終焉の海
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※本日二話目です、ご注意ください。
元はジャングルに覆われていた部分は、夜の闇の中で明るい満月の光を反射し、キラキラと青く輝く甲羅。その表面は海の波のような凹凸の模様をしている。
その甲羅から生えるのは四本の太い足、島からせり出している岬だと思っていた場所。大きすぎて俺達のいる場所から後ろ足はよく見えないが、太い足はまだ半分以上海の中に浸かっている。
そして、俺達がいる場所から見て島の真逆になる場所には、半透明の光の衣のようなものが空中で波打つようにヒラヒラとしているのが見える。
おそらくこれは尻尾の先端、尾びれ部分だろう。月明かりを反射してヒラヒラと中で輝くそれは、風に舞う光の衣。まるで温暖な海の上にオーロラが輝いているよう。
俺達がいるのはその全てが見渡せる場所。甲羅からニョキッと生えた巨大鮫の体。この半月、俺達が暮らしていた亀型の島の頭部分だと思ってい場所。
その鮫の体部分をまるで鎌首をもたげるように、大きく上に持ち上げているため俺達のいる場所の位置は高く、その巨大な存在の全体を見渡すことができた。
俺達の下にいる巨大生物が動く揺れはまだ続いており、俺達のいる場所がせり上がり海面が離れていく。
激しく揺れているが、俺達のいる場所――鮫の背中は先ほどまでは岬の一部だと思い込んでいた程に大きく、上に乗っていた堆積物がなくなった現在では振り落とされる恐れはなさそうだ。
俺達が島だと思っていた巨大生物が立ち上がるように海の中から姿を現し、俺達のいる場所が上昇しているように見えた。
実際上昇している、それと同時に海面も下がっている。
巨大生物が海の中から姿を現し、激しく揺れる波から青白い光が上がり、その巨大生物へと吸い込まれていく。
海水が青白い光に変わり、その分だけ海面も下がっていっている。時が過ぎれば周囲の海水は全て光となり、この巨大生物に吸い込まれてしまうだろう。
海から立ちのぼる青白い光の粉は海上を覆う霧のようになっており、視界は良くないのだが幻想的な光景である。
そしてだんだん消えているのは海だけではない。
空からも青白い粉が降り注ぎ始め、巨大生物へと吸い込まれていく。
空の端から崩れ星々が姿を消し、黒いインクを零したような空――いや、実際には空ではなくただ何もない空間、このダンジョンの果てかもしれない。
天頂に輝く月が消えるのは最後だろうか?
ダンジョンという魔力で作られた仮初めの存在が、その形を失い元の魔力に戻り、それを巨大生物――鮫亀竜クーランマランが取り込んでいるように見える。
これがダンジョンの終焉なのだろうか?
海も陸地も、空すらも光の粒となり、海原の真ん中に佇む巨大な生きものに吸い込まれていく様子は、恐ろしくも神々しい光景で、仮初めの世界とはいえ、まさに世界の終末を見ているようだ。
これはダンジョンの作り出した偽物か、それとも本物か? 本物なら何故こんな山奥のダンジョンの中に?
いや、今はそんなことは関係ない。
偽物だろうと本物だろうと、俺達の勝てる相手ではない。
大きさも、その魔力も。まさに人間など足元にも及ばないというやつだ。
どどどどどどどうすんだ、これ!?!?!?
ダンジョンの終焉? 世界の終末みたい? 終わりそうなのは俺達だよ!!
このクーランマラン君・仮は話が通じるのかな? 通じなくても味方ならいいんだけど!?
そうだよね、俺ちゃんこれでも一応適性職は勇者だから、ここは相手が古代竜だってババーンと友好的な関係を築いて仲間にするくらいのご都合展開とかあるある……ねーよ!!!
