出張売店
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「お、グラン、ギルドの出張売店が来たぞ」
「ホントだ。荷物が増えて来たし、あまり高くない素材は買い取ってもらっちゃえば?」
「うん、そうしよう。そしたら、収納に少し余裕ができそうだな」
夕飯の後、片付けをしていると冒険者ギルドの職員のパーティーがセーフティーエリアに入って来た。
冒険者ギルドの出張売店――人気のあるダンジョンや素材の産出の多いダンジョンでは、現地の冒険者が快適に活動するため、そして長期間ダンジョンに籠もりやすくするため、定期的に冒険者ギルドの職員が物資の販売と素材の買い取りを兼ねてダンジョンの奥までやって来る。
けっして安全ではないダンジョンの奥まで出張に来るギルド職員は、当然のようにダンジョンの入場条件を満たしている者ばかりだ。
つまり、行商のようにセーフティーエリアに現れたギルド職員のパーティーは全員Aランク以上ということだ。
そして行商だけではなく、ダンジョン内の見回りと情報収集も兼ねている。悪さをしているのを見られると、評価にマイナス棒が付いてしまうこともあるので気を付けねばならない。
うむ、トレインなんてしているところは絶対に見られてはいけない。
出張売店で売られている物の価格は相場よりやや高めで、素材の買い取りは安めではあるが、ダンジョンの奥地で物資の補充と整理ができるのは非常にありがたい。
物資の補充と荷物の整理ができれば冒険者達はダンジョンでの滞在時間を延ばしさらに稼ぐことができるし、冒険者ギルド側も現地で買い上げることにより荷物が増えて捨てられる予定だった素材を安く買い取れるのだ。
値段の高い素材は戻ってから正規の値段で売ればいいので、ここではかさばりやすく買い取りがあまり高くないものを優先して買い取ってもらう。
俺の持っているものだと圧倒的にヤエルの肉だな。
誰のせいだよ、このヤエルの肉まみれ状態は。羊やフェニクックの肉もだな。マンモスは解体が間に合いそうにないから、いらないやつはそのまま買い取ってもらえないかな。
骨や毛皮系は価値の低いものはほとんど捨てちまったな。まぁ、不人気素材は買い取ってもらえるか怪しいしいいか。
買い取りに来ているギルド職員達も運べる荷物には限界があるので、あまりに価値の低いものは買い取ってくれない。
価値が高くて持ち運びが楽なものは優先で少し高めに買い取ってくれる。といっても、やはり外で売る方が高いけれど。
そして出張売店で売っているもの。
それは長期間ダンジョンに籠もっていると不足しがちな、ポーションや薬、食料などの消耗品が中心だ。
しかしここは食材だらけのダンジョンなので、解体と料理ができるなら食うには困らないし、薬草も多いので薬調合のスキルがあるのならポーションも自作できる。
その気になればダンジョン内で延々と暮らせるダンジョンである。
これで、風呂と快適に寝起きできる宿があればしばらくここに住み着いてもいい気がしてくる。
次来る時は建築用の資材を持ち込んで、安全な場所に一時的な拠点でも建てるか!?
いやいや、やっぱ長くても十日程度で家に帰りたいな。やっぱり、我が家が一番!!
販売物には消耗品以外にも、簡単な装備品や武器もある。
戦い続けていれば装備品は消耗して劣化するし、投擲武器は回収できないこともあるので減っていくものだ。
壊れてしまった装備や壊れそうな武器の予備、投擲武器の補充ができるのは非常にありがたい。
そしてこの移動露店、だいたい装備品の修理ができるスキル持ちが同行していることが多く、少し高めの料金はとられるが装備を修理してもらうことができる。
ちなみに、お金の持ち合わせがなければダンジョンで手に入れたもので支払うこともできる、なんとも冒険者に優しい移動売店なのである。
「あ、ドリーさん! やっと追いつきましたよ!」
「おう、そろそろ来る頃だと思ってたぞ」
出張売店のところに行こうとしたらドリーもついて来たので、何故かと思ったらギルド職員の男性と知り合いだったらしい。
実家の領地にある冒険者ギルドだからその繋がりで知り合いなのかな?
ドリーは冒険者歴も長くてあちこち行っているし、くそ強いし見た目の存在感もすごくて目立つから、行く先々で覚えられていそうだなぁ。
「いやぁ、ドリーさんとこのパーティーがダンジョンに入るって聞いたから、ちょうどダンジョンを回る時期でしたし追いかけて来ましたよ。ドリーさん達のペースならそろそろ荷物が溢れる頃じゃないかなと? 大きめ収納魔道具と収納持ちの二段構えですから少々多くても買い取れますよ」
なるほど、ドリー達の日頃の討伐ペースを知っていて時期を見計らって来たのか。
確かに現地で買い取れば安めで素材が買い取れるし、買い取れる量が多いほどギルドの儲けは多くなる。
「おう、そう思って出発前にギルド長にも会ってきたしな。おい、グラン、不要なものは買い取れるだけ買い取ってもらえ。金はギルドからパーティーメンバーで等分して口座に振り込んでもらう形でいいな」
「了解。でもドリー達だけで狩ったのは別で精算してもらって、そっちでわけてくれ。えぇと、少し量が多いけどここで出していいかな?」
他の職員さん達も近くで他の冒険者達と取り引きをしている。
いっきに出すと邪魔になるかな?
