー。久しぶりに家に帰ってゆっくりだなー」
「お、ついにグラン御殿か!」
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