「うっひょーーー! マジこれクーランマランか!? すっげえええええ!!」
揺れる鮫の背中の上でカリュオンはスーパーハイテンションである。そういえば、クーランマラン推しって言っていたな。
確かに、めちゃくちゃ強そう。いや、強い。攻撃力やばそう、防御もやばそう、でかい、そしてでかい。
浪漫を満載したキメラ系生物の王者感がすごい。
って、違う! そうじゃない! どうすんだこの状況。
と思っても、どうにもしようがない状況。
周囲を見回すと、立ち上がったクーランマラン君・仮は移動を始めたようだ。
揺れも立ち上がる時の縦揺れから、水の中を移動するフワフワとした横揺れに変わった。泳いでいるというより水の中を歩いているような揺れだ。
どこに行くつもりだろう? 行き先がわかったところでどうしようもない。亀の意思のままに運ばれるしかない。
「おい、グラン、足を見てみろよ」
カリュオンに言われて、前足の方を見るが夜の闇の中、足はほぼ海の中でよく見えない。
海の中をノシノシと歩いているが、巨大すぎる故か海が浅く見えてしまう。
「暗くてよく見えないが、もしかして海が浅い? 海水がどんどん減っていってる?」
夜目は利くが暗視能力持ちのエルフのように、はっきりと暗闇の中が見えるわけではない。
「半分正解。海水は魔力に戻ってクーランマランに吸収されているから、少しずつ減って水面は下がっているが、海が浅いわけじゃない。海水はまだまだ残っている。海水の中を歩いてるんだよ、海底に足をつかずに。足は水中、水中に床でもあるかのように歩いてるぜ。甲羅の下側は海の中に浸かっているってことは、浮力を使って巨体を動かす力を軽減してそうだな」
カリュオンがすごく楽しそうに、暗闇の中でもはっきりと見えるエルフの視界で見えているものを実況してくれる。
日頃からテンションの高いカリュオンだが、それとはまた違った意味でテンションが高くなっている。
知ってる。これ、オタクが好きなものを目の前にした時のスーパーハイテンションだ。そして安定の早口。
どんだけクーランマランが好きなんだよ!!
「なぁ、ところでこの空間がなくなったらどうなると思う?」
カリュオンが楽しそうに尋ねてくるが、俺の中で嫌な予感が二つある。
「うーん、良い方に考えると元の場所に戻れる。悪い方に考えると入った場所とは別の場所、海の上に出されてドボン!」
そうなんだよなぁ、この空間は妖精の地図と同じなら使用した場所に出される可能性が高い。
しかし、カリュオン曰く、隔離された空間に転移した可能性もあると。となるとその隔離が解除された場合どこに出されるか不明である。
海の上だとやばいし、陸地だとしても孤島だったらサバイバル生活再びだ。
そして、もう一つの嫌な予感。
「ま、でもこいつは消えないというか、ダンジョンの魔力を逆に吸収してるからここに乗っていれば大丈夫なんじゃねーか?」
揺れる鮫の背中の上でカリュオンがポンポンと巨大な背びれを叩いた。
「大丈夫だけど、大丈夫じゃないよな!?」
光の粉となって消えつつあるダンジョンの中で唯一消えていない存在。
消えないどころか消えゆくダンジョンの魔力を吸収している――いや、こいつが魔力を吸収しているからこの場所の崩壊が始まったのかもしれない。
こいつがこのまま消えないで元の場所に戻されたら。
海に放り出されることは回避できそうだが、こんな巨大生物が冒険者のいるダンジョン内に突如姿を現したら。
大混乱、待ったなし!!
攻撃をされて巻き込まれる可能性もあるし、攻撃をされたこの巨大生物が冒険者に攻撃をする可能性がある。
いやいや、Aランクの冒険者しかいない場所だが、Aランクの冒険者を掻き集めても勝てる相手には思えないぞ!
戦闘なんか始まった日には冒険者側に甚大な被害が出そうである。
それだけはどうあっても回避しなければならない。
消えゆく空間を吸収しながら、俺達を乗せた巨大生物は海の向こう、今は消え去りただ真っ黒になっている場所に近付いていっている。
あの空間の切れ目、そしてその向こうには何かある? 元の空間?
この巨大生物は何故そこを目指している? ここから出て行くため?
だとしたらこいつを外に出してもいいのか? しかしこいつの力を借りないと外に出ることはできない。
こいつがどうしたいのか、それがわかったところでどうにもできない状況、ただ運ばれるがままの状況。
時々海の中から大型のクラーケンやシーサーペントが飛び出してくるが、巨大な鮫の頭が吠えるとそれは一瞬で青白い光の粒となり、鮫の口の中へと吸い込まれていく。
鮫って吠えるんだ……。まぁ、鮫だけれど鮫じゃないし、考えたら負けだ。
ダンジョン生物を咆吼一つで具現化を解いてしまうとか、もう人知を超えた生物すぎる。
やべぇ、戦っても勝てる気がしねぇ。
バハムートが出てきたら分けてほしいなぁ……ダメ? やっぱダメだよね?
はい、大人しくしています。
巨大な海の魔物を一撃で屠っていく、巨大生物にびびり散らしている俺の横ではカリュオンが「つえー」とか「すげー」とか楽しそうな声を上げている。
呑気な奴だな!?
そんな中、巨大生物は海の果てへと進み、消えゆく海の途切れ目がはっきり見えるほど近付いて来た。
その頃には海の水はほとんどなくなり、まだ天頂に光る満月に照らされ海底が見えた。
まだ僅かに残る海の水をビチャビチャと巨大な足で蹴散らし、海底を踏み潰しながら進んでいく。
踏み潰された海底もフワフワと青白い光の粉になる。
この空間の終焉、そして俺達がここから脱出する時はもう目の前に迫っていた。
お読みいただき、ありがとうございました。