「ええ、ここで出してもらって大丈夫ですよ」
大型の素材が出てくるとこも考慮して、他の買い取りの職員さんとは少し離れているし、職員さんが大丈夫だというのなら大丈夫だろう。
「それじゃあ、解体が済んでるものから出しますね。ランポペコラ肉、ヤエルの肉に毛皮、こっちはコカトリス――コッカ・チャボックの肉と尻尾と羽、それからまだフェニクックの肉にサラマンダーの肉と皮があって、憤怒の山羊とかいう巨大山羊と、まだ解体してないマンモスは丸ごと――それは今出してあるぶんが片付いたら出すよ」
「待って?? 待って待って待って待って待って!? 肉! 肉!! 肉肉肉肉!! なんだ、この肉の量!? って巨大山羊にマンモスが丸ごともある!? 憤怒の山羊ってつい先日報告があった新種か?」
解体した肉を職員さんが買い取りのために広げている敷物の上に並べていく。
コカトリスの肉を出したあたりで置き場がなくなってきた。
フェニクックとかヤバイ数あるのでできれば買い取って欲しい。サラマンダーはそこまで数は多くないけれどやや大きい。
そして、ぶっちゃけ解体するのがめんどくさいマンモスファミリー。肉がやわらかくて美味しそうな子供マンモスを残して、でかいのは持って帰ってもらいたい。
竜系の素材と肉以外の高そうな部位は帰ってから、少しでも高く買い取ってもらうつもりだ。
とりあえず、買い取り価格があまり高くない肉類を優先で出したせいで目の前が肉だらけである。そして職員さんのこの反応である。
ごめん、ゴリラ達が大暴れしたんだ。
あ、やべ、憤怒の山羊でかすぎて邪魔だから解体してしまった。
まぁ出現条件はわかっているから、詳しい調査は改めて冒険者ギルド主導でやるはずだ。
「おう、久しぶりのダンジョンでつい張り切っちまってな。憤怒の山羊についての報告書が作ってあるから、持って帰ってくれ。それから七階層のヴォルケニックルーラーの巣にあった宝箱と、レッサーレッドドラゴンの巣の内部についても報告書を作っておいたから、ギルドに持ち帰って確認して資料に追加しておいてくれ。あーいや、レッサーレッドドラゴンの巣の中は公表すると無理に入ろうとして事故が起こるかもしれないから要審議だな」
ギルドに報告しないといけないことを、いつの間にかドリーが全て報告書に纏めていたようだ。
夜間の見張り中にやったのだろうか……脳筋ゴリラ熊だと思ったら事務仕事もはやい。恐るべしスーパーパーティーリーダー。
「あ、はい、報告書ありがとうございます。って、君、どんだけ肉を持ってるの!? まだ、肉を出すつもり? 見たところ収納道具はマジックバッグ一つだけみたいだけど、どんだけ入るマジックバッグなんだ!?」
しまった、ついうっかり収納と同じ感覚でものを出していたけれど、出し過ぎてしまったかな?
いや、このくらいならちょーっとたくさん入るマジックバッグ程度の量だよな。
「えへへ、マジックバッグは偶然性能が良いものを手に入れちゃって~? おかげでこうしてドリーのパーティーに同行させてもらってます!」
うむ、嘘は言っていないし、荷物持ちは俺の主な仕事だ。肉はゴリラの所業だから俺は悪くない。
「ハハハ、なかなかいい人材だろ。ほら、はやく計算してスペースを空けるんだ。まだまだ出てくるぞ~」
ドリーはなんだかすごく楽しそうだな。
「あー、俺もグランがいない時に拾ってたの忘れた。羊とサラマンダーが少しだけど、これも買い取りお願いー」
肉を出していたらアベルもふらりとやってきた。
自由時間や俺がいない時に狩ったやつか!? 解体した時になんで出さなかった!?
そういえばお前、日頃から洗濯が終わった後に洗濯物を出してくるタイプだったな!?
「え? あ、はい。うわ、解体前がこんなに……どんだけ羊を狩っていたのですか……」
解体していないランポペコラとサラマンダーが"少し”とはいえない量が出てきた。これはひどい。
「俺もまだあるから、アベルのやつ精算したら俺の続きもお願いします」
やー、いいタイミングで出張売店来てくれてよかったなー、収納すっきりしたなー。
まだ高額系のでっかいやつは残っているけれど、物量で収納を圧迫していたものが減ったおかげで余裕ができたな。
ちょっと九階層に戻って、もう一雪崩ほど補充しておいてもいいかもしれないな。
お読みいただき、ありがとうございました。




